あやなんのULハイキング研修
社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課される山と道。「願ったり叶ったり!」と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんなスタッフの日々のハイキングの記録です。今回は、山と道京都スタッフ「あやなん」こと永井絢菜が、社内で今年から始まった「ULハイキング研修制度」を利用して、九州自然歩道の福岡・大分セクションを8泊9日かけて歩いたトレイルのストーリー。
元バックパッカーで女だてらに豪放磊落キャラの彼女。街と山を旅のように繋ぎつつ、出会う人出会う人と関わりながら「ワクワクセンサー」の導くままに突き進み、最後は謎に大感動なエンディングにまで到達してしまいます。
どこでもやっていけそうな彼女に山と道京都で会ったら、ぜひワクワクセンサーの使い方を教わると良いですよ。
文/写真:永井絢菜
なぜ九州自然歩道?
山と道には「ULハイキング研修」という、山が好きなスタッフにとっては魅力的でしかない制度がある。私はこの制度を利用し、今年は中東のヨルダンに600kmに渡って伸びるヨルダントレイルに行こうと思っていた。ところが、出発の1ヶ月前にヨルダンの隣国イスラエルの情勢が悪化するまさかの事態が発生。これはいま行くべきではない、きちんと心から楽しめる時に行こうと判断し、渡航を中止した。
まっさらになってしまった私のULハイキング研修。さて、どうしよう。どこを歩く?
理屈よりも本能派の私。常に自分の中のワクワクセンサーを信じている。いろいろと国内のロングトレイルを想像してみたがピンとくる場所が思いつかなかった。年内に行くなら、もう寒いし南の暖かいエリアでないとなーなどと考えるくらい。
そんなとき大分県の九重の法華院温泉山荘で山と道HLCのプロジェクトディレクターを務める豊嶋秀樹さんも主催メンバーのひとりである『ハッピーハイカーズ法華院ギャザリング』が開催されることを思い出した。参加したいと思いつつもお店のシフトがな……などと、なんとなくそのままにしていた。そしてちょうど同時期に九州自然歩道があることも知り、「面白そうやな〜」と頭の片隅にあった。
そこが一気に合致した!
九州自然歩道を歩いてそのままハッピーハイカーズギャザリングに歩いてギャザリング! これや! 歩きたい!
ワクワクセンサーはばっちり信号を出している。私はそうなると後先考えずに行動する癖がある。というか、すぐに行動しないと気が済まない。私は元々バックパッカーをしており、旅が好きだ。ロングトレイルは予定を立て過ぎず私らしく旅するように歩きたいと思っていた。
2022年に歩いたジョン・ミューア・トレイル
同じく2022年に訪れたパタゴニアのフィッツロイ
正直言えば細かな予定を立てるのが苦手で、「行きたい!」という気持ちが先行して予定さえ確定させたら、あとの細々したことは直前にならないと考えないタイプである。良いのか悪いのか、こんな感じで今までなんとかなっている。考えたら不安になるから考えないというのが実際。行動力あるよねと言われることが多いが、実はあまり何も考えていないだけで、言い換えれば深く考えないことで怖さや不安から逃げているだけ。だいたい直前で焦るのだ。自分でも分かっている。
ともあれ、そもそもヨルダンに行こうとしていたし、「ここは日本なんやから大丈夫でしょ!」という気分である。突然起こる出会いやハプニングも含めてその場で起こることに柔軟に対応し流れに身を任せる精神で歩こうと、ULハイキング研修テーマは「街と山を繋ぐ、旅のようなロングトレイル」と決めた。
とはいえ九州全土にまたがる九州自然歩道は総距離3000kmもあり、ルートも無数にある。今回は福岡県の皿倉山を起点に平尾台〜太平山と歩いて大分県に入り、万年山や宝泉寺温泉を通って『法華院ギャザリング』の開催される九重連山まで歩く8泊9日の旅の計画をとりあえずなんとなく立ててみた。
先に言うと、私らしさ全開の行き当たりばったりで奇跡がたくさん起こった、とても充実したトレイルとなり、「ヨルダンを辞めて九州自然歩道を歩いて良かった!」と心から思うことになる。
九州自然歩道
福岡セクション
皿倉山〜平尾台〜英彦山〜太平山
前泊時の夜、ずっと訪れたかった門司港のCafe & bar Tent.へ足を運んだ。店主のシュウさんに明日から九州自然歩道を歩くことを伝えると福岡県のトレイルの情報や、近くに住んでいて手を貸してくれそうな知人を教えていただき、シュウさんの人脈パワーをひしひしと感じた。Tent.からの帰り道、明日からのトレイルが面白くなる予感しかしなかった。
「明日から久々に長く歩ける。私の九州自然歩道はどんなものになるんだろう! 全くわからないぐらいがちょうど良い!」ホテルへの帰路。心躍る前夜。
スタートは九州自然歩道の起点、福岡県の皿倉山だった。小倉から高速バスに揺られ皿倉山ケーブルカー乗り場へ向かう。山頂に起点の石碑があるはずだが、どこを探しても見当たらない。工事をしているフェンス奥の方にそれっぽいものが見えた。石碑の後ろに良い言葉が書いてあるよと聞いていたが拝めず、遠くからフェンス越しに眺めた後、私のトレイルはぬるっと始まった。
皿倉山頂上にある九州自然歩道の石碑
特に山頂は踏まず、森歩きが続く。自然の中で考え事をしながらひとり静かに歩くのが好きな私には大歓迎。綺麗な秋の紅葉が地面を彩っている。過ぎていった秋を拾うように、追いかけるように歩く。日も暮れて真っ暗になり、少し焦りつつ寝れそうな公園までヘッドライトの明かりで歩く。
辿り着いた公園。そこまで寒くないな。人もいないし、もうテント張らなくていっかーとマットと寝袋、ビビィのみで完全野宿スタイル決行。
落ち葉でフカフカのトレイル
公園でビビィで野宿
夜中、何かの小動物が私の顔から肩の上に乗ってきた。四本足で私を踏みつけてくる。ビビィを頭の上まで被せていたのでお互いの目線は合わない。初め、金縛りにあったような状況にあっけに取られたが叫ばないといけないと思い、「わーっ!」と声を出すと相手は逃げていった。
時計を見ると午前3時ちょうど。ビビィから少し顔を出してみると、目の前には星空が広がっていた。「テント張らないってことは星空の下で寝てるんか! めっちゃ良いやん、これ」と気づいた。オリオン座を眺めつつ、「このあたりは動物おるんやな〜」と思いながら再度しっかり入眠。我ながらまあまあ肝が据わってるんじゃないかしら…? 動物に起こされてなかったらこの星空の下に寝てることに気づけなかったかもしれない。物事は二面性がある、ポジティブにいきましょう!
2日目は平尾台へ向かうのだが、九州へ来る3日前にフルマラソンを走っていて、実はその後から足裏をかなり痛めていた。土の上ならまだしも、道路を歩くとかなり足裏へ負担がくる…。だが平尾台の入口までは結構な長さのロード歩きだ。
よし。これはロングトレイルやんな? トレイルヘッド(登山口)までヒッチハイクしよう! と、急に海外ロングトレイルカルチャーを持ち出す。一筆書きに特にこだわりはありません。
ヒッチハイクは1台目で成功。互いに平尾台へハイキングに行く者同士で、わいわい話しながら登山口の駐車場まで送って頂いた。「びっくりしたよー、外国人かと思ったら普通に日本人だった。面白い経験をさせてくれてありがとう!」と笑ってくれた。こちらこそありがとうございます。またどこかでお会いできますように。
平尾台は日本3大カルストのひとつ。石灰岩が点在するカルスト大地は絶景で歩くのも走るのも気持ちいい。先へは急がずゆっくりこの場所を楽しもう。夕日に光るススキと広がる大地を目の前にぼーっと座って日記を書く時間は至福だった。
平尾台
ススキが夕日に照らされきれいだった
この日、私と同じ昨年ジョン・ミューア・トレイル(JMT)を歩いた女性の優ちゃんが働いているという、平尾台にある『ひつじカフェ』に立ち寄った。アメリカでは会えず今回が初めましてだ。意気投合し話していると、彼女もハッピーハイカーズ法華院ギャザリングに参加する予定とのことで、なんと数日後に合流してくれることになった。そんな時、カフェにある女性が訪れた。夫婦で平尾台のガイド業をしているらしい。
「昔は私も野宿はしてたよね〜。旅とかしてる子を見つけたら泊まっていきって言っちゃう。おせっかい大好き。大掃除中でごちゃごちゃしてるけど今夜はうちへお泊まりください」と柔らかい笑顔で言ってくれた、奥さんのあかねさん。
平尾台でガイドをしてらっしゃる西中ご夫婦。この旅で最初のトレイルエンジェルだ。
ご夫婦の家は平尾台の中にあり、ひつじカフェの隣にある。急に来て泊めてもらうなんて本当に良いのだろうかと思ったが「あかねさん(奥様)たち、日本一周してる旅人の子とかよく泊めてるし、全然良いと思うよ」と優ちゃんがさらっと笑いながら言う。みんな仲が良さそうだ。
九州は京都より暖かいと勝手に思っていたが全くそんなことなく、めっちゃ寒い。お言葉に甘えて泊まらせてもらうことに。
夕食に水炊き鍋、お風呂や部屋まで準備してくださり、旅中に出会ってみんなで囲む鍋は幸せでしかなかった。昨日の公園野宿と大違いだ。さらに朝食には昨日の鍋の残りで雑炊を作ってくれ、お昼に食べる用のおにぎりまで持たせてくれた。
「歩くから少しでもエネルギーが摂れるようにもち米も混ぜてるからね」とあかねさんが自宅で漬けている梅干しが入ったおにぎり。涙が出そうになる。大好きな地で衣食住を自然とともに暮らしてらっしゃるおふたりの生活はとても丁寧で素敵で夢をもらった。
平尾台でガイドをされてる西中ご夫婦のお宅に泊めていただく
お昼ご飯用におにぎりまでいただく。涙が出るほどおいしかった
その後はハードと聞いていた英彦山〜太平山の縦走に入る。途中で1泊しないといけないがテント場などは無いため自分で良い場所を見つける必要がある。前半部分は多数の鎖場、急登、全く目印のないトレイル、足首が埋まるほどの落ち葉で誰も歩いていなさそうなエリアが続く。何度、トレイルを誤って心細くなったことか。
日が暮れる頃に地形図を見て、テントが張れそうな場所を探す。これまで地図アプリに頼りっきりだった私だが、今回は地形図を見て「ここならテントを張れそうな地形だ」と目処を立てて、そこを目標に歩いている。そんな風に山で遊べるようになったことが小さな成長の気がして嬉しかった。もっと自然との距離を近く、ワイルドに山で遊べるようになりたい。
その日は、真っ暗で全く人の気配のない山奥で平らになっている場所を見つけてテントを張った。とても静かな夜だった。
次の日、途中の登山口からTent.の店主シュウさんとご友人のカーリーさんが合流してくれた。そこからは福岡県をよく知るシュウさんも認めるほどの天国ロード。歩きやすい上に紅葉が盛りの美しい道が続き、ひとつ一つの景色にいちいち感動しながら歩く。山にいると、幸せの基準が下がるように思う。もともと普段から幸せの感度は高い方だと自分では思っているが…(笑)。
暑くなったり寒くなったり、疲労困憊になったり感動したり、山はいつも私たちを極端にさせる。それだから面白い。
大平山にシュウさんとカーリーさんが駆けつけてくれた。
下山するともう大分県である。
下山後はシュウさんの友人で大工をしている、まっつんさんの作業場でテントを貼らせてもらうことになっていた。町までは長ーーーい舗装路である。かなり歩いた後だし、3人とも旅慣れしている。
「よし、ヒッチハイクだ!」
真っ先に親指を突き出すシュウさん。日本でのヒッチハイクは躊躇う人もいると思うがそんな様子は皆無。面白いおじさんだなあ。
すんなり成功し、永遠と続くようなアスファルトを一気に駆け抜け、辿り着いたまっつんさんの作業場でなんとBBQをしてくれると! 私のテンションの上がり具合は説明するまでもない。DIYで改造されたロマンしかない作業場で、みんなで炭火を囲んで語る夜は最高の時間だった。
「トレーラーハウスがあるから良かったらそこで寝ても良いよ」
なんとまあ。予想してないことがたくさん起こる。なんて幸せなのだろう。しっかりお言葉に甘える。ありがとうございます。そんなこんなで今日も暖かいところで寝れそうだ。
まっつんさんの作業場
「今日も予想外のミラクルがたくさん起こったなぁ、最高の1日になったなぁ〜」としみじみ感じながら眠りに着いた。
ひとつの出会いにさようならをして、また先へ歩き出す。さあ大分セクションが始まる。
大分セクション
太平山〜深耶馬溪〜万年山〜宝泉寺温泉〜九重
大分セクションに入ると急に山がない。ずっと田舎の道路歩きが続く。クルマもほとんど通らず、自分と向き合う時間しかない。
1年前の私は無職で、これからの人生について考えながら山を求めて海外ひとり旅をしていた。その中でたくさんの出会いと別れがあり、今思えば人生のターニングポイントの時期を過ごしていたと思う。1年後、こうして山と道にいて最高の仲間と出会い、日々過ごしているなんて想像もしていなかった。まして九州を歩きながらヒッチハイクしたり、いろんな方に泊めてもらったり、たくさんの食べ物を貰いながら歩いているなんて(笑)。
未来の予想がつかないくらいの人生のほうがいいと、今の私は思っている。1年後何をしているのかも分からないし、将来自分がどうなっているのか楽しみだ。
大分セクションでもたくさんのトレイルエンジェルと出会った。
トレイルから離れた場所であっても泊めてくれた家族。公園で野宿しようとしたら泊めてくれた陸上競技場の管理人の方。歩いている途中で「あら〜ひとりで歩いているの? 休憩していき〜」と自宅へ招いてくださりコーヒーと手作り羊羹でもてなしてくれた老夫婦には、大量の焼き芋まで頂いた。道中のお饅頭屋さんはお饅頭を持たせてくれる。温泉で出会ったおばあちゃんはそのままスーパーまで送ってくれた。
ありがたいことに食料は減らず、むしろ増える一方だ。愛の重さは喜んで持ち歩こう。そこはULじゃなくていいんです。
どうしてみなさん初めて会った名前も知らないただ歩いている謎の女にこんなに親切にしてくれるのだろうと感慨深くなる。自分が誰かから優しさを貰ったように、私も誰かに同じように優しくありたい。そうやって優しさが回っていったら良いなぁ。
大分で泊めていただいたご家族
老夫婦に招かれコーヒーと羊羹をいただく
いよいよゴールと決めていた九重に近づいてきた日、平尾台の『ひつじカフェ』で働くJMTハイカーの優ちゃんが約束通り合流してくれた。共に法華院温泉山荘を目指す。
自分たちの背丈よりも高い藪をひたすら漕ぐ道、雪の降る極寒のロード、ひとりでは相当きつかったであろうセクションを一緒に歩いてくれた。
今シーズン最初の雪
ひたすらの藪漕ぎ
いよいよ温泉県、大分の本領が見えてきた。大分セクションは宝泉寺温泉街、筋湯温泉街などをしっかり通っている。そりゃもちろんしっかり楽しみます。
こんなに寒い中ずっと歩いたあとの温泉は言葉にできない幸福が感じられた。だがしかし、いつものハイキングと大きく違うことがある。温泉で暖まった後、その幸福状態のまま締めることはできないのだ。また歩き始めなければならないのがロングトレイルだ。
歩き続けていることを実感できてそれすらも楽しい。家を持たずバックパックに全てを詰めて身体ひとつで旅をしている感覚が心地よい。
温泉&雨上がりのロード歩き
そして九重の街で、最後のビッグトレイルエンジェルと出会った。
このトレイルを歩き始める前にシュウさんから「もし九重にのぼる前に時間があったら、長者原登山口の近くでDIYでレストランを作ろうとしているクワマンっていう友人がいるから寄ってみたら良いよ。そいつの工事現場なら風を防げるしテントを張っても良いとおもうよ」と教えてもらっていた。しかし、きちんとした住所は分からず『だいたいこの辺り』という情報しかなかった。
訪れてみることにしたがクワマンさんがいると思われる『だいたいこの辺り』まではトレイルから6km程離れている。歩いてもよかったが雪も降っており、寒いし、もう疲れていた。そういう時はヒッチハイクだ。長者原ビジターセンター近くでヒッチハイクをしたらすぐに成功。乗せてくれたのは大工さんだった。
長者原のビジターセンターに到着
「ああ、多分あの人かな? 場所知ってるよ。送っていくよ」
その方も大工さんなので、面白そうな人がいるということで知っていたらしい。まさか拾ってくれた人が私たちの行き先を知っているなんて、なんてラッキーなのだろう。大体でやってみたヒッチハイクだったが、きちんとクワマンさんの元まで辿り着くことができた。「なんとかなるもんやなー。おもしろいなぁ」と旅感に浸る車内だった。
こうして最後のビッグトレイルエンジェル、クワマンさんと出会った。その日は過去数日の中でも特に冷え込んだ日だった。めちゃくちゃ寒かった。
「キャンピングカー、ふたりは寝られると思うし使っても良いよ」
もう感激です。優ちゃんと私はワクワクのキャンピングカー泊をすることに変更! この旅ではテントを張るより人との出会いを優先している(決して甘えではない。笑)今のこの出会いは二度と巡ってこない貴重な縁だから。
パエリア料理人でもあるクワマンさん、「数日前に出張出店で作ったパエリアが余ってるから良かったら食べる?」
いただきます!!!
さらに鍋まで準備してくださり、皆でキャンピングカーの中で鍋とパエリアを囲んだ。ついに明日は法華院温泉のゴールである。最高のラストナイトだ。
クワマンさんのパエリア
キャンピングカーに泊まらせてもらう
優ちゃんとクワマンさん
冷え込む朝、クワマンさんに長者原ビジターセンターまで送っていただき、いよいよ法華院温泉山荘に向けて登り始めた。2時間ほどで到着すると、法華院ギャザリングでの出店のために先に着いていた山と道の仲間の顔があった。やはり安心する。
法華院で山と道スタッフと合流!
法華院ギャザリングは九州のハイカーに限らず関西のハイカーもいて大盛り上がりだった。「山が好き」という共通点だけでたくさんの人が集まって皆が楽しそうにしている。山好きのポジティブパワーをガンガン感じる素晴らしいイベントだった。
ありがたい事がたくさん起こった、私らしいはちゃめちゃハッピートレイルだった。道中に出会った方々にどれだけの親切をもらったか分からない。かけがえのない思い出ができて九州が大好きになった。旅の醍醐味は人との出逢いだとしたら、最高の旅トレイルとなり、帰ってきたい場所がたくさんできた。九州自然歩道をもっともっと歩きたいと心から思う。
京都へ帰る新幹線の中、ヒッチハイクで乗せてくださったある男性からメッセージが届いた。
「ずっと自転車競技に打ち込んできたのですが、数年前に事故をして思うように乗れなくなり、けじめをつけて1年前に自転車を降りました。どこか物足りない日々にあなたと出会いました。別れた後、ぐるぐると考えていました。そしてやりたかったのに諦めたことに『一度の人生、やってみよう』と思えました。そしてむかし自転車で登りまくった山に1年ぶりに登りました。2756回目から2757回目まで1年かかりましたが登れました。あなたのおかげです。勝手に感謝しています。お疲れ様でした。そしてありがとうございました。これからも健康で良い旅を続けてください」
私が親切にしてもらった方であるが、もしかしたら私も誰かに少しの勇気や元気を与えられていたのかもしれない。
このメッセージから「一度きりの人生だから私も後悔のないように生きよう」と私自身も改めて思わされた。人生は壮大な長い旅だと思う。これからもいい旅を続けよう。
たった10日だったが「さあ、今日も歩くか」という日々が心地よくて、終わってしまうことに寂しさを感じながら京都への帰路に着いた。
帰っても、また次の楽しいことが待っている。
そうして私の「街と山を繋ぐ、旅のようなロングトレイル」は終わった。
(写真提供:原田優)
GEAR LIST
Base Weight* : 4.54kg
*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量
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