HIKE LIFE COMMUNITY 2018 レポート#1
【岩手Knotty+那須Lunettes編】

INTRODUCTION

今年も山と道の『HIKE / LIFE / COMMUNITY(以下HLC)』の旅が始まりました。

昨年は全国24ヶ所を廻り、多くの日本各地のハイカーやお客様と交流させていただきましたが、今年は5カ所と規模を縮小し、そのぶん訪れた各地で出会った人々と、より深く交流することを主眼に置いた旅を行なっています。

また、今年のHLCは、山と道が来年始動予定のある計画の、実は「種まき」的な側面を持っています。

2019年に山と道は、「山と道パートナーショップ」と「山と道アンバサダー」をベースに様々なソフトプログラムを展開することで、「ハイク」のある「ライフ」をつなぐ「コミュニティー」作りを目指す『山と道ハイクライフコミュニティー/山と道HLC』を本格稼働させていきます。

その「山と道パートナーショップ」を担っていただくのが2018年のHLCを開催する岩手県紫波町のKnottyさん、栃木県黒磯市のLunettsさん、愛媛県松山市のT-mountainさん、京都市で山と道が共同経営する山食音であり、今年のHLCはその試験段階でもあるのです。

そんな2018年のHLCで、一体どんなことが起こっているのか? 今回は2018年9月22日に岩手県紫波町のKnottyで、10月6日に栃木県黒磯市のLunnetsで、それぞれ行われたHLCの模様をレポートします。

取材/写真/文:三田正明

HIKE LIFE COMMUNITY 2018 スケジュール

岩手 knotty
山と道ポップアップショップ 9/22(土)- 9/30(日)
トーク&懇親会 9/22(土)*終了

那須 Lunettes
ポップアップショップ 10/6(土) – 10/14(日)
トーク&懇親会10/6(土)*終了

松山 T-mountain
ポップアップショップ 11/17(土) – 11/25(日)
トーク&懇親会11/17(土)

京都 山食音
トーク&懇親会 11/23(金)

鎌倉 山と道
トーク&懇親会12/2(日)

岩手県紫波町 Knotty
(2018年9月22日)

紫波町のオガール

盛岡駅から在来線で20分。Knottyのある紫波中央駅で降りると、それまでの田園と里山の風景とは一変した、現代的なニュータウンの町並みが広がっていました。駅前からまっすぐ伸びる通りの先には「オガール」という町役場や図書館や体育館、産直マルシェやカフェやホテルといった町の機能を集約させた施設が立ち、今回の岩手でのHLCの開催地であるアウトドアショップ、Knottyもこの一角に入居しています。

この「オガール」という施設、訪れる前は、失礼ながら無個性な郊外のショッピングモールや税金の無駄使いとしか思えない「箱モノ」的なイメージしか抱いていなかったのですが、良い意味で予想を裏切られました。

入居する店舗にはハンドドリップ・コーヒーを出すカフェや地元の特産品と日用食品がバランスよく並ぶマルシェ、雰囲気の良いパン屋やレストランなどもあり、そのどれもが巨大チェーンではなく、独立系の店舗であったことも印象的でした。周辺には新興住宅地が広がり、オガールの中央にはBBQもできる芝生の広場もあり、週末には多くの人で賑わっていました。

なんでもこの「オガール」は公民共同プロジェクトで、当初から「補助金頼みで作ったらあとは赤字を垂れ流すだけ」な従来の箱モノ的な計画とは一線を画した形で始まり、補助金に頼らない町作りを目指しているといいます。まさにいま、新しい町が作られている現場を見せられている気がして、ワクワクしました。そしてオガール内にある紫波町役場の真ん前という立地にあるKnottyも、そんな町づくりの重要な一翼を担っていることを、今回の滞在で強く感じました。

山と道スタッフがイベントの前日の夕方に訪れると、店には次々と常連さんが訪れ、店主の上野裕樹さん、奥様の明子さんと談笑していました(裕樹さんは昨年のHLCツアー岩手でもゲストスピーカーを勤めていただき、山と道JOURNALSで連載中の『HIKE / LIFE / COMMUNITY TOUR 2017 REMINISCENCE』にも登場していただいています)。

店の前に設置されたクライミングウォール(なんと無料で使えます)には小学生の男の子が仕事帰りのお父さんと来て登っています。

Knottyはまだオープンして2年の新しいお店ですが、町内や盛岡からはもちろん、宮城や秋田からも人が訪れるといい、まさにKnottyをハブにして、新しいコミュニティーが生まれていることを感じました。HLC後の10月28日には、Knotty周辺のコミュニティーが中心となって「あづまねマウンテントレイル」というレースが開催され、SNS等で知る限り大成功だったようです。

東根山へのハイキング

イベント当日は、朝から雨模様でした。実は今回のHLC、公式にはアナウンスしていないのですが、各会場のパートナーショップにお声がけいただいたローカルのハイカーの皆さんとローカルのトレイルを歩きながら意見交換をする、というプログラムを組んでいるのです。

「今日は雨だし、あまり人が集まらないかもね」なんて言いながら待ち合わせ場所に向かうと、すでに20人近い人が! Knottyの上野さんには「5人〜10人くらいで」と言っていたはずなのですが、なるほど、これが上野さんの言う「グルーヴ感」(前述の『HLC REMINISSENCE 2017』参照)というやつか…。

今回、上野さんのアテンドで歩いたローカルトレイルは、紫波町のまさに「ウラ山」とも言える存在の東根山。標高928mの低山ですが、この山を上野さんはハイクしたり走ったり、クライミングしたり沢に入ったりと、四季折々、様々な形でKnottyのお客さんたちと楽しんでいると言います。

結局、20名以上の大所帯となり、そんな人数でのハイキングは、山と道スタッフとしても初体験。当初は「こんな大人数で歩くのってどうなんだろう?」とも思ったのですが、歩き始めると、楽しい! 入れ替わり立ち替わり、いろんな人とお互いのバックグラウンドや山のこと、道具のことなどを話しながら歩いていると、雨だろうがなんだろうが、もう関係ない!という気分でした。

東根山はとても歩きやすい山でしたが、何箇所か泥の急斜面があり、そこをみんなで滑ったり転んだりしながらしながら下るだけでも大盛り上がり。もし、ここをひとりか数人で歩いていたら、スリッピーで嫌な斜面としか思わなかったかもしれませんが、「これが人が集まるパワーか!」と実感しました(ちょっと大げさ)。

そんなこんなで、ハイキングは終了。一同で近くの温泉に移動してサウナで整い(最近、山と道スタッフはすっかりサウナにはまっています)、遅い昼食を食べて一旦解散、夜のトークイベントに備えました。

トークイベントから懇親会へ

ホテルからKnottyに行くと、すでに黒山の人だかりが…。昼間出会った方々が店の前に座り、すでにビールで乾杯していました。なるほど、これがKnottyの「グルーヴ感」…。山と道のポップアップショップにも本当にたくさんの方が来ていただきました。

そして場所をオガール内のスタジオに移し、いよいよHLCのメインイベントであるトークショーへ。

ところで、今年のHLCのトークショーのコンセプトとして、「コンテンツを詰め込みすぎない」があります。昨年のHLCでは豊嶋秀樹と夏目彰がそれぞれにトークを行い、さらに各会場のゲストスピーカーの方にもプレゼンテーションを行なっていただく形を取っていましたが、今年は言ってみればフリースタイル。一応、トークの進行は「ハイク」「ライフ」「コミュニティー」というキーワードの沿って進みますが、その中で豊嶋・夏目と各会場のホストの方(今回はKnottyの上野さん)がざっくばらんに話し合い、集まっていただいたお客さんにも積極的に話を伺っていく形を取っています。

元々Knottyの常連さんも多く、昼間のハイキングで顔見知りになっていた方も多くいたことで、会場の雰囲気が非常に親密だったことが印象的でした。

昼間のハイキングにも参加された方にはマイクを回して自己紹介と感想を言っていただいたのですが、みんな、よく喋る(笑)。登壇者と観客という関係性を越え、同じ時間を共有したもの同士の一体感、いや「グルーヴ感」が生まれている気がしました。でも、これこそが「コミュニティー」の始まりなのでは? その中心にあるのはまぎれもなくKnottyの存在であり、それがこれからこの紫波町を舞台にどんなふうに育っていくのか、とても楽しみになりました。

トークが終わと、その場でビールと軽食を交えた参加者一同での懇親会に突入し、大いに盛り上がりました。さらにKnottyの前に場所を移しての二次回、近所迷惑になりそうなので近隣の居酒屋に場所を移しての三次回、さらに少人数になったのを良いことにKnottyの前に戻っての四次回まで、結局一部の参加者とスタッフは朝まで飲み続けたのでした……。

栃木県黒磯市 Lunettes
(2018年10月6日)

その2週間後の10月5日、山と道チームは次なる開催地である栃木県那須の黒磯市にあるLunettesに向かいました。この黒磯も、Knottyのある紫波町と負けず劣らず、非常に興味深い街でした。

黒磯で出会った女の子に、「黒磯ってどんな街?」と聞くと、「さびれてるし、衰退してるし、終わってる」と言われました。

確かに、黒磯市の中心部はどこもかしこもシャッター商店街ですし、駅前の巨大スーパー「ヨークベニマル」はなんと我々が訪れたその日が閉店の日でした。彼女の言う通り、さびれて衰退している感は否めません。

ですが30年ほど前、そんな黒磯に1988 CAFE SHOZOというお店がオープンしました。それからオーナーの菊池省三さんは同じ通りの空き物件を次々と借り受け、雑貨屋やインテリアショップを開いていきます。省三さんはお店を作るだけでなく、通りを作りたかったのだと言います。次第に菊池さんの元には若者が集まるようになり、なかには独立してCAFE SHOZOの側に店を開く者も次々と現れます。

CAFE SHOZOの周りに面白い店が増えているという噂が広がると、賃料の安さもあり、さらにそこでお店を開きたいという人が集まりました。今ではその一角は「省三ストリート」とも呼ばれ、カフェやレストラン、セレクトショップやホテルなどが立ち並ぶ人気スポットとなっています。そして何を隠そう、CAFE SHOZOと目と鼻の先の位置にあるLunettesの水戸岳志さんもCAFE SHOZOから独立した省三門下なのです。

衰退する「街」とそれを逆手に取るように発展する「通り」。こんなバランスの街は見たことがありません。確かに黒潮はさびれていましたが、同時に、何かが確実に起こっている場所でした。

那須岳のハイキング

那須でのHLCも、Lunettesにお声がけいただいた地元のハイカーの方々とのハイキングから始まりました。岩手でのハイキングに続き、この日も朝から雨まじりで、正直、山にはあまり期待していませんでした。まあ雲の中のハイクでも、岩手のときのようにみんなでワイワイ歩けるなら楽しいか、くらいの気持ちでした。

ですが、那須岳の登山口までクルマで登るうちに突然空が晴れ渡り、眼下には雲海が広がりました。そして目の前には紅葉に染まる那須岳! 思いもよらなかった展開に、一同盛り上がります。今回のハイキングの参加者は10人程で、中には背負子に3歳の女の子を乗せたご家族や、なんとひとりで参加したLunettesのスタッフさんの息子の小学生5年生の男の子もいました。

初秋の風は素晴らしく心地よく、標高を上げるごとに広がる展望に胸が高まりました。那須岳は茶臼岳、朝日岳、三本槍岳からなる連山の総称で、この日はロープウェイで一気に登り、朝日岳に登るルートでした。標高1900m程度ながら緯度が高いせいで森林限界が低く、アルペンムード満点で、噴火口から煙を上げる茶臼岳や眼下に見える猪苗代湖、見頃を迎えたばかりの紅葉の森の遠景など景色はバラエティに富み、全く飽きない…どころか、ずっと夢中で歩いていたように思います。

この日の参加者も個性豊かな方々ばかりで、北関東や南東北の山のこと、お互いの山の経験や道具のこと、その他諸々の世間話などをするうちに、気がつくと朝日岳の山頂に立っていて、気がつくとロープウェイの駅に着いていました。全く、これぞ世間一般で言うところの理想的なハイキングではなかろうかという、素晴らしい秋の山歩きでした。あらためて、こんな山に街から登山口までクルマで30分くらいで行けるなんて、那須の人が羨ましい!

そしてこの日ももちろん参加者一同での温泉+サウナで締め、夜のトークショーに備えます。

トークショー&懇親会

夕方にLunettesを訪ねると、この日も多くの方が山と道のポップアップショップを訪ねてくださっていました。

そしていよいよ豊嶋・夏目に水戸さんを交えてのトークショー。この日も「ハイク」「ライフ」「コミュニティー」というキーワードに沿いつつフリースタイルにトークは進み、昼のハイキングの参加者にもお話を伺いました。

個人的に印象的だったのは、トークショーの後半で出た、仕事とアウトドアライフの両立についての話でした。仕事があって家族もいると、なかなか遊びに長い時間を割くことができないことが悩みで、豊嶋・夏目はそこにどう対処しているかという質問が参加者からありました。

豊嶋は生活にかかるコストを削減することでしなくてはならない仕事の量を減らしたといい、夏目はそもそも山にもっと行きたいから山と道を始めた、と回答しましたが、この問題は多くのハイカーが感じている悩みなのではないでしょうか。最終的には「週末に100マイルレースを走る人もいるし、体験の長さよりも濃さが重要なのでは?」という結論に話の中では落ち着きましたが、この『山と道JOURNALS』としても考え続けていきたい話題です。

そしてLunettesの隣のひかり食堂さんに場所を移し、お待ちかねの懇親会です(ひかり食堂さんが出してくれたスリランカ・カレーが感動的に美味しく、改めて黒磯のレベルの高さを感じました)。

懇親会にも、今年ジョン・ミューア・トレイルを歩いたいう女性や朝日連峰に100回以上登っているけれど北アルプスには登ったことがないという男性、自衛隊士官の青年など、様々なバックグラウンドを持つ方々が集まり、非常に盛り上がりました。

そして帰り際、参加していただいた皆さんが、口々に「楽しかった、面白かった」と言ってくれたことは、スタッフ一同、とても嬉しいことでした。山と道チームがやったことと言えば、一緒にハイキングをして、風呂に入って、話をして、ご飯を食べたくらいのことなのですが、それでも、人が集まり、話をして、同じ時間を一緒に過ごすことには、やはりそれだけでも価値があるし、楽しいことなんだということを再認識しました。

そしてこの夜も、二次会のスナックから宿泊していたゲストハウスのラウンジへと、結局山と道チームは深夜まで飲み続けることに…。

HIKE LIFE COMMUNITYってなんだ?

岩手県紫波町のKnotty、栃木県黒磯市のLunettesと、2会場での模様を振り返ってきましたが、この辺でひとまず、現在継続中の2018年のHLCのレポートの第一弾を終わります。

昨年から始まったHLCですが、側からは何をやっているのか、何を目指しているのか、わかりにくい部分もあるかと思います。さらに今年はさらにトークショーのパートをシンプルな構成にしたので、一見は、よりいっそうわかりにくいイベントになっているかもしれません。

ですが、一参加者としての感想を述べるならば、紫波町でも黒磯でも、とても楽しい時間を過ごすことができました。その感覚は大なり小なり、参加したいただいた方々とはシェアできているのではないかと感じています。

そして思うことは、今年のHLCはそこに集まった「人」が全てだということです。どんなハイキングになるか、どんなイベントになるかは、そこにどんな人が集まるかで決まるのです。

と言うと、イベントを行う側としては無責任だと思われるかもしれません。ですが、人がいちばん楽しくなったり嬉しくなったりするのって、誰かと良いコミュニケーションが取れた時ではないでしょうか? 

個人的にはHLCの主眼は、山と道チームが各地を廻り、何かを伝えていくことにあるのではないと思っています。参加していただく皆さんとは一方的な関係性ではなく、対等なひとりの人間として出会い、お互いに何かを教えたり、教えられたりする関係を築けることが理想です。そしてそんなふうに人と人が出会うための方便として、HLCがあるのではないかという気がしています。だって、HLCが目指す「ハイク」のある「ライフ」を繋ぐ「コミュニティー」だって、最初は人と人が出会うことからしか始まりませんから。

そんな訳で、このわかりにくいHLCという試みを少しでもわかるようにしてみようとレポートしてみましたが、いかがだったでしょうか。2018年のHLCは今後11月17日の松山T-mountain、11月23日の京都山食音、12月2日の鎌倉山と道と続いていきます。スタッフ一同、そこでまた新しく誰かと出会えることを、とても楽しみにしております。

皆さまのご参加、お待ちしています!

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  • 三田 正明

    三田 正明

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    フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。

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