社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課される山と道。「願ったり叶ったり!」と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんなスタッフの日々のハイキングの記録です。今回は山と道鎌倉スタッフである「おーじ」こと苑田が、山と道社内の「ULハイキング研修制度」を利用して、アイスランドを無補給で600km縦断した記録の#2をお届します。
出発地点であるアイスランド最北端の灯台に立ち、いよいよ苑田のULハイキング研修が本格スタート。ほとんど人に出会わず、遠く離れた日本を想って寂しさを募らせることもありますが、広大で神秘的なアイスランドの大地に魅了されながら歩みを進めていきます。
さらに、1日12時間の行動を基本としつつ、20日間の「無補給」にも挑戦した今回の旅で持参した全食料も大公開。1日の消費カロリーをもとに、栄養とカロリーのバランスを考慮しながら、軽量化も実現しています。それでは、アイスランドの絶景の写真と共にお楽しみください。
7月12日(1日目)ULハイキング研修本番初日
トイレに行きたくなって目が覚めた。アイマスクをずらして時計を見ると、まぶしさで焦点が合わない。目を細めながらようやく視界がはっきりすると、時刻は深夜2:00を指していた。夜に変わるはずの時間帯なのに、空は暗闇に沈まず、静かに色を移ろわせていた。水平線には薄桃色の光がにじみ、オレンジから青、そして淡い紫へとグラデーションになっている。ここはアイスランド最北端の灯台 「フラウンハフナルタンギ」。今日からULハイキング研修の本番だ。

午前2:00のスタート地点
太陽は地平線のすぐ下をかすめるようにして、完全には姿を消さない。空に浮かぶ雲もどこか夢のようで、柔らかな陰影をまといながら静かに流れていた。その光に照らされたまわりの景色も、しんと静まり返ったまま、凛と輝いている。鳥の声も、風の音も、すべてがこの白夜の静けさに溶け込んでいた。あまりに美しい光景に、「最高だ!」と心の中で叫びながら、寝ぼけ眼のままカメラを手に取り、シャッターを切る。テントの前に座ってコーヒーを淹れ、何も考えず、ただぼんやりとその空を眺めていた。
ふいに「チャンチャンチャーン♪」とiPhoneのアラームが鳴り響く。昨晩セットしておいた目覚ましだった。まるで静かなチルタイムを終わらせるゴングのようで、背筋がピンと伸びた。気がつけば素早く身支度を始めていた。いよいよ、「白夜を突き進むアイスランド縦断無補給600kmの挑戦」が始まる。
無補給の食べ物ってどんなもの?
歩き出す前に「無補給って、どんな食べ物を持っていったの?」という問いに答える形で、今回の食糧計画について少し話したいと思う。
どんな旅になるかは、実際に歩いてみないと分からない。そこで僕は、最長で20日間をしのげるだけの食料を背負うことに決めた。その上でカロリーと栄養のバランスを考慮しつつ、どんな食べ物が適しているのかを調べ始めた。
まず、なんとなくは理解していたカロリーの目安を改めて調べた。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人男性の推定エネルギー必要量が活動レベルごとに示されており、当時41歳の僕が「高い活動レベル」で見積もると約3,000kcal/日。
では、そのカロリーをどう効率よく摂るか。僕は普段から一部の添加物にアレルギー反応が出る体質で、食べ物によって体調を崩しやすいため、「健康的で消化によく、高カロリーな食品」についても調べ、候補をピックアップした。その中から、安価で手に入りやすく、かつ軽量化できるものを選んだ結果が、今回の食料内容につながっている。
選択した健康と消化に良い高カロリーな食べ物
- 納豆(ナットウキナーゼ、糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルを含む)
- ポップコーン(タンパク質、脂質、炭水化物、食物繊維、ポリフェノール、ビタミンE、鉄を含む)
- ドライフルーツ(少量で高カロリー摂取。水溶性と不溶性の食物繊維を両方摂れるので腸内環境にも◎)
- ナッツ類(タンパク質、脂質を含む)
- ココナッツオイル(消化吸収されやすい中鎖脂肪酸を含む。1gあたり9kcalと高カロリー)
- アボカド(カリウム、抗酸化作用のあるビタミンEを含む。高カロリー)
- キヌア(NASAの宇宙食にも採用。必須アミノ酸9種、ビタミン、ミネラルを含む)
三大栄養素である「タンパク質・脂質・炭水化物」を意識し、基本的には行動食と夕食1回で1日の食事を組み立てた。行動食には、ドライ納豆やナッツ類、炒ったポップコーン、果肉を砕いただけの乾燥梅などを選び、甘味には黒糖と、砂糖不使用のドライフルーツを選択。というのも、グラニュー糖にもアレルギー反応が出てしまうためだ。
夕食はお湯を注ぐだけで食べられるスモールツイストのトレイルフード(なかでも高カロリーなミートソース味を12食)とクスクスの組み合わせ。調味料は、塩、味噌、粉末のあごだしを持参し、アイスランドでは有塩バターだけを現地で購入した。これらで合計約45,000kcal、重量にして約8kg。バックパックのメイン収納はこの食料だけでパンパンになった。

…でも、気づいただろうか? 1日3,000kcal × 20日分 = 60,000kcal。そう、15,000kcalも足りないのだ。そのとおり、最初から「足りない」前提での計画だった。
なぜかと言うと、一般的な成人男性の体には、およそ30,000kcal分のエネルギーが脂肪などに蓄えられているという。であれば、不足分の15,000kcalは「自分の体で補う」。無謀だと言われればそのとおりだけれど、僕は「食べること」よりも「歩くこと」を優先した。
日ごとに少しずつ削れていく身体。しかしそれは、失うことではなく、何かが身体に刻まれていく感覚があった。言葉では語れない何かを、僕は少しずつ身体の内側に受け取っていくことになる。

今回歩いたルート。アイスランド最北端の灯台「フラウンハフナルタンギ」から最南端の灯台「ディルホゥラエイ」まで、中央高原地帯「ハイランド」を突っ切って604kmを歩く。
来た道を5kmほど引き返し、コーパスケールの町まで約40km歩く。昨日と同じ道のはずなのに、進行方向が変わるだけで、景色がまったく違って見えるのが不思議だ。風は相変わらず強いが、歩いていれば寒くはない。未舗装路を淡々と進む。道の脇では、羊の親子が草をはんだり、のんびりと動き回っていた。まだこの時はその姿が物珍しくて、思わず目で追っていた。でもまさか、この先の旅で人間よりも羊に多く出会う日々が待っているとは、思いもしなかった。

逆光の羊のファミリー
しばらくして、分岐も目印も何もない場所に出た。けれど、うっすらと続く獣道のようなラインがあり、「たぶんあそこだな」と身体が自然に方向を示してくれる。GPSを確認してみると、進行方向に間違いはなかった。これまでは西へ向かっていたが、ここからは南へと進む。苔むす溶岩原、なだらかな丘陵、渡渉のないまっすぐな地形。どこか荒涼とした美しさに満ちた世界を、ただひたすらに歩いていく。

矮性植物
アイスランド北部の原野には、強風と寒冷な気候、そして貧しい土壌に適応した矮性植物が広がっている。かつての火山活動で露出した溶岩の表面を、小さな植物がびっしりと覆い、起伏のある丸い丘が延々と連なっている。その変わらぬ風景のなかを、3時間ほど無言で歩き続けた。気づけば、テンションが少し上がっていたのか、80年代から90年代のJ-POPを口ずさんでいた。普段はそんなことをしないのに、驚くほどスラスラと歌詞が出てくる。大人になってから覚えたことはすぐ忘れてしまうのに、子どもの頃に染みついた言葉やメロディは、どうしてこんなにも残っているのだろう。誰に聞かせるでもなく、そんなことをぼんやり考えながら歌っていた。
やがて少し疲れてきたので、風を避けられそうな地形を見つけて、そこで小休止を取った。見渡すかぎり、人も建物も、人工物も何ひとつない。ただ、広大な大地と空があるだけの世界。少しの孤独を感じながら、昨晩作っておいたポップコーンをむさぼるように食べた。
「もう20km歩いた。残りはあと20km。あと4時間も歩けば、今日が終わってしまう」そんなふうに呟いて、また静かに立ち上がり、どこまでも続く真っすぐな道へと足を踏み出した。

どこまでも続く原野
しばらく歩くと、一帯がしっとりした湿地に変わった。道の正面には、巨大な水たまりがどんと居座っている。土は水分をたっぷり含んだ粘土質で、踏み込めば一瞬で足元がぐちゃぐちゃになるのが目に見える。横から迂回できないかとあたりを見渡すが、どこも同じような湿地だ。避けようがない。
「この旅には大小の渡渉が山ほどある。こんなものは序章にすぎない。あきらめが肝心だ!」そう自分に言い聞かせて、なるべくぬかるみを避けながら慎重に進んでいく。泥だらけになるのは、なんとか最小限で抑えられた。いつの間にか、歩いている方角が南から西へとゆるやかに変わっていた。

道は相変わらず、真っ直ぐに続いている。さっき泥でぐしゃぐしゃになった足も、気づけばすっかり乾いていた。さらに2時間ほど歩いただろうか。周囲の景色に、少しずつ変化が現れ始める。両側を山に挟まれた、谷筋のような道へと入っていく。谷を抜けたその瞬間、ふわりと風が頬をなでた。
どこか上品で、爽やかな香水のような香り。思わず深呼吸する。あたり一面に、ルピナスの花が咲き乱れていた。その奥には、青く開けた海が遠くに見えた。そして海のそばに、今夜の宿となるキャンプ場の建物が見えてきた。山を下り、牧場のあぜ道を抜ける。遠くに見えていた建物が、少しずつ近づいてくる。羊の姿もちらほらと見え、どこか懐かしい気持ちになる。15:00頃、コーパスケールのキャンプ場へとたどり着いた。

自然にできたお花畑
今回の旅では、毎日4:00時に歩き始め、16:00には歩き終える――1日12時間行動をひとつの目安としていた。今日は少し余裕を持ってのゴールだった。キャンプ場には管理小屋があり、水道、トイレ、そしてありがたいことにシャワーまで完備されていた。料金はたしか2,000円ほどだったと記憶している。ただ、到着した時には管理人の姿はなく、どこで料金を支払えばいいのかも分からない。
とりあえず、先にテントを張ることにした。まわりには、ずらりと大きなキャンピングカーが並んでいて、どう見ても自分だけが徒歩旅だ。極小テントのヘリテイジのクロスオーバードームF<2G>をちょこんと張る自分の姿は、少し場違いに映ったかもしれない。でも、まあ仕方ない(笑)。設営を終え、明日の行動食にするためにポップコーンを作る。疲れた足をじっくりマッサージしながら、ゆっくりと時間を過ごした。……が、風が強くてなかなか落ち着かない。気持ちまでそわそわしてくる。18:00ごろ、外が少し騒がしくなってきた。
気になってテントの中から顔を出すと、40〜50代くらいの女性が、キャンピングカーを1台ずつ回って大きな声で何やら話しかけている。耳を澄ませると、どうやらこのキャンプ場の管理人らしく、宿泊費を徴収して回っているようだった。やがて僕のテントの前にもやって来た。「何泊するんだい? 小さなテントだね? どこから来たの?」立て続けに質問が飛んでくる。「日本から来ました」と答えると、「なるほどね」と、納得したように頷く。
続けて、「日本人がミニマルなのは知ってるけど、いや〜それにしても小さなテントだなあ!」と笑いながら言われた。褒めてくれたのか、皮肉なのか、判別はつかない。でも、まあ悪意はなさそうだったので、苦笑いしながら「サンキュー」と言って、宿泊代を手渡した。
そうこうしているうちに、空の様子が一変した。風が強まり、ぽつぽつと雨が降りはじめる。あっという間に雨脚が強くなってきた。アイスランドの天気は、1日のうちに何度も空模様が変わる。晴れ、風、雨……めまぐるしく過ぎていく。テントにこもると、すぐに雨音が激しくなった。バチバチとテントを叩く雨と、バタバタとはためく幕の音がやかましい。でも、どこか心地良さもある。寝袋にくるまり、雨音を聞きながら横になっていると、いつの間にか眠っていた。

群生するルピナスの上を飛ぶカモメ
7月13日(2日目)ロード歩きだけの日
朝、出発の準備をしていると、夜通し降っていた雨が、ありがたいことに小雨へと落ち着いていた。覚悟していたほどの大雨ではなかったことに、少しホッとする。歩き始める頃には、ほとんど雨も止んでいた。今日の目的地は、大きな崖に囲まれたアウスビルギ・キャンプ場。来る時にヒッチハイクで通った道を、今度は自分の足で、淡々と引き返すことになる。ずっとロード歩きの1日。景色も、単調と言えば単調だ。
海沿いの道を歩いていると、1羽のカモメがこちらに気づいたのか、しばらく並走してきた。旅のパーティーにカモメが加わったような、不思議な気分になる。桃太郎も、こんなふうにキジと歩いていたのだろうか。そんな想像をして、ひとりで微笑んだ。雨は早々に止んだが、太陽はとうとう顔を出さなかった。空はどんよりと重く、今にも降り出しそうな雲が広がっていたが、幸い雨は1滴も落ちてこなかった。

ロードから見る何気ない風景がすごい。
足取りは軽く、順調に歩みを進める。予定よりも早く、アウスビルギ・キャンプ場に到着した。想像していた以上に広いキャンプ場だった。遠くからでも、キャンピングカーやラグジュアリーなテントでくつろぐファミリーたちの姿が見え、僕の旅とは違う、賑やかな時間が流れていた。アスファルトの道をずっと歩き続けたせいか、足にはどっと疲労がたまっていた。けれど、まず何よりも空腹だった。とにかく、何か食べたかった。
アイスランドに来て4日目を迎え、日本の味がもう恋しくなっていた。迷わず味噌バタークスクスを作ることにする。味噌は、妻のみなちゃんが仕込んでくれた自家製。出汁は、山と道京都スタッフのジョージがくれた屋久島のあご出汁の粉末を使用。それを湯で溶かし、クスクスを加えて、仕上げにバターをたっぷり絡める。立ちのぼる香りだけで、腹がぐぅっと鳴った。熱々のクスクスを、火傷しそうになりながらハフハフと頬張る。旨みがすごい。塩気が身体に沁みる。疲れがふっと抜けていくような、そんな幸福感に包まれた。外はまだまだ明るかったが、まぶたがじわじわと重くなる。テントに横になると、気づけばすぐに眠っていた。

みなちゃんの自家製味噌
――ところが、突然。「ドンッ!」という衝撃音がテントを揺らす。身体が勝手にビクッと跳ね起きる。心臓が、早鐘を打っている。何が起きたのか分からず、テント内に破損がないかを確認。幸い、中は無事だった。恐る恐るジッパーを開けて外をのぞくと、サッカーボールを手に持った親子が立っていた。どうやら、近くでボールを蹴り合っていて、勢い余ってテントにぶつけてしまったようだ。人の多いファミリーサイトを避けて、端の端にテントを張ったはずなのに、なぜまた……(苦笑)。
ふたりは何も言わず、じっとこちらを見ている。たぶん、怒鳴られるのを覚悟していたのだろう。でも、こっちもどう対応すべきか分からない。とっさに出た言葉は、「Sorry」。そして、すぐにテントの中に引っ込んだ。
「なんで俺が謝らなあかんねん……」そう小さくつぶやいて、自分の情けなさに顔が熱くなる。赤面している自分自身に、さらに腹が立ってくる。けれど、この怒りをぶつける先はどこにもない。気持ちを落ち着けようと、明日のためのポップコーンを作る。ポンポンと弾ける音に、少し気が紛れる。けれど、モヤモヤは完全には消えなかった。それでも、身体は疲れに正直で、いつの間にかまた眠ってしまっていた。

朝焼けのアウスビルギ
7月14日(3日目)痛恨のロスト
ここ「アウスビルギ」は、「神の砦」を意味する場所。巨大な断崖に囲まれた馬蹄形の谷で、長さ3.5km、幅1.1km、高さ100mの絶壁が弧を描くようにそびえている。
朝、テントの外に出ると、草木がしっとりと濡れていた。夜のあいだに、また雨が降っていたらしい。鳥のさえずりが頭上を行き交い、澄んだ空気を深く吸って吐いた「なんて気持ちのいい朝だ!」昨日のモヤモヤはどこかに飛んでいったようだ。
この2日間を歩いてみて、足の調子も良く、体力的にも余裕があった。感覚的には「デティフォスの滝」辺りまで歩けるかもしれないという手応えを感じていた。地図も見ず、ただ気持ちの赴くままに歩いた。風に揺れる背丈ほどのバーチの林(この高さの木々が見られるのはアイスランドでは珍しい光景で、その理由は、諸説があるそうだが、周りを渓谷に囲まれていることで風が弱まり、植物の生育に適した安定した環境が保たれているからと言われている)。
谷の奥へと30〜40分ほど進むと、高い壁が、行く手を遮るように立ちはだかった。足元には、崖の上から流れ落ちる水が、小さな池を作っていた。水辺は、驚くほど澄んでいて、静かだった。風もなく、水音もかすか。言葉が見つからないほどに穏やかな、まるで時間が止まったような場所だった。神の砦の奥に、ほんの少しだけ触れさせてもらったような――そんな朝だった。

ボトンストゥルン池
けれど、ふと、妙な違和感に気づく。どこを探しても、トレイルが見当たらなかった。「あれ……?」と地図を取り出し、スマホで現在地を確認する。俯瞰された地図をズームしてみると……ガーン。スタート地点から、ルートをまるごと間違っていた。また戻るしかない。がっくりと肩を落としかけたその時、空は晴れているのに、突然雨が降り出した。斜めに差し込む朝の光が、降り注ぐ雨粒に反射して、空中に無数の光の線を描き出す。まるで、天から降る光そのもののようだった。写真を撮るのさえ惜しいような、美しい瞬間。でも、カメラを構えて、1枚だけ、レンズ越しにその「光の雨」を切り取った。
――これはきっと、アイスランドの神様がこの風景を見せるために、僕をここまで導いてくれたんだ。そう勝手に美化して、自分を納得させることにした。いや、そう思いたかった。

光の雨
スタート地点付近まで戻ってきた。仕切り直して、あらためて地図を確認する。正しいルートをたどっていくと、進行方向にそびえ立つ崖が漫画『進撃の巨人』のウォール・マリアのように見えてきた。あの崖の上から巨人が覗いていたら……。そんな妄想をしただけで、背筋がゾッとする。
地図の指し示す先には、やはりその崖を登るルートがあった。しっかりと鎖が設置された登山道で、高所恐怖症でなければ問題はない。けれど、その標高差はおよそ100m。タワーマンションでいえば25階ほどの高さ。恐怖を感じるには、十分すぎる高さだろう。
登りきると、眼前に広がるのは、巨大な渓谷。目を奪われるようなスケールに、思わず息を呑んだ。道は、この切り立った崖の縁をたどって、さらに続いていく。「どうやって、こんな地形ができたんだろう?」自分なりに考えて、たぶん地殻変動だろうと納得してみる。(あとで調べると、これは氷河がつくった洪水によって削られた地形らしい。北欧神話では、神であるオーディンの馬・スレイプニルが地面に足をつけた跡、とも語られているという)。

アウスビルギの渓谷
しばらく進むと、トレイル上にはマウンテンバイクの轍が残っていた。崖っぷちギリギリの岩場を、バイクで走る人がいるのか――驚きながらも、タイヤの跡をたどりながら進んでいく。ふと、視界の端に羊避けの柵が現れる。高さはおよそ1.5m。日本なら扉やゲートがついていそうな場面だが、アイスランドでは、またいで越すための梯子のようなステップが設置されていた。こういう細かな違いが、なんだか面白い。
ところが、1時間ほど歩いた頃、進行方向が南から東へと大きく曲がっていることに気づく。「あれ?」とGPSを確認してみると――やってしまった。またルートを外れていた。どうやら、分岐を見落としていたらしい。このまま進んでも正規ルートには合流できそうにない。これまでの経験上、ロストした時に無理をして進んで良かった試しはない。戻るしかない。そう判断して、再び歩いてきた道を引き返す。アウスビルギの渓谷まで戻ってきた時、悔しさと情けなさが一気に押し寄せてきた。
なぜ、あんな分かりやすい分岐で間違えたのか……。今日は当初の目的地を越えて、さらに先まで進むつもりだったのに、その計画も白紙だ。気づけば、今日だけで2度目のロスト。精神的な疲労と食糧の重さがずっしりと肩にのしかかってくる。それでも足を進める。
渓谷沿いを歩き、やがて植生が消え、赤土の丘「ラウズホウラル」にたどり着く。まるで伊豆大島の砂漠地帯のような、むき出しの大地。しばらく歩くと、再び緑が戻ってきた。その時、遠くに巨大な岩塊が現れた。まだかなり距離があるはずなのに、すでにその存在がこちらへ迫ってくるような、圧倒的なスケール。
近づくと、岩肌には幾何学模様のような奇妙なパターンが刻まれていた。設置された看板には「フリョゥザクレッタル」とあり、別名「エコーロック」と書かれている。この岩は音の反響が非常によく、かつては精霊の声が聞こえると信じられていたらしい。そのすぐ近くに、「エコーロック・キャンプ場」への標識が立っていた。本来の目的地よりも手前の地点だが、ロストによる疲労と、8時間近く歩いた身体を休めるにはちょうどいい場所だった。ここで、3日目を終えることにした。

フリョゥザクレッタル(別名:エコーロック)

エコーロック・キャンプ場
キャンプ場では、数組の家族がそれぞれ楽しんでいて、静かで気持ちのいい場所だった。水場もトイレもあるだけで、十分すぎるほどありがたい。風は相変わらず強かったが、晴れ間が広がり、アイスランドに来てからいちばん強い日差しが差していた。白夜に備えて持ってきたソーラーパネルをここぞとばかりに広げて、モバイルバッテリーを充電する。これまで慌ただしく進んできた旅のなかで、ようやく訪れた穏やかな時間だった。
長めに足をマッサージし、音楽を聴きながら、ゆっくりと身体と心を整えていく。そして、もう2度とルートを間違えないように、地図を開いてこれからのルートを再確認した。夕暮れも訪れない明るい空の下で、この日をそっと締めくくった。

21:00のキャンプ場
7月15日(4日目)巨大な滝へ
4日目は、本来であれば昨日たどり着く予定だったヨーロッパ最大級の滝「デティフォス」を経由してエイリフスヴォトン湖の辺りを目指す。アイスランドに来る前から、デティフォスの滝を訪れるのをずっと楽しみにしていた。6〜7時間かかる予定で、そのあいだ渓谷の上をずっと歩いていくことになる。昨日はロストもあったけれど、思いがけず長めの休息を取れたおかげで、アイスランドに来てから心身ともに、いちばんリフレッシュできた朝だった。
歩き始めてしばらくすると、今回のルート上で初めて小さな川に出会った。深さは膝下ほどで、幅は5mほどの浅瀬。事前の情報収集でアイスランドのこのルートでは大小さまざまな渡渉があることを知っていた。毎回靴を脱いでいたら大変なので、今回選んだのはビボベアフットのトラッカーサンダル。この選択は正解だったと思っている。
じゃぶじゃぶと入っていくと、足に水が触れた瞬間、氷のように冷たかった。氷河の溶けた水だから当然かもしれないが、想像以上の冷たさに驚く。わずか5mの渡渉でも、向こう岸に着いた時には足先がキンキンに冷えていた。冷えきってしまう前に、足先まで血を巡らせるイメージで、その場で足をバタバタと踏んで温める。「浅瀬でこれほどの冷たさなら、この先の渡渉はどうなるんだ……」と不安になりながらも、びしょびしょになった足元を気にしつつ、また歩き出した。

初めての渡渉
本当に、このトレイルでは誰にも会わない。昨日のキャンプ場にいた人たちも、みんなクルマで来ていた。そもそも、こんなふうに歩いて移動する人は、きっとほとんどいないのだろう――そう思っていた、その時だった。
遠くに、ひとりのハイカーが見えた。大きなバックパックを背負い、こちらに向かって歩いてくる。道は1本きりだから、すれ違うのは間違いない。今回の旅で初めて、トレイル上で出会うハイカーだ。何て声をかけようか、考えているうちに、あっという間に近づいてきた。なんと、女性だった。
「ハーイ!」と、自然に声をかけ合う。軽く立ち話をすると、彼女は、僕が明後日に着く予定の町あたりから歩いてきているらしい。僕の行き先を話し、しかも無補給の旅だと伝えると、「荷物、それだけ?」と驚いたように目を見開いていた。久しぶりに人と話すのが、思った以上に楽しかった。もう少し話したい気持ちをこらえながら、お互いに旅の無事を祈って、手を振って別れた。広い原野に戻ると、またひとりきりの世界だった。でもさっきまでとは少し違う。自分の旅が、ちゃんと誰かとつながっているような、そんな心強さが残っていた。

アイスランドで出会った初のハイカー、アマゾンちゃん
遠くの地平線に、ようやくデティフォスの滝が姿を現した。遠目にも、ただならぬ存在感だ。なのに、歩けども歩けども、なかなか近づかない。滝の音が聞こえるわけでもなく、距離感がうまくつかめない。しばらくすると、トレイルが渓谷沿いから外れ、少し内陸に入った。すると、風景が突然、がらりと変わった。
「なんだ、ここは……!」
気づけば、僕は真っ黒な溶岩地帯に足を踏み入れていた。足元は、ゴツゴツとした黒い岩か、それが砕けてできた細かく滑らかな砂。その砂にズズズッと足を取られる。歩くたびに力を吸い取られていくようで、なかなか前に進まない。さらに、サンダルの中に砂がどんどん入り込んでくるのが、また厄介だ。写真では絶対に伝わらないスケール感。すべてが大きい。黒い地表に飲み込まれそうになる。こんな風景、日本では見たことがない。目の前に現れる地形に、ただただ圧倒されながらも、ひたすら歩き続けた。

荒涼とした溶岩原
ついに――「ゴゴゴゴゴ!!!!!!」という地響きのような音とともに、それは姿を現した。デティフォスの滝。とてつもない水量、轟音、白い飛沫。そこにあるのは、美しさというより、畏怖だった。自然の力に呑まれるような感覚。思わず立ち尽くす。あまりのスケールに、何か巨大なものに睨まれているような気すらして、背筋が少しだけ震えた。

デティフォスの滝
ふと視線を上げると、展望台には観光客の姿がたくさん見えた。どうやら自分が歩いてきたトレイルも、あの展望台につながっているようだ。柵を越えて入ってくる僕の姿に、何人かの観光客がこちらを見て目を丸くしている。通報されそうな雰囲気ではなかったけれど、なんとなく気まずくなって、そそくさと展望台を離れた。
滝をもっと間近で見られる場所があると知り、そちらへ向かう。だが、そこへ続く道は観光客で溢れていた。細くて急な階段が続き、進むのに時間がかかる。まさか滝の近くで人の渋滞に巻き込まれるとは思ってもみなかった。ようやく滝の目の前に立つと、ちょうど虹がかかっていた。ご褒美のような光景。陽光と水飛沫が交差する場所に浮かぶ虹。その美しさには、しばし見惚れた。けれど、滝の轟音があまりにも大きくて、長居する気にはなれなかった。

滝の谷底からのびる虹
観光地らしい雰囲気と人混みに、早くも身体が遠ざかりたがっているのを感じて、そっとその場を後にした。駐車場に出ると、一般車にキャンピングカー、観光バスまでずらりと並んでいた。さっきまで歩いていた静かな溶岩地帯とはまるで別世界だ。
トイレを拝借し、少し休憩。大きい岩に腰掛け、観光客たちのざわめきを眺めながら過ごす。ふと、視線の先に小さな動きが見えた。豆粒のような自転車の一団が、遠くからこちらに向かってくる。どうやら、自転車旅をしているグループが、この滝を目指してやって来ているようだ。彼らもまた、自分とは違うスタイルで、この場所を目指してきた。そんなことを思いながら、僕は再び立ち上がった。

デティフォスの喧騒から離れ、少しだけロードを歩いたあと、ふたたび原野の中へ入っていく。さっきから見えていた山が、だんだんと近づいてきているのが分かる。今日も、昨日と同じく、ただひたすら原野を歩く。どこまでも続く、道なき道。地平線の向こうまで広がる大地。
昨日から続く強い日差しに、知らぬ間に水分を多く摂っていたようで、水の残りが心許なくなってきた。水場があるか不安に思っていたその時、遠くのほうに湖が見えて、胸を撫で下ろす。まだ距離はあるが、地図で確認するとルートからは少し外れるものの、問題なさそうだった。あの湖まで行けば、水を補給できる。湖の近くには、白鳥の群れがいた。野生の白鳥を見るのは、もしかするとこれが初めてかもしれない。渡り鳥は、ちゃんと良い場所を知っているんだな、と妙に感心した。湖のほとりで、ウォーターキャリーに水を補給する。今日の夕食用、そして明日分も合わせて、4L。背負うには重いが、安心には変えられない。

エイリフスヴォトン湖
そこから今日の野営地まで、もうひと歩き。あと1時間ほど。エイリフスヴォトン湖(意味:永遠の湖)からやや離れたその場所には、周囲に人の気配はなく、羊のファミリーがいた。近くには、風にさらされ、色あせた小屋がぽつんと建っていた。窓越しに中を覗いてみると、内部はすっかり朽ち果てていて、足を踏み入れる気にはならなかった。
あとで調べてみると、この地域には、かつて牧畜や狩猟のために使われていた古い小屋がいくつか点在しているらしい。今ではどれも役目を終え、朽ちるままにそこに残っている。そのうちのひとつが、きっとこの小屋なのだろう。その近くにテントを張った。
この日は、旅のなかで初めて電波が完全に届かない野営地だった。いつもなら、みなちゃんに1日の報告をする時間。でも今日は、それができない。そのせいなのか、それとも、空の色がそうさせたのか――ふと、日本のことを思い出して、無性に寂しくなった。旅の途中で初めて、はっきりと「遠くに来たんだな」と思った。郷愁を感じながら、静かに眠りについた。

ノスタルジーな空
7月16日(5日目)レイキャフリーズまでの道
昨晩は、あまり眠れなかった。朝、ぼんやりと起き出して、何も考えずに空を眺めていた。朝焼けが空を染めていく。そのグラデーションを、ただ静かに見ていた。アイスランドに来て初めて風がない朝だった。いつもなら吹き続けている風が、まったくない。穏やかなのはありがたい。……が、その代わりにコバエがそこら中に飛んでいた。これまで虫の姿をあまり見なかったのは、風のせいだったのかもしれない。顔のまわりをまとわりつくように飛び回るコバエを払いながら、レイキャフリーズの町にあるキャンプ場までの約30kmを歩き始めた。

このあたりの風景は、どこか北アルプスの雲ノ平を思わせる雰囲気だった。ただし、決定的に違うのは「道がない」ことだ。低い枝の植物が地面を覆っていて、その上を踏みしめて進まなくてはならない。足を取られ、思うように前に進めない。こまめにGPSを確認しながら、ルートを修正しつつ、ガシガシと足を上げて歩いていった。やがて、低木帯を抜けると、再び黒い砂漠地帯に入った。昨日よりも足が深く沈み、体力が奪われていく。しかも、サンダルの中に砂がどんどん入り込んでくる。気がつけば、中は砂でパンパンだ。靴を脱いで砂を出すのも、毎回時間を取られて面倒だ。その時、ふと思いついた。
「いっそ、靴の中を砂で満たしてしまえばいいんじゃないか?」
つまり、砂がもうこれ以上入らないくらいまで満たして、インソールの代わりに砂を敷き詰めてしまうという荒業だ。試してみると、意外と悪くない(気がした)。違和感はあるけれど、面倒臭さが勝っていた。「砂インソール、意外とアリかも(笑)」もちろんそんなはずはないし、誰にもおすすめはしない。でもこの瞬間だけは、自分なりの正解だった。

さらに進むと、今度は低木と湿地が入り混じったようなエリアに出た。びしょびしょではないけれど、足元は緩く、砂とは違った意味で沈む。その先に、突然、雪渓が現れた。ああ、そうか。このエリア一帯を、かつては雪渓が覆っていたのだろう。雪が溶けて、その下にあった湿地が顔を出した――そう思えば、納得がいく地形だった。どうしようもない歩きづらさではあったが、それすらも楽しみながら、アイスランドの大地を今日もひたすらに歩いていく。

硫黄の噴火跡
また、景色が一変した。広大な原野に、右を向くと硫黄の噴火跡が混ざり合い、地面は白や黄に染まっている場所。左を向くと突如としてドーム型の人工物がいくつも建っている。なんだ、ここは? 火星に住みついた人類の基地のような光景。まるで映画のセットか、あるいは火星移住のシミュレーション施設のようにも見える。
だが、周囲に人の姿はまったくない。そこにいるのは、やはり羊の群れだけだった。さらに奇妙なのは、そのドーム型の建物から何本ものパイプラインが伸びており、それが地面を這うようにして、はるか遠くの丘の向こうまで続いていたことだった。どこまで伸びているんだろう? どこに繋がっているんだ? 気になって仕方がなかったので、確かめるために歩き出した。

突然現れた謎の建物
丘を越えてパイプラインをたどっていくと、ようやくその正体が明らかになった。そこにあったのは、クラフラ火山地熱発電所。無数のパイプラインが、あらゆる方向からプラントへと入り込んでいる。まるで、巨大な生き物の血管のようだった。その長さも、方向もバラバラで、どこから来ているのか見当もつかない。中には1km以上離れた地点から繋がっているようなパイプラインもあった。あまりに不思議な光景に、しばらく呆気にとられて立ち尽くした。

クラフラ火山地熱発電所
そして、持っていたポップコーンをひとつ、ぽいと口に放り込む。そういえば、アイスランドのエネルギー事情が頭をよぎる。この国では、電力のほぼ100%が再生可能エネルギーによってまかなわれていて、そのうち約70%が水力、そして約30%が地熱によるものだという。なんとも素晴らしい話だ。自然とともに生きていくことが、ちゃんと形になっている。そんな社会のあり方、暮らしが、ちょっとうらやましくなる。そんなことをぼんやりと考えながら、僕は再びバックパックを背負い、地熱発電所を後にした。

クラフラ火山跡
クラフラ地熱発電所から少し離れた場所には、火山のマグマが生んだ溶岩原の上に約20kmのトレッキングコースが続いていた。そこは、まるでゴジラの背中のように、ギザギザとした溶岩のかたまりは、まさに大根がおろせそうな鋭さだった。そんな荒々しい溶岩の上を、慎重に歩いていく。
それにしても、気になるのは履いているビボベアフットのトラッカーサンダルのソールが薄さだった。ベースの厚さは3mm、ラグは4mmとされている。これまで歩いてきて、すでにラグがすり減ってきてるのを感じてたので、この溶岩の鋭さが、いつか底を突き破るんじゃないかと、不安が頭を離れなかった(後日確認すると、この時ではないかもしれないがソールの母趾球の辺りに亀裂が入っていた)。
長くて険しいマグマの道を抜け、やがて小高い丘のほうへと進んでいく。丘を登りきると、視界が一気に開けた。遠くに、大きな湖のほとりにある町が見える。今日のゴール、レイキャフリーズだ。この町は、海外からの移住者が多く住んでいることで知られている。どこか異国の香りが漂う町並みが、遠目にも感じられた。

マグマが流れた跡の脇で休憩
キャンプ場へ向かうためにロードを歩いていた時のこと。突然、後ろから誰かが走ってきて、「Hello!」と声をかけられた。軽快な足取りのその男性と話してみると、彼はフランス人だった。実は、僕の妻・みなちゃんはフランス語の先生をしていたことがあって、僕も挨拶程度のフランス語は教わっていた。試しにフランス語で話しかけてみると、思いがけず会話が弾んだ。まさか、ここでフランス語が活きてくるとは(笑)。
彼もハイカーで、このレイキャフリーズから僕と同じルートを歩いていく予定だという。同じ道をたどる者同士、不思議な親近感が生まれる。「またどこかで会えたらいいね」そう言い合って、握手をして別れた。旅の途中、誰かと言葉を交わすことの温かさが、じんわりと胸に残った。

フランス人のアントワンヌと僕
15:00頃、キャンプ場に到着した。思っていたよりも早い到着だったこともあり、まだほとんど人がいない。ここもまた、とても広い。そして例のごとく、メインはオートキャンプ。アイスランドは白夜だから、夜になっても普通にクルマでやって来る人が多い。前回の「サッカーボール事件」を教訓にして、今回はさらにキャンプ場の端のほうにテントを張った。
明日からはいよいよ、アイスランドの内陸・ハイランドに突入する。この先、電波はほとんど入らず、水の補給箇所も不確かなエリアが続く。いったんハイランドへ入れば、途中からエスケープできる場所はない。もと来た道を戻るか、先へ進むか、選択肢はふたつしかない。緊張感が、じわりと増してくる。今日はまだ電波が入るキャンプ場なので、ルートの見直しや天気予報のチェック、必要な情報収集をしっかりと行った。日差しも強く、持参していたソーラーパネルはしっかりとモバイルバッテリーを満たしてくれた。順調だ。
明日は目的地のボトニハットまで、およそ50kmの長い1日になる。地形もさらに厳しく、気象条件も読みにくいエリアだ。アイスランドの本領が、いよいよ始まる。それでも、恐れよりも、楽しみの方が勝っていた。未知の風景、知らない地形、自分の足で踏みしめるしかない道。今夜は、しっかりと身体を休めよう。静かに整えて、深呼吸して、明日を迎える準備をした。

【#3へ続く】
GEAR LIST
BASE WEIGHT* : 4.36kg
*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量






YouTube
苑田とスタッフJKが旅の模様をYouTubeでも振り返りました。