山道祭まで歩いて行ってきた記(2021順延編)

2021.09.15

2022年6月追記:本稿でもお伝えした通り、2年連続で順延となってしまっていた四国・石鎚山での『山道祭 – Yamatomichi HLC Hiking Festival』の開催が遂に、遂に決定しました! 本年度の山道祭もここでお伝えしていることとほぼ同内容でとり行う予定ですので、ぜひ本稿も参考になさっていただければ幸いです。今年こそ、今年こそは四国・石鎚山でお会いしましょう!

本当だったら今週末の2021年9月19-20日、四国愛媛県の石鎚スキー場で『山道祭 – Yamatomichi HLC Hiking Festival』が2年ぶりに開催されていた筈ですが、すでにお伝えした通り、非常に残念ながら今年も順延となってしまいました…。

が、実は遡ること3ヶ月前、山と道JOURNALS編集長の私、三田正明と山と道HLC担当スタッフの木村弘樹は、四国の地を訪れていました。「歩いて行こう」が合言葉の『山道祭』ですから、まずはスタッフが率先して歩いて行くべき! と、2年前の『山道祭』の時点も私が開催2ヶ月前に会場まで岩手山を越えて歩いて向かったレポートを掲載しましたが、今回も同じように会場まで歩いたレポートを掲載し、ぜひ参加者の皆さんの参考にしてもらいたいと考えていたのです。

敢えなく今年も順延となり、制作したこのレポートも一旦はお蔵入りにしようかとも考えましたが、『山道祭』は来年も石鎚スキー場で行われる予定ですし、本当だったら開催される筈だったこの週末、参加申し込みをいただいた方には行われるかもしれなかった『山道祭』に思いを馳せ、来年の開催も今から大いに楽しみにしていただきたく、実に、実に時期を逸したタイミングではありますが、そのまま掲載することとしました。

ともあれ、内容は楽しかった四国出張の思い出をビール片手にふたりで語り合ってるだけですが、読めば四国に、愛媛に、石鎚山に、『山道祭』に行きたくなることだけは保証します!

いつか最高の形でハイキングのお祭りに集える日が来ることを夢見て、2022年も『山道祭』は開催に向けて準備を進めていきます。来年こそは四国・石鎚山でお会いしましょう。

構成/文:三田正明
写真:三田正明 木村弘樹 菅野哲 日野藍
協力:寒川奏

松山っていい街だなあ

木村 (プシュっとビールの缶を開けながら)なんだか旅の打ち上げみたいですね。

三田 うん。でも、考えたら旅の間も乾杯ばっかしてたよね。なので「ずっと打ち上げてただけ」と言われても過言ではない。

木村 過言じゃないっすね。ふふふ。カンパーイ!

三田 カンパーイ!

左:三田正明(山と道JOURNALS編集長) 右:木村弘樹(山と道HLC担当)

三田 木村くんは四国はこれまで何回くらい行ったことあるの?

木村 今回で3回目っすね。最初は去年、プライベートでHLC四国アンバサダーのテツ(菅野哲)さんと山に行って、あと今年の春に今回の『山道祭』のいちばん最初の下見に行ったのと、今回で3回目って感じです。

三田 最初の四国はテツさんと山に登るためだけに行ったんだっけ?

木村 そうですそうです。昨年から本格的に山と道HLC担当になったタイミングだったので関係も深めたかったし、「テツさんちょっと山行きましょー」みたいな感じで。

三田 でもそのときはあれだったんでしょ、集中砲火みたいなマシンガントーク。

木村 テツさんのマシンガントークを浴び続けて、登ったはずの石鎚山の記憶がほぼないっていう(笑)。「石鎚山1泊2日」ハイキングじゃなくて「菅野哲1泊2日ハイキング」でしたね。笑いながら、時おり泣きながら、歩きましたね~。

「菅野哲1泊2日ハイキング」時の山と道HLC四国アンバサダーの菅野哲さんと木村。

三田 俺も四国は4回目で、観光で高松を訪れたり、雑誌の取材で高知に1泊2日で週末お遍路弾丸ツアーに来たことあったけど、山は3年前のHLCで半日くらい皿ヶ峰を歩いただけで、ちゃんと山に入るのはほぼ今回が初めてだった。今回の旅は松山の魅力にもけっこう触れることができたよね。松山は女の人が多いって言ってたの木村君だっけ?

木村 確か調べたら女性が割合多いんすよ、松山って。

三田 ふーん、なんでだろう?

木村 確か学生が多くて四国中の若者が集まってるんですよ。たぶん九州の福岡と同じ構造なんじゃないすか? 福岡も女性の割合が多いんですよ。

三田 福岡は女の子が可愛いっていうもんね。

木村 そうそう。九州中の女子が集まってますからね。男子は九州を飛び出て大阪とか東京に行ったりするんだけど、女子は「まあ、福岡かな」みたいな人も多いらしくて。その構図が松山にもあるんじゃないかなっていう…

三田 木村仮説?

木村 木村仮説です。ふふふ。だからかみんなおしゃれというか、綺麗にしてる方が多い印象?

三田 老若男女かかわらず美意識の高さを感じるよね。で、空港からまずはテツさんのお店のT-mountain行って。

路面電車が行き交う松山市内。

山と道HLC四国アンバサダーの菅野哲さんとT-mountain。

T-mountainの店内。山と道以外も豊富なブランドが揃う。

T-mountainの店内。ランニングやクライミング用品など商品ラインナップも幅広い。

木村 T-mountainは松山中心部にあるロープウェー街のいちばん端っこで、松山城の入口の目の前なんですよね。

三田 だから結構良い立地。あと、T-mountainはいつ行っても商品数がすごい。

木村 たしかに。山と道に限らずいろんなメーカーさんの製品がありますよね。

三田 とくにT-mountainはアイテムが幅広いから見てて楽しい。こんな店が近くにあったら嬉しいよね。で、そのあと路面電車に乗って道後温泉に行ったんだ。2ー3キロなんで歩いても行ける距離なんだけど、この松山市内と道後温泉の距離感もいいよね。

木村 コンパクトですよね。

路面電車で道後温泉を目指す。松山市内中心部からは所要10分ほど。

重要文化財でもある道後温泉本館は現在7年にも及ぶ保存修理工事中だが一部の風呂のみ入浴可。

三田 道後行くと結構観光地感があって、雰囲気が変わる。残念ながら道後温泉本館は改修中で一部のお風呂しか入れなかったけどね。

木村 帰りはお風呂上がりに生ビール飲んで、歩いて松山城まで戻りましたね。それもまたよかった。

三田 松山城からの松山市内と瀬戸内海の眺めがいいんだ。

木村 うんうん、僕らは普段太平洋が見える街(それぞれ神奈川県逗子市と鎌倉市在住)に住んでますけど、また違いましたよね。

三田 全然違う。凪いだ海に島がいくつも浮かんでて、やっぱ瀬戸内海は独特だよね。松山には海も山も城もあって、さらに飲み屋も歓楽街も道後温泉もあって、もうなんでもある。男の夢を全部叶えてくれそうな街なんだ!

木村 だからか「松山が好き」っていう地元の人多かったですよね。街の規模がいろいろちょうどいいって。なんでUターンで戻ってくる人も多いみたいで、地元愛をすごく感じたな。あと松山って伝統ある居酒屋も多くて、今回も何軒か訪ねましたけど、どこも最高でしたね。

三田 「バル・デ・エスパーニャ セントラル」という立ち飲み屋さんで教えてもらった「都寿司」とかね。77歳の親父さんと奥さんが二人三脚でやっている店。50年やってるって言ってたけど、ふたりで一心同体って感じだったよね。

松山城からの夕陽。奥には瀬戸内海が広がる。

都寿司に名店の匂いを感じとる三田。

木村 いやめっちゃ良かった。年に何回かふたりでいろんなとこバスツアーで旅行するのが生きがいって言ってましたよね。京都も毎年2回行ってるとか。めちゃめちゃ幸せな年の取り方。

三田 しかも1貫200円の明朗会計で、寿司屋だけど安心して飲めるんだ。あんな店が近所にあったらなあ。飲むにはほんと最高な街だよね。

木村 最高過ぎてあまり毎夜の記憶がないけど。

三田 木村君は毎晩最後はお腹出して寝てたね。

木村 おじいちゃんに「寝るときは大の字で寝ろ」って教わったんで、常にお腹出てるんすよね。だから翌日、最初の方ちょっと体調悪かったですもん僕。ははは。

いきなりうれション

木村 で、翌朝はテツさんがホテルまで迎えにきてくれて、いよいよ石鎚山ハイキングが始まりました。

三田 クルマで松山市の隣の西条市まで行って、壬生川駅にクルマをデポしたんだよね。そこから今回の登山口だった保井野まではバスで行ったんだけど、このバスが良かったんだよね。

木村 良かった~。

三田 こういう古いバスはもう神奈川では走ってないかもね。

木村 ないないない、ないっすよ。思ってたバスと違いましたもん。バスの大きさとか色合いとか。なんかアジアの国に行くとたまに日本の古いバスが走ってたりするじゃないですか。その感じ。

壬生川駅から保井野までを結ぶローカルバス(せとうちバス)に乗って出発!

クラシカルでコンパクトな車内。

三田 空気感もネパールとかと変わんない感じだったよね。

木村 そんな感じでしたね。時間の流れもゆっくりそうで。

三田 で、ドライバーさんが色々話してくれてね。

木村 そがめさん

三田 十に亀と書いて十亀(そがめ)さん。「たぶん誰も乗ってこないから席自由に使っていいよ」なんて言ってくれてね。「ここの産直はメロンが安い」とか、いろいろ地元のお得情報を教えてくれた。

木村 バス減速させて通りがかりのおばあちゃんとかに話しかけたりとか。なんかアジアの田舎って感じだったなあ。今回山と道でもトレイルバス出すんですけど、正直、十亀さんが運転するような地元の公共交通機関で行って欲しいっていう気持ちもちょっとあります。むしろトレイルバスは十亀さんの会社にやってもらいたいなぁ。

三田 この保井野の集落とかも、ほんとネパールの山奥の村みたいな感じだったよね。木村君はもうこの時点で「最高~!」って言ってた。

木村 歩き始めて3歩目くらいで「最高~!」って言ってましたね。ここまででもうすでにこういった出会いとかを噛み締めて…

三田 「うれション」がジャーってなっちゃってたね。

木村 なっちゃってました。ふっふっふっふ。しみちゃってましたね。

霧の中の保井野の集落。

保井野〜堂ヶ森の「四国三大急登」を登る。

三田 でも歩き始めたら、すぐに「森林浴ってこのことか」ってくらい霧の中になった。

木村 うん、気持ちいい雨というか、霧でしたね。気持ち良かったなあ。でも、堂ヶ森まではずっと急登でしたね。確か保井野~堂ヶ森は「愛媛3大急登」のひとつなんですよ。

三田 今回、四国の山をはじめてちゃんと歩いたんだけど、標高は高くないけど急だなってすごく感じた。四国はやっぱ島なんだなって。島とか半島って、わりと急な地形が多いじゃない?

木村 確かに島感あったなあ。

三田 ね。島の山から海までがギュっと詰まってる感じが四国にもあった。石鎚山系は海から近いせいかもしれないけど。

木村 で、今回一緒に行ったのが、アンバサダーのテツさんと現地在住の協力者の日野藍さん。藍さんは都内で広告代理店で働いてから地元に戻ってきて、西条市の市役所で働いて、いまは独立されてデザイナーを中心に様々な地域の魅力を発信するような活動をされているという。だから西条市とも繋がってるし、現地のみんなとも繋がってる。で、この奇祭の計画に巻き込まれるという。ふはは。藍さんは初めましてでしたけどなんか四国の人らしいというか、すごく人懐っこい感じの方でしたよね。

地元・西条市在住の日野藍さんとしゃくなげ。

三田 優しかったよね。例のテツさんのマシンガントークとかも全部拾ってあげててさ。

木村 聞き上手で相槌上手だし、藍さんと歩いたら気持ち良くなる。ふはは。

三田危機一髪

木村 でもこうして写真を見返すと、ずっと登りでしたね。

三田 ほんと、ずっとつづらおりの登り。尾根出てもやっぱ急で、めちゃめちゃ切り立ってたよね。うっかり滑落したらどこまでも落ちてけそうな感じのとこ多かった。

木村 堂ヶ森の手前から樹林帯を抜けて笹原になってくるんですよね。

三田 このときようやく視界が開けて、「石鎚山系ってこんな感じの山なんだ」っていうのがやっと見えたんだ。

木村 全貌が見えましたね。だからここでまたこれ「最高~」言っちゃってますね。本日2回目。よかったなあ。はははははは。晴れてきてるねえ。

三田 そうだね、青空。

木村 コーラが似合うなあ。

堂ヶ森の手前で樹林帯を抜ける。

やっと周囲の山々が見渡せた。

四国らしい笹原のトレイルに「最高〜」を連呼する木村。

三田のコーラを羨ましげに見つめる木村。

三田 でも、俺はここに行く途中に、実はすっかりお腹が冷えちゃっててね。

木村 ちなみにどこから「ちょっとやべえな」って思ってたんすか?

三田 たぶん稜線に出て風に吹かれてからだよね。それまで森の中がミストサウナみたいな状態でシャツがじっとり濡れてたのが稜線に出たら風に吹かれてお腹が冷えちゃって。まだシャツをインしてたらよかったのに、アウトしてたんだよね。昔っからお腹を冷やすとすぐ大をもよおしがちなのにさ。

木村 はいはい。忘れてたんすねそれを。

三田 気をつけなきゃいけないのに、忘れてたんだよ。それですっかりやっちゃってね。

木村 すっかりやっちゃって。堂ヶ森に着いた頃にはちょっとやばい、みたいな。で、10分くらい先の避難小屋に行けばトイレがあるからって、三田さん先行したんですよね。上からその稜線を急足で歩いてるところが見えてましたよ。ふはは。

堂ヶ森山頂にて。

堂ヶ森から先行する三田を見下ろす。

三田 でも、割とすぐに「あ、これはもう無理だ」って思ったんだけど、ラッキーなことに携帯トイレを持ってたんだよね。それから10秒後ぐらいに「もうここでやるしかない!」って感じのいい具合に人目の避けられそうな場所が…

木村 あったんすか⁉︎

三田 ちょうどあってさ。でも、実は今回俺、アンラッキーなことにトイレットペーパーを忘れちゃってたんだよ。

木村 ど、どうしたんすか⁉︎

三田 水で流した。

木村 あー、はいはい。そっかペットボトルの。

三田 最後の水だったけど、避難小屋まで降りれば水場があるから、ここでもう使っちゃっていいやと思って。

木村 笹の葉っぱは使わなかったんすか?

三田 一応拭いてみたけどやっぱ吸わないから。笹の葉っぱって疎水性でしょ。

木村 広がるだけっすよね。

三田 ラチがあかないから。それでやっぱ水しかないって。

木村 その時の僕とテツさんと藍さんの間でよく出てたワードは「三田さん大丈夫かなあ」で。

三田 実際、大惨事になる一歩手前だったよ。そのまま立ち尽くしていたかもしれない。はははは。

木村 やあ、よかったですね。ははは。

三田 我ながらナイス判断だったよ。そして堂ヶ森の避難小屋は愛媛大学の山岳部が管理している関係か、中がすごくきれいだったね。ここですごく楽しい夜を過ごせそう。

木村 でもテントは小屋の周囲に適当に張るような感じで、あまり多くは張れなさそうでしたね。

愛大堂ヶ森避難小屋。

それほど広くはないが、室内は非常に清潔。

羽虫の世界へ

木村 で、ここから石鎚の主脈の縦走路に入りましたね。

三田 ここから羽虫が増えたんだよね。

木村 そうだそうだ。

三田 羽虫の世界にどんどん入ってった。

木村 三田さんが最初すごい虫にたかられて。

三田 たかられまくってたよねえ。

木村 もしかしたらこの前の行為によるアレなのかも。どうなんすかね?

三田 ええっ、そんなことねえよ! だって俺は、なんてったって水で流した!

木村 いちばんきれいになってるはずだって。

三田 そう!

堂ヶ森〜ニノ森を繋ぐ石鎚山系の主脈縦走路。

石鎚山系らしい笹原のトレイル。

切り立った尾根を行く。

後半は虫除けに手ぬぐいをずっと頭にかぶっていた。

木村 でも、途中ちょっと霧も出ながらも景色はよかったなあ。

三田 とはいえ天気はやっぱ下ってったじゃん? 落ち込むのは嫌だからみんなでこれから晴れる、これから晴れると言いつつ、やっぱり天気は下り坂で。

木村 うん、二ノ森くらいの時には「今日は石鎚山見えないかもね」てなってましたよね。虫も多くて気づいたらみんなたかられてるみたいな。あ、この感じとか四国じゃないすか。この角度。この急勾配に笹があるっていうのもなかなかない雰囲気ですよね。おお、すごい切り立ってる。

三田 この感じだよね。北アルプスなんかともまた違う急勾配感。

木村 すごい切り立ってる。この背をずっと歩いてるわけですもんね。

三田 うん、ここら辺から霧が出て高度感がよくわかんなくなったけど、こうして見ると結構高いよね。みんなこのへんから虫除けで手ぬぐいを頭にかぶってる。

木村 今年の山道祭では参加記念の手ぬぐいを申し込みいただいた方に事前にお送りするので、みんなバッグにつけたり、虫対策で頭に巻いたり、それぞれ身につけて来てくれたら嬉しいですよね。

急斜面をトラバースしていくトレイルが続く。

天気はだんだん下り坂に。

石鎚山、カッコイイ

三田 で、石鎚山の頂上直下でいきなりメインルートにぶつかったんだよね。

木村 今回は石鎚山をダイレクトに直登するルートではなく縦走路で来ましたからね。

三田 それまで誰にも会わなかったし、はじめての山の霧の中で自分がどのへん歩いてるかもよくわからなかったのに、山頂着いたらいきなり茶屋とか神社とかあって、ちょっとびっくりした。

木村 真っ白でしたからね。頂上ではこの鎖もなんかすごかったなあ。

三田 これなんなんだろうね。

木村 僕らが登ったのと違うダイレクトに石鎚山に登るルートだと鎖をつたって登るセクションがあるんですよね。たぶんそれと同じ形状の鎖ですよ。結構異様な雰囲気っすよね。

西ノ冠岳の西面。

山頂は雲の中だった。

山頂神社の岩にまかれた鎖。

とりあえず頂上の石鎚神社に旅の無事をお礼する。

三田 おまけに頂上着いた瞬間に雨も降り出してさあ。石鎚山も石鎚山系も見えないし、正直、俺このときはちょっと残念だなあと思っちゃったんだ。

木村 でも、ここで石鎚山の山頂にある神社から何が聞こえてきたんでしたっけ?

三田 そうそう。祝詞の奏上が聞こえてきて、あれには結構はっとさせられたよね。

三田 険しい霧の山を歩いてきたら頂上にいきなり神社があって、雨が降っていて、他に誰もいなくて、そこから祝詞の奏上が聞こえてきて、こんな瞬間は味わったことがないなって。それを味わえただけで、なぜだか「今回はこれで良かったんだ」って思えたんだ。

木村 後半は虫にたかられたり雨も降ったりして、なんだかんだずっと登ってましたけど、ちょっとほっこりしましたよね、

三田 あれ聞いた瞬間、「ああ、今日は修行だったんだ」って思ったんだ。フィジカルとマインドをフルに使って、アップとダウンをたくさん繰り返してさ。正直、それまでは「もっと見晴らし良かったら」とか、「もっと晴れてたら」とか、「せっかく四国まで来たのに」とか、そういう気持ちもあったんだけど、ある意味修行だったと考えたら、今回はこれで良かったんだって思えた。それで頂上の山荘でちょっと休憩してたら、雨がやんだんだよね。

木村 ねー。そしたら雲が取れて、石鎚が見えたんですよね。ここまで登るとき、三田さんがさっき話にも出た、お遍路の取材旅行をした時の話をしてくれたじゃないですか。「手放したら手に入った」みたいな話。

にわかには雨がやみそうもなかったので、とりあえず山荘に避難してビールでおつかれ。

と、思ったらほどなく雲がとれ、頂上横の天狗岳も顔を覗かせた。

雨がやんだのでご機嫌にポーズ。

山頂より今日歩いてきた尾根を見返す。

三田 以前、雑誌の取材で東京から1泊2日で週末弾丸お遍路旅をしたんだけど、その時も天気がずっと雨で、このままじゃ記事にできるような体験をできないぞって、結構焦ってたんだ。でも、お遍路って寺を訪れるたびに本堂と大師堂で般若心経を2回づつ唱えるんだけど、2日目になるとだんだん般若心経の「色即是空、空即是色」(一切の存在は現象であって空であるが、その空であることが体得されると、その現象としての存在がそのまま実在であるとわかるということ。小学館『大辞泉』より)って言葉ととがスーッと自分の中に入ってきた感覚があって、もうこうなったら、雨が降ってることを受け入れようと思ったんだよね。そしたら、それまでの苦しい気持ちが急にラクになって、辛いと思うから辛いんだってことに気づいたの。雨に濡れてることが辛いじゃなくて、それに落胆してる気持ちを抱えていることが辛いんだって。

木村 なるほど。

三田 そしたらどこまでも歩けるような気分になって、結局その日も雨のなかを1日中歩き続けることになったんだけど、自分の中ですごく印象的な旅になって、結果的には良いストーリーが書けたんだ。その時、自分はお遍路できれいな景色を見たり楽しい思いをして最高の旅をしなくちゃいけないと思ってたんだけど、そもそもそれが勘違いだったってことに気づいたんだよね。だって、そもそもお遍路って巡礼の旅や修行の道であって、楽しみにいくものではないでしょ? だから、観光旅行としては高知郊外の国道沿いを雨の中丸2日間歩くっていう何が楽しいのかよくわからないものだったけど、修行としては大成功で、たった2日間のわりにすごく身になる旅になったんだよね。

木村 今回も正にそれじゃんって思いましたよ。

三田 このときも石鎚山の写真撮れなくてどうしようとか、せっかく来たけどちょっとあんまりわかんないまま終わるのかな~みたいに思ってたんだけど、とりあえず今回はこれはこれで受け入れるしかないって、あの祝詞を聞いたときに思えたんだよね。そしたら何故だかパーっと晴れて、石鎚の山頂や天狗岳から山系が遠くまで見渡せて。

木村 僕らが歩いてきたところも見えましたよね。あそこ歩いてきたんだよみたいなね。

三田 だからそういう風に一筋縄でいかない感じもまた、石鎚山てやっぱり信仰の山なんだなって感じた。実際、メイン登山口の成就社から登るルートなんかだと、もうバリバリに信仰登山って雰囲気だったんじゃん。

木村 あの鎖を伝って登るわけですしね。

三田 やっぱそういうとこなんだよ。それを見せてくれた気がして。

木村 しましたね~。

三田 もちろん石鎚にも楽しい、美しい、気持ちいいっていう側面もあるけど、挑んでぶつかってったらなんらか体験を与えてくれるような山だよね。そう思って見るとかっこいいな。

木村 かっこいいですよね。

石鎚山表参道の鎖場。表参道には計4本の長い鎖場がある。

石鎚山の北面。かっこいい。

『山道祭』会場はこんなだ

三田 で、この日は頂上からすこし下った場所にある避難小屋に泊まったんだよね。

木村 そうそう、頂上から20−30分くらい降りた場所の避難小屋でしたね。

三田 石鎚スキー場に泊まっても良かったけど、まあ、上で泊まった方が気持ちよかったかもね。だって、鳥居の内側だったもん。だから石鎚山神社の中なんだよね。ここの小屋も綺麗だったなあ。

木村 下2人、上4人くらいは泊れますよね。

三田 まあぎゅうぎゅう行けばもっと泊まれそう。ここにはテントも張れて、1~2張りできる場所が4カ所くらいある。山道祭の前日にここで泊まっても楽しそうだけど。

頂上から20分ほど下った場所にある石鎚山公衆トイレ休憩所は避難小屋的に宿泊も可能。明け方から雨の予報だったので泊まらせてもらうことに。

休憩所も室内は清潔で快適だった。

ささやかな宴。

早朝に一瞬だけ見えた見事な朝焼け。

木村 でも翌日は雨の予報だったんで、当初は瓶ヶ森の方もまわろうと言ってたんだけど、会場の下見をかねて石鎚スキー場に降ることにしたんですよね。

三田 朝しか晴れてなさそうだったし、実際雨だったしね。まあ、でもこれでさあ、ほんとこの先で『山道祭』やってたら超楽しそうだよね。

木村 いや、超いいと思いますね。だからできれば1泊してもらいたいな。山で。

三田 そうだね。で、参加者同士でちょっと交流したりしながら、行けたらきっと楽しいよね。

木村 絶対いい。

三田 で、着いたら提灯とかあって。

木村 声が聞こえてきて、たくさんハイカーが集まってて、テントサウナなんかもあって。

三田 それで「イマジン盆踊り部」さんの盆踊りとか始まったら、「うぉ~」ってなるよね。ぜひなって欲しいなあ。会場の石鎚スキー場からは、晴れたら瀬戸内海とか本州の方もたぶん見えるよね。

木村 夜も西条市の夜景が見えそうですよね。

三田 ただ、場所がスキー場だから傾斜地が多いんだよ。

木村 そうですね。

三田 だから、会場は広いんだけど、スキー場内のキャンプサイトは結構限られてるんだよね。だからテントは無理でも、カウボーイキャンプ(野宿)をできる場所はなるべく用意したいなあって思ってるんだよね。

木村 まあ、傾斜さえ受け入れられたらどこでも寝れますよ、うん。

三田 受け入れられたらどこでも寝れるっちゃあ寝れる。朝もここで目覚めたら気持ちいいんじゃないかなあ。

木村 うん、絶対気持ちいい。テントサウナがあったりして。

三田 ね! テントサウナも7機とか集まるから。松山の赤ちょうちんで隣に座った人がサウナーで、『山道祭』のこと話したら、山と道もULも全然知らないけど、サウナのために来るって言ってくれたよね。

山道祭会場を一望した図。ご覧の通りスキー場のゲレンデなので、会場は広いが傾斜地が多い。

平坦なキャンプ指定地の面積を測量する。

三田 で、最後のロープウェイは、思ったよりすごく急だったよね。

木村 だって石鎚スキー場は標高1300mありますからね。

三田 このボロボロの「石鎚ロープウェイ入口」の看板も良い感じ。こっから来てロープウェイに乗って、上に登ったらドーンと『山道祭』やってたら盛り上がるよね。

木村 うん、盛り上がる。

三田 まあ、その期待を裏切らないようにしたいね。

木村 来てくれたら最高の環境はありまっせって。

三田 ともあれ、やっぱ楽しむも楽しまないも自分次第なんで、参加者の皆さんも楽しむ気持ちを持って来てもらえると嬉しいよね。おもてなしは一生懸命しますから!

成就社に無事到着。

成就社前にある常住屋白石旅館では山道祭当日の宿泊が可能。

石鎚登山ロープウェイに乗ると駐車場やバスの停留所がある西之川から石鎚スキー場までの登り2時間40分・下り1時間40分の距離を8分で行くことができる。

「昭和遺産」的な石鎚ロープウェイの入り口。

四国のおもてなし精神

木村 その後はテツさんのクルマで地元の西条市内で今回出店で参加してくれる店舗さんをまわりましたね。

三田 まず行ったのが「カレー食堂 種」さん。ここはカレーも美味しかったけど、古民家を改装した広々としたお店の感じもすごかったよね。

木村 すごかったっすね。確か5年くらいかけてDIYして作ったんですよ。ベランダのこのソファがよかったなあ。やっぱ山歩いた後とか、こういうちょっと体に染みるご飯ていいすよね。それまで行動食とかラーメンばかり食べてるから、よりおいしく感じる。

「カレー食堂 種」の広々としたベランダ。こちらでも食事できる。

スパイスをたくさん使ったカレーも絶品。

三田 続いて行ったのは「暮らしとごはん リクル」さん。

木村 うん、ここも日野藍さんのご紹介で、名物のがんもと飲み物を提供してくれます。ご主人がトレイルランナーなんですよね。

三田 『山道祭』をすごい楽しみにしてくれててね。

木村 そう。ご主人もぜひ参加したいですって言ってくれて。さっきの「カレー食堂 種」さんも滅多に出店しないんですって。でも「山道祭」の概要を聞いた時にこれはぜひ参加したいと思ったと言ってくれて。それはすごく嬉しいですよね。あ、この湧水も結構すごかったっすね。

三田 西条市は水が豊富で、街のいろんなとこから水が沸いてるんだよね。

「リクル」のご主人と。満腹で食事できず非常に後悔!

西条市は市内のあちこちで「うちぬき水」と呼ばれる石鎚山系からの水が湧いている。

木村 石鎚山系が水源で、そこから何年もかけて湧き出てるって。

三田 水が豊富なんで、西条市は水道代がタダの地域が結構あるんだって言ってたよね。

木村 しまなみ街道とか通って自転車で来る人はそこで水補給してくるといいっすよね。

三田 で、その日の夜も松山の街を楽しんだね。何食べても美味しかった「大八車」とか、とんそくやホルモンと自家製マッコリが飲める超ディープな韓国料理の「清香園」とか。あらためて松山っていい街だなぁ。

木村 翌日もテツさんがずっと通っている「車井戸」でうどん食べたり、クラフトビールのタップで参加してくれる「DD4D」さんに空港への行きがてらに寄ったりして、ギリギリまで楽しみましたね。

テツさんがずっと通っているという松山のうどん店「車井戸」の釜玉うどん。讃岐風の手打ちうどんが絶品!

セレクトショップとタップバーが一体化した「DD4D」で空港行く前に最後の乾杯。

三田 まあ、そんなとこかあ。どうなんですかね、まとめると。

木村 山ももちろんですけど、その前後の松山や西条も楽しんでもらいたいですね。

三田 そうだね。四国の人はすごくおもてなし精神があるって藍さんも言ってたよね。

木村 お遍路文化があるからなんですかね。すごい親切で人懐っこい方が多いし、最初に乗ったバスの十亀さんみたいな、ほんとローカルな人にも会えるし、夜の松山の居酒屋のご主人とかもすごくいい雰囲気。

三田 で、石鎚山はやっぱり独特な山だよねえ。

木村 なかなかないすか? 三田さんいろんな山行ってきたけど。

三田 山岳信仰が生きてるよね。

木村 確かに。富士山とかも上に神社ありますけど、登ってもあまり信仰感じることはないっすもんね。いい感じにちょっと苦労もしてもらいながら来てもらいたいですよね。トラブルもありつつ。

三田 確かにそういうのがいちばん楽しい。虫にたかられたりさ。

木村 そうそう。雨に降られたり。

三田 うんこ漏れそうになったりさ。

木村 はははははは。で、たどり着いたら「あのときは大変でさあ」とか「昨日の夜やばかったですよね」とか、話してくれたら嬉しいですよね。

三田 そういう思いした人がいっぱい集まってくれたら、嬉しいよね。

おわりに

いかがだったでしょうか。『山道祭』に向けた我々の気持ちは、すでに伝えすぎるほど伝えたと思いますので、最後に地元の声代表として、石鎚山のハイキング中にもらった菅野哲さん、日野藍さんのコメントを紹介させてもらいます。

それでは、いつかふたたびハイカーの祭りに歩いて、旅をして、集える日が来るまで、皆さま引き続きご自愛ください。来年こそは四国・石鎚山で会いましょう!

あらためて菅野哲さんと日野藍さん。

「四国は海・山・川、いいところいっぱいあってもう全然遊び足りないし、僕も外の世界を見てきたからこそ、四国って楽しいところいっぱいあるなというのを再認識しています。

今回の『山道祭』にあたっては、ぜひ四国の屋根である石鎚山系を縦走して来てほしいですね。四国が凝縮されているっていうか、山容もいろいろで、例えば岩山もあれば笹原の山もあるし、あと結構ハードで急峻な登り下りがあったり。で、そのゴール地点として石鎚山はやっぱり西日本最高ですごく気持ちがいい霊峰だし、その達成感も感じつつ、ぜひ楽しんでいただきたい。

『山道祭』はやっぱりハイカーのお祭りなんで、いろんなところから山好きが集まって、ワイワイ交流して盛り上がって、四国の山や自然を感じてもらいながら、また自分のお国の山自慢っていうか、そういう話題で盛り上がってもらっても嬉しいし。すごく楽しみだし、楽しんでもらいたいし、僕らも楽しみたいですね。みんなでドンチャン騒ぎしたいです!」(菅野哲さん談)

「山歩きを頑張った後はおいしいものを皆さん楽しみにされていると思うんですけど、私はずっと西条のことを仕事にしてきて、いっぱいお店さんがある中で自信を持って今回の出店者さんたちを選びました。

四国は、やっぱり常にお遍路さんがそこらに歩いてらっしゃるから、「よう来てくださった」という歓迎の気持ちが根付いている。私は関西や東京にも住んだことありますが、ちょっと神秘的なぐらい不思議な優しさだと思います。

わざわざみんな来てくださってすごく嬉しいって思うのは、やっぱり四国が島だからだというのもあると思うんですよ。島ならではの箱庭的美しさがあるのも四国の良さだと思うんですね。山川海いろんなものがお弁当箱みたいにまとまってて。

なので、今回は愛媛だけじゃなくて、四国という土地や人の良さをいろんなところから感じてもらえたら嬉しいです。そして一緒に盆踊りしましょうね!」(日野藍さん談)

三田 正明
三田 正明
フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。
JAPANESE/ENGLISH
MORE
JAPANESE/ENGLISH