HIKE / LIFE / COMMUNITY TOUR 2017 REMINISCENCE #06上野裕樹(Knotty)

2018.06.29

INTRODUCTION

2017年の6月から10月にかけて、山と道は現代美術のフィールドを中心に幅広い活動を行う豊嶋秀樹と共に、トークイベントとポップアップショップを組み合わせて日本中を駆け巡るツアー『HIKE / LIFE / COMMUNITY』を行いました。

北は北海道から南は鹿児島まで、毎回その土地に所縁のあるゲストスピーカーをお迎えしてお話しを伺い、地元のハイカーやお客様と交流した『HIKE / LIFE / COMMUNITY』とは、いったい何だったのか? この『HIKE / LIFE / COMMUNITY TOUR 2017 REMINISCENCE(=回想録)』で、各会場のゲストスピーカーの方々に豊嶋秀樹が収録していたインタビューを通じて振り返っていきます。

第6回は盛岡でアウトドアショップKNOTTYを営む、上野裕樹さん。元DJでもあり、「毎日コンビニに行くように山に入る」と語る上野さんが山と音楽に共通に感じる「グルーブ感」とは?

写真提供:上野裕樹

青い森からイーハトーブへ

イベントの翌朝、八甲田山荘から酸ヶ湯温泉までジョギングした。軽く走るつもりだったけど、アップダウンがそれなりにあって、しっかり汗をかいた。朝のブナ林を眺めながら走るのは爽快だった。山荘へ戻ると、ちょうど夏目くんたちが食堂で朝ごはんを食べていて、僕もさっと風呂で汗を流して合流した。出発の準備を整えると、僕たちはスタッフのみんなに見送られ山荘を後にした。これから僕たちは盛岡へ向かう。

少しだけ後日談をすると、僕はこの『HIKE / LIFE / COMMUNITY』東日本編のツアーを終えた後、青森でレンタルしたハイエースを返すため、そのまま青森へ帰ってくることになった。その際に再び八甲田山荘へ立ち寄り、八甲田ガイドクラブのショウヘイくんと山荘スタッフのノリちゃんに、僕がたまにやる簡単なエナジーバーを作るワークショップのやり方を教えた。天候不良で何もできないときにお客さんとやりたいのだということだった。

そのあと、せっかくなのでと、ひとり八甲田山へ登ってみると、山頂でニセコでのイベントに来てくれていた参加者の一人とばったり出くわすという嬉しいハプニングもあった。点が線になっていくようなつながりが嬉しかった。

八甲田山から東北道へ向かう途中で岩木山が見えてみえてきた。もう何度も登ったことのある山だ。山裾には弘前の街並みが広がっている。ここまで来ておいて、10年以上通っている弘前に立ち寄らないというのは初めてだった。弘前の仲間の顔が浮かんできて、僕は、故郷を素通りするような後ろめたさを感じながら高速に乗った。

青い森の間を縫うように東北自動車道を南へ下って、右前方にひときわ大きな岩手山が見えてきた。岩手山へは、数年前に夏目くんと由美ちゃんと僕の3人で歩きに来たことがある。その時は秋田の後生掛温泉から入って、八幡平を経由し、岩手山まで縦走路を南下し、秋田駒ケ岳へと登り返して、最後は乳頭温泉へと下るという3泊4日のハイクだった。毎日温泉に入りながらのハイクは最高で、僕たちはそれを温泉ハイクと呼んだ。

ぼんやりとそんなことを思い出していると、もう盛岡だった。

盛岡では、岩井沢工務所さんという建築事務所でイベントを開催させてもらうことになっている。ゲストスピーカーには、盛岡郊外で新しく「knotty」というアウトドアショップを立ち上げた上野裕樹さんにお願いしていた。

「人前で話すことは苦手なんです」という上野さんは、盛岡や東北をベースに四季折々に楽しむアクティビティや、近いところでこれほどまでに自然で遊ぶことができる東北の魅力を紹介してくれた。ぜひ、文末の動画で上野さんのプレゼンテーションを見ていただきたい。

そして、イベントの翌日には、僕と上野さんは盛岡から近い大迫町にある岩場へボルダリングに行った。クライミングをしない夏目くんは岩場へ向かう途中にある、東根山というところで車を降りて、少し山を走ってくるということになった。

最近公開されたばかりだという岩場は、案内の看板が設置されていたり、「トポ」と呼ばれるボルダリングのルート集が用意されていた。開拓者がきちんと地権者や最寄りの集落の人たちとの話し合いを重ねてきたという。それを怠ると、エリアの公開後にやっぱりダメだということになってクライミング禁止となってしまうことも少なくないらしい。上野さんは、「ここは、村の人も一緒になってクライミングエリアとして盛り上げていこうと歓迎してくれているんです」と話してくれた。とても幸せなエリアである。

数時間後、クライミングやランニングを終えた僕たちは、上野さんのショップであるknottyへもどった。午前中の気軽な数時間がとても気持ち良かった。

手がかりは「グルーヴ感」?

上野さんと会うのは今回のイベントが初めてだった。上野さんは盛岡の出身で、10代の頃はダンスに夢中で、それが高じてニューヨークへと渡ることになり、そこでどっぷりとブラックカルチャーにハマった。帰国後に、子供の頃、父親に連れられて登山やスキーをしていたことを思い出して久しぶりに山へ行ってみると、あらためてその素晴らしさに魅了され、大手のアウトドアショップで働くことになった。その後、独立し「knotty」を立ち上げ、現在に至るということだった。ダンス少年がのちにアウトドアショップを立ち上げるという流れが僕には興味深かった。上野さんの話の中に時折出てくる「グルーヴ感」という言葉が手がかりではないかと目星をつけて、僕は上野さんに話を聞いてみた。

「みんなにもっと知ってもらうきっかけを作っていきたいって思ってます。プラス、継続していきたいなって。大切な場所なので、守っていきたですね。」

今朝、僕たちが行ってきたボルダリングエリアのことだ。knottyからは車で40分ほどで、こんなに近くにちゃんと整備された岩場があるなんてうらやましい限りだ。 

「岩場の安全祈願祭に行ったときに、村の人たちや関係者の方とも話ができました。本当にウェルカムな感じでしたね。自分もそこで一緒の席にいれたことが嬉しかった。そば打ち大会をやったりとか、人が来ることで近隣の集落の方が喜んでくれることがたくさんあったみたいです。そういう話が聞けてよかったですね。」

こんなに素晴らしいエリアのことは、みんなに知ってもらいたいと思う反面、知名度が上がって人気がでてくると、駐車やマナーや事故など、ネガティブな問題も比例して多くなってくるだろう。そのあたりのバランスはのことあるだろうが、今のところはどんどんみんなに来てもらいたいということだった。

「ボルダリング以外にも、近場でいろんなところがあるのがいいですね。今日、(山と道の)夏目さんが走ってきた東根山っていう山は志波三山のうちのひとつなんですが、標高が900メートル程度と低いので、四季を通じて入りやすい山ですね。早池峰山の麓の方にも色々とあるし、近くで遊べるフィールドがたくさんあります。朝の少しの時間でも毎日のように山に行けると、そのぶん、山を感じられると思うんですよ。」

上野さんは、店の前に広がっている芝生の脇に座って、ゆっくりと言葉を選んで話した。キャップのツバを少し横に向けたかぶり方がサマになっていてかっこよかった。

「たまには北東北にも行ったりしますよ。八ヶ岳や北アルプス行ったり、立山で春スキー楽しんだりとかもすごく好きです。でも、もっとライフスタイルに近いというか、今日みたいに自然な流れで山から生活に入っていくって感覚がたまらないですね。丸一日潰してイベントとして山に行く感覚よりは、普通に生活の一部に山があってっていう遊び方が好きです。『コンビニに行くような感覚』って言うとちょっと違いますかね。」

そう言って、上野さんは笑った。

大事なところだった。いま、上野さんが言ってくれたことは、まさに僕たちがこの「HIKE /LIFE / COMMUNITY」というプロジェクトを立ち上げた理由と重なるところが大きかった。わざわざ時間を作って計画する大きな山旅ももちろん楽しいが、普段のライフスタイルの中に溶け込むような、そんな山との関わりに僕は興味を持っていた。

朝、少し早く起きて、ちょっと山を走ってから仕事に行く。そんなふうに、山を生活のルーティンに組み込めたらと思っていた。山と日常生活を切り離して考えるのではなくて、地続きの同じ1日として過ごすようなライフスタイルだ。それは、毎朝、海を眺めて波を確認するサーファーや、夜に雪が降り出すと早くベッドへ向かうスキーヤー達に似ているのかもしれない。上野さんと行った朝のボルダリングが、僕にとってはとても印象的だったのだ。も、まさにそうしたルーティンだ。

「まわりの仲間にもいますが、子どもができたりして、環境の変化とともに山に行く時間を持ちにくくなったりしますよね。でも、ちょっとした時間にできる遊びもたくさんあると思うので、そんな提案をさせてもらってますね。2、3時間だけ、ぎゅっと山で遊んで、戻ってくるっていう。それだけでも意外としっかり遊べますよね。」

写真提供:上野裕樹

山と音楽とグルーヴ感

上野さんから「HIKE」と「LIFE」のとてもいい話が聞けたので、僕はついでに「COMMUNITY」についても聞いてみた。

「若いお客さんも店によく来てくれるんですけど、もちろん、アクティビティ自体も好きだとは思いますが、コミュニティを求めてきてくれてるような気がしますね。どんなアクティビティでも、何人かと一緒に山に入ってセッションすると、みんなすごくいい顔してくれるんですよ。だから、最近は、お客さん同士をどんどん繋げていくようにしています。そういう遊びを通してのコミュニティの広がりができてくると、若い子ももっと楽しくなるだろうって最近思いますね。」

ショップの本業としては商品を売ることだと思うが、それ以外のいろんな役割を「良い店」は担っている。その大きな役割のひとつは、情報や人のハブとして機能ではないだろうか。それは、アウトドアショップに限ったことではなくて、レコード屋さんでも、喫茶店でも、スナックでもきっとそうだろう。古い時代の例えで申し訳ないが、僕は、そういう店でいろんな物事を学んできた世代だから特にそう思う。

「ここを接点にいろんな人がつながっていってくれるのはすごく嬉しいですね。集いの場所というか。店としては、あまり何かの専門に特化してないと思いますが、山の中でいろんな遊び方してる人たちが情報交換して、その人たちのつながりからいろいろ生まれるといいなと思いますね。」

「クライミングショップ」や「トレランショップ」ということではなくて、取り扱っているのは「山で遊ぶこと」とでもいうknottyのミックスジャンルな感じが僕は好きだった。おまけに、カウンターの上はターンテーブルとミキサーが占領していて、knottyの小さな空間は、業態というカテゴリーを超えた上野さんの感覚で満たされていた。上野さんが、日本に帰ってきて久しぶりにスキーをしようと思ったのも、あるスキーの映像作品の中で自分の好きな曲が流れていたからだそうだ。

「DJをやっていたので、音楽とスポーツには共通するグルーヴ感を感じる。たとえジャンルやカテゴリーが違っていても、すべて同じように楽しいと思える」上野さんは昨日のプレゼンテーションでそう語っていた。ジャンルの違うものが同じ入れ物に入れられて、そこから新しいものが生まれる。たまたまこの前見た、ヒップホップの黎明期を扱ったドキュメンタリー映画にもそんな意味の語りがあったことを思いだした。

「若い頃は、ヒップホップだけでしたね。好きな音楽プロデューサーがいて、その人っていつもジャンルを超えていいもの出してくるんですよ。自分も、山の中でそんなマルチプレイヤーになりたいなって、音楽で感じたことを山でも表現できたらって思ってます。」

山とライフスタイルとコミュニティーが、肩肘張らずにリミックスされている。そして、そこからまた新しいスタイルが生まれる。岩手というイーハトーブで遊ぶ心地よさを語るには、僕には少々言い慣れない「グルーヴ感」という表現が実はぴったりなのかもしれない。

上野裕樹 「自然の中でつながっていく」

四季を通して自然のなかで遊び、人や事がつながっていく。
共に過ごす事で深くつながっていく感覚が好きです。

幼い頃から山はとても身近な存在です。岩手のフィールドは市内からとても近く、どこにいてもちょっと見渡せば山がみえる。 街にいても山の方角を見れば(今このあたりだね)みたいな事は、子供の頃から自然にやってました。 

四季によって変化する山に合わせて、遊び方もかえていく。 旬な食材を頂く感覚といっしょで、雪がふればスキーを楽しむ。 緑が綺麗な時期は登山やトレイルランニングを、 岩を登れる時はクライミングを、暑い夏は沢登りを、季節にあわせて遊ぶ事で、体も心も元気になります。

Knottyの名前の由来はロープの結び(ノット)からつけました 
自然を通して人や事がつながっていけるようなお店になりたいという思いからです。

上野裕樹 (knotty代表)

1976年生まれ、岩手県盛岡市出身。
10代の頃 NEWYORKに渡りDANCEとブラックカルチャーにどっぷりはまる。帰国後、幼い頃に父親と登山やスキーをしていた事を思い出し山へ行き、その奥深さに魅了されICI石井スポーツで働きだす。
登山、バックカントリースキー、クライミング、トレイルランニング、沢登りなど、オールシーズン自然で楽しみ、安全で楽しい山遊びを伝えていきたいと思い、outdoor shop knottyを立ち上げる。
自然・山・人とのGROOVE感を求め日々精進中。

豊嶋秀樹
豊嶋秀樹
作品制作、空間構成、キュレーション、イベント企画などジャンル横断的な表現活動を行いつつ、現在はgm projectsのメンバーとして活動中。 山と道とは共同プロジェクトである『ハイクローグ』を制作し、九州の仲間と活動する『ハッピーハイカーズ』の発起人でもある。 ハイクのほか、テレマークスキーやクライミングにも夢中になっている。 ベジタリアンゆえ南インド料理にハマり、ミールス皿になるバナナの葉の栽培を趣味にしている。 妻と二人で福岡在住(あまりいませんが)。 『HIKE / LIFE / COMMUNITY』プロジェクトリーダー。
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