HLC Report

HLC鎌倉『関東山地3泊4日ULハイキングプラクティス』参加者全員レポート

限界に挑み、チームになれた熱い4日間の記録。
文:徳谷篤俊、徳田直規、石井裕之、三井宏基、木村弘樹、前原秀則
写真:木村弘樹、前原秀則、渡部隆宏
2023.01.23
HLC Report

HLC鎌倉『関東山地3泊4日ULハイキングプラクティス』参加者全員レポート

限界に挑み、チームになれた熱い4日間の記録。
文:徳谷篤俊、徳田直規、石井裕之、三井宏基、木村弘樹、前原秀則
写真:木村弘樹、前原秀則、渡部隆宏
2023.01.23

現在、日本各地に台湾を加えた7つの拠点で活動を行なっている山と道HLC。ハイキングの実践や座学の他、時にはゲストを招いてのトークやワークショップなど、ハイキングが繋ぐコミュニティ作りを目指して日々、様々なプログラムを行なっています。このHLC Reportでは、そんな活動の内容をシェアしていきます。

今回は、HLC鎌倉が2022年の11月3日ー11月6日にかけて行ったプログラム『関東山地3泊4日ULハイキングプラクティス』の山行を、参加者の皆さんとリード役を勤めた山と道スタッフの木村弘樹、山と道材木座店長の前原秀則が分担して手記にまとめました。

神奈川県を代表する山岳である丹沢山塊から東京都の高尾〜陣馬エリアから雲取山と繋ぎ、埼玉県奥秩父の三峰神社まで歩いた4日間100kmの道のりは、計画を立案した木村自身も想定以上にハードだったと言いますが、そのぶん、旅の終わりには参加者/スタッフの垣根を越えたチームになれたとか。

HLC鎌倉と山と道材木座の周辺にそんなコミュニティが立ち上がり始めていることが嬉しく、また各地のHLCでも、様々なコミュニティやコミュニケーションが生まれています。興味を持たれた方は、ぜひお近くのHLCの活動をチェックしてみてください!

はじめに

文:木村弘樹(山と道)

「ULハイキングプラクティス」は、これまでULハイキング初心者向けのプログラムに参加して理解を深め、さらに自身でも積極的に山に赴き経験を積んできた方を対象としており、山と道HLCの中でも年間の活動の集大成的な位置づけのプログラムです。

昨年は関東在住のハイカーにとって親しみのある奥秩父・奥多摩を繋いで歩いたのですが、トレイルだけでなく山間の里や生活路も訪れることで、なんとも味わい深い歩き旅となりました。2022年はその旅の続編として、そこに私たち神奈川のハイカーにとってお馴染みの丹沢山塊も加え、関東のローカルマウンテンをひとつなぎにして歩いてしまおう! となったわけです。

実際の旅はというと、夜明けから暗くなるまで1日12時間歩き続けたり、街に下りた時に地元のクラフトビールで一杯ひっかけたりと、メリハリを持ちつつも自由に進み、気づけば参加者の皆さんとも昔からの友達のような関係になることができました。

遠い海外に行かなくとも、発想と工夫次第で身近な山でも面白い旅ができるもんだな、と改めて実感できた旅でした。

行程の予定時間

【1日目】8:10ヤビツ峠(集合)、11:30塔ノ岳、蛭ヶ岳14:22、18:30バカンス村
【2日目】4:30バカンス村、10:30相模湖駅、12:45明王峠、13:30陣馬山、17:00臼杵山、18:00HINOKO TOKYO
【3日目】4:30HINOKO TOKYO、10:20御前山、奥多摩湖11:45、15:30鷹ノ巣山避難小屋
【4日目】7:30鷹ノ巣山避難小屋、10:30雲取山荘、12:50地蔵峠、14:00三峯神社

参加対象

  • 過去に山と道HLCへの参加経験がある方
  • 2泊3日以上・標準コースタイムの0.8のテント泊山行経験がある方
  • 1日10時間以上の行動ができる方

参加確定とプログラム当日までの流れ

当プログラムでは、参加者の方に事前のギアリストの作成や山と道スタッフによる道具の取捨選択への提案、山と道製品等の軽量な道具への交換を経て、実際にULスタイルでのハイキングを経験していただくことを目的としています。詳細は下記のプロセスです。

  • ギアリストの作成方法や注意事項等を記したメールをお送りします。
  • プログラムの山行を想定したギアリストを作成し、ご提出いただきます。
  • スタッフがギアリストを確認し、軽量化のアドバイスを行うと共に、山と道製品などの軽量な道具へのレンタルでの交換をご提案します。ただし、山行経験やギアリストが十分でないと判断した場合、この時点で参加をお断りする可能性があります。
  • 参加者全員で山行に向けたZoomブリーフィングを行います。
  • 山と道スタッフからの提案を元に、ご案内するレンタルサービスからレンタル希望品をご注文いただきます。(山と道スタッフ提案以外の山と道製品のレンタルも可能です)。

DAY1

【ヤビツ峠〜塔ノ岳〜焼山〜津久井】
文:徳谷篤俊

晴天の祝日ということもあり、ヤビツ峠行きのバスは行列ができるほどの混雑具合。乗車予定だったバスから3本遅れて、私たちのHLC鎌倉プラクティスは始まった。

スタート地点のヤビツ峠でのブリーフィングで、他の参加者の皆さんは「これから歩く100kmなんて余裕だよ」といった顔つき。自分は右足首にテーピングを巻いてるし、先週の横浜マラソンの筋肉痛やマメも完治してない。頼りのMINI2は、パックウェイトが7㎏もあってパンパンである。簡単に自己紹介や、今回のロングトレイルの抱負を語って午前9時にハイ出発!

11月初旬で朝は肌寒く感じたが、登り始めるとそれなりに暑く、二ノ塔、三ノ塔と続く塔ノ岳までの道のりは予想以上に登りが続き汗をかいた。

ヤビツ峠から塔ノ岳へと続く丹沢主領線

手前から徳田さん、高橋さん(残念ながら途中リタイア)、スタッフ前原

富士山まで見通しが続く塔ノ岳山頂を越えて、丹沢山経由で蛭ヶ岳まで歩いたが、意外と時間がかかり、肌寒さを感じ始める午後2時を回ってしまった。蛭ヶ岳山荘でハイカーにとっての「命の水」であるコーラを購入。ごくりと飲み干し、カフェイン+糖分で一気に元気モード! 水500mlも追加して水分は万全に…。よく整備された木の階段をしばらく下り、その後はフカフカした落ち葉がとても気持ちいいトレイルが続く。まさにこれこそ秋の山歩き! 最高である。

姫次ー黍殻山ー焼山と行き、焼山山頂で皆でルートを確かめると、そこからはややハードな下りコース。日も暮れ、トレイルも暗くなってきたため、みんなおもむろにポケットからヘッドライトを取り出しピカッと点灯。思ったよりも急な下り箇所があり、夜の帳も下りてきて、終わりが見えないトレイルと足の疲労も相まって精神的疲労が…いやいや負けないぞ! と自分を励ましながら黙々と進んだ。

そしてようやく登山口まで辿り着き林道へ。「ああアスファルト、嬉しいじゃないか、木の根がないよ」と、心の声が漏れた(笑)。

林道から人里に到着し、宿泊先のバカンス村(キャンプ場)に行く前にコンビニで買い出しを済ませた。ここぞとばかりに牛丼! おでんセット! ビール! チューハイ! などを買い込む。何しに来ているのか⁉︎ そう、ロングトレイルである(笑)。

バカンス村では食事したり酒を酌み交わしながらHLC鎌倉の今後のプログラムの要望などを語り合い、夜が更けていった。

スタッフ前原の夕食はクスクスとキーマカレー

その夜はテントを張らず、バーベキュースペースの屋根の下で寝袋に入ってぬくぬくと就寝。文明だって利用できるものがあれば利用した方が快適であるものの、コンクリートの地面は意外と底冷えを感じた。

ビヴィ内で誤って水をこぼして装備を濡らした焦りもあり、中々眠りにつけなかったが、翌日は30km以上のハイキングが待ち受けている。無理やりに眠りを決め込んで何とか仮眠をとり、2日目を迎えることとなった。

DAY2

【津久井〜相模湖〜陣馬山〜臼杵山〜檜原村】
文:徳田直規

朝焼け

2日目は今回のプログラムで最長となる30kmの道のりを、コースタイムの80%で13時間かけて歩くという手強い行程でした。

体験した出来事が何日目に起こったことなのか分からなくなるくらい長い行程でしたが、全体を総括すると修行のようにひたすら歩くというものではなく、程よくメリハリ(飴と鞭?)があるルートであったように感じました。

途中、コンビニに立ち寄って食料とアルコール飲料を補給できたり、温泉で疲れた身体を癒したりと、海外ロングハイカーのような山歩きが楽しめましたが、その反面、長い距離を歩くことの体とメンタルへのダメージも大きくて、何度か「リタイア」という文字が頭を過りました。

相模湖の湖畔を行く

陣馬山の山頂に立つモニュメント

市道山の山頂

延々と続く下りに身も心も削られる

特に地図上では緩い稜線歩きが続くように見えていた終盤の市道山から臼杵山への道のりが、実際は急な登り下りが繰り返される意地悪なトレイルで、すっかり意気消沈。

しかも、なんとか辿り着いた臼杵山からの最後の下山道で、まさかのヘッドランプのバッテリー切れ! 予備ランプのおかげで、何とか待望の温泉『瀬音の湯』に辿り着くことができましたが、ここでキムさん(木村)と飲んだクラフトビールの味は、疲労困憊の身体に染み渡り、この旅のハイライトとなりました!

秋川渓谷の温泉「瀬音の湯」

温泉でスッキリした後は、本日のお宿(キャンプ場)であるHINOKO TOKYOへ。30kmを一緒に歩いた仲間と焚き火を囲んで美味い酒を飲みかわし、チームワークが芽生えたような気がしました。

焚き火を囲んで語り合う

屋根付きスペースの下で野宿

HINOKO TOKYOには屋根付きスペースがあったため、1日目に引き続きテントを張らないカウボーイスタイルでぐっすり寝ることができ、ようやく長い長い1日が終わりました。

みんな、お疲れさまでした!

DAY3

【檜原村〜大岳山〜鋸山〜奥多摩駅〜鷹巣山】
文:石井裕之

まだ暗い中出発! 左から石井さん、徳谷さん、徳田さん、三井さん、スタッフ前原

3日目もまだ暗い中で撤収をして出発の準備を整えました。

前日の『瀬音の湯』のサウナで、3セットの交代浴をし、脚の痛みもすっかり消えたと思っていたのは一時的なドーピングだったようで、歩き始めると痛みは残っていました。しばらく檜原村の集落を歩いた後で、大岳山、鋸山を越えて奥多摩駅を目指しました。

スタッフ木村を先頭に檜原村の集落を行く

休憩中、前日から途中参加していた山と道のリサーチャーである渡部さんによるストックワークのレクチャーがあり、もっぱらソロで歩くことが多く、自己流でハイキングをしていた私にとって、非常に有難い時間でした。

秋の山もサンダルで歩くスタッフの前原

大岳山山頂にて。スタッフ渡部(中央)が途中参加

渡部さん曰く、「下りではむしろ駆け下りてしまうのだ」と。なるほど、と思い、早速実践してみました。

私は山の下りや長距離の舗装路歩きでは、膝痛に悩まされることが多かったのですが、一見矛盾するように思える「駆け下りる下山方法」を取り入れてみると、意外なことに脚に負担が少なく感じました。私が思うに、下りでは重力に対して踏ん張ることが身体に負担となっているようだったので、これに逆らわずに重力に身体をあずけて駆け下りてしまう方が、膝や大腿四頭筋への負荷が少ないように感じました。

紅葉のトレイルを駆け下りる

この駆け下りる下山スタイルが楽しくなり、アドレナリンもドバドバと出てきたため、すっかり疲労や脚の痛みを忘れてしまいました。鋸山の山頂からは先導する渡部さんに付いひたすら駆け下りていくと、自分でもビックリするくらい早く奥多摩駅に到着しました。駅前で各々昼食を済ませ、ここで渡部師匠とはお別れです。

奥多摩のクラフトビール「バテレ」のボトルショップを訪問

山と街を繋いでいく今回のプラクティスですが、鷹ノ巣山を目指して再び山に入るときには、リタイアなどもあって総勢8名から6名となっており、少し寂しさを覚えました。早朝にスタートして、ひと山を越えて時刻は昼過ぎにも関わらず、まだここから通常の1日分の行程が残っています。それでも、いつもとは異なるタイムスケジュールにもロングハイクならではと思い、また楽しくなってきました。

今日の宿泊地である鷹ノ巣山避難小屋を目指してひたすらハイクアップし、16時過ぎには全員が避難小屋に到着し、3日目も幕を閉じました。

鷹ノ巣山避難小屋

DAY4

【鷹巣山〜雲取山〜霧藻ヶ峰〜三峯神社】 
文:三井宏基

日毎に蓄積された疲れ、痛みと闘いながら、バキバキの体を起こして、ついに最終日の朝を迎えた。避難小屋という恵まれた環境で夜を過ごした私でさえとても寒かったため、外で野宿をしていたメンバーが感じた寒さはいか程か、計り知れなかった。

小屋前でビビィ泊をした徳谷さんとタープ泊をしたスタッフ前原

6時半、思い思いの朝食をとって鷹ノ巣山避難小屋を出発し、体の状態を確認しながらゴールに向けて歩みを進めた。霜柱を踏みしめながら七ツ石山、雲取山のピークを目指し、澄んだ空気の気持ちよさと、最盛期を迎えた幻想的な紅葉と、左手に聳え立つ富士山はとても輝いていた。

鷹ノ巣山から雲取山へと向かう稜線

Light Alpha Vest/Jacketの袖の脱着ギミックをベンチレーションとして使うTIPSを披露する木村

日を重ねるごとに疲れは溜まっていったが、自分にとって楽な歩き方を学んだのか、足がスムーズに動くことは不思議だった。東京、埼玉の境に聳える雲取山からの眺めは絶景で、全員が大興奮だった。旅の最終ポイントの霧藻ヶ峰にある小屋のオヤジさんはとても気さくで、親切で歌まで歌ってくれた。

東京都最高峰・雲取山の山頂にて

途中で出会った地元の山岳部の高校生は、私たちULおじさん軍団の数倍はあろう20キロ超の重りを持って駆け下りていき、前日に山と道渡部さんのレクチャーで山下りの極意を開眼した石井さんも鹿のように下っていった。彼の後ろ姿を追いかけるようについていくとあっという間にゴールの三峯神社が現れ、旅の無事をお参りした時はまさに感無量だった。

旅のゴールとなった三峰神社

この旅と出会いのことは一生忘れない。この壮大な企画や参画していただいた関係者の皆様と一緒に参加した仲間と、この旅を認めてくれた家族に感謝しかない。

ありがとう、みんな。

秩父駅前の居酒屋で打ち上げ!

解散の池袋駅で熱い抱擁を交わす徳谷さんとスタッフ前原

終わりに

文:前原秀則(山と道材木座店長)

関東山地3泊4日の旅が幕を閉じた後も、焚き火を囲んで語ったこと、歩いて見た景色、カウボーイスタイルで就寝したことなど、旅中に感じた全てを飲み込むまでに長い時間が必要でした。

その理由のひとつは、旅自体、濃厚で歩きごたえがあったものの、ULスタイルだからこそ心に余裕が生まれ、仲間との交流が濃密に楽しめたからだと思います。

そしてもうひとつは、旅の後も山と道材木座に参加者の皆さんが遊びに来ては思い出話に花を咲かせてくれたからで、気がつけばHLC鎌倉の活動から広がるコミュニティの輪に、僕自身もどっぷりと浸かっていたのです。

今回のプログラムでは、神奈川県の丹沢から埼玉県の三峰まで山も街も繋いで歩いたことで、ロングトレイルの醍醐味を感じることができました。一方で、街を通過するぶん容易に補給ができるため、食料計画やパックウェイトについての「プラクティス」はやや足りなかったようにも感じます。ここは次回への課題として、今後のプログラム作りに生かしていきます。

今後もULハイキングを中心としたコミュニティが広がるよう、HLC鎌倉ではさらに魅力的なプログラムを、山と道材木座では個性的なスタッフとハイキングの話で盛り上がれる店舗を、皆さんと共に作れたらと思います。

最後にあらためてプログラム参加者の皆さん、ありがとうございました。また歩きましょう!

プログラムを終え、特急ラビュー車内で前原・木村で乾杯。お疲れ〜!

連載「HLC Report」