山と道ラボ【レインウェア編】
#2レインウェア・マーケット分析

INTRODUCTION

『山と道ラボ』とは

山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。
各アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

山と道ラボ#1でのハイカーズデポ土屋智哉さんと山と道夏目の対談から、現状のレインウェアをめぐる様々なトピックや問題点、疑問点が浮き彫りになってきました。

では、早速製品を集めてテストだ! と、行きたいところですが、山と道ラボはその前に現状のアウトドアマーケットにどれだけの、どんな種類のレインウェアがあり、そこにどんなテクノロジーが使われているか、把握してみることからリサーチを始めることにしました。

今回、メインでレポートを作成したのは山と道ラボのメイン・リサーチャー、渡部研究員。本職もリサーチャーである渡部研究員の調査能力は所長の夏目も舌を巻くほどで、何かリサーチをお願いすると想定以上の調査結果を返してくれる、非常に頼りになる研究員です。

そんな渡部研究員のまとめたレポートに、山と道ラボの紅一点、松本りん研究員によるテキスタイル目線からの各メンブレンの解説をアダプトし、頭がクラクラするほどの情報量のレポートが完成しました。

「疎水性」「多孔質」「ePTFE」など、聞きなれない用語が頻出するテキストはウルトラヘビー級ですが(これでもかなり噛み砕いたつもりです…)、各種防水透湿素材の分類とメカニズム、現在のマーケットの傾向と未来予測まで、レインウェアの議論を進める上で必読の内容です。

レインウェア・マーケット分析
(2017年版)

はじめに

今回、レインウェア(レインジャケット)のリサーチにあたり、まずは世の中にある製品をひろく調べてみることにしました。

市販されている製品には、各社が「これはレインウェアに必要だ」と考えて(あるいはユーザーからの声を聞いて)磨き上げたスペックが反映されているはずです。

また、そのスペックは想定ユーザー、利用シーン、価格帯といったさまざまな前提条件とセットで提案されていることでしょう。

これら市場にある実製品のスペックを比較し、共通項を取り出すことで、現状のレインウェアがどのようなユーザーに、どのようなフィールドで、どのように活用してもらうか、そのためにどのような性能を備えているかという、いわば分布図のようなものを導くことができるのではないかと考えました。あわせて、レインウェアのトレンドや今後の進化について考察する材料が得られるのではないかと思います。

レインウェアの基礎知識

さて、個別の分析に入る前に、まず議論の前提となるレインウェアの技術的な基礎知識を解説させていただきます。

レインウェアの機能として必要な、いわゆる「濡れない」「蒸れない」という防水・透湿性能を示すのが耐水圧、透湿性です。

●防水性能=耐水圧とは

カタログなどで、耐水圧は一般的に「***mm」と記載されています。これは水圧に対して水を通さない度合いを意味し、登山の場合は耐水圧20,000mm(1cmあたり20,000mm=20mまでの水圧に耐えられる)程度のスペックをうたう製品が一般的です。

実際には、傘に使われている布は300mm程度の耐水圧しかないそうですが、それでも十分に水を弾くことができます。それは生地がピンと張っていることにより撥水するためで、衣類の場合は座ったりするなど局所的に圧力がかかることが考えられることから、より高い耐水圧が求められます。逆に言えば、圧力を気にしなくてもよい場合にはそれほど高い耐水圧が必要ないということも考えられるでしょう。

●透湿性とは

雨中のハイクでは、レインウェアを着ていても衣類の内部が濡れてしまうことがありますが、これは多くの場合、蒸れによる自分の汗が原因です。人は運動すると体から水蒸気を放出するため、衣服内部の湿度が上がり、汗をかき、不快さを感じるのです。

汗は不快なだけでなく、結露によって低体温症を誘発する危険すらあり、快適な登山のためには衣類内の湿気を放出する高い透湿性能が求められます。透湿防水素材を使用した衣服の場合、衣服内の湿度が上がり、外界と湿度差が生じると、低湿度側の外界に水蒸気を放出して、衣服内の快適な湿度を保ちます。

透湿性についてはカタログで一般的に「***g/m2/day」、または「/m2/24h」などと記載されていますが、これは1日(day)・1平方メートル(m2)あたり、どの程度の重さ(g)の蒸気を通すかということを意味しています。

ちなみに、夏の激しい運動で成人男性は1時間に1リットル程度の汗をかくといわれています。1リットル=1000gとして、24時間で24000g。気象条件にもよりますが、透湿性が24,000g/m2/dayであれば、激しい運動で生じた汗を放出してくれるということになります。

これとは別に、RETという単位を用いることもあります。水蒸気透過抵抗(Resistance of Evaporation of a Textile)を意味し、数値が低いほど蒸れにくいことを意味します。

一般には、6以下であれば「非常に透湿性が高い」、13以下であれば「十分透湿性が高い」などとされています。代表的な防水透湿素材であるゴアテックスの最新版はRETが6未満をうたっています。

●防水・透湿性能を担保するためのその他の要素

透湿性能を保つためには撥水性も重要となります。生地の表面が濡れたままですと、水の膜に邪魔されて内側の湿気がスムーズに排出されませんし、外部からの水蒸気の侵入もあるかもしれません。メーカーも適切なメンテナンスによって生地表面の撥水性を維持することを推奨しています。

また、防水・透湿性能は素材の耐水圧、透湿性だけで決まるものではありません。衣類ですので、水が入りにくい構造や、ベンチレーションといったデザインの工夫で実際の体感性能は大きく変わってきます。

また、本稿では深掘りしませんが、透湿性についてはJIS-A1、JIS-A2、JIS-B1、RETの測定に使うホットプレート法などいくつかの測定方法があり、それぞれに特徴があります。カタログ値が高くても、必ずしも実着用時の蒸れにくさ・快適さが高いとは言い切れないところもあるようです。

●コーティング法とメンブレン法

防水・透湿を実現するメカニズムとしては、生地に防水・透湿性能を持った層をコーティングする「コーティング法」と、防水・透湿性を持つ薄膜=メンブレンを耐久性のある表地と肌に接触する裏地で挟み、積層型の生地とする「メンブレン法」があります。

基本的には、いずれの場合も水滴より小さく、水蒸気より大きい微細な孔があいた「コート層」または「メンブレン」によって防水・透湿を実現しています(後述のように、孔のない無孔というメカニズムもあります)。

以前は、コスト面での優位性などからコーティング法の素材・製品も多く存在しましたが、近年ではメンブレン法が多くなっています。

●レイヤーとは?

レインウェアのカタログには「2レイヤー(2L)」「3レイヤー(3L)」といった記述があります。「2.5レイヤー」というものもあります。このレイヤーとは、いわゆる重ね着を意味するレイヤリングのレイヤーとは関係なく、素材の構造のことです。

2レイヤーは、防水透湿素材に表地を貼って2層にしたものです。表地によって素材に撥水性、耐久性、デザインなどの機能が加わります。衣類内側(裏面)には、着用時のベタつき防止のためにメッシュの布を縫い合わせることが多いですが、最近ではあまり見かけなくなっています。

3レイヤーは、防水透湿素材に表地、裏地を貼って3層にしたものです。裏地によって汗や皮脂などの汚れから保護され、透湿性能が長く保たれます。また、2レイヤーに比べてメッシュが不要になるため、軽く、かさばりにくく、着心地も快適となります。
一部の素材では、裏地が衣類内の湿気を保持し、生地の外側に放出する保水の役割を果たしている場合もあります。

2.5レイヤーとは、2レイヤーの裏(衣類内側)に肌離れをよくするためのラミネートプリントを施したものです。3レイヤーよりも軽くしやすいというのが利点ですが、肌にはりつく感じはどうしても残り、着心地では3レイヤーに劣ります。また、最近では3レイヤーの超軽量素材が出現していることもあり、必ずしも軽さのアドバンテージがあるとも言えなくなってきています。

代表的な防水透湿素材

以上の基礎知識をふまえ、メジャーな防水透湿素材について解説します。

●ePTFE(expanded polytetrafluoroethylene=テフロン)系

【主なePTFE系防水透湿素材:ゴアテックス、eVent】

蜘蛛の巣構造を持った鉱石を原料とするPTFEことポリテトラフルオロエチレン (polytetrafluoroethylene)を粘土状にして固めたブロックを薄く伸ばし(expand)てフィルム状にし、何枚も重ねて積層させたものがePTFE系メンブレンで、世界で最初に開発された防水透湿素材「ゴアテックス」もこれに該当します。

テフロンとは米デュポン社の商標であり、あのフライパンのフッ素樹脂加工と同じものです。フライパンに使われているだけあり、衣料用の素材としては相当強靭です。後述するポリウレタンが加水分解による劣化という欠点を持っているのに対し、長期の耐久性が期待できます。

ePTFE系メンブレンには微細な孔(あな)が1平方センチメートルに何億個といわれるほど多数空いており、孔の大きさは水蒸気分子の700倍、水滴の2万分の1以下であるため、水蒸気は通しますが、水滴は通しません。また孔があるため、通気性も持ち合わせます。

水蒸気には、温度・湿度の高い方から低い方へ移行する性質があり、ウェアの内部の温度・湿度がある程度高まると、孔を通して水蒸気が温度・湿度がウェア内部よりも低い外部に移動します。ePTFE系メンブレンは、この現象を利用して透湿性を実現しています。

衣服に用いる場合は、膜が硬いためストレッチ性が無く、柔軟な風合いに欠けるという欠点があります。また、皮脂などにより微細孔が詰まると性能が劣化するため、内側に汚染防止用のコーティングを施したものと、独自にノンコートのまま汚染防止を実現したものがあります。コーティングがあるものは性能を長く保持するという意味での耐久性に期待できるものの、透湿性が犠牲となります。ノンコートはその逆です。

これまで、コーティングの代表がゴアテックス、ノンコートの代表がBHA社の開発したeVentとされていました。ただし、情報が開示されていないため詳細は不明ですが、ゴアテックスも最新のモデルはコーティングを省いたか、極めて薄くした製品となっているようです(たとえばゴアテックス・アクティブ、ゴアテックス・プロなど)。業界内での技術流出なども当然起こっている筈であり、盟主ゴアテックス社がノンコートのテクノロジーを取り入れているということもあるもかもしれません。

●ポリウレタン(PU)系

【主なポリウレタン(PU)系防水透湿素材:パーテックスシールド、ポーラテックネオシェル】

ポリウレタン(PU)はウレタンゴムなどとして汎用的に使われている素材で、衣類にも多く採用され、いわゆる「メーカー独自素材」の多くが該当します。ePTFE系に比べてストレッチ性に優れているのが特徴ですが、加水分解してしまうことが欠点です。

加水分解とは、水と化学反応することで素材が劣化することで、登山靴やスニーカーの底、バックパックの裏地などが剥がれたり溶けたりして使い物にならなくなるのはこのためです。実際には水分に加えて、紫外線や熱、微生物などさまざまな要因で劣化するようです。

PU系素材は微細な孔のあいた多孔質系、孔があいていない無孔質系に分かれます。

多孔質PUは、基布にメンブレンの原料となる樹脂をコーティングして水の中を通すことにより、分子レベルの細かい気泡が抜け、そこが水蒸気の通り抜ける孔になり、多孔質の膜ができます。

透湿の仕組みはePTFEのメカニズムに似ており、メンブレンに空いている微細な孔が水蒸気は通しても水滴は通さない性質があるため、雨風は通しませんが衣服内の湿度が下界より上がることにより透湿します(孔の大きさはePTFEの方が微細であるとされています)。

多孔質PUを使用したメンブレンの代表格には、軽さとしなやかさで評価されているパーテックスシールドプロ(2017年よりパーテックスシールドAPから改称)や、通気性能で評価の高いポーラテック・ネオシェルがあります。

一方の無孔質PUは、メンブレンの原料となる樹脂を専用の紙にコーティングし、乾燥後に紙を剥がすことで作られます。

原料の樹脂には水酸基という分子が含まれており、ウェア内部の蒸気濃度が高くなると、メンブレン内の水酸基が水蒸気と水素結合し、水分を一度メンブレン内に保水します。その際、メンブレンは水を膜内に溜め込むため、一時的に膨潤しますが、その後、保水した水分が気化して蒸気濃度の低い外部へ透湿するというメカニズムです。温度上昇によって繊維にすき間が生じ透湿するというタイプもあるようです。

無孔なので、皮脂の汚れなどによる目詰まりがなく、また、膜に孔が開いているePTFEや多孔質PUは薄くすればするほど破れやすくなるため軽量化に限界がありますが、無孔質PUは無孔のため限界まで薄くすることが可能で、軽量化しやすいとされています。通気性はありません。

無孔質PUの代表格がパーテックスシールド(2017年よりパーテックスシールド+から改称)、小松精練のSAITOS、三菱商事ファッションのディアプレックスなどで、ノローナの独自素材dri1やマウンテンエキップメントのDRILITEも無孔質系のようです。

PU系素材はさらに、膜の原料となるポリオールの相違によってポリエステル系PU、ポリエーテル系PU、ポリカーポネート系PUの3つにわかれます。それぞれのポリオールによって利点・欠点・価格が異なるため、どの原料を選択するかによって、商品の特徴が変わってきます。

•ポリエステル

多孔質膜の原料として使われることが多く、加水分解による劣化が速いため、耐用期間が比較的短い衣料や靴などの用途に使用されることが多い原料です。PETボトルの材料などとして一般的に使われている素材でリサイクル性に優れるという特徴があり、環境意識の高いメーカーが多く採用しています。

帝人のエコストームや豊田通商のゼラノッツなどがポリエステル系の代表格です。パタゴニアやフーディーニ、OMMなども独自素材としてポリエステル系を採用しています。

•ポリエーテル

価格が安価で柔軟な風合いを持ち、多孔質、無孔質膜の原料に使われています。ポリエステルよりは耐加水分解性に優れているとされています。

•ポリカーボネート

主に多孔質膜の原料に使われています。ポリカーポネート系PUは加水分解までの時間が長く、PU系の中では耐光性や耐久性に最も優れているとされていますが、皮膜が硬く風合いを損なうとされています。ファイントラックの独自素材エバーブレスはポリカーボネートPUであることを公表していますが、なかなかこのレベルまで情報開示しているメーカーは少ないようです。

その他、ポリエステルとポリエーテルを調合したもの、ポリエーテルとポリカーボネートを調合したものなど、それぞれの特徴を活かしながら掛け合わされた素材もあり、細分化して見ていくとPU系には様々なバリエーションが存在します。

●ポリエチレン系

製品数は限られますが、重量当たり強度が高く軽量という特性を持つポリエチレンを用いたレインジャケットがあります。アウトドア製品にもよく使われる「ダイニーマ」「スペクトラ」がポリエチレンです。

UL系素材として知られるキューベンファイバーは、ダイニーマ繊維をUV樹脂でラミネートしたフィルム状の生地で、近年ダイニーマコンポジットファブリックと改称されました。

ダイニーマコンポジットファブリック自体には透湿性がないため、ポンチョのように常時通気する形態か、他の防水透湿素材と組み合わせたハイブリッド生地としてレインウェアに使われています。たとえば、NW ALPINEはダイニーマとeVentを組み合わせた独自素材を使った超軽量レインウェアを出しています。

親水性素材と疎水性素材の違い

ややマニアックなトピックですが、メーカーによっては親水性、疎水性という素材の性質を開示している場合があります。

親水性とは、文字通り水との親和性が高く、水分を保持する性質を指し、疎水性は逆に水を弾く性質を指します。

基本的に、ePTFE、多孔質PUは疎水性、無孔質PUは親水性の性質を持ちます。親水性素材であっても、防水素材である限りは水を通しません。ただし、透湿のメカニズムとして、衣服内の水蒸気をいったんメンブレン内に保水してから、外部に気化するというメカニズムになります。一方、疎水性素材は、微細な孔から水蒸気をそのまま放出するので、蒸発が妨げられることがありません。

メンブレン単体では上記のような性質ですが、各社のメカニズムによっては、コーティングなどの加工を施すことによって、メンブレン(疎水性)+コーティング(親水性)というように、疎水と親水の性質を合わせもつ素材も開発されています。

同じePTFE系でも、ゴアテックスは親水性のPUを内側に貼り付けることによって透湿し、汚染防止を兼ねているようです(ゴアテックス・アクティブ、ゴアテックス・プロなどは薄いPUを使用)。eVentは疎水性のまま汚染防止のコートを施しています。両者の違いには、こうした親水・疎水という性質の違いもあります。このように、メンブレン+加工技術の組み合わせにより、疎水性・親水性の区別は難しく、多様化されてきているのが現状です。

ここまで見てきたように、メンブレン単体でもそれぞれ特徴がありますが、メンブレンを挟む表地・裏地の選択によっても生地としての特徴が大きく変わってきます。合わせる生地によって、メンブレン単体が持っている性能を引き上げたり、あるいは妨げてしまう場合もあります。各社はメンブレンだけでなく、表地や裏地、コーティングなどの後加工にも工夫をし、生地としてのオリジナリティを高めています。

調査のアウトライン

さて、いよいよ実際の製品を分類してみます。

注:2017年8月にまとめた資料となるため現在販売されている商品が含まれていないこともございます。

●調査の範囲と選定基準

調査範囲としては、アウトドア(登山・一部ランニング含む)用途のレインジャケットで、耐水圧10,000mm以上の「完全防水」をうたったものを対象とし、撥水機能のみのもの、秋冬用のハードシェルでインサレーション入りのものはレインウェア単体の評価から外れるものとして対象外としました。

また、「山と道」の根本でもあるウルトラライトという観点で分析するには重量の比較が欠かせません。そこで、カタログ/サイトに重量の明記がないものや、重量500g以上(基本的には男性Lサイズ基準)のものを除外しました。

国内で一般的に流通しているメーカーの国内発売モデルをメインとしましたが、Zpacksなどウルトラライトの世界で重要と思われるメーカーについては追加的に調査に加えています。その他、参考レベルとしてポンチョ、セーリングジャケットなどを独断で加えています。

●調査項目

製品名、素材、レイヤー、形状、耐水圧、透湿性、ストレッチ性、シーム/圧着技術、フード有無・形状、カフ・形状、ベンチレーション有無・数、耐水ファスナー有無、ポケット有無・数、パッカブル性、生地厚さ、リップストップ性、重量、強度、機能保持耐久性、洗濯耐性、価格、セールスコピーなど

●重量別アイテム数

秋冬にも耐えうる防風性や保温性、耐久性を求めれば重くなり、軽快に動くためのものは軽くなるはずです。
利用目的やディティール、素材技術といった様々な要素が「重さ」という指標に集約されているのではないかと考え、重量を基準に集計してみました。

重量クラス別の製品群と特徴

●150g未満
用途の絞り込みと最新素材とによって研ぎ澄まされた製品群の集まる
超軽量クラス

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

150g未満はまさにウルトラライトといえる「超軽量」クラス。
該当した製品群は10アイテム(ジャケット9つ、ポンチョ1つ)で、その内訳は以下の通りでした。

・バーグハウス ハイパー 100 ジャケット(97g) 
・ノースフェイス ストライクトレイルフーディ(110g) 
・マムート レインスピードウルトライトHS ジャケット (115g) 
・ゴア・ランニング アクティブラン ジャケット (118g) 
・アークテリクス ノーバン SL フーディー(120g) 
・NW ALPINE アイブライト ジャケット (128g) 
・ノースフェイス ストライクジャケット(130g) 
・モンテイン ミニマス777プルオーバー(130g) 
・マーモット ゼロペネトレイト ジャケット (138g)

補足:本レポートの作成後、今秋にモンチュラよりゴアテックス・シェイクドライを採用した「FLYAWAY ANORAK」(118g)、「FLYAWAY JACKET」(136g)が発売されています。

超軽量といえる150g未満のタイプは、トレイルランニングなどアクティビティレベルの高い活動を意図したものが多くなっています。

このクラスに共通して見られる特徴として、フードの調節機能やポケットの省略、カフもゴムの固定式にするなどの大胆なディティールの絞り込み、タイトなシルエットなどが挙げられます。
いわば、ウインドシェルに防水機能がついたものといえるでしょう。

素材にも最新テクノロジーが使われています。

内訳は独自素材が4、ゴアテックス系(後述のゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ)が3、ダイニーマ系が1、パーテックス系が1となっていました。

今回最軽量の100g切りを達成したバーグハウス・ハイパー100ジャケットやノースフェイスのストライクトレイルフーディ、モンテインのミニマス777プルオーバーなどはいずれも3レイヤー素材を使用しています。

生地も極薄で、ストライクトレイルフーディでは7デニール(9000mでわずか7g)といった極めて軽いものが使われています。

あまり軽量イメージのないゴアテックスですが、このクラスにはゴアテックス系の新素材であるゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ使用の製品がエントリーしています。ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライはメンブレン自体に耐久性をもたせて表地を省略し、メンブレン+裏地のみで構成したという大胆な発想から生まれた素材で、軽量かつ、ほぼ永続的という高い撥水性能を持ち、具体的にはマムートのレインスピードウルトライトHSジャケット、ゴア・ランニングのアクティブランジャケット、アークテリクスのノーバンSLフーディーといった製品が該当します。

このクラスは、用途の絞り込みと最新技術によって思い切った軽量化を目指すハイレベルな競争が行われ、防水性、透湿性といったレインウェアの基本性能に加え、3レイヤーの採用によって着心地にも目配りしたモデルが現れてきています。

一方で、耐久性や汎用性といった点は犠牲になっているといえそうです。用途を明確にして、割り切って使う製品群とでもいえるでしょうか。

●150g~200g:
実用性・耐久性を多少加味しつつ軽量化を目指すクラス

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

200g未満は少し前なら最軽量の部類だったかと思います。150g未満という超軽量アイテムに比べると、通常のマウンテンジャケットのディティールを最低限そなえつつ、軽量化も妥協しないモデル群といったところでしょうか。

生地も15デニール(9000mで15g)程度のものが多く、耐久性も多少重視されており、シルエットもややゆとりが出てきます。

店頭でもよく見かけるモンベルのバーサライトジャケット、アウトドアリサーチのヘリウムIIジャケット、OMMのファントムフーディーやイーサースモック、パタゴニアのストーム・レーサー・ジャケットやM10アノラックなどが代表格でしょうか。

透湿性50,000g/m2/dayという驚きの独自素材を使ったカリマーのビューフォート3Lジャケットや透湿性60,000g/m2/dayのZpacksヴァータイスレインジャケット、重ね着前提でゆとりあるシルエットのマウンテンハードウェア・スーパーチャージャーシェルジャケットなども注目していいと思います。

素材的にはパーテックス系が6と圧倒的。軽量で柔らかいとされるパーテックス系の特長が重視された感じでしょうか。あとは独自素材となっています。

ノースフェイスのハイパーエア・ゴアテックスジャケットは前述のゴアテックス・アクティブ・シェイクドライを採用。調節可能なフードやベロクロのカフ、ハンドポケットなどのディティールを備えて197gという重さは驚異的です。

このクラスは、実用的な軽量モデル群とでもいえるでしょうか。150g未満クラスほどの割り切った用途ではなく、多少の汎用性・耐久性にも目配りしたモデルが多くなっています。とはいえ、ランニングなどのアクティビティレベルの高い活動にも十分対応できるでしょう。

●200g~250g:
軽さと実用性のバランスを意識した激戦区

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

この領域には多くの製品が集中しており、市場で最も熱いクラスの1つといえます。通常のマウンテンジャケットのディティールをそなえつつ軽量性にも配慮した、いわばいいとこ取りを目指した製品群と言えるのではないでしょうか。

OMMのイーサージャケット、モンベルのピークシェル、コロンビアのオリザバロックジャケット、ノースフェイスのクライムベリーライトジャケットなどは2つのハンドポケットにベロクロカフ、調整可能もしくはワイヤー入りのフードとディティールも充実しています。クライムベリーライトジャケットは、ゴアテックスC-KNITを使用した製品で最軽量と思われます。

素材的にはやはりパーテックス系が5と多く、ゴアテックス系も4つエントリー。あとは各社独自素材です。

こちらも150g~200g同様に実用的な軽量モデル群、という範疇ですが、ランニングに用いるというほどの割り切り感はありません。より通常のハイクを意識しているといいますか、山での汎用的な利用に向いたグループになるかと思います。

●250g~300g:
 各社の代表製品が集中するも、今後の存在意義を問われる領域?

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

この領域には、モンベルのストームクルーザー、パタゴニアのM10ジャケット、ノースフェイスのクライムライトジャケット、マーモットのスルーハイカージャケット、ファイントラックのエバーブレスフォトン ジャケット、ティーロンブロスのツルギジャケットなどがあります。各社のいわゆる代表的な製品がキラ星のように集まっています。

軽さとディティールのバランスをとった、汎用性を重視した製品が集まっていると言えるのかもしれません。ただし、250g未満で十分なディティールをそなえた製品が現れつつある中、今後の存在意義を問われる領域と言えるかもしれません。

また、かつて300g以上あったモデルが軽量化を果たしたものと、かつては軽量ジャケットと言えたが今では若干古くなってしまったものが混在しているようにも見えます。

素材的にはゴアテックスが5、パタゴニアの独自素材H2Noが3、パーテックス系が2、ポーラテック・ネオシェルとeVentが1ずつ、あとは各社の独自素材となっています。この重量帯ですと、軽くしなやかというパーテックスのメリットが評価されにくいのでしょうか。ゴアテックスが主流となっています。

●300~350g:レインウェアにも秋冬用シェルにも

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

200g~250gクラスと並び、アイテム数的には市場で最も熱いセグメントの1つと言えます。

50デニール以上の生地を用いたものもあり、耐久性とディティールに妥協していません。レインウェアというよりも秋冬対応シェルに分類した方がいいようなものもあります。

素材的にはゴアテックス系が12と圧倒的で、以下パーテックス系5、eVent系2、ポーラテック・ネオシェルが1、あとは各社独自素材となっています。

透湿性50,000g/m2/dayという驚きの独自素材を使ったミレーのティフォン50000ストレッチジャケットなどが注目株でしょうか。マウンテンジャケットではなくセーリングジャケットというカテゴリーですが、ヘリーハンセンのヴェイパージャケットはHELLY TECH PROFESSIONALという独自素材を使用、耐水圧30,000mm、透湿性50,000g/m2/dayという驚きのスペックです。これを親会社が同じゴールドウィンのノースフェイス製品に実装できないのでしょうか…。

個人的にはレインウェアとして見ればやや重いと思いますが、高山での縦走や残雪期のハイクなど、軽量性よりも防風性や保温性が求められる場面では選択肢の上位となるでしょう。超軽量ウェアとの使い分けもしやすく、一着あれば何かと便利ということで、製品数が多いのもうなずけるところです。

●350g以上:
耐候性重視、ほぼ秋冬用シェル

<調査対象製品(調査項目は抜粋)>

このあたりになると、レインウェアとしてはなかなかのヘビークラス。ほとんど秋冬対応シェルといった感じになってきます。

素材的にはゴアテックス系が圧倒的で、ポーラテック・ネオシェル、eVentなどもありますがわずかです。

とにかく防風・保温の耐候性能と耐久性を重視した、まさに鎧としてのアウターシェルといった製品がこの領域の特徴かと思います。

重量と素材の関係

防水透湿素材については独自素材が最も多く、その内訳はほとんどがポリウレタン(PU)を使用したメンブレンでした。次いでゴアテックス系が44アイテム、パーテックス系が21アイテム。

eVent系、ポーラテック・ネオシェル、ダイニーマといった素材を使ったものもありますが、数は限られています。NW ALPINEのアイブライトジャケットはダイニーマにeVentを積層したという凝った素材を採用しています。

250g未満の軽量製品ではパーテックス系の採用実績が高くなっています。軽量でしなやかという特性はアクティブなシーンに適性が高いのかもしれません。ただし、ゴアテックスも超軽量系にゴアテックス・アクティブ・シェイクドライを投入しており、今後素材の競争は混沌としてくるでしょう。

250g以上ではゴアテックスの採用実績が圧倒的です。テクノロジー的に軽量化が難しいのか、マーケティング的な判断かはわかりませんが、ゴアテックスは耐久性を重視して表地を厚くしたものが多いようです。以前軽量素材の代名詞的存在だったゴアテックス・パックライトも最近ではそれほど採用されていません。

ゴアテックスはPU系素材に比べて伸縮性に劣るため、ランニングなど軽さが重視される活動、アクティビティレベルが高い用途があまり想定されていないのかもしれません。

調査結果からの考察

レインウェアの分布図

150アイテムの特徴を整理し、以下のように分類してみました。

トレイルランなど行動負荷の高いシーンで用いる200g未満の、場合によっては150g未満の超軽量タイプが「防水ウインドシェル」です。文字通りウインドブレイカーに防水性能がついたようなモデルです。驚きの100g切りを実現したバーグハウスのハイパー 100 ジャケットを筆頭に、ノースフェイスのストライクトレイルフーディ、ゴアテックス・アクティブ・シェイクドライ使用製品などがここに含まれます。モンベルのバーサライトジャケットなどもこの範囲かと思われます。

次いで、行動負荷が比較的高いシーンで、軽量性を重視しつつ、ロッククライミングやロングの縦走など防風性や耐久性などにも一定の配慮をした「軽量アルパインジャケット」というグループを切り出しました。重量的には200~300g。パタゴニアのアルパイン・フーディニやM10、アウトドアリサーチのヘリウムHD、OMMのイーサージャケット、モンベルのトレントフライヤー ジャケットなどがこの領域かと思います。

日本における、いわゆる普通の登山シーンを思い浮かべてみます。無雪期、ほぼコースタイム通りのペース、樹林帯から岩稜まで幅広い自然環境を通過し、標高2000m程度のピークハント、といった行動を典型とした場合です。尖った機能よりも、軽量性、耐久性、ディティールなどのバランスがとれていて、ある程度どんな状況でも100点満点でないにせよ及第点をとれるような製品が求められるのではないかと思います。このような製品群を「汎用レインジャケット」と名づけました。

今回調べたアイテムのおよそ半分がこの領域に該当すると思われます。重量は200g~350g程度でしょうか。パタゴニアのトレントシェル、モンベルのストームクルーザーなど各社の代表格がこのグループに含まれます。

これ以外には、積雪期にも対応する「ハードシェル」、上下セットのレインスーツなど昔ながらの「山用雨具」、傘やポンチョなどの「お手軽雨具」など様々な選択肢があります。

実際には、たとえばモンベルのトレントフライヤーやマウンテンハードウェアのヘリウムIIなどはトレランで着ることも可能ですし、通常の山行でも着用できます。同じ重量であれば、軽量のハードシェルと汎用レインジャケット、軽量アルパインジャケットの違いはほとんどないと言っていいでしょう。その意味では便宜的なものですが、ここから様々な機会を導くこともできると思います。

たとえば150g未満の超軽量ジャケットはほとんどが「防水ウインドシェル」グループで占められていますが、より余裕のあるシルエットや必要なディティールをそなえた150g未満の「軽量アルパインジャケット」が受けいれられる余地はそれなりにあるのではないかと思います。

まとめに代えて~アウトドア・レインウェアの発達史と今後

素材メーカーの技術資料や実際の製品分析から、いわば「レインウェアの発達史」のようなものが浮かび上がってきました。以下、未確認情報も含め、私見を交えてまとめてみます。

かつての防水衣料といえばゴム引きのコートや高密度織物などでした。これらはいずれも防水性もしくは透湿性に課題があり、素材も軽量とはいえませんでした。

1969年にWLゴア&アソシエイツ社がePTFEメンブレン(ゴアテックス)を開発し、防水透湿布というカテゴリーを創造しました。70年代後半にはアウトドアアイテムへの採用が進みます。

ただし、衣服に利用する場合、皮脂により性能が劣化するため、内側に耐汚染コーティングをほどこさなければならないという制約がありました。このような耐汚染コーティングは透湿性能にマイナスです。より高い透湿性能が求められた結果、独自のテクノロジーによって非コーティングを実現したeVentが登場しました。

また、技術革新によって防水・透湿性能をもったポリウレタンメンブレンが実用レベルになりました。ePTFEとの性能差は縮まり、場合によってはカタログ値でゴアテックスを上回るものも登場するようになっています。

これらの動きに対し、ゴアテックス社もコーティングを薄くするなどの新技術で対抗。長年の実績によるブランド力もあいまって、依然として防水透湿素材で王者の位置を占めています。

以上から、現状ではePTFE系のゴアテックスが市場の主流となっているものの、PU系の性能向上も著しく、PUは軽量性、ストレッチ性、コストといったメリットを訴求することで、次第に差を縮めていくものと思われます。

今度も素材の革新は続き、十分な防水性を確保しつつ、より透湿し、より軽い製品というものが登場してくるでしょう。メンブレンの改良に加え、生地に微粒子やポリマーなどの物質を添加することよって機能性を高めるような方向もありえます。今後も、より積極的に透湿・通気するようなテクノロジーが出現してくると思われます。

また、縫製技術も進化し、超音波圧着や縫い目のないホールガーメントなどのテクノロジーが一般化してくるでしょう。重量増と劣化による浸水の原因にもなりがちなシームテープは使われなくなっていく方向かと思われます。

レインウェア製品全体の方向性としても間違いなく軽量化の方に向かうものと思われます。トレランやファストパッキングなどアクティビティレベルの高いレジャーの人気や、都市でのゲリラ豪雨への対応まで、軽くて小さく折りたためるお守り的なレインウェアの需要は高まり続けるでしょう。

以前は珍しかった150g未満のレインウェアが当たり前になりつつあるように、50g~100gクラスが新たな激戦区となっていく日も遠くないのではないでしょうか。

(文責:渡部 隆宏、協力:松本りん)

注:本稿は2017年5月から8月にかけて行ったリサーチャーの独自研究をまとめたものであり、一部に推定もしくは主観的な判断を含みます。製品スペックや素材の特徴、物性などは調査時点から変化する可能性があります。
本稿は内容の完全な正確性・妥当性を保証するものではなく、本内容を利用することによって生じたあらゆる不利益または損害などに対して一切の責任を負いかねますのでご了承下さい。引用は著作権法にもとづいた適正な範囲でお願いします。
なお、特に素材についてはメーカー未公表の情報も多く、各種の資料を参考にしましたが事実誤認があるかもしれません。識者のご指摘をいただければ幸いです。

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  • Takahiro Watabe

    Takahiro Watabe

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    デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。 現在もコンサルティングをはじめ、各種リサーチ、統計解析などいろいろと手がける。 2012年より旅行情報サイトの運営(tabinote.jp)を開始、ガイド記事の執筆や一般誌への寄稿、ベストセラー書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」公式サイト(zekkei-project.com)のライターなど、旅に関する仕事も行っている。 旅行以外には空手とクラフトビールに絶賛ハマリ中。 山は日帰りロングハイク中心で、たまにトレランも。

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