11月の奥秩父主脈縦走0泊2日

2020.12.02

社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課され、山休暇制度のある山と道。願ったり叶ったり! と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんな山と道スタッフの日々のハイキングの記録です。

今回は、『山と道ラボ』でもお馴染みの研究員の渡部隆宏の奥秩父主稜縦走のログとなりますが、『ラボ』でも毎回ちょっとどうかしている(笑)、濃さのリサーチとレポート(先日ベースレイヤー編#6が公開になりました)を行なっている渡部は、実は山行スタイルも山と道随一の変わり者。

なんでも最近では「0泊2日」のファストパッキングにはまっているとかで、通常は3日から5日かけて縦走する奥秩父主稜縦走路を丸2日で駆け抜けてしまおうというのだから、本当にどうかしています(褒めてます)!

真っ暗な山を幻聴を聴きながら駆け巡るクレイジーなレポートにどうぞお付き合いください!

文/写真:渡部隆宏

TRAIL LOG

夜に山を歩くのが好きだ。

そんなことを話すと、大丈夫か、怖くないのかと聞かれることもある。一般的に、山では夜間の行動を避けるようにと言われている。

夜の山は昼間よりもルートを見失いやすいし、障害物にも気付きにくく、気温も下がり、動物たちも蠢いているし、無気味だ。

確かに危ないし怖いところもあるけれど、それが魅力だったりする。闇の中、ヘッドライトの灯りを頼りにひとり歩いていると生き物としての本能が目覚める気がする。

いつしか終電で登山口にたどり着き、そこから0泊2日で夜通し歩くのが私の中心のスタイルになった。

「0泊」とは文字通り宿泊せず、せいぜい仮眠程度でひたすら歩くということだ。そしてなぜ2日かというと、単にそのくらいが(私にとって)連続行動時間の限界だから。泊まりがない分だけ行動の自由度は高く、小屋やテン場のチェックイン時間にも制約されることがないので、思うままに長く歩くことができる。

山の中で夜が明けるといつも思う。

「朝が来てしまった」

【2020 11/6 00:35】JR日野春駅

奥秩父主稜縦走路。通常は瑞籬山荘とJR奥多摩駅を結ぶ約69km、累積標高約5200mのルートをさす。今回は(バス代をケチって)小淵沢の少し手前、JR日野春駅からスタートすることにしたので、100km超えになりそうだ。

このルートの課題は水場の少なさとエスケープルートの乏しさ。今年は新型コロナウイルスの影響で小屋が利用できるかも不確実であり、自分の走力では完全無休0泊はだいぶ難しいと考えた。晩秋で気温も低いため、ふだんは持たないツェルトをザックに押し込むなど、いざという時の装備も揃えた。

スタート地点の日野春駅は標高615mと既に寒く、歩き出すが脚が重く感じる。

グーグルマップ通りに歩いていたら通行止めで大幅に時間をとられてしまった。

途中のセブンイレブン(高根箕輪店)で弁当を食べ行動食を調達。たくさん水を買ってしまったが、実際にはこの先も無数に自販機があった。余計な体力を使う。

夜の山よりもトンネルの方が怖い。

【06:17】瑞牆山荘

スタートから約30km、約900m登った。

セブンイレブンからここまで誰にも会わなかったが、山荘では数名のハイカーを見かける。当たり前だが、ここまではバスかクルマで来ることもできる。

依然として脚は重く、この先の長い行程を考えて弱気になる。

瑞牆山荘とバス停。

【07:03】富士見平小屋

残念ながら食堂はまだ開いていなかった。この先どこかの小屋で暖かい食事をとることができればと思ったが、そんな機会は最後まで訪れなかった。

魅力的なメニューに目移りする。

【08:16】瑞牆山

実は初めての山。岩場はワイルドで楽しく、景観もすばらしかった。

眺望最高。

沖縄なら聖地になりそう。

道は荒れていた。

【09:19】小川山分岐

瑞牆山を降りて小川山方面、八丁平へ。破線ルートで入口こそ迷うものの、入ってしまえば新しいリボンがあり問題なし。倒木が多く、夜であればかなり迷ったかもしれない。

気温6度。寒い。

倒木多数。

【12:50】金峰山

樹林帯を抜けて大日岩から岩場の稜線へ。空は晴れ渡り、素晴らしい景色だった。

金峰山の山頂にある五丈石には半分くらいまで登るがルートを見つけることができず断念する。

金峰山のシンボル五丈石。その向こうに富士山も見えた。

【14:27】大弛峠

14時間くらい歩いているので眠くなってきた。疲労も感じていたため、ここで仮眠を取ることにする(もともと今回の装備では夜を越せないと考えていたので、気温の高い昼間のうちに寝て、夜に行動することにしていた)。

山と道ミニマリストパッドを2つ折りにして横になる。風が強く実際眠れなかったと思うが、目をつぶって横になるだけで少し回復した。1時間ほどうだうだ過ごして、湯を沸かしカレーメシを食べ、コーヒーを飲んで出発。

はるか先の破風山避難小屋まで水場の保証がないので、ここで十分に補給した。

大弛小屋は無人で、テントは申し込み書とお金をポストに入れて申告する仕組み。

テン場は私のみで貸切状態だった。

【17:39】国師ヶ岳

大弛での休憩で多少回復したものの、鉄道での移動時間を含めて24時間くらい起きている。奥秩父最高峰の北奥千丈岳へは余裕がなくパスする。

気温4度。幻聴がするようになってきた。

ここから2度目の夜がはじまる。

【21:50】甲武信ヶ岳

稜線は風速10m/sくらい。シェルを羽織ってフードを被るが、少しでも止まると寒い。

甲武信小屋で行動食を調達しポカリを飲む。外の水場は止まっていた。

甲武信小屋。お金を箱に入れて商品を手に入れる無人売店システムのため大変助かった。

うっすら街の灯りが見えた。

森の中で幻聴がひんぱんになってくる。

幻聴と言っても私の場合おそろしいものではなく、玄関のチャイムとか昼間のラジオ放送的な音声など生活音的なものが多い。以前どこかの山でなかなかの名曲が聞こえてきたことがあったが、下山したらメロディを忘れてしまった。

リボンがおいでおいでしている。

【23:06】破風山避難小屋

とてもキレイな小屋だったので仮眠を取ることにする。

水を調達したかったが、水場まで25分という表示を見て気力がわかず断念。1時間しっかり眠ることができた。

小屋を出るとシカの目が光っていた。

検索すると怪談話ばかり出てくるが、建物は新しく中もキレイに整備されていた。

起きて最後の固形燃料を消費し湯を沸かす。カルディで買ったグリーンカレーメシ(日清製)はインスタントとは思えないほど攻めた辛さで、一気に目が覚める。

【11/7 02:17】破風山

ラストはなかなかの急登で厳しかったが、仮眠の効果か疲労がだいぶ抜けた。サクサク進む。

西破風山。

【03:38】雁坂小屋

大弛峠から実に12時間(!)、ようやく水を調達。

ここまで予定の時間を大きく超過しており、西沢渓谷に降りて撤退するかどうか迷っていたが、水を満タンにしたらもう少し行ってみようという気になった。

ここから西沢渓谷にエスケープできる。

沢水がひかれた水場は水量豊富だった。

【04:17】水晶山

下り基調だが白砂の歩きにくいルートで、何度もシューズに小石が入った。

ガレた白砂は水晶だったのか?

【05:09】燕山

山頂付近が荒れており、迷っているうちにグローブを片方落とした。雁峠直前で落としたことに気付き、拾いに戻ることに。

細かなアップダウンが多く、道も不明瞭。

このリボンに救われた。

【05:44】雁峠

明るくなってきたのでヘッデンを外す。 2晩目が終わった。

夜が明ける。

【06:04】小さな分水嶺

長い間訪れたいと思っていた場所。多摩川・荒川・富士川の源流地点。 この辺りはルートもなだらかで、気温が上がってきたこともあり歩みが軽くなる。

川の起点がこのように特定されていることが不思議。

【06:32】水干

笠取山の急登を見てビビるというか笑ってしまった。 迷わず巻き道を行く。

どーんとそびえ立つ笠取山。

【07:57】唐松尾山

尾根筋を回避する巻き道があったらしいが見つけられず、やむなく登頂。アップダウンが多く、既に30時間くらい歩いている身にはワイルドで厳しかった。この辺りが奥秩父の最奥だろうか。

歩きにくい箇所も多かった。

唐松尾山山頂。視界に入るのは樹林と山ばかり。

【08:48】将監峠

結構サクサク進むが、同時に水の消費もはげしくなる。この時点で水の残量は1リットルを切った。将監小屋には水場があるらしいが状況が不明なので、先に行くことにする(後日調べたら小屋の水場は自由に使えたらしい)。

ここで水を調達しておけば後々苦労しなかったかも。

このあたりで初めて奥多摩まで行けそうな気がしてきた。飛龍権現方面へ。

【10:10】大ダル

頼りにしていた水場(「山と高原地図」記載の”岩清水”)が枯れていた。愕然。

このあたりで大弛峠以来初めてハイカーに会う。

結局、三条の湯方面に降りて水を調達。余計な体力を使ってしまった…。

三条ダルミまで巻き道を行く。アップダウンの少ないフカフカのトレイル。

この巻き道は走れる箇所も多かった。

【12:47】三条ダルミ

これまで雲取山には鴨沢経由でしか来たことがなく、三条ダルミから登るのは初めて。ここに来て厳しい急登だった。

フッカフカのトレイルが続く。

ようやくゴールが見えてきた感覚。

【13:09】雲取山

やっと東京都に入る。

雲取山荘に寄るかどうか迷うが、小屋の営業状況がわからず疑心暗鬼になっており、縦走路をはずれて進む気がしない。まっすぐゴールを目指すことにする。

雲取山山頂からこれまで歩いてきた山々を見渡す。

【15:30】鷹ノ巣山避難小屋

この小屋に水場があるということだったが、案内にしたがって斜面を降りても見つからなかった。

手元の水はもうボトル半分くらいしかなく、水場があるという七ツ石小屋まで戻るかどうか迷うが、その僅かな距離を戻る気力がない。

意を決して石尾根を下る。鷹ノ巣山も六ツ石山もすべて巻く。

標高が下がると紅葉の山々。

よく見かけた草。

【16:31】六ツ石山分岐

林道はライトがないと歩けないほど暗く、まさかの3度目の夜…。ヘッデン装着。

【17:58】JR奥多摩駅

氷川大橋。

ようやく市街地へ降りる。日原川に架かる氷川大橋がUTMFゴールの河口湖に思えた(笑)。

【17:59】奥多摩 VERTERE

ゴールはこの縦走路で一般的なJR奥多摩駅や『もえぎの湯』ではなく、敬愛するクラフトビール醸造所『VERTERE』と決めていた。

18時のBottle Shop閉店前、奇跡的に関門1分前にすべり込んだ。

そもそもなぜ日野春駅をスタートにしたのかというと、こちらも愛してやまないブリュワリー『うちゅうブルーイング』の最寄り駅だったからである。瑞牆山に近いJRの駅としては穴山駅から歩き始めてもよかったのだが、私としてはスタートもゴールもビール絡みにすることで、このハイキングにささやかなテーマ性をもたせたいと考えた。

日野春駅『うちゅうブルーイング』から奥多摩駅『VERTERE』までの奥秩父ロングハイク。

109km、累積6768m、41時間26分。

感無量です。

GEAR LIST

Base weight: 3,507g

*ベースウェイトは食事・水・燃料などの消耗品を除く装備の重量です。

装備一式。

NOTICE

  • 給水できるポイントが少ないため、小屋や水場への到達計画をしっかりたて、2リットル以上の携行を推奨したい(筆者はペットボトル3本、フラスク1本、保温ポッド1本で計2.4リットルほど携帯した)。特に大弛峠から甲武信小屋間、破風山〜雲取山間はコースタイムに比べて水場が少ない。
  • ルートは樹林や倒木で見通しがききにくい場所もあるが、2020年時点では縦走路沿いに比較的新しいピンクのテープが貼られており、それに沿っていけば問題がなかった。
  • 雁峠のあたりから笹に覆われたルートが頻出し、雨上がりや朝露で足元が濡れる場合がある。くるぶしからシューズへの浸水を防ぐため、レインパンツやスパッツなどで対策をした方がよい。
  • 9割以上の時間、山と道のメリノフーディーとライトアルファベストを着たまま行動し、ノンストレスだった。冷たい強風が吹くとつい防風性の高いシェルを着たくなるが、通気するウールのフードは内側から発する熱と外からの冷気をほどよく調和させてくれた。歩きながらでも首元の開閉がスムーズでヒートアップと気温の変化にすばやく対応できた。
  • 山と道のメリノパンツを初めて本格的な登山で着用したが、保温性・防風性に優れるのはもちろん、ヤブや岩場でも思いのほかタフであった。また不思議な防汚効果があり、泥で汚れた裾が下山時にはキレイになっていて驚かされた。
  • 使用したヘッドライトLedlenser MH10NEOは最大600ルーメンの明るさだが、夜間にテープを識別するにはもう少し光量がほしい。筆者はこのような夜間行の場合、amazonで見つけた最大1600ルーメンのハンドライトを別途携帯するようにしている。バッテリーがヘッドライトと同じ型番(18650)でスペアになるのも便利だ。
  • 筆者は昼に寝て夜に動く前提であったため軽量のシュラフとミニマリスト・パッドで足りたが、夜に宿営する前提であればより保温性の高い装備が必要となる。
  • 最後に、エスケープ地点は大弛峠、西沢渓谷、雁峠など複数あるがいずれも下山して市街地に至るまでそれなりに長い。ムリのない計画と装備を。
渡部 隆宏
渡部 隆宏
山と道ラボ研究員。メインリサーチャーとして素材やアウトドア市場など各種のリサーチを担当。デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。現在も大手企業を中心としてデータ解析などを手がける。総合旅行業務取扱管理者の資格をもち、情報サイトの運営やガイド記事の執筆など、旅に関する仕事も手がける。 山は0泊2日くらいで長く歩くのが好き。たまにロードレースやトレイルランニングレースにも参加している。
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