ハイカーズデポ土屋智哉さんをお招きして開校した「ULハイキング大学 in 山と道」。ハイキングという歩く行為には欠かせないシューズを解説する「講義2」の2限目では、歩行のメカニズムや怪我をしないための歩き方、そしてシューズ選びの注意点を伝えていきます。
どれだけ性能の良いシューズでも自分の足に合っていなかったり、歩行フォームが乱れていたりすると、思わぬ怪我に繋がりかねません。今回もハイカーならば絶対に知っておきたい内容となっています。
それでは、チャイムが鳴ったら2限目のはじまりはじまり〜。
大事なのは歩行フォーム
1限目では登山靴の誕生からトレランシューズの歴史まで話てきましたが、2限目ではトレランシューズを履く時に気を配るべきポイントについて話していきたいと思います。怪我をしないためにはシューズ選びも大切ですが、いちばん重要なのはシューズの特性を理解することと歩行フォームを意識することです。
『アルトラ』が踵とつま先の高さが変わらない、つまりドロップ差のないゼロドロップのシューズを作った最大の理由は、多くの市民ランナーがフォームが固まらないままドロップ差のあるシューズを履いて我流で走った時に、ランニング障害を起こしやすいから、それをシューズからのアプローチでなんとかできないか。ランニングフォームの改善にアプローチできないかという思いにあります。正しいランニングフォームが固まる前から踵のクッション性に依存してしまうと、踵着地の際に膝に負担が集中してしまい、膝を壊すことが多いんですね。
それを少しでも改善するために、速く走るためではなく、なるべく体に負担をかけずにニュートラルな骨格のポジションから自然なフォームで走れるように、ドロップ差がないシューズを作りました。これが2011年の『アルトラ』創業以降のゼロドロップのブームのはじまりです。
アルトラ キングMT 踵とつま先の高さが同じゼロドロップ・シューズ。
『アルトラ』以前から『イノヴェイト』というイギリスのメーカーが、なるべく裸足感覚に近いものとしてドロップ差のないシューズを強く提案しているんですね。だけど『アルトラ』以降のゼロドロップのシューズの大きなポイントは、裸足感覚よりも、ニュートラルな骨格のポジションでなるべく負担の少ない動きをさせることに重きを置いているところにあります。
ドロップ差があるシューズは踵が高いので体が前傾になります。ヒールを履いてるようなもので、ポンと押されれば体は前に倒れます。自分で故意に前傾にならなくても、重心を前に持っていくだけで体はどんどん前にいくようになる。その時に倒れないように足をどんどん前に出すようになるから、足をより遠く着地させながら回転させることで、より速く走れることを意図しているシューズだと考えることができます。
でも足を大きく前に出すと、どうしても踵着地になるので、正しいフォームで着地しないと、捻挫や関節を痛める原因になるのです。それを回避するためには、正しいフォームが必要です。
陸上競技をやってる人は徹底的に反復練習をやって、どんなに疲れた状態になっても乱れないようなフォームづくりとそれを支える筋力づくりをします。それはパフォーマンスを上げるためでもありますが、怪我をしないためでもあります。ハイカーも同じです。走ったり歩いたりしていて、どこかに痛みが出る場合は、歩行のフォームや筋力バランスに何かしら課題を抱えていると考えてもらうといいです。
だから荷物の重さに関係なく、ちゃんとした歩行フォームが固まってる人は、ドロップ差のあるシューズを使おうと大丈夫なわけです。ただ、毎回ハイキングにいくと、いつも膝や足首とか同じところに痛みが出る人はドロップ差の大きいシューズから1回離れてもいいんじゃないかな。でも、いちばんいいのはシューズを変えることよりも、スポーツトレーナーに相談にいくことです。
ULハイカーのバックパックがいくら軽いとはいえ、荷物を背負ってトレイルを歩く行為は身体に負担をすごくかけています。多くのハイカーは自分がアスリートだという認識はありませんし、ハイカーを自分のアイデンティティにしている人は、アスリート的な世界から距離を置きたいメンタリティを持ってる人が多いと思うんですよね。でも故障が起こる原因はシューズそのものの問題ではなくて、シューズを使いこなせていない歩行のフォームの問題です。だからこそ、スポーツトレーナーに一度見てもらうのがいいです。
よく怪我をしないために「サポーターやインソールはどうなんですか?」「ストックはあった方がいいんですか?」と聞かれます。だけどそれでできることは対処療法にすぎません。基本的には体に無理のない歩行フォームを考えていくのが根本的な解決につながりますし、生涯スポーツとしてハイキング楽しむための近道だと自分は考えています。
トレイルランニングシューズはソールが柔らかくて関節の可動域をしっかりと確保しやすいので、歩行に適しています。でもローカットシューズだと捻挫をするんじゃないかという不安を持たれる方も多くいらっしゃいます。ちゃんと歩いてるつもりでも、変な動きをしてしまって捻挫をすることもあります。
トレランシューズはソールが柔らかいので、関節の可動域を確保して正しいフォームで歩行しやすい利点がある。
特に1日20km以上も歩いたりして、疲れている時は要注意ですね。かといって、硬いブーツでは歩きにくい。そこでソールが硬いローカットシューズだったり、ミドルカットのアプローチシューズを履く選択もあるんだけれど、とはいえ、僕たちハイカーにいちばん馴染み深いのはローカットのトレイルランニングシューズです。そこでローカットシューズを履く際に気をつけるべきことは何かを説明していきます。
足の要は距骨にあり
足の骨には、実はたくさんの骨があります。この多くの骨の組み合わせで荷重を受け止めたり、分散をさせたり、歩行のためにアーチを生かして蹴り出したりしているのだけど、シューズを履いて歩く時に知っておいてほしいのが、距骨(きょこつ)と言われる、脛骨(けいこつ)と踵骨(しょうこつ)の間にある骨なんですよ。
足の骨には靭帯や筋肉がついてるけど、距骨には一切ついていません。距骨は立った時の軸になる骨で、脛骨と踵骨と指先の骨のハブになっています。この距骨は踵の関節の動きや、つま先を上げたり下げたり、足を内側に入れたり外側に出したり、いろんな動きの肝になる骨です。
走ったり歩いたりすると、距骨が前に出たりひっ込んだりを繰り返します。その時に距骨が暴れると、足が安定しなくなると言われています。僕は専門教育を受けているわけではなく、いろいろな書籍を読んだり、専門家から学んだりして得た基礎知識だし、最新の情報とは違うとこあるかもしれないんだけど、この距骨が足の動きのキーになってるのは事実です。
距骨をしっかり固めることで足首が安定する。
ハイカットブーツを履くと足首が固定されて捻挫をしないと言われているのは、この距骨が踵骨との関節面にしっかりと収まった状態になって足が安定するからです。距骨を暴れさせないことがポイントになるんですね。なのでローカットシューズを履く時にも距骨を押さえ込めれば、変に足をグネったりしにくくるということです。
ローカットシューズのいちばんトップの部分のすぐ近くに、普段はあまり使われないサブホールが開いてるのがありますよね。ここまでシューレースをしっかりと締めてあげると、距骨を抑えられます。前足部が緩くても距骨が暴れないようになるので、ローカットでも足首周りの安定感が変わってきます。
ローカットシューズでも、シューレースをいちばん上のサブホールまで締めることで、距骨を抑えることができる。さらに写真のようにサブホールでループをつくり、そこにシューレースを通して締めることで、シューレースが線ではなく面で押さえられ、フィット感がより高まる(参考→RUNNNET)。
ローカットシューズを使いこなすにおいて、筋力や歩行フォームのトレーニングをすることはもちろん大事なんだけど、トレーニングが進んでいない段階でもシューズの履き方を変えるだけで、ローカットシューズでの足首の安定感が大きく変わります。ローカットシューズを頑張って試してるんだけど、特に下りの時に足元が安定しづらいと言う人は、試してもらうといいと思います。
僕自身も1日の後半戦で疲れてくると、シューレースをあらためてしっかりと締めることにしています。そうすることで、疲労がたまった状態でも足元の安定感を出すことができます。実際にハイカーズデポでは開店当時、お客様から要望があったら、サブホールがついてないシューズに穴を追加で開けていました。専門家じゃないから、やっていいのかどうかというのはあったんだけど。
〜ここで講義を聞いていた元理学療法士・スタッフ前原からの補足〜
前原 距骨の話でいうと、捻挫は下りの時に足首が底屈(注:足首が伸びた状態)の状態になった時になります。底屈の時は距骨が前に出るので、それを抑える意味でシューレースを上まで締めるのが有効です。登りの時は背屈(注:足首が曲がった状態)というポジションなんですけど、その時に距骨は関節にはまって固まるので捻挫しにくいんです。なので、基本は下りの時にシューホールの上まで締めて距骨が前に出るのを防ぐのがポイントです。反対に登りの時は締めない方がいいと思っています。締めることで背屈を制限するわけではないけど、圧迫感が生まれるので、登りの時は逆に緩くてもいいかもしれません。
〜補足終了〜
ありがとうございます。ハイカットの登山靴でも、登りの時は足首を緩めてもいいですよと接客している登山専門店も少なくないと思います。
トレランシューズを履くときは、距骨を安定させることをしっかりと意識してください。そこに気をつければ、無雪期の山行ではソールが柔らかくて足首の自由度が効くトレランシューズが歩行には適していると僕は考えています。特に荷物を軽量化するULハイキングの場合は非常に有効性があることは、このことは山と道の店頭でも自信を持って伝えていいんじゃないかと思います。
山行によって使い分けるソールの硬さ
ある程度整備が行き届いた道を歩くのと、ほとんど整備がされていない道を歩くのでは、シューズに求める特性もだいぶ変わってきます。特に雪や岩ではそれが顕著になります。つま先でスタンスを探りながら登っていく状況であれば、ソールが柔らかいものより硬いものの方が細かなスタンスにしっかりと乗り込むことができますし、ふくらはぎの筋力も温存できます。
クライミングシューズにも同じことが言えるので、クライミング経験がある人には理解しやすいかと思います。クライミングシューズにはソールが柔らかくて足裏感覚に優れているものもあれば、ソールに鉄板が入ってるかのようなカッチカチのシューズもあります。ULとかベアフットに興味があるハイカーからすると、ペラペラの足裏感覚に優れるクライミングシューズの方が、岩を登りやすいんじゃないのかと考えてしまいますが、細かなスタンスを拾って本当にギリギリのところを登っていく場合は、クライマーはソールの硬いシューズを選びます。ソールが硬くないと踵が落ちて、力が逃げちゃうんです。力が逃げないぐらいの足指の筋力があればペラペラのクライミングシューズでも問題ないんだけど、一般的には岩場で使う時はソールの硬いクライミングシューズが有効なんです。
ソールが硬いシューズだとつま先で細かなスタンスに乗り込め、岩場でも登りやすい
ソールが柔らかないシューズの場合、足指の筋力が必要になる。
雪上でも同じことが言えます。雪山じゃなくても、例えば普通の登山道でも斜面がザレてる(注:斜面に砂や小石が多く滑りやすい状態)ことがあるじゃないですか。ザレてると一足ごとにズズッって滑るのを繰り返しながら登っていきますよね。あれってすごく疲れるじゃない。雪道も同じで、歩いたり登ったりする時につま先に力を入れて蹴り出そうとした瞬間に、ソールが柔らかいと力が逃げていっちゃいます。しかしソールが硬ければ、踵を上げても力が全部つま先に乗っかるので、力が逃げないんです。だからグッと地面を踏むことができる。雪山では実際にソールの硬いシューズの方が疲労度は圧倒的に少ないし、チェーンスパイクやアイゼンをつけるタイミングが全然変わります。
2000年代に自分がULにハマった時に、冬靴を使わなくても冬山にいけないかと一生懸命やってたんですよ。ウエットソックスを履き、トレランシューズを履き、そこからオーバーブーツをつけて、「トレランシューズで冬山いけるぜ」と、チャレンジしてきた世代なんです。
だけど結局、そこまでしても防寒とシューズの剛性感を冬山で有効なほど上げることはできませんでした。なによりもシステムが複雑になるということは厳しい環境でトラブルが起きた時に対応が難しくなることが問題でした。
雪道の歩行は基本的に足裏全体で摩擦を起こして足を安定させることが大事です。ソールの柔らかいシューズは蹴り出そうとしちゃうので、足裏全体で地面をきちんと踏む動作がしにくいんです。なので雪山に関しては、個人的には足首があるなしは置いといても、足裏全体で歩行するためにソールの硬いシューズがいいと思うし、登山靴的なものの方がいいと思います。
どうしても普段からトレランシューズを履いているから「足首を固められると動きにくいんだよね」という人は、いわゆるエキスパート用と言われる、ソールは硬いけども足首は柔らかいゲーター付アルパインブーツみたいなのを雪道では使ってみるといいかもしれません。
こんなふうにトレイルの状況に合わせて適正なソールの硬さのバリエーションを把握しておくと、岩場や残雪期など、山の状況によって最適なシューズをセレクトできるようになります。
例えば国内だったら八ヶ岳の南側の赤岳、硫黄岳辺りだったり、いわゆる北アルプスにトレランシューズで行くのももちろん可能なんだけど、もし店頭でお客様が「トレランシューズで大丈夫ですかね」と不安を感じてたら、僕は「ソールが硬いローカットシューズを試してみてもいいんじゃないですか」とアドバイスします。
トレランシューズで北アルプスや岩綾帯に行こうと考えてる人の場合は、間違いなくパックウエイトは軽くしていると思います。山と道のユーザーだったら、基本パックウエイトは8kg〜12kgが多いんじゃないかな。その上でどんなシューズを使うのがいいのか、店頭でもいくつかの選択肢を出してあげるといいと思います。
ベアフットシューズの注意点
近年は「ベアフットシューズで足を鍛えるといいんですよね」と聞かれることが多いです。鍛えた足ならば北アルプスや岩綾帯に行くことはもちろん可能です。しかしシューズが足をサポートする機能が少ない分、疲れや痛みを感じてしまうケースもあります。特に足裏には受容器官があるから、足裏感覚といわれるように微妙な差異を感じることができます。これは同時に痛みにも敏感ということです。
ベアフットシューズをトレーニングだと思って履くこと自体はすごくいいんだけども、痛みが出てるのに「これはトレーニングに伴う痛みだ」と思って、ずっとベアフットシューズを履き続けてる人がいます。これには注意が必要です。
そうした状態になってくると、足裏からの情報過多への反応として、体が過緊張の状態になる。要は足裏の刺激が大きすぎると、体を安定させようと腰を落として踏ん張った状態になる。これは歩くための体勢ではなく、安定させるための体勢です。それなのに、痛いのはトレーニングをしているからだと思って無理して歩いてしまう人がいます。このように無理な状態で歩き続けると、膝や足首とかいろんなところに痛みが出てしまう。
体の緊張状態が続くと、どこかしらに不具合が生じてしまう。
だからトレーニングをしてて痛みが出るのは、どこか必ず過剰な負荷がかかっているからです。もしお客様からそういう相談があった場合は、例えば「普通のシューズに一旦戻して、体をリラックスさせてあげてください」と伝えるとか、もし近くに連携ができるトレーナーがいれば紹介するのもいいと思います。
やっぱりULは最終的には自分の体力だったり、人間力といったものを上げていく作業だとは思うんですね。だからなるべくシンプルなものを使って、自分の持ってる体の潜在能力を引き上げようという前向きな意識を誰もが持ってると思うんです。でも前向きな意識が空回りしてしまうと、怪我をより深刻にさせてしまう状況になっていく場合は止めてあげることも大切です。
それを僕らは店頭でしていけばいいと思うし、お客様だけじゃなくて、僕ら自身も体の調子が悪い時には、体の信号を受け止められるといいですね。
シューズをサポートするインソールの役割
ここまでで何か質問はありますか?
ーーお店でシューズを買うとインソールを勧められます。例えば硬いインソールを使うと、ソールが硬くなるのと同じ効果があるんですか?
登山専門店で勧めているインソールは大きく分けてふたつあります。ひとつはクッション系のもの、もうひとつは足のアーチをサポートするインソールです。特に距骨のところが落ちてこないように支えるアーチサポートの機能を持ったインソールが、登山専門店でいちばん売られています。
アーチサポートの機能があると、背負ったものも含めての荷重をきちんと受け止めやすい、分散させやすいメリットがあります。アーチがきちんと機能していると歩行の際の蹴り出す力にもきちんと転用がされます。そしてアーチサポート系のインソールにはプレートが入ってるので、結果としてソールが硬くなります。ただそれはあくまで副次的な効果だと考えてください。いちばんの目的は硬くするためというよりは、アーチサポートのためだと思ってもらうといいです。
ーーゼロドロップのベアフットシューズにアーチサポート系のインソールを入れると、ゼロドロップの効果を失ってしまいますか?
いい質問です! 多くのアーチサポート系のインソールは、基本的には踵の方が高いです。特にベアフットシューズやゼロドロップのシューズにアーチサポート系インソールを入れると、どうしても当初のシューズの設計からバランスがずれてしまいます。しかしアーチサポート系のインソールの中でも、ゼロドロップのものがちゃんとあります。
日本の『ホシノ』というメーカーのインソールはドロップ差がないものです。個人的にはゼロドロップシューズのフィット感や安定感なりを高めるためにゼロドロップのアーチサポートインソールを入れるのはひとつの活用方法として良いと思います。ただ、ベアフットシューズの場合は違います。ベアフットシューズは足の潜在能力を引き上げるのが主目的ですから、インソールを入れてサポートしてしまうのは本末転倒かなとも思います。
インソールはあくまで副次的な道具だと思ってください。座った状態と立った状態で足のサイズが5mm変わる人がいらっしゃるですけど、立った時にアーチが落ち込んでしまうんですね。そういう人がアーチサポート系のインソールを入れると痛みが勝ってしまう場合があります。距骨をしっかりサポートされると土踏まずの後ろ側がクンと押されてるような感覚になるはずなんですけど、1日履いてそれが痛みとしか認識できない場合は、アーチのサポートを弱いものに変えるなり、足の専門医のところに行ってインソールに関してきちんと相談した方がいいと思います。
ただアーチサポート系のインソールがしっかりと機能した場合は、1日歩いてもアーチのヘタリが少なくなるので、立ってる時の安定感はやっぱり違います。アーチサポート系インソールのサポートなしでもしっかりと立てるのが理想的なんだけども、特に疲労が蓄積しやすい長距離長期間を歩く時に、対応策のひとつとして知っててもいいかもしれません。
ーー岩綾帯を含む長い山行では、岩綾帯だけサポート系のインソールを入れて、他のところでは抜いて歩くのはアリですか?
アリだと思います! ただそれは、サポートインソールなしでやった上で不安を感じるようだったらでいいと思います。要はシステムはシンプルな方がいいという僕自身の考え方もあります。いろんなことをしだすと、策を弄していく形になるじゃないですか。その行為自体が面倒くさくなったりするだろうし、逆にそれができないときや忘れたときに不安に繋がってしまうこともあります。なので、僕はあんまりインソールの差し替えを頻繁に行わない方がいいのかなと思います。
例えば柔らかいソールのシューズでもきちんと脚力を発揮できて岩場を安全に通過できればいいわけですよね。だから、どういう時にローカットシューズで自分は不安を感じているのかをきちんと言語化したり、意識してたりしておくのが大事だと思うんです。不安を感じるということはまだ自分はその道具をその場所で使うには時期尚早だから、もっと成長しよう! 弱点とちゃんと向き合って、それを道具だけに頼らず解消していく。それがUL的なアプローチだと思います。
不安な状態を見て見ぬふりをするのではなくて、ローカットシューズやトレランシューズが好きだけど、「こういう状況だと不安だ」とか、「それは何なんでろう」と考える癖をつけておくと、自分はどんなシューズが合うのかわかってくる。とはいえ、ひとつの手法として、インソールを持っておいて安定感が欲しい時に入れ替えること自体は、間違えた考え方ではないと思います。
〜〜ここで前原からの補足〜〜
前原 理学療法士の業界では、インソールはあくまでサポートなので、常に使ってると筋力が落ちるんです。この山行では絶対に足首守りたいとか、そういうポイントでは使っていいと思うんですけど、常に入れてる状態は、アーチに対して常にサポートが入っているので、使わない筋力がどんどん弱くなる可能性があります。なので、僕らの界隈ではあんまりインソールを常には使わない。痛みが出てきたら痛みを消すために使うけど、常用しているとどんどん筋力が弱くなってしまいます。
〜〜補足終わり〜〜
理学療法士の目線からの意見はありがたいですね。アウトドア用で売られてるインソールは、ある意味パフォーマンスを上げるための道具だから、常時使うことを考えてしまいがちです。しかし、自分自身を高めていく、パフォーマンスをアップさせるためという意識で使ってもらうのがいいのかもしれませんね。僕らが立っているULハイキングという考え方には、そっちの方が合ってるんじゃないかな。
ハイキングという行為は、歩くことがいちばんの基本になっています。特にULハイキングは歴史的な過程の中でも、原野での生活をミニマムに絞っていくことで、荷物を軽量化をして歩くことに最大限フォーカスしています。
どんどん早く歩く必要はないけども、より遠くまで、より長く歩くことによって濃密な自然体験を得るような行為だと思ってます。なので、歩くことは誰もができるからこそ、普段は意識しないんだけれども、シューズを通して歩くことにもうちょっと向き合ってみると世界が広がると思うし、特に怪我をしにくくなります。
「どこまでも快適に歩けるぞ」というような状態を意識して、目指してもらえると、いいんじゃないかなと思います。ということで、今回のシューズについての講義を終わりにしたいと思います。ご清聴ありがとうございました。
【講義3に続く】
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土屋さんの講義の様子はYouTubeでも公開中。