特集 ULハイキング
ULハイキングの思想や道具のこと、山行記の数々
2024.06.14

山と道を語る上で欠かすことのできない「ULハイキング」。今回の特集は「ULハイキング」そのものをテーマに、思想や道具のこと、山行記などを用いながら、ビギナーから熟練者まで楽しめるコンテンツを展開します。

DIRECTOR’S NOTE

山と道 代表 夏目彰

はじめてULハイキングをしたときのことを良く覚えている。

その当時、まったくメジャーではなかったULハイキングだけど、「なんてストイックなことをしているのだろう」と遠巻きに見ていた。変態的で、なんて苦しそうで、まったく楽しそうには感じていなかった。

でも、北アルプスを4泊5日で横断したとき、荷物の重さで快適に歩けず、心が自然の美しさに追いつけないのが悔しくて、敬遠していたULハイキングを試してみることにした。

道具を一つずつ測り、ギアリストを作成し、余分なものを省き、アルコールストーブとタープだけを新規に買い足してみた。はじめて行ったのは八ヶ岳だった。

タープ張りに苦戦しながらも、アルコールストーブの静けさ、炎の美しさに感動し、タープがテントと違って視界を遮らないことが、自然との一体感を生み出すことに驚いた。

翌日、朝日を山頂で見るために早起きし、軽い荷物でまるで散歩のように登っていく。雲に覆われた山頂。朝日の出現とともにその雲が消える景色は素晴らしく、感動のまま稜線を走り出してしまった。

ULハイキングはストイックでもなく、ただ軽量化するための技術以上に、自然との一体感の気持ちよさを教えてくれた。

僕はそんなULハイキングに大きな影響を受けて、2011年に夫婦で山と道を創業した。私たちの目的は、ULハイキングを伝え、ULハイキングの考え方から最高の道具をつくりだすこと。

少し大きくなった山と道を振り返ると、ULハイキングの考えは、山と道の全てだったことに気がついた。物作りだけでなく、コミュニケーションのあり方も、経営も、全てがULハイキングの経験とそこから受け取った思想性が山と道の源流として流れている。

山と道が伝えたいULハイキングとは?

STORES

山と道直営店はULハイキングにまつわるヒト・モノ・コトを発信していく拠点であり、山と道の製品やULハイキングに関連するアイテムの販売はもちろん、ハイカー仲間と出会い、カルチャーを育んでいく場です。今回は新しい試みの数々をご紹介します。

山と道 材木座

HLC鎌倉 ショップスタディ①
初心者のためのULハイキングの手引き

山と道の直営店では、これからULハイキングを始めたい方から「テント泊には何が必要?」「コンパクトなバックパックにテント泊装備を入れて山を歩けるかな…」といった不安な声を多く聞きます。そこで、みなさんの不安を払拭すべく、「初心者のためのULハイキングの手引き」として、ビギナー向けの勉強会を行います。

当日は、ULハイキングって何? という基本的な話から、スタッフが使用している装備の紹介、さらにULハイキング装備と10kgのバックパックの背負い比べをしていただきます。

すでにULハイキングを経験されている方には物足りないかもしれませんが、軽量な装備でテント泊を始めたい方や、装備の準備に不安がある方はぜひご参加ください。参加費は無料です。

※HLCプログラム「ULハイキング入門講座」よりさらにビギナー向けの内容です。

HLC鎌倉 ショップスタディ①
初心者のためのULハイキングの手引き

会場:山と道 材木座(神奈川県鎌倉市)
開催日:6月29日(土)
開始時間:15:00
終了時間:16:00
定員:8名
参加対象:これからテント泊を伴うULハイキングにチャレンジしたい方
参加費:無料
募集締切:6月28日(金)
内容:

  • ULハイキング装備でのテント泊をこれから始めるビギナー向け
  • ULハイキングの概要説明
  • ULスタイルのテント泊装備の紹介
  • 軽量な装備と10kgの重さのバックパックの背負い比べ

問い合わせ先:hlc.kamakura@yamatomichi.com

※6/14現在、キャンセル待ちです。
※今後も定期的に開催予定です。

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Hiker’s Depotに直営店スタッフが
留学スタート

日本のULハイキングシーンを語る上で欠かすことにできない存在の土屋智哉さん。その土屋さんがオーナーでULハイキングギアを数多く揃える東京・三鷹のショップHiker’s Depotへ、山と道材木座および京都スタッフが留学することになりました。不定期にHiker‘s Depotの店頭に立ち、接客やULハイキングの知識を学びます。

直営店スタッフは、ULハイキングについて研鑽を深め、ULハイキングギアの最新の情報に触れる必要があります。ULハイキングシーンを盛り上げるためにも、土屋さんをはじめHiker’s Depotスタッフの皆さんの力を借りて、成長していきたいと考えています。

山と道 京都

山と道京都スタッフ庄司真弓
ULハイキング研修報告会
〜ニュージーランドの原風景を歩く。はじめての海外ひとり山歩き〜

山と道京都スタッフ『しょうちゃん』こと庄司真弓が、社内の「ULハイキング研修制度」を使い、今年3月にニュージーランドのグリーンストーンケープルズトラック〜ルートバーントラックを5泊6日で、アロータウンからカードローナへのローカルバックカントリートラックを2泊3日で計9日間歩いてきました。これまで、ひとりでテント泊を経験してこなかった彼女がこのトレイルを選んだ理由や、道具選びなどの準備のこと、研修を通じて学んだことを、山と道京都で写真を交えながらトークします。

海外トレイルに興味がある方、女性ひとりで海外トレイルを歩くことについて興味や悩みがある方は、ぜひお気軽にご参加ください。トーク後には懇親会の時間を設けていますのでクラフトビールを片手に語り合いましょう。

山と道スタッフ庄司 真弓 ULハイキング研修報告会
〜ニュージーランドの原風景を歩く。
はじめての海外ひとり山歩き〜

会場:山と道 京都 2F(京都府下京区)
開催日:6月29日(土)
開始時間:17:00 ※16:40開場
終了時間:18:00
定員:20名 ※最少催行人数:5名
参加対象:海外(特にニュージーランド)のトレイルに興味のある方。
参加費:500円
募集締切:6月28日(金)

懇親会
会場:山と道 京都 1F
開始:18:15
解散:19:30
※食べ物やドリンクは、各自でご用意してください。店頭でクラフトビールをご購入いただけます。
※山と道製品はプログラム開催前にご購入ください。

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JOURNALS

ハイカーズデポの土屋智哉さんといえば、山と道としても何度もお世話になっているのはもちろん、日本にULハイキングの道を切り開いてくれた大恩人。さらに「もっと日本にUL文化を広め、継承していきたい」という想いを共通させてもらっていることもあり、それが今回ひとつの実を結ぶこととなりました。

具体的には数ヶ月に一度、山と道の大仏研究所でスタッフたちにバックパックやテント、シューズや寝袋など、ULハイキングの基本装備ごとにその来歴や現在の状況などについて語ってもらうことになったのですが、実際にやってみると「これって大学の講義じゃん」という濃ゆい内容に。それをスタッフだけに留めておくのはもったいない! ということで、山と道のお客様やJOURNALS読者の皆さんにも広く共有することとしました。これを皮切りに土屋さんの講義はまだまだ続いていきますのでお楽しみに。

『ウルトラライトパッキングのすすめ』は、実は山と道JOURNALSきっての人気記事で、とくに編集長・三田のUL装備を紹介した#2は、5年前の記事にも関わらず常に毎月のPVトップ3に入っている状態が続いていました。ですが、そろそろ情報が古くなっているのも否めないところ。というわけで山と道材木座の前原と苑田を召喚し、5年ぶりの続編記事を作成しました。現代ULのスタンダードともいえるパッキングを紹介した前原と、カリッカリに装備を削ったクレイジーULともいえるスタイルを披露した苑田、それぞれ詳細に各装備とパッキングの手順を紹介していますので、どう装備をUL化していいかわからない方やさらに思い切った軽量化に挑戦してみたい方、ぜひチェックしてみてください。

「ULハイキング研修制度」のある山と道。つまりスタッフは「研修=仕事」として1週間程度のハイキングに出て経験を積むことでULの理解や製品知識を深め、それをプロダクト開発や日々の情報発信、お客様とのコミュニケーションに活かしていこうというもので、この制度を利用して研修という名のULハイキングにでかけたスタッフのトレイルログをご紹介。自作道具を駆使してあまとみトレイルに向かったおでん君、その豪放磊落なキャラクターで感動巨編の旅になったあやなん、ふくしま浜街道トレイルのあまりの無人地帯っぷりに「寂し死」寸前まで追い詰められた角田、身も心も限界を越えて屋久島にしゃぶり尽くされたジョージと、それぞれに各自のキャラクターがよく出た研修報告になっていますので、ぜひお付き合いください。

山と道YouTube公式チャンネルでもJOURNALS関連動画を配信中です。YouTubeも併せてぜひご覧ください。

山と道YouTube公式チャンネルに進む

USE CASE

山と道JOURNALSでも詳しく紐解いた山と道材木座店長の前原と同店スタッフの苑田のそれぞれのUL装備。ビギナーでも参考にしやすいスタンダードな前原と「クレージー」とも評された苑田、それぞれのギアリストをUSE CASEとして紹介します。

山と道材木座店長 前原

山と道材木座スタッフ 苑田

前原のUSE CASE
【BASE WEIGHT: 4.2kg】

今回は、北アルプスを2泊3日で歩くことを想定したULビギナーでも参考にしやすいスタンダードなULハイキング装備で食料、水、燃料といった消耗品を除いたベースウェイトは4.1kg。スリーピングマットをバックパックのフレームに、トレッキングポールをテントポール代わりにしたりと荷物を少なくするための基本的なことを取り入れることで、30LクラスのMINIのようなバックパックでもテント泊装備をパッキングできます。ヘルメットやその他の必要な装備があれば付け足してくださいね。(山と道材木座店長 前原)

前原の装備一式

前原秀則

山と道スタッフ。山と道材木座店長。 北海道の田舎出身。理学療法士として整形外科クリニックで5年勤務後、北アルプスで小屋番を経験。2019年、自然を満喫したいと思い、妻と二人でニュージーランドを縦断するロングトレイル 『Te Araroa』を歩く。自然と街を行ったり来たりしながら、「歩く・食べる・寝る」3つのシンプルな生活を4ヶ月繰り返すことで、とにかく歩いて自然と繋がっていたいという自分のハイキングスタイルに気づき、ULハイキングに没頭する。高齢になっても現役ハイカーでいられるよう、自然にも身体にも負荷の少ないULハイキングカルチャーを勉強中。

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苑田のUSE CASE
【BASE WEIGHT: 1.9kg】

今回の装備は、5月の京都一周トレイル84km(最低気温10℃〜最高気温25℃)をファストパッキングスタイルで2泊3日で歩くことを想定した、みんなから「クレージー」と言われた装備です(笑)。16Lのデイパックに食料、水、燃料といった消耗品を除いた装備のベースウェイトは1.9kg、パックウェイト(総重量)も4kg以下で、軽量化のおかげもあり結果的に1泊2日で歩ききりました。

今回のいちばんのポイントは就寝システムと保温行動着で、わざと湿度を上げて寝袋内の温度を上げるという手法を取り入れたVBL(ベイパーバリアーライナー)を使った就寝ギアと、VBLを使用するために保温着にダウン素材ではなく、優れた速乾性を持ち、濡れても一定の保温力を維持するポーラテックアルファやプリマロフトアルファといった化繊素材のウェアを選んだこと。さらにこれらを保温着としても行動着としても下山後の着替えとしても使いました。ひとつのギアで2役または3役こなせる工夫やアイデアを持つことが軽量化につながります。(山と道 材木座スタッフ 苑田)

苑田の装備一式

苑田大士

山と道 材木座スタッフ。 大阪府出身。2017年に鎌倉へ移住。美術系出版社で書籍企画・編集者として従事したのちに独立。現在は山と道材木座スタッフ、自身の会社の代表、編集、農業、狩猟ほか多くの顔を持ち、「ライスワーク」ではなく個人的な活動や趣味の延長を「ライフワーク」としている。2011年に土屋智哉氏著『ウルトラライトハイキング』 に出会い、ULハイキングスタイルの山歩きを実践。以降ライフスタイルに組み込み山と自然を楽しんでいる。

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INSPIRATIONS

ULハイキングを詳述した書籍は数あれど、決して避けて通ることはできない一冊を山と道JOURNALS編集長の三田がピックアップしました。

『Trail Life: Ray Jardine’s Lightweight Backpacking』
Ray Jardine(Adventurelore Pr / 2009年)

言わずと知れた「ULの父」レイ・ジャーディンによるULハイキングの指南書。1992に出版された『PCT Hiker’s Handbook』に幾度かの改訂が加わり、初のULハイキング入門書として有名な『Beyond Backpacking』となり、さらに2009年にその改訂版としてこの『Trail Life』になった。

もっとも、僕も英語で書かれたこの本をすべて読んだわけではなく、序章の“Welcome to Trail Life”と“Nature tugs at the soul”、第一章の“PACKWEIGHT”を苦労して訳しながら読んだだけだ。でもULで大事なことは、ここにすべて書かれていると思った。レイ・ジャーディンは、たとえばこんなことを語っている。

「自然の中での私たちの焦点は道具ではない。それは自然界の楽しみと冒険にあり、道具はあくまで旅行をより楽しむための手段に過ぎない。(中略)私たちにとってより重要なのは、自然の中でどのように存在するかだ。風景の上をどれだけ柔らかく移動するか、周囲の生命のパターンにどれだけ気づいているか、そしてそれらとどのように相互作用するかが重要なのだ。(中略)この概念を実践することで、私たちは周囲の自然界との関係や自分自身の内なる自然について、より深い理解と感謝の気持ちを持つことができる。これが私たちのすべての旅の背後にある行動様式であり、それは私たちのライトウェイトな装備やその方法論においても同じだ」(“Welcome to Trail Life”より)

「現代社会は個人に大きな影響を与え、人格を形づくり、変化させる。外側からのプレッシャーに常に反応していると、人は自分自身のものではない人生を生きることになってしまう。だがウィルダネスに足を踏み入れることでその影響から自由になり、新しい視点から人生を見ることができるかもしれない」(“Nature tugs at the soul”より)

ULハイキングはこうした哲学の元に生まれた。そしてその本質は、きっとそこから1mmも変わってないはずだ。(JOURNALS編集長 三田正明)

PLAYLIST

店舗やオフィスでスタッフが聴いているプレイリストをお届けします。曲のセレクターは、山と道のモデルとしても活躍している豊嶋きよらさんです。

今回の選曲のイメージは昨年4月のプレイリスト「Ultralight Hiking」に続く、ウルトラライトなハイカーのためのセレクト第2弾です。軽快な足どりで、どこまでも歩き続けたくなるような、爽やかで心地よい楽曲たちを選んでみました。ぜひお気に入りの曲を見つけてください。

公式インスタグラム@yamatomichiでも特集について発信中。

CREDIT

Editorial : Masaaki Mita, Tomohiro Kobayashi
Stores : Hidenori Maehara
Playlist : Kiyora Toyoshima
Mail Magazine : Yukari Fujita
Photography : Masaaki Mita, Hikaru Otake
Produce : Kazuhiro Hasumi, Yuma Shimoyama
Art Direction : Yosuke Abe
Supervision : Akira Natsume

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