HLC Report

HLC四国石鎚山系トレイルワークローカルスタディハイキング報告

山と一歩深くつながるトレイル整備
文/写真:日野藍
2024.07.09
HLC Report

HLC四国石鎚山系トレイルワークローカルスタディハイキング報告

山と一歩深くつながるトレイル整備
文/写真:日野藍
2024.07.09

現在、日本各地に台湾を加えた8つの拠点で活動を行っている山と道HLCでは、ハイキングが繋ぐコミュニティ作りを目指して日々、様々なプログラムを行なっていますが、このHLC Reportでは、そんな活動の内容をシェアしていきます。今回はHLCスタッフでデザイナー・編集者の日野藍がレポートをお届け。愛媛在住やけん、昨年のローカルスタディハイキングに続き伊予弁で! と編集長三田からの指令を受け、お国言葉で綴っていきます。

今回は、HLCの中でもハイキングを通じてローカルの魅力を学ぶ「LOCAL STUDY HIKING」のプログラムとして、2024年4月21日に愛媛県は石鎚山でトレイル整備をお手伝いした、『石鎚山系トレイルワークローカルスタディハイキング』を取材しました。

四国のトレイルのことを知って、読者の皆さんも普段歩くトレイルについて考えるきっかけになればうれしいです。ほんなら、石鎚山へワープ!

石鎚山系のトレイルの現状ってどんな感じなん?

「山のボランティアNetwork」の活動

今回ご協力いただいた「山のボランティアNetwork」(以下、山ボラ)さん。登山道荒廃による山の遭難事故を防ぐため、「わしらがやらな」と山好きが集まって1999年に結成されました。毎年2回のペースで約50人が集まり石鎚山系で登山道整備を続けています。整備内容は、トレイルの修復や道標の整備、笹刈りなど。愛媛県の協議会に集まった資金で運営されていて、ボランティアの日にはハガキやSNSで参加を呼びかけ、楽しい雰囲気で作業されてます。今回は事務局長の渡辺二孝(にたか)さんがゲストです。

今治市在住の渡辺さんは、長年「山ボラ」のほか地元の里山・笠松山ー世田山のガイドや情報発信にも尽力し、今年環境省自然環境局長表彰を受賞。「ナベちゃん、ナベさんって言われてます」。

石鎚山系のトレイルと整備の特徴

今日は、HLCのプログラムの中では珍しい整備がメインのプログラム。HLC四国アンバサダーの菅野も20代の頃から参加し仲間も呼び込んで一緒に汗を流してきました。「何気なく歩きよるトレイルって絶対誰かが整備してくれとるけん。『山ボラ』の皆さんも高齢化しとるし、若い世代やULハイカーも積極的に受け継いで、トレイルを自分らで維持していかなね」。

HLC四国アンバサダーの菅野哲。

当日朝、総勢約30人に作業を分担。左端が「山ボラ」代表で、登山口一帯の『土小屋terrace』なども運営する白石文高さん。

石鎚山系のトレイルの特徴としては、まず有人の営業小屋が他の地域より少ないこと。山小屋のスタッフじゃなく、こういう有志のボランティアがかなり主体になって整備をしています。個人でハシゴやベンチを作る人もいて「〇〇山の〇〇さん」と有名だったり。「山ボラ」の活動範囲は石鎚山周辺が中心。行政も管理に関わって、複数の団体がゆるやかに連携しています。もうひとつの特徴は四国らしく笹原が多いこと。放っておくとあっという間に薮になってしまうけん、活動の多くが笹刈りとのことです。

参考:石鎚山系を守る人々(石鎚山系公式WEBサイト)

「山ボラ」の活動範囲。提供:渡辺さん

HLC四国チームのミッション、トレイル補修!

熱い仲間が四国外から集結

小雨降る中HLCに集まったのは、四国内外の7人。愛媛が1人、高知が3人で、あとの3人はなんと岡山や兵庫! 実は彼らは、昨年HLC四国で開催のプログラム『石鎚ロングトレイル2泊3日ULハイキングプラクティス』の参加者。プログラム中、歩きやすいトレイルに感動していたところ、ちょうど「山ボラ」の活動日と重なっていたため、ボランティアの皆さんにトレイル整備の感謝を伝えたのでした。今回、恩返しの気持ちで再集結。みんな、ハートが熱い。

2023年の『石鎚ロングトレイル2泊3日ULハイキングプラクティス』2日目、伊予富士へ向かう笹原の稜線。

2023年10月の『石鎚ロングトレイル2泊3日ULハイキングプラクティス』3日目の朝、土小屋登山口にて。今回参加したのは、後列左から2番目からはるさん、Emiさん、兼高さん、サントーさん。

土のうを使った道直しに奮闘

「山ボラ」の活動は笹刈りが多いって言ったんやけど、元気なHLC四国チームに割り当てられた作業はトレイルの補修、そう、道直し。土小屋ルートの「第1ベンチ」から「第2ベンチ」までの区間を行います。まずやることは、水たまりの水抜き。落ち葉で水路が埋まってできた大きな水たまりから水が排出されるよう、地形などを考慮して水路を作ります。

流れた瞬間が気持ちいい。作業するのは松山市在住でアマチュアカメラマンとしても活躍する「山ボラ」の谷本さん。

今回使う道具一式。どうやって使うんやろか?

そして道直しへ。「道は、人が歩くだけでもダメージを受けます。本来ふかふかの道は、踏まれた圧で凹み、雨水に浸食されて土が流れ、放っておくと道そのものが崩れます。動植物にも影響が出てくるけん、整備が必要なんですね。霊山の石鎚山ならではでいうと、ここは石鎚神社への参拝道で、7月のお山開きにはたくさんの方が歩くので、他の山より道幅が大きいです」とナベさん。

作業ポイントでナベさんの説明を聞く参加者の皆さん。

細い丸太で作った階段。土がえぐれ、雨で空洞が大きくなり、放置すると木が折れるなどして危険なトレイルに。

道直しのメインである階段の修復に着手。木道の段差に空いた穴を、小石を詰めた麻袋で塞いでいきます。「袋が隙間に馴染むよう、半分くらいの量の小石を入れてゆとりを持たせとってくださいね」とベテランの脇田武彦さん。「結構この方法で直しとる箇所は多くて、みんなも気づかず踏んづけとるはずよー」と菅野。

麻袋に小石を詰めるところ。じょうれん(方言で手箕、大きなちりとり)を使うと便利。右が脇田さん。

口をしっかり縛った麻袋を手で調整し、小石で隙間を埋める。

訓練で通りかかった高知のモンベルのチーム「歩きやすかったですー!こうやって直してくれてるんですね!」とにわかな私らにも感謝を伝えてくれた。

受け継がないかんね、先輩方の技術

ほかにも、状況に応じていろんな作業がありました。例えば、滑りやすそうな箇所にチェンソーで凹凸をつける、丸太をワイヤーや杭で固定するなど。技術的にはレベルアップするけど、トレイルのために継承していきたいこと。

チェンソーを操るのはHLC四国アンバサダーの菅野。「山ボラ」歴も長く、難易度の高い作業もこなす。

2本の丸太を「番線(ワイヤー)」でまとめて、「シノ(先のとがった鉄棒)」で固定する。ロープワークのように技術が必要。

チャチャっと杭を作る脇田さん。

杭打ちにチャレンジする参加者のサントーさん。

できたー! 達成感に包まれた瞬間。

「整備EYE」を身につけて

参加者の皆さんの感想

みんなのチームワークで、予定より早く午前中で終了! 皆さんどうやら、トレイルワークをやってみて、今までになかった見方や思いが芽生えたみたいなよ。

はるさん(左)「私は神戸の六甲山がホームマウンテン。10月にプログラムで来た時、今度はトレイル整備に来たいなって思って。こうやってみんなで直せて嬉しいわあ。私、石鎚トレイル大好きやから。」Emiさん(右)「1箇所を1〜2人で作業できたけん、やったことがはっきり見えてプチ達成感を味わったよ。道直しを実際に見て、やって、ありがたみを感じたね。」

ユイさん「普段トレイルは踏んづけるだけで、こんな作業したことなかったから発見がいっぱいでした。お花もこんな間近で発見!」

兼高さん「やり始めたら楽しく作業できましたね。実はボランティアってやるの初めてだったかも。家の近くの山にもボランティアの方がいて、よく会うんです。今度一緒にやってみようかな。」

菅野「こういう本格的な修復って普段なかなかできんですよね。ちなみに、石鎚山のこっから上のルンゼ(ここでは沢沿いなど、険しい岩の壁)は落石や雪崩でほぼ毎年橋が壊れてしまうんです。それを直すんは、今は先輩方が中心にやってくれてます。今はこういう技術継承プロジェクトにも力を入れ始めていますので興味があれば参加してください。これから皆さんの地元でもトレイルワークに参加してみてほしいし、ゴミ拾いとかしてもっとトレイルを大切に歩くとか、何か行動が変わるきっかけになったらいいなと思います。」

「安全登山のための土木工事の知識と技術を現場で学ぶのってむちゃくちゃ大事」と菅野。

ナベさん「皆さんありがとうございました。今まで歩いてて気にならんかったことも、『あっ木道がズレとるな』『ここはどう直すんだろう』と気づく、登山道の目になってみてください。それがこの次の整備に活かされたりしますから。また手伝っていただければと思います」

トレイルへの目線をいっこ上に

トレイルって、人の思いで保たれとんやなー。こちらが今回の感想です。

調べると、日本の自然保護に割かれる行政のリソースは諸外国と比べるとかなり少なく、多くのトレイルの整備は山岳関係者と一般ボランティア双方が関わり行っていくというのが現状ではよい形のようで、広くボランティアを募る仕組みがあるエリアもあります。ハイカーはこれから、ボランティアとしてトレイルに関わっていくことがさらに大事になりそう。

また、トレイルにはエリアそれぞれの環境、課題、整備方法がありますが、実際に手を動かすと一歩深く山と繋がれる気がしたし、「自分たちが歩けたらいい」というところから「誰がどうやって維持してくれてるのかな」そして「自分も関わってみよう」という目線にシフトできたらいいなと感じました。サーファーがビーチクリーンをするみたいに。

もっと言うと、1度でもトレイルを整備すると、「生物多様性」や「環境保全」みたいな難しい言葉も自分ごとになる感じもありました。「苔を踏まずに歩くために、ここは木道が要るな」「水の流れをよくするために、段差をこうしたら?」とか。

きっと皆さんにもあると思います。ULハイキングを始めた時の、「これはこう削れるかも?」って、ULハイカーが持ってる「UL EYE(山と道JOURNALS編集長三田命名)」が。ハイカーとして、これからは「整備EYE」もみんなで搭載して、ええ汗流して、これからも安全に楽しく山で過ごせたらええなあ。

最後にみんなで!

「山ボラ」では、この活動を春と秋の年2回やっています。未体験で道具がなくても大丈夫やけん、どうぞお気軽に! HLC四国アンバサダーの菅野経由で申し込んでもいいかも。他のエリアでも、「山域(山の名前)+ボランティア」などで検索をかけると、地元で活動する団体を知ることができると思います。できることから始めてみませんか。

全国のトレイル整備活動団体

最後に、全国で活動する団体などのページを独自でまとめたのでご紹介します。何かしてみたくなった人はぜひアクションを!

日本山岳遺産認定地
山と溪谷社が日本の山々が持つ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために設立した基金。活動が盛んな山や山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、その地域で山岳環境保全・安全登山啓発・次世代育成などの活動を行う地元の団体に助成を行っている。
Finetrack 【登山道を守る人を応援する】登山道整備団体 紹介ページ
同社が「登山道を守る人を応援する」プロジェクトで共に活動する団体一覧。
YAMAP 支援プロジェクト
YAMAPのDOMOで支援できるプロジェクト一覧ページ。募集自体は現在は終わっているが、団体を探すことは可能。

日野藍

日野藍

山と道HLC情報発信担当/フリーランス編集者・デザイナー。 愛媛県在住。高校時代の部活は応援団。田舎を出たくて関西に進学し、デザイン会社のディレクターとして東京や大阪で働く。2014年にUターン後は地元西条市の広報担当を7年務め、まちの魅力を知るために登った石鎚山をきっかけに山にハマる。地域と人に興味があり、2023年の山道祭では地元コーディネーターとして協力。同年四国のアウトドアがテーマの雑誌『YON』を創刊。好きな人たちをクリエイティブで応援しながら、四国を軸足とした様々なエリアでの体験を仕事や暮らしに取り込んで日々を楽しんでいる。

連載「HLC Report」