山と道

山と道ラボ渡部の
ISPO 2021
注目製品レポート

2020年、山と道はドイツのミュンヘンで毎年開催されている世界最大のスポーツ展示会ISPOをはじめて訪ねました。

巨大な会場には日本でもおなじみのメーカーからはじめて見るメーカーまで数多くの展示がひしめき合い、とくに革新的な製品に与えられる「ISPOアワード」の受賞製品群には大いに刺激を受けました。

本年も視察を予定していましたが、Covid-19の影響によりISPO 2021はオンライン開催(会期は2/1~2/5)となり、モニターごしに様々な展示を見ることに。山と道ラボの渡部隆宏がリサーチを行い社内資料としてまとめましたが、それだけではもったいない! ということで、ここでリサーチの結果を読者の皆さんと共有することとしました。

そんなわけで、今回は開催が終わったばかりのISPO 2021から、「ISPOアワード」受賞製品を中心に渡部が気になった道具をご紹介していきます。2021年のアウトドアマーケットの、明日はどっちだ⁉︎

文:渡部隆宏(山と道ラボ)

※本稿内容は筆者の個人的な印象・意見であり、山と道の公式な見解を示すものではありません。

ISPOとは

ISPO(Internationale Fachmesse für Sportartikel und Sportmode)はドイツのミュンヘンで例年1月から2月にかけて開催されている、世界最大級のスポーツ展示会/見本市です。

50年以上におよぶ歴史をほこり、取り上げる分野はアウトドアに加え、ウインタースポーツ、ランニング、自転車、フィットネス、サッカーなどはもちろんのこと、近年は「eスポーツ」までも範囲とするなど、広義に「スポーツ」と呼ばれる領域を幅広く網羅しています。

展示される内容もギア、アパレル、素材、サービスなど多岐にわたり、近年では北京や上海でも開催されるなど、スポーツやアウトドア業界のトレンドを探るためになくてはならないイベントとなっています。

中でも最大の目玉は革新的な製品やサービスに与えられる「ISPOアワード」で、各社の新技術や業界の潮流を探る上で非常に参考になります。

ISPO2020の様子

山と道は昨年2020年に初めてISPOを視察しました。会場となる新ミュンヘン国際見本市会場は展示面積が約16万平方mにおよぶという巨大な施設で、晴海の東京国際展示場(ビックサイト)のおよそ2倍近くの広さがありました。

その全16ホールをすべて使って開催されているISPOはとても1日では回りきれないほどで、実際に展示会の間は歩数計が20万から30万歩を記録しました。

  • 会場入口

  • 広大な展示会場のフロアマップ

  • 個人的に度肝を抜かれた製品(ISPOアワードの「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」受賞)がザ・ノース・フェイスの「SUMMIT L3 50/50 DOWN HOODIE」)。1000フィルパワーの撥水ダウンを封入したチューブが肌面との間に構造的な空間を作ることで保温性と通気性、軽量性を高次元に満たすという意欲的な製品。その後日本でもスペックを変更し発売されている。

  • マムートのウインターハイキングシューズ「Taiss Pro High GTX」も忘れられないアイテム。Boaフィットシステムによる未来的なルックスは、スポーツアパレルというよりも最新の工業製品のよう。「ゴールド・ウィナー」受賞。

全般的には、その巨大なスケールに加えブースのエンタメ感、環境問題への関心の高さ、日本よりもはるかに大きいウインタースポーツ市場の存在感、アジアおよび中国系サプライヤーの多さなどが印象的でした。

このISPO 2020の来場者数は80000人、出展社数は2800社に及んだそうです。

  • ISPOアワードの展示は人だかり。

ISPO 2021の注目製品

冒頭に触れた通り、ISPO 2021はオンラインでの開催となりました。印象としては、例年よりも若干出展企業が少なくなっていたようです。その中でも筆者が気になった製品を「ISPOアワード」の中からピックアップします。

「ISPOアワード」は「アウトドア」「スノースポーツ」「ランニング&フィットネス」「アーバンライフ※」の各部門から成り立っており、さらにそれぞれの分野での受賞作「ウィナー」と、特に優秀な製品/サービスに贈られる「ゴールド・ウィナー」、そして最優秀の「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」に分かれています。本稿では山と道に関連の深い「アウトドア」「スノースポーツ」「ランニング&フィットネス」に絞って注目作をご紹介します。

※一般アパレルやカジュアルウェアの範疇で耐候性などの機能を加えた製品カテゴリー。

【アウトドア部門】

Haglöfs
Nordic Expedition Down Jacket
〈PRODUCT OF THE YEAR〉

アウトドア部門の「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」に輝いたのはホグロフスのウインタージャケットです。

受賞の最大の理由としては、800フィルパワーの撥水ダウンと軽く強靱な炭素素材・グラフェンを使いた新開発の化繊混合インサレーションを使用していることが挙げられます。グラフェンはシューズのアウターソールにも使われており、私もこれまでその特長を耐久性の面でしか捉えていませんでしたが、炭素に由来する遠赤外線の保温効果が期待できるようです(実際にISPOの素材部門でもウールとグラフェンの混紡繊維など、保温性に着目した新素材が出てきています)。

この新たに開発されたインサレーションは湿潤環境でも最大10000分間(約7日間!)暖かさを保ち、重量比の保温性に極めて優れるとされています。ウェア自体は防水透湿素材(耐水圧15000mm、透湿度10000g/m2/24h*)で覆われているため、内部がそこまで濡れるという状況は考えにくいのかもしれませんが、素材自体がほぼ保水せずドライな状態を保ち続けるようです。
*メーカーサイトには透湿性単位の表記ないため筆者補足。

デザイン的に目を引くのは胸と腰のあたり2箇所にあるストラップです。こちらは主にジッパーを開けたままでもウェアの前面がはだけないようにするためのもので、一種のベンチレーション機能を果たすようです。さらにフロントジッパーはダブルジップ仕様となっており、脇下には長めのピットジップも設けられているなど、保温性だけではなくヒートアップを防ぐ工夫も盛り込まれています。また背面下部には雪や氷の上に座ってもお尻が冷えないための収納式防水パッドが組み込まれています。

インサレーションの革新性に加え、こうした寒冷下での行動時・待機時に必要な機能をきめ細かく考え抜いた仕様が「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」の評価に結びついたのではないかと考えます。

発売予定日:2021年8月 推定小売価格:750ユーロ

adidas TERREX x Megmeister
Drynamo Merino ECO LS Crew Baselayer
〈GOLD WINNER〉

アディダスのアウトドアスポーツブランドである「テレックス」と、オランダのサイクリングブランド「メグマイスター」とのコラボレーションによる、化繊とメリノウールとを組み合わせたベースレイヤーです。

使用されている化繊素材「ドライナモ」はメグマイスター社が開発したパフォーマンスウェア向けの糸で、速乾性と汗の拡散性に優れ、かつ軽量で防臭性があり、シームレス縫製が可能という特長がアピールされています(組成そのものはポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンなどの混合のようです)。

この「ドライナモ」をメリノウールと混紡し、部位による最適な保温性などを備えたのが本製品で、その機能に加えてリサイクル素材の使用やほぼ100%の生分解性という環境への配慮も評価され、ゴールド・ウィナーに輝いています。

このようなハイテク感満載のベースレイヤーは正直個人的な好みから外れますし、一般的なアウトドア用のベースレイヤーというよりもサイクルウェアではという印象もあり私が手に取る機会はないと思います。しかし欧州でどのような製品が評価されているのか、メリノウールを活用した素材にどのような事例があるのかなど、リサーチャーとしては大いに興味をひかれるところがありました。

発売時期:2021年秋 推定小売価格:120ユーロ

Salewa
Ortles Couloir Boot
〈GOLD WINNER〉

南チロル最高峰・Ortler(オルトラー)の名称を冠したウインタートレッキングブーツ。サレワは冬期の高所登山にも対応する高機能アイテム群を「Ortler」ブランドで展開しており、その一環と思われます。

クランポンに対応しつつも725グラムと3シーズントレッキングブーツに引けを取らない軽さを実現しており、冬山での機動力を求めるアルピニストをターゲットとしているそうです。

黒一色のハイテク感あふれるデザインを際立たせているのが側面に配置されたカーボンフレームで、安定性と足首の保護を意図したものとのこと。グリップ力に優れたビブラムソールやケブラーなど随所に使用された強靱な素材も安定性に貢献しています。

インナーブーツとの2層構造でミッドソールにも独自の保温素材が使われるなど、寒冷下での快適さにも配慮されています。

価格も800ユーロと高額ですが、機能もデザインもそれだけの価値を訴求できるものといえるでしょう。

発売予定日:2021年9月 推定小売価格:800ユーロ

Helly Hansen
Odin Infinity Insulated Jacket
〈GOLD WINNER〉

日本ではマリンスポーツのイメージが強いヘリーハンセンですが、欧州ではアウトドアでも一定の存在感があるようです。フリースやレイヤリング・システムを世界最初期に提案したのも同社だとか。

昨年のISPOでは独自の防水透湿技術「LIFAインフィニティプロ」を用いたウインタージャケット「エレベーションインフィニティシェルジャケット」を出品し、「ゴールド・ウィナー」に輝いています。「LIFAインフィニティプロ」についてあまり情報は開示されていないのですが、様々な断片的情報を総合するに3レイヤーの防水透湿素材(多孔膜)+撥水技術の総称で、追加の化学処理を必要とせずに永久的な撥水性を実現しているとのことです。素材自体がそもそも水を弾く疎水性のポリプロピレン100%*であることがその秘密と思われます。
*メンブレンの成分組成は不明。

今年の受賞作となった本製品はその「LIFAインフィニティプロ」に加え、さらに独自のインサレーション「LIFAロフト」を採用したとあります。競合のインサレーション素材よりも20%軽量とのことで、昨年のキープコンセプト的製品ながら着実な進化が評価されたというところでしょうか。

発売予定日:2021年8月 推定小売価格:750ユーロ

Samaya
Asault 2 Ultra
〈GOLD WINNER〉

2人用で980グラム、パッキング容積3.5リットルという驚愕の軽さとコンパクトさを実現したサマヤの4シーズンテントが「ゴールド・アワード」輝きました。昨年も1500グラムの4シーズンテント「サマヤ2.5」が同賞に選ばれており、新興ながらISPO常連の風格すらただよいます。

本製品の特長はその圧倒的な軽さだけではなく、厳冬期の高山遠征といったプロフェッショナル・ユースにも対応する極めて高い耐候性を備えていることでしょう。床面積2200ミリ x 1100ミリ、高さ1000ミリと2人用としてはやや細めの作りですが、これは稜線上にも無理なく設置できることを意図しているようです。実際にメーカーサイトにも高所でのアルパイン・スタイルを想定した写真が掲載されています。

こうした用途に応えるために耐水圧20000mm、透湿性40000g/m2/24hをほこるePTFEメンブレン・ダイニーマ複合生地やイーストン社のカーボンポールといった強靱かつ軽量な高機能素材が使われ、雨風に強いシームレスの構造が採用されています。

日本円にして約20万円と価格もスペック同様にハイエンドですが、それだけの価値がある製品だと思います。

発売予定日:発売済み 小売価格:1600ユーロ

C.A.M.P.
Alp Race
〈GOLD WINNER〉

C.A.M.P.によるこちらの山岳スキー用ハーネスはなんと68グラムと、思わず表記を二度見してしまったほどの軽さ(キャッチコピーには「Lightweight Climbing Harness for Skimo Racers」とあり、「Skimo」は山岳スキー(SKI MOuntaineering)を意味します)。さらにたためばサイフ大のサイズになるとのことです。市場には200グラムを切る軽量ハーネスもいくつかありますが、この軽さは別格といえ、世界最軽量と思われます*。
*調べた限り、ダイニーマ製で80グラム(Mサイズ)という製品(ドイツEDELRID社の「Loopo Lite」)がこれまでの最軽量と思われます。

実はこのモデルには現行品があり、そちらも99グラムと十分な軽さですが、メッシュ状のナイロンを採用するなど素材や構造を見直すことで、従来の2/3にもなる大幅な軽量化を果たしたものと思われます。

発売予定日:2021年9月 推定小売価格:54,95ユーロ

Kamedi
Heat It
〈GOLD WINNER〉

こんなものまで出品されているのか! と驚かされたのがこの虫刺され治療用ガジェットです。スマートフォンに装着した小さなデバイスの熱を利用して虫刺されの痒みを和らげるというもので、皮膚を短時間で加熱刺激することにより痒みの神経シグナルが低下するという原理にもとづいているそうです。蚊だけではなく、ハチやアブにも対応するとのこと。

治療時間や温度をアプリで設定するというのがいかにも現代的で、標準的なスマホが満充電されていれば1000回の治療が可能だそうです。「短期間で鋭く熱刺激を与える」とあり、結構な熱さになる印象もありますが、安全性にも十分配慮されていると明記されています。

サイズもキーリングにぶら下がるほど小さく(おそらく10グラムほど?)、痒みどめ軟膏の代わりにすればわずかにパッキング重量を減らせそうです。

発売予定日:発売済み 小売価格:39,95ユーロ(Apple)/29,95ユーロ(Android)

Icebreaker
Zone Knit Hoodie
〈WINNER〉

メリノウール専業ともいうべきアイスブレーカーのミッドレイヤーです。その機能性に加え、欧米では持続可能性や製品寿命の長さといったエコの観点からもメリノウールが注目されています。かねてからメリノウールにこだわり続ける山と道としても当然同社のアイテムは気になるところ。本製品は100%オーガニックメリノウールを使用し、体の部位に応じて通気性や保温性など最適な織り構造を実現する「ゾーンニット」テクノロジーを採用しているとのことです。

同社にはもともと脇下などヒートアップしやすい部分の通気を高めることで行動時に外気を取り込む「ボディフィットゾーン」というテクノロジー・ブランドがあります。この受賞作は(小さい写真からの判断ですが)身頃のフロント部分がダウンウェアのようなキルティング構造に見え、おそらく「ボディフィットゾーン」の派生として保温側に寄った技術なのではないかと考えられます。

まだ発売も先で情報に乏しいのですが、メリノ100%ながら織りの構造でこうした技術を実現しているところが興味深く、早く手に取って実際の構造を確認してみたいところです。

発売予定日:2021年9月 推定小売価格:299,95ユーロ

Odlo
i-Thermic Baselayer
〈WINNER〉

こちらはベースレイヤーの未来を感じさせるアイテム。ウェハース状の発熱体(銅線)とセンサーが組み込まれており、体温と外気温をリアルタイムに測定、肌面温度を最適に制御するという仕組みです。スマートフォンのアプリで快適さの度合いを調節できます。

バッテリーの持続時間は4時間だそうで、アルペンスキーやスノーシューなど、それほど活動時間の長くない寒冷下でのアクティビティを想定しているようです。長時間の行動にはスペアのバッテリーか充電できるパワーバンクを別途持ち歩く必要があり、このあたりはまだまだ改善の余地がありそうです。

そもそもこういったテクノロジーを身にまとうことについても現状は賛否があると思いますが、バッテリーの課題などが改善されていくと共に一般的なものになってくるかもしれません。

発売予定日:発売済み 小売価格:250ユーロ

Mammut
Ducan Boa High GTX
〈WINNER〉

昨年もウインターハイキングブーツ「タイスプロハイGTX」が「ゴールド・アワード」を受賞したマムートですが、今年は3シーズン用ブーツがアワードに輝きました。モノトーン基調にオレンジをアクセントとしたカラーリングや人間工学にもとづく建築物のようなフォルム、フィット感の調節に優れたBoaシステムは昨年の受賞作を彷彿とさせるものがあり、完成度の高さが伺えます。

足の自然なローリング運動を促進する独自技術が採用されており、同社サイトでもランニングのイメージ写真が多く使われるなど、単なるハイキングというよりもトレイルランニングやファストパッキングなどのアクティビティをターゲットとしているようです。

発売予定日:発売済み 小売価格:220ユーロ

Nitecore
HU60 & NPB1 E-focus Elite Headlamp Set
〈WINNER〉

私は夜の山行も多く、ヘッドランプへの関心は一般的なユーザーより少しばかり高い方です。こちらは重量117グラムと軽量ながらCREE社のLEDを4基搭載、最大1600ルーメンという圧倒的な光量をほこり、さらに5000mAhの防水USBバッテリーから電力を供給できるという意欲的な製品です。

トレイルランニング用のライトは通常350~900ルーメン程度が多く、1600ルーメンは完全に規格外です。最大光量の場合は持続時間1.5時間とやや短いですが、常用範囲となる480ルーメンなら5時間持続し、スペアのバッテリーを交互に充電すれば一晩歩いても問題なさそうです。IP67の防水防塵性能を備え1メートルの浸水に耐えるなど、ナイトハイキングやトレイルランニングの用途として理想的なスペックを備えています。

またリストバンドから光量を無段階調節できる機能もあるなど、走りながらでもすばやく操作ができそうなことや、手ごろな価格も魅力的です。既に発売済みのようで、実物を早く手に取ってみたいと思います。

発売予定日:発売済み 小売価格:132,95ユーロ

【スノースポーツ部門】

続いてはスノースポーツ部門から。欧州における同分野の存在感はアウトドアと同じかそれ以上に大きなものがあり、メーカーも非常に力を入れています。私自身は積極的にスキーやスノーボードをするわけではありませんが、ウェアやギアには通常の登山装備と共通点も多く、いくつか目を引くアイテムがありました。

Ortovox
3 Finger Glove Pro
〈GOLD WINNER〉

バックカントリー用の3フィンガー・グローブ。メリノウールとフリース2種類のインナーグローブが付属し、あらゆる気温に対応するとのことです。冬の登山で最もツライと感じるのは末端の冷え。寒さの厳しいヨーロッパでアワードをとったグローブであれば信頼でき、通常の冬期登山にも十分に使えそうです。

しかしながら本製品からは、過去の受賞作に比べてあまり素材などの革新性が伝わってきません*。おそらく受賞の理由としては、インサレーションに用いられたリサイクル・メリノウールやパーム部分のゴートスキンなど、サスティナブルな素材を用いていることが大きいように思えます*。
*たとえばISPO 2019では超低熱伝導素材のエアロゲルを用いたアウトドア・リサーチのグローブがゴールド・アワードを受賞しています。

マイクロプラスチック問題に配慮したフリース代替素材がかつてのフリースに比べ保温力が低かったり、環境負荷の低い撥水加工がかつての方式よりも性能で劣ったりするなど、まだまだいくつかの分野では環境対応と機能性を両立させることは難しいのかもしれませんが、欧州はいずれかを選択しなければならないとしたら環境の方を重視するという方向にあるのかなと感じました。

発売予定日:2021年10月 推定小売価格:170ユーロ

Out of
Electra
〈GOLD WINNER〉

百聞は一見にしかずで、まずはこちらの動画をご覧下さい。

フレームにLCD(液晶)スクリーンを内蔵する電子スキーゴーグルです。動画の通り、周囲の明るさにあわせて光量と色合いをリアルタイムに調整(数百分の一秒単位だそうです)する様はカメレオンのようで、未来が近づいてきたと感じました。ソーラーパネルから給電するため外部バッテリーが不要という点も実用的です。液晶スクリーンはわずか5グラムと軽量で完全に均一な視野を保ち、雪や低温の心配もないとされているなど、ほとんど弱点が見当たりません。

私がこの製品自体を使う機会はないと思いますが、近い将来にこういった技術が洗練され、通常のサングラスにも内蔵されるようになれば面白いと感じました。

発売予定日:発売済み 小売価格: 429ユーロ

続いてはウェアとギアのカスタマイズサービスを2つご紹介します。

Advenate
My ONE
〈GOLD WINNER〉

ウインタースポーツウェアのカスタマイズサービスです。スイスのショーラー社による防水透湿生地を使用し、17種類のカラーバリエーション(基本6色・特別色4・男性/女性それぞれ7色)から好みの色を選択、ポケットの有無やカラー、袖の長さ、さらにはシルエット(タイト/レギュラー)までカスタマイズ可能です。

おどろくべきはそのスピードで、わずか2週間で顧客に届くとのことです。セミオーダーのスーツでも1ヵ月くらいかかる場合もあることを考えると驚異的なスピードに思えますが、原料を欧州で調達しドイツ国内で縫製するという環境にも配慮した生産体制がその背景にあり、その点も評価されての受賞と思われます。

ONEやMINIカスタムを展開する山と道のリサーチャーとしても、欧州市場におけるカスタマイズ需要の強さや、この短納期を実現するためのシステムなど、色々と興味を引く製品でした。

発売予定日:2021年10月 推定小売価格:580ユーロ(ジャケット)/490ユーロ(パンツ)

One Way
GTX 14
〈WINNER〉

こちらはスキーポールのカスタマイズサービス。WEBでの申し込みなどを経ず、グリップ・シャフト・ストラップなどのカラーや長さをショップの店頭で指定し組み合わせるというお手軽さがユニークです。縫製が必要となるような製品では難しいと思いますが、トレッキングポールなどパーツを組むだけのアイテムであれば応用できそうな気がします。

特にサイズに関して細かな選択ができることは、顧客はもちろんのこと販売店にとっても在庫や機会損失のリスクを減らせる意味で魅力的ではないでしょうか。仮にある長さのポールが欠品となっても、ポールそのものではなくシャフト部分だけを保管したり取り寄せたりすればいいためです。その意味ではエコの面でも配慮された取り組みといえるかもしれません。

発売予定日:2021年秋 推定小売価格:64,99ユーロ

【ランニング&フィットネス部門】

最後に、個人的にはアウトドア部門と同じくらいに関心のあるランニング&フィットネス部門から。

On
Cyclon
〈PRODUCT OF THE YEAR〉

近年日本でもすっかりおなじみとなったスイスのランニング・ブランド、オンによるランニングシューズのサブスクリプション・サービスです(既に日本でも募集が始まっています)。

非可食で環境負荷の低い植物原料「トウゴマ」を使用した100%リサイクル可能なパフォーマンス・ランニングシューズとのことで、月額30ユーロほどで使用後の製品を最新モデルと交換でき、回収した製品は新しいシューズにリサイクルされます。そのため廃棄物ゼロで、さらに特定の地域内で一定の加入件数に達した場合にのみ配送されるという、配送時の環境負荷にも配慮した仕組みとなっています。

実は筆者もオンのシューズを5年ほど前から愛用するヘビーユーザーで、さっそく申し込みました。環境面での取り組み以上に魅力だったのがその機能性への期待です。同社独自の改良版クッショニングシステムと推進力に寄与するスピードボードを備えつつ、近年様々なメーカーでも採用されている超臨界発泡成形によるミッドソールと大胆なロッカー形状*といったトレンドを抑え、さらに200グラムを切る軽さを実現しているという極めて意欲的なスペックで、ロードレースの本命シューズとして十分に使えるという印象を持ちました。白一色のムダを削ぎ落としたシンプルなデザインも魅力的です。フィット感を追求した完全シームレスのアッパーは、断ち生地が発生しないという環境面でのメリットもあるようです。
*ゆりかご(Rocker)のようなつま先のそり上がったソール形状。足の自然な転がりを促し推進力が高まるとされている。

サブスクリプション・モデルは通常その経済性に焦点があたることが多いように思いますが、本モデルは純粋に環境への配慮とトップ・パフォーマンスの両立に重きを置いていると思われます。それもそのはずで、このシューズは実は年に2回しか交換を申し出ることができません。つまり半年に1足として、月額3380円(日本)×6ヵ月=20280円と、価格だけを取り出せば決してリーズナブルではないのです。この循環型社会を目指す構想への共感と、高い機能性への期待がなければ成り立たないモデルといえるでしょう。

発売予定日:2021年秋 価格:29,95ユーロ/月(日本では3380円/月)

adidas TERREX
Agravic Ultra
〈GOLD WINNER〉

こちらはアディダスのトレイルランニングシューズ。ランニングエコノミーと推進力の両立に焦点を当てた設計で、ブーストフォームや耐久性とグリップ力に優れたコンチネンタル社製のアウトソールなど、同社ロードランニングシューズで実績のある数々の技術が使われています。ミッドソールもかなり厚そうでカーボン製のプレートが内蔵されているという情報もあり、極端なロッカー構造に見えます。

以前はトレイルランニングシューズのメーカーとロードランニングシューズのメーカーは棲み分けられていたような印象がありますが、最近ではそうした区別もなくなってきています。あるデータによるとトレイルランニングシューズ市場は2020年に21%増加したとのことで、ロードシューズをメインとしてきたメーカーも無視できない規模になっているのでしょう。アディダスもこれまでテレックスブランドで数々のシューズを投入してきましたが、今ひとつマイナーな存在でした。近未来的なデザインと最新テクノロジーを投入した本作で、やっと本気を出してきたように感じます。個人的にもコンチネンタルソールへの信頼性は高く、早く体感してみたいところです。

発売予定日:2021年8月 推定小売価格:160ユーロ

adidas TERREX
Agravic Windweave Pro Insuration Jacket
〈GOLD WINNER〉

軽量なランニング用のインサレーション・ジャケット。同社には既に「アグラヴィックウインドウィーブインサレーテッドジャケット」という製品が存在しており、そちらにはプリマロフトのインサレーションが使われています。「プロ」を冠する本製品に使われているのは日本がほこるテイジンのアクティブ・インサレーション素材「オクタ」で、よりスピードを追求する高負荷の活動をターゲットとしているものと思われます。

オクタを用いたランニングジャケットは既に存在していますが、本製品は独自の「ボディマッピング理論」にもとづき、身体部位に応じた最適な保温性を実現しているとのことです。個人的にもアクティブ・インサレーションウェアの進化は近年めざましいものがあると感じており、後発にあたる本製品は完成度も高いと期待され、重量や通気性、収納性など実際のスペックを早く確認してみたいと思います。

発売予定日:2021年8月 推定小売価格:180ユーロ

The North Face
Flight Vectiv
〈WINNER〉

筆者の個人的な嗜好からフットウェアの紹介が多くなってしまっていますが、このエポック・メイキング的な製品を外すわけにはいきません。本品は既に日本でも発売され話題を集めている、カーボンプレート内蔵のトレイルランニングシューズです。ここ数年にわたって陸上の長距離界を席巻しているカーボン内蔵厚底シューズが初めてトレイルランニングの分野に登場したという点*で、個人的にはゴールド・アワードを獲得しても不思議ではないと感じます。

厚底シューズはフラットな路面での推進力には優れていますが登りは苦手という説もあり、実際かつて箱根駅伝の山登り5区では選手の厚底率が低いというデータもありました。しかし直近の2021年箱根では多くの5区ランナーが厚底で走るなど、テクノロジーの進化なのか以前の常識が変わりつつあります。本製品も登りパートの多いトレイルで推進力を発揮できるよう、独自の形状に成形したカーボンやロッカー状のソールなど、シューズ全体の構造をゼロベースで組み立てたと考えられます。UTMB優勝のパウ・カペル選手や鏑木毅選手などの契約アスリートがのべ6000マイル以上を走ってテストしたとのことで、起伏の多いトレイルでの性能も実証済みなのでしょう。

カーボンプレートに加えて個人的に気になったのは新開発のアウトソール。ロードの厚底シューズは柔らかいミッドソールやカーボン劣化の可能性もあいまって一般に寿命は短めとされ、300km程度で限界というものも少なくないようですが、本製品のソールは500kmを超えてもなお十分な性能を維持するとのことです。

価格は確かに高いですが、ロード用のカーボン搭載厚底シューズも概ね3万円程度することや過酷なトレイルでも500km以上保つ耐久性があることをふまえると、それだけの価値があるシューズと思います。

発売予定日:発売済 価格:¥28,050

*2021年5月26日追記:「カーボン内蔵厚底シューズが初めてトレイルランニングの分野に登場した」と記載しましたが、中国メーカーKailasが2020年秋にカーボンプレート内蔵シューズ「Fuga Athlete Trail Running Shoes」を発売していました。

最後に、アフター・コロナ時代を象徴するような提案を2つご紹介します。

VAHA
〈PRODUCT OF THE YEAR〉

こちらは自宅トレーニング用のスマート・ミラー。ミラーに見えるのは様々なデータや動画などを映すディスプレイで、カメラや心拍計も備えられており、大画面を通じたビデオ通話によって効果的なパーソナルトレーニングが提供されるものだそうです。リビングルームに置いても違和感のないスタイリッシュなデザインに仕上げられています。

メーカーサイトを見ると多くのトップ・パーソナルトレーナーが用意されており、部屋にいながら直接マンツーマン指導を受けられるという点が最大のアピールポイントとなっているようです。トップ講師の授業をどこでも受けられるというオンライン予備校と同じような仕組みに思えますが、完全双方向でのやりとりを可能にしている点が画期的です。24時間365日のライブクラスやオンデマンドでのワークアウトムービーも用意されているようです。

本製品が「プロダクト・オブ・ザ・イヤー」に輝いたのはサービスを含むこうした全体の構想が評価されたものといえるでしょう。価格も約30万円とそれなりにしますが、スポーツクラブでトレーナーをつける費用を考えると妥当に思えます。

発売予定日:発売済み 小売価格:2268ユーロ

GIBBON BOARD
〈GOLD WINNER〉

こちらは室内外問わずスラックラインが可能なワークアウト器具。知人がハマっていることもあり、体幹トレーニングにも有効と聞いてスラックラインには少し興味があるのですが、人通りがなく迷惑にならない公園の木など条件にあう場所を探すのもなかなか面倒なところ。実はそうしたニーズにも応える屋内用のスラックライン練習器具も存在しているのですが*、長さは最小でも2メートル、重さは30キログラム近くあり、価格も5万円以上ととても手ごろとは言えませんでした。
*同GIBBON社の「SLACKRACK」など。

本製品はそうした悩みを解決する画期的なアイテムで、サイズは不明ですが手軽に持ち運びができるとのこと、手ごろな価格も魅力です。短いラインにもかかわらずボードの特殊な構造によってまるで実際のようにリアルな感覚をもたらすとのことで、アウトドアでの使用も推奨されています。外にいるなら外の木にラインを張ればいいのでは? と思わなくもないですが、前述通り適切な場所探しも大変ですし、何よりそんなに本気にならず仲間とワチャワチャするような用途にぴったりなのかなと思います。

発売予定日:2021年夏(2021年2月より予約販売) 推定小売価格:160-180ユーロ

おわりに

以上、筆者が気になったアイテム/サービスをご紹介しました。オンラインという特別な状況ではありましたが、ISPOの雰囲気をお伝えできたのではないかと思います。

全般的には(実物を見ていないということもあって)、昨年感じたような画期的なテクノロジーや未来を感じさせる受賞作は少なかったように感じますが、その中でも新技術や新素材などを用いたキラリと光る製品もあり、これからも山と道の一員として、より良いモノづくりのためにこうした知見をフィードバックしていきたいと考えています。

また欧州における環境問題への関心はあいかわらず高く、たとえ少しぐらい機能性が下がったとしても、環境に優しい素材や製法に切り替えていこうとする動きが見られます。今後はこうした点もメーカーとして一層意識しなければならないと、あらためて感じました。

オンラインだけに効率良くサクサク情報収集が進むのは便利でしたが、やはり実物を目にして実際に触れ、イベントの雰囲気を肌で直接体験したいものです。来年のISPO 2022が開催される頃には状況が落ちつき、再びリアルな場が実現することを願ってやみません。