HLC関西
『ハイカーのための食事と栄養』

2023.10.18

現在、日本各地に台湾を加えた7つの拠点で活動を行なっている山と道HLCでは、ハイキングが繋ぐコミュニティ作りを目指して日々、様々なプログラムを行なっています。このHLC Reportでは、そんな活動の内容をシェアしていきます。

今回は2023年6月にHLC関西が、だし料理研究家の森智恵子さんをお迎えして山と道 京都で開催した『ハイカーのための食事と栄養』の様子を、森さんの関西弁の語り口でお届けします。

だしといえば、日本のソウルフードと言っても過言ではありません。疲れた時に飲むとほっこりするし、なんといっても乾燥した昆布やかつお節は軽い。さらに長くハイキングを楽しむためには、普段の健康に気を遣った食事も欠かせません。今回はわかっているようでわかっていなかった、身体に必要な栄養素の知識もみっちり教わりました。

さらに、そんなULハイカーの強い味方になりうるだしを主役に、1泊2日のハイキングを想定した森さん考案の行動食と食事のレシピもご紹介。軽くてシンプルでおいしいだしのパワーで、健康で元気に歩いていきましょう!

講義/レシピ考案:森智恵子
構成/文:李生美
写真:三田正明(プログラム)、大竹ヒカル(料理)
イラスト:KOH BODY

軽くて栄養価の高い「だし」素材

こんにちは。だし料理研究家の森智恵子といいます。

私はもともとマクロビオティックの料理をやってたんですけど、私の生まれ育った街の「こんぶ土居」っていう老舗の昆布屋さんがやってるだし教室に参加したことをきっかけに、だしの素晴らしさに出会いました。それからだし料理研究家になって、こどもたちに本物のだしの味を知ってもらうために小学校でだし教室を開いたりと、いろんな活動をしています。

今日は『ハイカーのための食事と栄養』ということで、ULハイカーにも役立つ、だしを使った行動食と食事をお伝えしていきます。

森智恵子(Chie)先生 マクロビオティック料理を経て、栄養の観点から日本のだしの素晴らしさに気づく。小学校でだし教室を開くなど、昆布とかつお節やにぼしから取っただしを使った素材本来の料理の味を伝えるべく、だし料理研究家として活動中。

とはいえ私自身、山登りの経験はあまりなくて、山に登ったときも重い荷物を持ってフラフラで歩いてたから、ULハイキングっていうのがあるんやと知って、すごいと思いました。長く歩くためには、荷物は軽いに越したことないですもんね。だから食材も、できるだけ軽くて栄養があるものがすごく大事やと思うんです。

今回はシンプルな食材を使うだしレシピを考えました。私は日頃からスーパーで売ってる商品の原材料名を確認する癖があるんですけど、できるだけ知らないものが入っていないシンプルなものを買うようにしてます。だしで言えば、アミノ酸とかの添加物が入ってる顆粒だしには栄養もそんなに入ってないし、食べ続けると本来の素材の味がわからへんようになってしまうからです。

でも、おいしいだしを取ろうとしたら半日水に漬けなあかんし、腐りやすい。いっぱい悩んだけどよくよく考えてみたら、まるごとだし素材を食べたらいいやんってことに気づきました。実はだしって、だし殻にほぼ栄養が残ってるんです。なので、だしをとったあとに捨ててしまうのはすごくもったいない。だから今回のレシピはだし素材を粉にすることによって、全部の栄養素を摂ることができます。

そのレシピを紹介する前に、まずは体に必要な栄養素についてのレクチャーからやっていきますね。

森さんは元々HLC関西アンバサダーの中川裕司さんとご友人。その縁で今回の会が実現しました。

大阪の老舗昆布屋「こんぶ土居」の四代目・土居純一さんの著書『捨てないレシピ〜だしがらから考える食の未来〜』。森さんもレシピ作りで協力。

歩くために必要な栄養とその役割

食べ物の中に含まれているいろんな物質のうち、生命活動を営むために人間の身体に必要な栄養素はタンパク質・脂質・炭水化物(糖類)・ビタミン・ミネラルに分類されます。

私は山に登らないのでいろいろ調べてみたら、登山中に栄養不足から体調不良を起こすこともあるらしいですね。だから行動食もお菓子だけやったら栄養は足りません。炭水化物(糖質)と脂質が主なお菓子には、身体を作るタンパク質と、身体の調子を整えるミネラル・ビタミンが入ってないからです。栄養が足りないと脳にも悪影響が出るから、思考力も低下する。お天気が悪くなって予期せぬできごとが起こったときに、判断が鈍ると事故に繋がることもあります。ここに集まってくれた皆さんの方が詳しいと思いますけど(笑)。

身体を作るもの
タンパク質:肉、魚、大豆、卵など

エネルギー源になるもの
炭水化物(糖質):米、小麦、でんぷん、果物など
脂質:油、バターなど

身体の調子を整えるもの
ビタミン:野菜、果実など
ミネラル:海藻、小魚、乳製品、貝類、木の実など

体を作るタンパク質

食事から摂取したタンパク質は体内でアミノ酸に変わって内臓とか筋肉を作ってくれるので、普段の食生活からタンパク質を摂ることが大事です。そうすると筋肉の疲労回復が早くなったりもします。

日常では起きないことも山では起きる可能性もあるから、登山前日はできるだけ炭水化物のご飯とタンパク質の魚や大豆や卵などを多めに摂ってほしいです。例えば日本食はすごいですよ。ご飯と味噌汁と卵焼きと納豆の定食で、炭水化物とタンパク質が摂れるし、しかも簡単。

エネルギー源になる炭水化物と脂質

登山中に身体を動かすエネルギー源としては、炭水化物脂質が中心になります。まず、炭水化物。糖質と食物繊維で構成されていて、中でも糖質は筋肉が活動する時に大量に消費するエネルギー源なのですごく必要です。行動食としてグミやチョコから糖質を取り入れている方も多いですけど、一緒に摂ってほしいのがミネラルとビタミンです。一緒に摂ると糖質をより速くエネルギー源にしてくれるので、ぜひ意識してミネラルとビタミンも摂ってみてください。

糖質には多糖類と二糖類と単糖類があります。

多糖類はごはん、パン、麺類などのでんぷんを多く含む食べ物です。血糖値がゆっくり上がるから、エネルギーが長持ちするんです。

二糖類はアメとかお菓子の甘いもので、血糖値が急に上がるから、本当に疲れたときには有効的なんですけど、常に摂っていると身体への負担になってしんどくなってきます。なので、頂上までの踏ん張らなあかんとか、疲れがピークに達する下山の時に摂ってほしいです。

単糖類は蜂蜜とか果物に含まれるもので、吸収がいいからすぐ元気になるし長持ちもします。ドライフルーツはミネラルもあるし、行動食としていいかもしれないですね。

3つの糖質をうまいこと使い分けながら、歩くときのエネルギー補給として使ってもらえるのがいちばん良いと思います。今は太るからってご飯を食べへん人も結構多いけど、エネルギー源として登山におにぎりはぴったりです。そこに梅干しを入れたらミネラルも摂れるし。

そして脂質はすごく効率のいいエネルギー源なんですけど、それだけで摂取するとそのまま燃えずに脂肪になってしまいます。なんでもそうなんですけど、栄養価には組み合わせがあって、サプリだけ飲んでも身体に吸収しないんですね。脂質はご飯などの炭水化物と一緒に摂ることで燃えてエネルギーになってくれます。

体の調子を整えるビタミン、ミネラル

ビタミンは不足すると糖質がうまくエネルギーにならへんから、食欲がなくなって倦怠感とか疲労の症状が出てきます。特にビタミンB1は炭水化物を分解する働きを活発にするので、炭水化物と一緒に摂るのがオススメです。

ミネラルもビタミンと一緒で、単体でエネルギーになることはないけど、タンパク質や脂肪、糖質の合成とか分解を助ける働きがあるので、とても大切です。日本には海藻とかだし素材があるので、これでかなりミネラルは補給できます。

登山にいちばん必要な栄養素は炭水化物と脂質ですけど、長くトレイルを歩くならちゃんと食べるものを考えないとしんどくなって楽しくなくなるし、やっぱり5大栄養素をバランスよく食べられたらいいですね。

栄養のことを考えはじめたら難しいんですけど、今回紹介するレシピはほぼカバーできてるので安心してください!

だしレシピに参加者も興味津々。積極的に質問が飛び交った。

栄養満点!だしトレイルフード・レシピ

今回は1泊2日のハイキングを想定して、だしを使った行動食のだしトレイルバー、夜ご飯のトマトだしスープ、あとは朝、簡単にお味噌汁が飲める味噌玉の作り方をやっていきます。材料は全部近所のスーパーで買えるもので揃えました。

① だしトレイルバー(行動食)

まずは1日目の行動食として食べられるだしの栄養とおいしさがたっぷり詰まったトレイルバーの作り方です。トレイルバーでよく使われるマシュマロは今回は使わず、干し芋や煎り大豆やオートミールで作っていきます。

今回はだし素材を入れて作るんですけど、だしをとる人がいたら、だし殻だけでもトレイルバーはできますよ。だし殻に栄養がたっぷり残っているし、特ににぼしはカルシウムとマグネシウムと鉄分がほんまに素晴らしくて。にぼしを粉にして残ったものは、お豆腐にかけてもらってもおいしく頂けます。豆腐にはかなりタンパク質があるので、ぜひ普段から摂ってください。

【材料(約15本分)】

だし
煮干し 10g
かつお節 2.5〜3g
昆布 2g

Wet
干し芋 60〜63g
ハチミツ 大さじ2
ピーナツバター 大さじ2
しょうゆ 小さじ1/2〜1
天然塩 ひとつまみ

Dry
煎り大豆 20g
オートミール 35〜40g
玄米パフ 15〜20g
レーズン 20g
黒・白ごま 大さじ1


【作り方】

① 干し芋に熱湯をかけ1分浸したあと、水を切ってザクザク切る。Wetの材料を全て合わせてペーストにしておく。

② にぼし、昆布をできるだけ細かくする。フードプロセッサーの使用がおすすめ。

③ Dryの材料をすべて混ぜ合わせ、Wetとよく混ぜ合わせる。

④ タッパー等にラップを敷き、③を入れギュッと押し付ける。

⑤ ④を冷凍庫か冷蔵庫に入れ冷やし固め、ひと口大のお好みの大きさにカットする。紙などで1本ずつ包むと食べやすい。

作る時、オートミールを軽く煎ってあげてもおいしいです。玄米パフはオートミールを増やしたら別に入れなくてもいいんですけど、軽くて栄養価があるので、余ったらおかゆさんにしてもらってもいいし、ピーナッツバターを塗って食べてもおいしいです。

どれくらい日持ちするのか冷蔵庫に入れてみたんですけど、1ヶ月くらいは全然味も変わらなかったですよ。

② だしトマトスープ(晩ごはん)

山に登った後の夜ごはんって、絶対おいしくないと嫌じゃないですか。このレシピはおいしいし栄養満点。ご飯も合いますし、玉ねぎとかいろんなもの入れたらもっとおいしくなりますよ。

【材料(1人前)】

かつお節 3g
昆布 1g
煮干し 5g
※昆布、にぼしはフードプロセッサー等でできるだけ細かくする。

トマトピューレー 1袋(150g)
イワシもしくはサバ缶 1缶
にんにく 1かけ
水 300cc
ドライハーブやクミン 適量
塩 小さじ1/2〜


【作り方】

① イワシもしくはサバ缶の上澄みの油をすくって鍋に入れ、刻んだにんにく(あればクミンも)を入れ弱火にかける。

② ①の香りがでたら、トマトピューレー、かつお節と細かく砕いたにぼしと昆布、イワシ缶もしくはサバ缶、水、ハーブ、塩を入れ10分程煮る。途中様子を見つつ、煮立ってきたら蓋をとり火を弱める。

おすすめのアレンジとしては、カッペリーニパスタを小さく割って一緒に炊いてもおいしいし、豆が好きな人はパックの茹で豆を大量に入れても良いですね。夏はそうめんを茹でて、スープをかけて食べるのもおすすめ。もちろんご飯やチーズを入れてリゾット風にしてもおいしいです。

最小限の荷物で栄養があるものを作ろうとしたら、やっぱりサバ缶かイワシ缶がオススメです。油も入ってるので、調理油を持っていかへんくてもいいし、だしは事前に必要な分だけラップに包んでもらえれば、荷物も少なくなります。

③ 味噌玉(朝食)

ラップに包んで持って歩いて、お湯を注いでもらったらすぐお味噌汁を飲める味噌玉の作り方です。

だしがたっぷり入った味噌玉で味噌汁を作って飲んだら、めっちゃ元気になるんです。朝ごはんは玄米パフと味噌汁で充分。普段から作っておけば、お子さんでもお湯を入れるだけで味噌汁が飲めるようになります。

【材料(2人前)】

かつお節 3g
煮干し 5g
昆布 1g
※昆布、にぼしはフードプロセッサー等でできるだけ細かくする。

干しわかめ、乾燥やさい、お麩 etc
味噌 15g

熱湯 150cc〜180cc

【作り方】

① 材料をすべて混ぜて丸く団子を作り、ラップで包む。

② カップやお椀に味噌玉を入れ、熱湯を注げばだしがたっぷり入った味噌汁になる。

だいたいだし汁は、水1Lに対して3%の割合で入れてもらったらいいので、かつお節を多くするのか煮干しを多くするかは、お好みで組み合わせを変えてください。具材は生ものだと夏場は腐りやすいので、乾燥野菜とかを一緒に混ぜてください。基本すべて保存食なので、冷蔵庫に入れてなくても充分日持ちします。

試食すると、どれもだしがたっぷり入った複雑なうまみを感じられ、お腹にもしっかりたまる満足感がありました。本当に元気に歩けそう!

おいしいだしの選び方

せっかくだしを食べるなら、おいしくて栄養価の高いものが良いですよね。なので、今日は最後にだしの選び方も覚えて帰ってください。

昆布の選び方

だしを取るときは、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布の3つから選びます。お蕎麦屋さんは羅臼昆布、京都の料亭では利尻昆布がよく使われています。ちなみに昆布は養殖も同じ海の中で作られているので、天然と養殖の違いは日常的な料理にはあまり気にしなくてもいいです。

にぼしの選び方

酸化していると魚臭さが増すので、お腹が黄色くなっていない、銀色で綺麗なものを選んでください。大きいものより小さいものの方がだしには使いやすいです。

かつお節の選び方

かつお節には花鰹と枯れ節があります。酸化して茶色くなっていないものを選んでください。煮干しもですけど、大きいパックで買った場合は空気を抜いて冷凍庫で保存すると極力酸化を防ぐことができます。本格的なものにこだわる方は、作る前に削ってもらったらもっとおいしいです。

他にも干しエビとかもカルシウムがいっぱい入っているので、だしの素材に加えてもらってもいいですし、お好きな組み合わせでだしを作ってもらえばと思います。

今回のお話は山だけじゃなくて、日常生活にも取り入れてもらったらみんなほんまに健康になると思います。やっぱり食生活って日々の積み重ねなので、インスタント食品も軽くていいですけど、本物の素材7対インスタント3くらいの割合で、うまく取り入れながらやってもらえたら嬉しいです。

みんなちゃんと食べてくださいね!

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