レインウェアを語ろう 2023(後編)
土屋智哉 × 山と道ラボ

2023.08.21

去る2023年6月18日に鎌倉の山と道材木座で開催した『山と道ラボトーク① 最新レインウェア事情2023 土屋 智哉(Hiker’s Depot)×山と道ラボ』の模様を再構成してお届けする記事の後編です。

図らずも国内外での軽量レインウェアの受容と発展の話となった前編に続き、マーモットのゼロストームジャケット、ノースフェイスのハイパーエアGTXフーディとFLトレイルピークジャケット、山と道のUL All-Weather Hoodyを取り上げた後編では、シェイクドライというオーパーツのような防水透湿素材や通気系レインウェアの登場など、レインウェアの未来を占うような話になりました。

例によってかなりマニアックな内容ですが、後編もぜひテン場でギアトークをしているような気分で最後までお付き合いください!

構成/文/写真(製品):三田正明
写真(人物):大竹ヒカル

2023年6月18日に鎌倉の山と道材木座で開催した『山と道ラボトーク① 最新レインウェア事情2023 土屋 智哉(Hiker’s Depot)×山と道ラボ』の模様。山と道JOURNALSの三田正明を進行役に、当日は1時間半に渡って議論が交わされた。

前編より続く

⑤ Marmot - Zero Storm Jacket

ハンドポケット等レインウェアのフルオプション搭載で223g

重量:223g(Lサイズ実測)
素材:ダーミザクス
特徴:親水性無孔膜
構造:3レイヤー
表地:30デニール
耐水圧:30,000mm
透湿性:30,000g/㎡/24h

ーー次がマーモットの「ゼロストームジャケット」。これは2022年登場のモデルなんですが、メーカーのサイトを見ると2023年6月の段階で掲載されていないんで、もうディスコンかもしれないです。

夏目 この製品は土屋さんにピックアップしてもらったんですが、どうして選ばれたんですか?

土屋 軽量雨具ってポケットがないものが多いじゃないすか。でも、その中でこれは200g前半の重さで、かつポケットもふたつあって、軽量雨具では省略されがちな袖口やフードのアジャスターみたいなレインウェアの基本ディティールもしっかりあって。やっぱポケットは無い方が軽いから、うちらは「軽い方がいいからポケットいらないです」って言うけど、無いと不便なのもわかってる。ってなったときに、レインウェア全体の軽量化が進んだことで、昔だったらこのスペックだと300gの重さだったものが今なら200g前半で手に入れることができますよっていうサンプルとして挙げてみました。あとはトレイルバムのウォーカーシェルジャケットも同じ部類に入ってくると思います。

両脇腹にジッパー付きの大容量ポケットがあり、普段着としても着用しやすい。

ーーこれに使われているダーミザクスっていうのはどんな防水透湿素材なんですか?

渡部 東レの素材なんですが、ダーミザクスという名前の下にゴアテックスみたいな構造のものやパーテックスシールドみたいな構造のものもあります。

ーーパーテックスシールドにもPU製とかナノファイバー製とかいろんな種類があるみたいに一言では言えないってことですね。

渡部 そうです。様々な種類のある東レの防水透湿素材の全体を指すブランド名みたいな形になっています。このウェアについては、リーフレットによると無孔膜とあるのでパーテックスシールドに近いと思います。

夏目 表地が30デニールでしっかりしてるからバランス型の中では安心して使える。

ーーしかもこれ横方向のストレッチも入ってるんで、着心地もいい。さっき羽織ってみたんですけど、確かにここにポケットがあるのは服としていいなって。雨が降ってるから着るのではなく、便利だったり着やすいから何気なく羽織ってしまいそうな感じ。それはそれでやっぱりレインウェアとしてだけでない、服としての魅力になりますよね。

フードには両頬にアジャスターあり。

袖口にもベルクロのアジャスターあり。

土屋 自分が店を出した2000年代の頭ぐらいに、インテグラルデザインからeVent(注:透湿性の高さがウリの防水透湿メンブレン。現在は採用する製品が減少傾向になっている)の雨具が出たんですよ。eVentレインジャケットとeVentスルーハイカージャケットという2種類があったんですけど、当然俺はレインジャケットを買いました。それはポケット胸ポケットのみで丈も短かったんです。一方のスルーハイカージャケットは丈が長くてハンドポケットありだったのね。当時の俺は「スルーハイカージャケットは重たいから駄目じゃん」だったんですよ。でも改めて考えると、丈が長いとかハンドポケットがあるって、半年間も歩き続ける長距離ハイキングでは、多少重たくてもストレスがないんだなってわかるようになったんですね。だから俺の中では山での使用期間が連続して長期に渡るような場合には、こういう軽さやテクノロジーだけじゃないところも軽量レインウェアのひとつの目線になるんだなっていうのが、20年ぐらい経て改めて腑に落ちたんですよ。

ーーレインウェアのスタンダードなディティールを全部備えて、ストレッチもして223gって、まあそれだったら山と道のUL All-weather Jacketの方が100gぐらい軽いけどこっちを選ぶっていう人がいても全然いいと思いますね。

夏目 軽量な雨具に関しても、ほんと選択肢が増えましたね。

土屋 そうなんですよ。

左より夏目彰(山と道代表)、土屋智哉氏(ハイカーズデポ)、渡部隆宏(山と道開発担当)

⑥ The North Face - Hyper Air GTX Hoody

表地のないシェイクドライ使用のオーパーツ的ジャケット

重量:210g
素材:ゴアテックスアクティブ・ウィズ・シェイクドライ
特徴:疎水性多孔膜
構造:2レイヤー
耐水圧:非公開
透湿性:非公開

ーーお次ももうディスコンになってしまうかもしれない製品なんですが、ここ5年ぐらいのレインウェアの中でも特に大きいトピックとなったゴアテックスアクティブ・ウィズ・シェイクドライという素材を使ったザ・ノースフェイスの「ハイパーエアーGTXフーディ」です。

土屋 なんか峠走ってるクルマみたいな名前だよね。

ーーこれはこの胸のジッパーを開くとベスト型ザックのショルダーポケットに直接アクセスできるようになっていたりと、トレランに特化したデザインですね。

両胸の大きく開き内部にアクセスできるジッパー。

夏目 ただ、さっき話に出たゴアテックスの素材のフッ素が欧米で使えなくなる関係でシェイクドライも生産中止になるから、もうこれからは出てこないんですよ。

渡部 製品としていま売ってるのが最後なので、今後もう手に入らないオーパーツみたいなものになります。興味ある方は店頭にあるものを買っておいた方がいいかもしれません。

ーーシェイクドライの説明をしてもらっていいですか? 他の防水透湿素材とは違う特殊な構造のものなんですよね。

渡部 はい。普通2レイヤーっていうと先ほどのモンベルのバーサライトジャケットみたいに表地とメンブレンで裏地なしという構成なんですが、このハイパーエアーGTXフーディの場合は表地兼メンブレンと裏地という構造になってます。

ーーつまり表地がなくてメンブレン自体が外に露出してる。

表地のアップ。メンブレンが表に出た独特のぬめりある質感を持つ。

渡部 表地がある欠点って、どんなに撥水加工をしていたとしてもいつかは撥水性が飽和して表地が保水してしまうことなんですが、シェイクドライはメンブレン自体が外に出ていて、さっきも話に出たようにゴアテックスはフッ素樹脂製でテフロン加工したフライパンみたいなものなので保水せずに水を弾くんです。なので、基本的に撥水性が損なわれないんですね。なので表面のテクスチャーもちょっと特殊でテカテカしています。

ーーレインウェアの防水性って撥水性がないと機能しなくなってしまうので、「永久に水を弾き続けるなんて最高!」「夢の素材!」って感じで、これからはシェイクドライ一色になっていくのかと思っていたんですけど、そうはならなかったんですよね。

フードには大きめのつばがついているがアジャスターはなし。

渡部 そうなんです。欠点としてはテフロンむき出しなので磨耗に弱い。なのでこれもザックの上から羽織るデザインになってます。あと期待しすぎても駄目で、やっぱりある程度着ていると濡れることは濡れます(笑)。

夏目 でも軽量レインウェアの中では濡れには強い方ですけどね。

渡部 そうですね。濡れには強い方ですし、ヌケもいい方です。ただ結局雨が降っている状況って、ウェアの外も中も湿度100%みたいなことが多いので、そうすると撥水が損なわれなくても自分の汗で濡れますね。特に走る方はすごく通気が良いウェアを買っても結局濡れるんだと思います。ラン目線でいうと、そもそもウインドシェルでも汗で濡れるので、レインウェアにそこまで期待してもっていうのはありますね。その中での差としては撥水が持続するのはやはりすごい独自技術ですし、ユニークな製品だと思います。

ポケットは腰背部に1か所あり。

夏目 土屋さんはシェイクドライを割と試されたと思うんですけど。

土屋 それこそさっきの表面が強かったヘリウムレインジャケットとは真逆の製品で、擦れに弱いからザックを背負えるのかっていう懸念があった。だから元々シェイクドライは登山やハイキングっていうより自転車とかランニング用っていうところがターゲットになったんですね。だから山で使ったらどうなんだろうみたいなのはあったし、当初は日本の代理店さんなんかも、売ることを躊躇していた。夏目さんともシェイクドライが出てきた時に、肩とか背中とか擦れやすいところにプリントの補強を入れたりすれば何とかなるのではみたいな話をしてましたよね。で、自分がこれをよく使っていたのが、釣りで沢に入るときとか、今日は絶対に濡れるよねってとき。

ーー表面生地が保水しないので水がすぐ切れて乾きやすい。

土屋 そうそう。他の2レイヤーの雨具もそうなんだけど、表地や裏地が無いぶん保水量が少ないんで、全身ずぶ濡れになっても雨具をバーンってやればそこそこ水が落ちる。

ーーでも、やはり対摩擦性に弱いのと、フッ素が使えなくなることもあって、あえなく廃版と…。でも10年ぐらい経って見返したら面白いかもしれないですよね。「こんなすごいのあったんだ!」って思いそう。まさにオーパーツですね。

⑦ The North Face - FL Trail Peak Jacket

ジッパーと袖やフードのアジャスター付きで最軽量の通気型

重量:125g
素材:フューチャーライト
特徴:ナノファイバー膜
構造:3レイヤー
表地:7デニール
耐水圧:非公開
透湿性:非公開

⑧ 山と道 UL All-weather Hoody

ジッパーを廃した通気性の高い全天候型行動着

重量:106g
素材:パーテックスシールドエア
特徴:ナノファイバー膜
構造:3レイヤー
表地:7デニール
耐水圧:10000mm以上
透湿性:10000g/㎡

ーー次が最後です。ザ・ノースフェイスの「FLトレイルピークジャケット」。これはもろに山と道のUL All-weatherシリーズと競合してくる製品なんで、UL All-weather Hoodyと並べて話していきたいと思います。

渡部 この両製品に使われているパーテックスシールドエアとノースフェイスの独自素材であるフューチャーライトは、「ナノファイバー膜」というメッシュの網目みたいな構造を持っていて、その網目を実際に空気が抜けていくので、透湿だけなく実際に通気するというのが大きな特徴です。フューチャーライトは登場した当初はポーラテック・ネオシェル的な少し重いけどストレッチするしなやかな素材っていうイメージだったんですけど、FLトレイルピークジャケットは7デニールの表地で結構パリパリした質感で、ストレッチ性は無いんですが125gという超軽量で。

土屋 これって素材的にもコンセプト的にもUL All-weatherシリーズと似てるじゃないですか。大手が競合というか追っかけてきて、何か夏目さんが思うことって結構あるんじゃないすか?

夏目 実際フィールドで使ってないからわからないけど、見た感じはたぶんそんなに大差ないだろうと思います。だからユーザーの皆さんが好き好きで選んでもらえればいいと思っています。その上で、自分がUL All-weatherシリーズを作ってる理由として、さっきのラブのファントムプルオンみたいにもっと軽いものも作ろうと思えば作れるけど、UL All-weatherシリーズやFLトレイルピークジャケットみたいに通気性が高くなるとウインドシェルと兼用できるから、持っていく道具を減らして軽くできる。かつ、雨が降っていないときもウインドシェルとして使えるので、ザックに入れておくことの多い普通のレインウェアより活躍できる場面も多い。あと、ヌケが良くて脱ぎ着もあんまりしなくてもいいから、単純に使ってて気持ちいいってのがあるんですよね。かつ、通気性の高い保温着であるアクティブインサレーションを組み合わせてもすごく相性がいい。本当にこれらが出てきたことによって道具自体が一気に面白くなった印象がありますね。

FLトレイルピークジャケットのフードは後頭部にアジャスターが付属。

UL All-weather Hoodyのフードは顎下にアジャスターが1か所。

ーーフューチャライトは耐水圧はどのぐらいなんですか?

渡部 フューチャライトは公開してないです。10,000mmに満たないものもあると聞いたことがあります。

土屋 でもたぶん問題はないんですよ。

夏目 でもUL All-weatherシリーズもそうなんですが、やっぱり防水性と耐水圧の面ではナノファイバー系は他のに比べると劣ってはいます。

ーー耐水圧のスペック的には雨でも十分な値のはずなんですけどね。でも、通気しない他のメンブレンと比べるとやっぱり染みてくるし、寒さを感じることも多いっていうのは、自分もUL All-weatherシリーズを使っている体感としてありますよね。

FLトレイルピークジャケットの袖口にはベルクロのアジャスター付き。

UL All-weather Hoodyの袖口はアジャスターなし。

土屋 だから、この手の通気系の雨具って中に何を着るかを考えることが前提なウェアだと思います。自分が学生の時とかの25年前くらいは「化繊のTシャツ着てその上にゴアテックスの雨具、以上終わり!」みたいなレイヤリングだったんですよ。すごいシンプル。だけどこういう高通気なウェアが出てきたことで、山のレイヤリングが変わった。同時期に登場してきたポーラテック・アルファみたいな同じく通気性の高い保温行動着なんかとセットで考えたり、新しい山のレイヤリングを提案できる製品だと思います。通気系は雨具としての進化だけじゃなくてレイヤリング、中に着るものも一緒に進化させられるものなのかなっていうのが、自分の中での印象です。

夏目 今回はレインウェアをテーマに話はしてるんだけど、この手のナノファイバーのウェアって単なるレインウェアじゃないというか、レインウェアの機能もあるけど、もう雨降っていない時も普通に使えるみたいな方が魅力としては大きいのかなと思いますね。その辺どうですか?

FLトレイルピークジャケットにはスタッフサックが付属。収納するとこのコンパクトさ。

渡部 そうですね。防風性は通気系でも十分あって、雨が降っても中がびしょびしょに濡れるまでは快適に動けると。それで中が濡れたとしても先ほどのレイヤリングのような工夫で動き続けられる快適さが、以前のものより上がってるとは思います。基本的に行動し続けることを前提にしたときには通気系はすごく面白いのかなと思いますね。

ーー以前、山と道ラボの記事(山と道ラボ【レインウェア編】#1 土屋智哉x夏目彰 特別対談)で土屋さんと鼎談させてもらった時にも出たトピックなんですが、レインウェアの究極の役割は何かって言ったら、雨を防ぐことではなく低体温症にならないことなんですよね。多少濡れても低体温で活動できなくなるくらい冷えてしまわないよう最低限の保温性を維持するためのもの、というか。

土屋 そう。でも低体温症の話を最初にやってしまうと「じゃあ保温系の雨具がいいんだ」になっちゃう。でも、そうすると論旨としてはずれちゃうんですよね。だから濡れない、風も防ぐっていうのが雨具の基本的な機能。そこは全部担保されてますと。あとはそれを使って最終的に大事にしなきゃいけないのが、死なないために体温を維持して低体温症を防ぐこと。そのためには単品で使えるものもあれば、他との組み合わせで使えるものもあるしって考えてもらうといいのかな。

渡部 濡れても体温を保つことを考えたレイヤリングも含め、「使いこなす」ということが大事なのかなと思います。

夏目 保温性が比較的高いパーテックスシールドとかゴアテックスではちょっと動くだけで蒸れて不快なシチュエーションも、通気性の高いナノファイバーなら快適に歩けたりする。でもそのぶん冷える時は冷えるので、レイヤリングでカバーすることが求められる。

ーーなんにせよやっぱ考えて使ってほしいっていうか、そういったことをわかった上で使ってほしいですね。

夏目 僕はその方が楽しいんじゃないかと思います。

ーー基本的に山と道はそういうものを多く作ってるメーカーですよね。軽量性に特化していたり、これまでになかったものを作ったりしているんで。

土屋 そのへん、山と道ラボではレインウェアを着た時に避けられない蒸れだとか濡れを、中に着るものでどうカバーしていくのかも併せて考えていく記事(山と道ラボ【レインウェア編】 #8 レイヤリングのもたらす効果)も作っていたよね。レインウェアを選ぶ時、中に何を着るかで解決できる問題もあるかと思います。

UL All-weather Hoodyは生地と生地を縫製ではなく超音波圧着で接いでいる。

ーーレイヤリングの話が多くなってきたので、皆さんが具体的にどんなレイヤリングをしているのかをお聞きしたいです。

夏目 基本、僕は雨に限らずいつでもメリノウールなんですけど、基本メリノ着てると濡れてもそれなりに発熱性があるから、最低限の安全性の担保になるなってすごい感じます。興味あるのが、さっきのアクティブインサレーションじゃないけど、化繊系でも面白い素材も出てきてるので、今はいろんな選択肢があるし、これからもどんどん出てくるんじゃないかなって気もします。土屋さんはどうですか?

土屋 自分もメリノで、いわゆるメッシュのドライレイヤーと言われるようなものが通年のベースになってます。基本的に化繊のものはそんなに着てないけど、アクティブインサレーションは着るようになりました。そこでこういう場だからこその、注意喚起というか、OMMのコアシリーズとか、山と道のアルファシリーズとか、あの手のアクティブインサレーションをベースレイヤーとして着ることもあるんだけども、あれは化繊だから単体で着ないと最終的にはやっぱりうまく機能しないんですね。化繊は素材そのものでの保水ができないので上に何かを着た瞬間に速乾機能がおちてしまう。結局のところ肌着というよりも保温着になっちゃうんです。だからあれをベースレイヤーとして肌面に着て快適に過ごしたいならば、まずは単品で着ることを最優先に考えて欲しいです。そのうえで運動量が多い場合は快適です。そう考えると自分の場合はやっぱり上から何か着る状況も多いし、長く歩くけどもそこまで運動量が高いという意識はない。なので、今はあらためてもう1回メリノになってます。

渡部 私もメリノですね。山と道で言うと最近DF Mesh Merinoが出たので、あれは割と中が濡れても不快感がないです。化繊のベースレイヤーの問題は、上にレインウェアを着ると蒸発しないので、いくらそのウェア自体が速乾性に優れていても乾かないんです。なので肌面が点接触の化繊を着るとか、濡れても不快じゃないものを中に着るのが大事かなと思います。

土屋 化繊の速乾機能は空気に触れてないと機能しないんですよ。なので化繊の機能を最大限生かすんだったら空気に露出させてることが実はすごく大事。

ーー以前、山と道ラボでもレインウェアの下にメリノを着るかポリエステルを着るかで体感温度にどれだけ差が出るかを検査期間で独自試験を行ったんですが、明確な差が出たんですよね。メリノは体を温めるけどポリエステルは体を冷やすんですが、「ここまでとは」と思うぐらい差があって。それからはやっぱメリノ1択みたいな感じに我々としてはなっちゃってますよね。他にも他所ではやってないような検証もたくさんしていますので、ぜひ『山と道ラボ』の過去記事も読んでみてください!

トーク後には参加者を交えた懇親会も開かれた。

まとめ

ーーではそろそろまとめに入っていきたいと思います。土屋さんは現状のレインウェアマーケットの傾向をどういうふうに見られていますか?

土屋 シーン全体を見たときには、山と道のUL All-weatherシリーズが出て以降、やっぱり通気系のところに行ってるなって。レインウェアの進化って、大きな流れとしてやっぱり蒸れない雨具を作っていきましょうっていう方向性は不可逆だったし、その進化がグーンって行っちゃった先が通気系で、今はそれが結構エッジの部分まで行ってる。レインウェアだけじゃなく中に着るものも含めて保温のことも考えないといけないぐらいヌケが良くなったよねっていうのが今の状態。

ーーそうですね。でもそれだけヌケるレインウェアが出てきたっていうのも本当にありがたい話ですけど。

土屋 あと、自分は昔、撥水性が強いウインドジャケットが雨具の代わりにならないのかっていう実験をしてたんですよ。要はウインドジャケットに撥水スプレーをひと缶丸々ぐらいかけて、これで何とかなるんじゃねってやるんだけど失敗するっていう。でも、それがいま現実のものになってるっていう感覚なんだよね。

ーーモンベルのバーサライトジャケットなんて正にそういうものですしね。山と道のUL All-weatherシリーズやノースフェイスのFLトレイルピークジャケットなんかは通気性が高いので、ウインドジャケットとしても着れるというのがウリですし。

土屋 あとは、軽さやヌケの良さだけじゃなく形状の変化。山と道でも長いの(UL All-weather Long HoodyやUL All-weather Coat)あるじゃん。あれだったら夏で短パンだったら別にレインパンツは履かなくてもいいじゃんみたいに、新しい使い方のアイディアも出てくるので。そういうところも個人的には見ていきたいなって思ってます。

夏目 今って本当に選択肢が増えて、自分が何を求めるかを考えながら選べる状況ができたかなと思ってます。あと、今回ここまで言えてなかったこととして、生地が厚いレインウェアって、撥水性にしろ保温性にしろバランスはいいんだけど、1回濡れちゃうと乾きづらいんですね。その点、軽量なものはいろんな問題もあるけど、1回水滴をはらっちゃえばすぐ乾くので、その良さもありますね。

ーー乾きが早いのもレインウェアの性能の大事な要素のひとつですよね。でも今日もこうして色々なレインウェアを見てきて、ライバルとして夏目さんは刺激を受けたり思うところはありますか? 

夏目 みんなやっぱりいろいろ考えてるなと思いますね。でも、自分も自分のベストとして提案させていただいていて、より面白いと自分が思えるものや、ある種突き抜けたアプローチのものとか、いろいろと考えているものもあるので、新しい製品も楽しみにしてもらえたらと思ってます。

ーー今回、自分もそれぞれのレインウェアを着比べてみたんですが、似たように見えて、やっぱりみんなそれぞれ違うもんだなっていうのを強く感じました。当たり前だけど作り手のいろんな考えがあってこれがあるんだなって。

土屋 この1時間ちょっとの話で一口にレインウェアと言っても色々な違いがあるんだなっていうのはわかってもらったと思うんですよ。おかげでますます訳わかんなくなったかもしれないけど(笑)。でもとにかく誰もが満足するベストな1着は存在しないっていうことを理解してもらった上で、できれば山と道のお店でも、家の近くの専門店さんでもいいので、ぶっちゃけて悩みが話せるお店を作ってもらいたいなって思います。要はここまで多様化してくると、結局もうこの人に対して何を提案するかとか何が合ってるかってお話になってくるんですね。だからみなさんSNSの情報はもちろんチェックしてると思うし、それは情報としてはすごく大事なんだけど、断片で集まった情報が整理しきれなくて困っちゃったり混乱することがやっぱりあると思うんです。専門店の役割とかメーカー直営店の役割は整理しきれないものをきちんとその方に合わせて整理して差し上げることなんですね。なのでそういうお話ができるところに行けば、多様なものから皆さんにとって合ってるものが探せるだろうし、そのときに例えば自分が普段どういう山行をしてるんだとか、どういうことで悩んでるんだとか、実は持ち物これなんですよねっていうのも言ってくれると、お店側はめっちゃ喜びます。なので、ぜひ近くの人は鎌倉や京都の山と道のお店に来るといいと思うし、そういうお店を皆さんのご近所で探していただけるといちばん良いのかなと思います。

ーーまたこういう感じで、道具に関してマニアックな話題をやっていきたいなと思っていますので、また機会があったらぜひよろしくお願いします。土屋さん、お集まりいただいた皆さん、本日はありがとうございました!

トーク後の懇親会にも参加してくれた皆さんと最後に記念撮影。

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