山と道ラボ【レインウェア編】
#5 電子顕微鏡による組成解析

INTRODUCTION

『山と道ラボ』とは

山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。
各アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

これまで、山と道ラボではレインウェアとその素材について、メーカーの公表情報、調査レポート、アウトドアショップの資料などをもとに整理・分析を続けてきました。さらに、『山と道ラボ#4』では透湿性についての実証実験を通じ、素材のスペックや組成を推定しようと試みました。

しかし、メーカーが情報を非公開にしている以上はやはり推定にとどまり、依然として組成やスペックなどが謎のままという素材も多く残されています。

今回、その謎を解くべく、マイクロスコープ&電子顕微鏡による組成解析というアプローチを行いました。ミクロの眼で素材を分析することにより、メンブレンの材料や多孔質・無孔質、親水性・疎水性などの性質を明らかにしようとするものです。

検査機関に解析を依頼した素材は6点。まずは、防水透湿素材の代名詞的存在であるご存じゴアテックス。2点目は通常の表地を省き、メンブレンを直接表地に使うことで脅威の軽さと撥水性を実現した注目の新素材ゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライ。続いては高い通気性としなやかなストレッチ性能をほこりながらも、未公開情報が多くナゾの多いポーラテック・ネオシェル。ネオシェルについてはいくつかバリエーションがあり、最もメジャーに使われているであろう通常のネオシェルとストレッチ性に富んだネオシェル・ストレッチ(本実験での仮称)の2種類を検査しました。続いて、軽量性に定評のあるパーテックスからパーテックスシールドプロ(旧称パーテックスシールドAP)。そして、体温を37.5度に保つよう繊維に埋め込んだ活性微粒子が反応するという米ココナ社の『37.5 テクノロジー』を採用し一新された、OMMのカムレイカの6点です。

その結果はこれまでの推定を支持し、あるいはくつがえす驚きの内容でした。それでは、ご覧下さい!(渡部隆宏/山と道ラボ)

①ゴアテックス

定説通りの「疎水性メンブレン+親水性コーティング」構造か?

解析を依頼したのは「プロ」や「アクティブ」ではない3レイヤーのオリジナル・ゴアテックスです。検査機関によると、この画像から読み取れたことは以下の通りです。

*なお、これら「読み取れたこと」はあくまで目視での判断・推定であり、成分分析などを行っているわけではありません(以降の素材についても同様です)。

・構造は、表地/ePTFEメンブレン+無孔(=親水性)コーティング

・ePTFEの裏(肌に触れる内側)に無孔のコーティングが施されている。コーティングの材料はアクリルかPUだと思われる。

これまで、ゴアテックスについては、ePTFEの多孔質疎水メンブレン裏面に親水性のPUをコーティングした構造であることが種々の調査から明らかになっていましたが、そのことがあらためて裏付けられました。

無孔の親水性コーティングがほどこされていることから、ゴアテックス素材全体の性質としては、親水性無孔質PUに近いのではないかと考えられます。なお、これに先立つ『山と道ラボ【レインウェア編】#4 独自検査法による透湿性能試験』でも、ゴアテックスを親水性に分類しました。

一方で、メンブレンが蜘蛛の巣状の疎水性多孔質である分、透湿性、特に透湿スピードについては親水性無孔質PUよりも有利なのかもしれません。

実際に透湿性の検査スコアがゴアテックスを上回る親水性無孔質PU生地も存在していますが、いったん吸湿し生地外部に湿度を放出するという親水性PUよりも、ゴアテックスの方が幾分ダイレクトに透湿してくれると期待できます。

②シェイクドライ

透湿性抜群!? ノンコートの特殊構造ePTFEメンブレン!

検査機関によると、この画像から読み取れたことは以下の通りです。

・メンブレンはゴアテックスと同じePTFEに見えるが、スタンダードなePTFEとは異なる特殊な構造。通常は「蜘蛛の巣状」に見えるが、「雪の結晶」のような構造となっている。

・ePTFEらしきメンブレンの表側には、(耐久性維持のための)透明なコーティングがほどこされている。おそらくフッ素かシリコンのコーティングと思われる。

・ePTFEらしきメンブレンの裏面には、オリジナル・ゴアテックスと異なり特にコーティングなどは見受けられない。

防水透湿メンブレン自体が外側に露出しているという革新的な構造が話題を呼んでいるゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライですが、様々なことが明らかになりました。

メンブレンはノンコートのePTFE。ノンコートという点ではeVentと同じですが、メンブレンそのものが一般的な蜘蛛の巣状とは異なる、特殊な多孔質構造となっているようです。

オリジナル・ゴアテックスと異なり裏面の無孔親水性コートがないため、透湿性・通気性に期待できます。また、生地全体の性質は疎水性に近いものとなるでしょう。『山と道ラボ【レインウェア編】#4 独自検査法による透湿性能試験』でもゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライを疎水性に分類しましたが、その仮説が色濃くなりました。

なお、ゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライの製品タグには、裏地のテクノロジーはゴアテックスC-KNITであると示されています。C-KNIT層は肌離れの良さや生地の柔軟性など着心地の向上に寄与しているものと思われます。

③パーテックスシールド・プロ

オーソドックスな疎水性多孔質PU

パーテックスシールド・プロ(旧称パーテックスシールドAP)については、疎水性多孔質PUであることが公開されています。はたして、同じ多孔質構造であるePTEFとはどのように異なるのでしょうか。

以下は顕微鏡によるパーテックスシールド・プロの拡大画像です。

検査機関によると、この画像から読み取れたことは以下の通りです。

・標準的な、多孔質PUの構造に見える。

・コーティングなどの形跡は見られない。

・したがって、ノンコートの多孔質PUメンブレンと思われる。

見解としては、公表されているスペック同様に、きわめてオーソドックスな、疎水性多孔質PUであるとのことです。蜘蛛の巣状のePTEF、雪の結晶状のシェイクドライにくらべ、PU多孔質はスポンジのように密な孔という印象です。

④カムレイカ

「37.5テクノロジー」の正体とは?

カムレイカはOMMのオリジナル素材です。ただし、テクノロジーとしての一貫性はなく、もともとはPUメンブレンでしたが、2014年頃から環境配慮のため100%ポリエステル素材となり、2017年モデルからは米ココナ社の「37.5テクノロジー」を採用しています。

この技術は人間がパフォーマンスを最大限に発揮できる37.5℃という深部体温を保つよう、繊維に埋め込まれた活性微粒子が、透湿や保温をコントロールするというもの。もし謳い文句通りの効果があるのなら夢のような素材です。

以下は顕微鏡によるカムレイカの拡大画像です。

検査機関によると、この画像から読み取れたことは以下の通りです。

・メンブレンは無孔質PU(=親水性)。

・メンブレンに特殊な薬剤を添加し、表面をフラットではなく凹凸として肌離れが良くなるようにしている模様。

・目視では、メンブレン・裏地ともに「37.5°Cになると水蒸気を一気に放湿するテクノロジー」を生み出しているような特殊性を見つけることができなかった。

こちらも驚きの結果でした。メンブレンや裏地に埋め込まれた微粒子が発見できるのかと期待していましたが、今回の顕微鏡を用いた解析では明らかにならなかったようです。

なお、検査機関からは無孔質PUメンブレンを特定の温度で一気に放湿するようなコントロールは相当難易度が高いのでは? という所見も得ることができました。

⑤ネオシェル

最大の謎素材! その正体は?

ネオシェルには軽量性を重視したものやストレッチ性を重視したものなど、個性の違ういくつかのタイプが存在します。

今回は軽量かつストレッチ性を持つタイプ(一般的に広く採用されているネオシェルはこのタイプかと思われます)と、よりストレッチ性を重視したタイプ(本実験ではネオシェル・ストレッチと仮称しています)、2種類の素材を検査しました。

まずは、軽量かつストレッチ性のある通常のネオシェルの拡大画像をご覧ください。

続いて、ネオシェル・ストレッチ(仮称)の拡大画像です。

検査機関によると、この画像から読み取れたことは以下の通りです。

・いずれも、メンブレンは蜘蛛の巣状の構造。この構造はePTFEに特有のもの。

・メンブレンにはコーティングが施されていない。

・したがって、目視ではノンコートのePTFEメンブレンによく似た構造となっている。

・製法としては、極細の繊維(ナノファイバー)を射出することによって織り上げられる「エレクトロスピニング法」による不織布にも似ているように見える。

非常に意外な結果でした。

ネオシェルは種々の資料で「多孔質PUである」と記載されています。PU素材に特有のストレッチ性もあることから、PUメンブレンではないかと考えていました。

この検査では断言できませんが、もしネオシェルがePTFEメンブレンであれば、同じノンコートのePTFEメンブレンであるeVentやゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライとほぼ同じようなスペックと期待できます。

一方で資料の通りPUであれば、通常のPUには見られないような特殊な構造をもっているといえます。検査機関からは、もしもPUでこのような蜘蛛の巣構造を実現したとすれば、かなりの技術的イノベーションであるとのコメントが得られました。ゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライが通常と異なる雪の結晶のようなePTEF構造を実現していることからすると、ポーラテック社がPUで新たな構造を実現したという可能性も考えられます。

ネオシェルの特徴であるストレッチ性は、PUメンブレンであることを裏付けているように思えます。一方で、表地・裏地が伸びればePTFEでも多少の伸縮性をもたせることは可能という見解もあります。果たして、ネオシェルは特殊な構造のPUメンブレンなのでしょうか、それとも、ストレッチ性をもたせた特殊なePTFEメンブレンなのでしょうか。

まとめ

わかったことと、残された謎

その正体がベールに包まれていたゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライとネオシェルについては相当のことがわかりました。

なぜゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライが通常の蜘蛛の巣構造ではなく雪の結晶のような構造なのか、ネオシェルははたして本当にePTFEなのかなど、まだいくつかの疑問点はあります。しかし、ネオシェルが仮にPUであっても、蜘蛛の巣状の疎水性多孔質構造であれば「ノンコートのePTFE」に類似したスペックと考えられます。

実際にはゴアテックス・プロもコーティングを省く構造のようですので、今や親水性のコーティングを施しているePTFEメンブレンというテクノロジーはオリジナル・ゴアテックスの特徴といえるのかもしれません。

ノンコートのePTFEといえばその先駆的存在はeVent。ゴアテックスの課題であった常時透湿性能をeVentが解決し、さらにストレッチ性などePTFEに特有の課題をふまえつつ、各社はユーザーに新たな提案し続けているといったところでしょうか。

そして、この顕微鏡解析は『山と道ラボ【レインウェア編】#4 独自検査法による透湿性能試験』の結果解釈に新たなヒントを与えてくれました。

ネオシェルやパーテックスDV(=eVent)、ゴアテックス・アクティブ・ウィズ・シェイクドライは、いずれも生地の内外が高湿度という条件でも透湿してしまいました。これが生地の性質を正しく測ったものなのか、測定誤差なのかの判定がつきませんでしたが、いずれも疎水性多孔質のメンブレンだとすれば同じ挙動であったのも納得です。湿度差がない条件ですので、透湿というよりも「多孔質の孔から通気した」と考えるのが妥当ではないでしょうか。つまり、eVentのセールスコピーと同じく「ダイレクト・ベンティング」が生じた結果と言えます。

一方、今回の解析でもナゾが残されたのはカムレイカです。微粒子の作用によって温度・湿度を保つという夢のようなテクノロジーについては、実験室でのテストの他、着用しての体感テストなども必要となるかもしれません。

ラボの探求はまだまだ続きます!

(文責:渡部 隆宏・松本 りん)

注:本稿は本稿は2017年12月~2018年1月に行われた顕微鏡解析の結果にもとづきます。一部にリサーチャーの推定もしくは主観的な判断を含みます。本稿は内容の完全な正確性・妥当性を保証するものではなく、本内容を利用する事によって生じたあらゆる不利益または損害などに対して一切の責任を負いかねますのでご了承下さい。引用は著作権法にもとづいた適正な範囲でお願いします。

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  • 渡部 隆宏

    渡部 隆宏

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    デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。 現在もコンサルティングをはじめ、各種リサーチ、統計解析などいろいろと手がける。 2012年より旅行情報サイトの運営(tabinote.jp)を開始、ガイド記事の執筆や一般誌への寄稿、ベストセラー書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」公式サイト(zekkei-project.com)のライターなど、旅に関する仕事も行っている。 旅行以外には空手とクラフトビールに絶賛ハマリ中。 山は日帰りロングハイク中心で、たまにトレランも。

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