チープ・ハイク〜お金をかけないでULハイキングをする法【#4 ストーブ&クッカー編】

INTRODUCTION

ハイキングは、金持ちのための遊びではない。お金がなくとも、高価なアウトドアギアがなくとも、ハイキングはできるのだ!

「それを実証する!」という謎の使命感に突き動かされ、山と道JOURNALS編集長三田正明が立ち上がりました。結果として山と道製品が売れなくなっても、そんなの関係ねぇ!

#4となる今回は、キャンプには欠かせないクッカー&ストーブの考察です。

例によって試行錯誤を繰り返し、100円ショップと某密林を駆使し、奮闘努力の結果、ついには驚愕的シンデレラ・フィットのオリジナル・クッキング・システムに辿り着きましたよ!

【#1 バックパック編】【#2 フットウェア編】【#3 シェルター編】

文/写真:三田正明

システムで考える

今回はチープ・ハイクなバックカントリー用のクッキング・システムについて考察してみたい。

クッキング・システム…つまり燃料、ストーブ、クッカー(鍋)、カトラリーなどを総合した調理と食事のための装備をULハイキング的に必要最低限で考えるならば、まず食事全体をシステムとして考える必要がある。つまり、前述のストーブやクッカーのみならず、「ハイク中に何を食べるのか?」も含めて考える必要がある、ということだ。

山でも煮込み料理や炒め物をしたいという人と、お湯を沸かすだけで食べられるアルファ米の袋飯やインスタント麺など中心の食生活で良いという人では、自ずとシステム全体が変わってくるのは自明である。ただ僕自身の、そして多くのULハイカーの食糧計画も後者であることが多いと思われるので、ここではアルファ米をお湯で戻したり、お茶を淹れたり、インスタントラーメンを作る程度の作業に必要な能力を、最低限の費用で実現する方法に絞って考察していきたい。

それはつまり、300cc~500ccほどの水を沸かせるクッカーとストーブの、利便性と費用から見た最適解は何か、ということだ。

ストーブ選びは燃料選び

クッキング・システムの主役はストーブだ。ストーブを選ぶには、まずその燃料を選ばなくてはならない。

アウトドア用ストーブの燃料にはガス、ガソリン、アルコール、固形燃料などがあるが、ガソリン・ストーブは小型化・低額化が難しいので、まず候補から除外する。残ったガス、アルコール、固形燃料の3種類のなかで、まず真っ先に多くの人がチープ・ハイクに向いているのではないかと思うのがアルコールストーブだろう。

なかでも空き缶を再利用して作られる”Beer Can Stove”(空き缶ストーブ)は材料費もタダで、誰にでも簡単に作れて、既製品よりも軽い。まさにULハイキングの方法論とスピリットを体現する象徴的アイテムでもある。

僕自身も当初、チープ・ハイクなストーブは空き缶ストーブで決まりだと思っていた。上記の通りULの、そしてこのチープ・ハイクのコンセプトをも雄弁に語る道具だからだ。ただ、よくよく考えると空き缶ストーブはストーブと燃料とクッカーさえあればお湯を沸かせるわけではない。

ストーブの上にはクッカーを載せるための五徳が必要であり、非力な火力を補うためには風防も欠かせない。燃料のアルコールを入れておくためのボトルも必要だ。そして装備品が多いということは重量も費用も嵩むということである。つまり、アルコールストーブはイメージより軽くもシンプルでもないのだ。

本命!? 固形燃料ストーブ

そんな理由もあり、近年カリカリに装備を削るULハイカーのなかでは固形燃料ストーブ愛用者が増えている。何せ軽いし、固形燃料を燃やすだけのシンプルさなので、あまり細かいことを考えなくて済むのが良いのだ。

大定番のエスビットのチタニュームストーブは13gしかないし、定価も1,800円。その程度の値段であれば、いくらチープ・ハイクとはいえ全く許容範囲ではないか。むしろ、それ以外の選択肢を選ぶ方が不自然だ……が、つまらん! あまりにつまらん結論だ!

チープ・ハイクに固形燃料ストーブなんて、誰でも「そりゃそうだよね」と思うだろう。そして軽量性の面でも利便性の面でも経済性の面でも、それが正解だろう。だが、なぜかいま、それでは満足できない自分がいる。

だってどうせやるなら、あっと驚くアイデアを掲示したいじゃん!

固形燃料ストーブなんて、つまり固形燃料を置ける不燃性の台と五徳があれば良いのである。その程度なら1,800円のチタニュームストーブよりも安価に同程度の重さのシステムを実現できるのではないか?

すわ100円ショップに向かい、固形燃料ストーブとなる「何か」を探した。100円ショップにも固形燃料用の五徳があるにはあるが、何せでかくて重い。こんな専用の五徳でなくとも、とにかく火に強く、できれば軽く、固形燃料と鍋底の間に適切な距離を保つことができるものであれば、なんでもよいのだ。

かつ、チープ・ハイクなクッカー候補になるものも探そうとアルミ皿をチェックしているとき、こんなものを見つけた。

パウンドケーキ用として売られている長方形のアルミ皿は、トランギアのメスティンのようと言えば言えなくもな………ぴかチーン! ピラめいた!

これをふたつ十字形に重ね合わせれば、ストーブとクッカー、さらには風防になるぞ!

これも使えるかもと思い旅館で料理を温めるときよく見かける固形燃料も一緒に購入し、早速実験してみると、約450ccの水が室温20度で9分で湧いた(フツフツと湧いている感じで完全には沸騰しなかった)。

 アルミ皿の重さはすりきり500ccほどの容量がありながらなんと9g! ストーブ用、クッカー用、蓋用と3枚持参しても21gしかない。かつてこれほど軽いストーブ&クッカーのキットがあっただろうか? しかも費用は50円!

使ってみると、火で炙ったクッカーの鍋底が茶色く変色していたものの、問題なく繰り返し使えそうだった。もし穴が開いたり紛失したりしても、五徳&風防用、クッカー用、蓋用と同じアルミ皿を3枚持っておけば、ひとつにトラブルが起きてもバックアップが可能だ。ただ、ハンドルもなく強度も低いので、沸いたお湯の取り扱いには多少気を使う。手袋はあった方が良いだろう。

それでも、これでも十分、用を足す。軽さも値段も申し分ない。ストーブとクッカーがスタッキングできる点も優れている。

けれど、こいつをチープ・ハイクなクッキング・システムとはどうしても認めたくない自分がいた。な、なぜだろう!?

シンデレラのマグカップ

実はそのとき、ダイソーでマグカップも買っていた。ステンレス製なのでまあそれほど軽くもないが、容量450mlでちょうど良いし、シンプルなルックスも悪くはない。それに100円だし。

問題はハンドルに取り付けれたストーブで火にかけるといかにも加熱されすぎそうな、必要性が全く感じられない謎の金具だったが、ハサミの根元で強く挟むと簡単に切断することができた。

加えてスタッキング性はどうか、110のガス缶を入れてみると、缶底のフチが邪魔をしてギリギリ入らない。

「惜しいな…」と思いながら、何気なく缶を反対向きにして、挿してみた。

え!

ええ〜!

110缶はマグカップのなかに、まるで最初からそこに入れるために作られたかのよう隙間なく収まった。ぴったりすぎて最高に気持ちが良い! 

「シンデレラ・フィット」という言葉がある。例えばあるクッカーに全く別の道具のスタッフサックがぴったりとフィットすることを指すバックパッカー・スラングなのだが、ここまでのシンデレラ・フィットは見たことがない。

ここにストーブも収納できれば、これぞパーフェクトにチープハイクなクッキング・システムができるのではないか?

大陸の底力を見せつけられる

某密林で見かける中国のストーブメーカーBRSの超軽量ガスストーブは、すでに以前からULハイカーの間ではお馴染みの存在だ。何せ驚愕の重量25グラムと、圧倒的に軽くコンパクトなので、軽さにこだわるハイカーならば当然気になる存在だった。

そのあまりの小ささと、OEM製造っぽい他社の類似品も同時に某密林でヒットすることから、当初はその信頼性を疑問視する意見も見られたが、それから数年を経てそれなりに多くの人にも使われ、致命的な欠点を指摘する声も目立たないので、現在ではそれなりの信頼を得ているのではなかろうか。ただ、日本ガス機器検査協会の認証を得ていない製品らしいので、何かあったら自己責任ではある。

例の「シンデレラ・フィット」以来、ガスストーブは有望な選択肢になった。そしてマグカップとガス缶の隙間に収納できるガスストーブを考えると、候補はこれしか浮かばなかった。早速、後先考えずに某密林でポチり。何せ配送料込み1,800円だぞ!? 同士よ!

届いて現物を見ると、着火装置はないもののパーツはシャープだし五徳はチタン製だし、送料込み1,800円とはとても思えない作りだ。山道具は軽量な製品を選ぶと値段も大抵上がるものだが、ガス・ストーブに関しては値段を下げれば下げるほど軽量になるという逆転現象が発生している。恐るべしグローバライゼーション! 

火をつけてみてもパワーは十分で、トロ火もいける。何度かフィールドへ持ち出して10℃以下の環境でも使ってみたが問題なく使用できた。それでこの小さと軽さ(そして安さ)なのだから、無雪期にガス・ストーブでお湯を沸かすだけならこれ以外の選択肢はもはや考えられないほどだ。

だが、それよりも何よりも、僕が確認したいのはマグカップとガス缶の隙間に収納できるかである。まずはBRS-3000Tをマグの底に入れてみる。シャキーン!

さらに隙間に、あらかじめ某密林で購入しておいた格安のフォールディング先割れスプーン(送料込みで150円だったが届くのにひと月以上かかった)も投入!

ふ、震えが止まらないゼ…!

いまだかつて、これほどまでにパッケージ製に優れたバックカントリー・クッキング・キットがあっただろうか。しかも、総額2,050円でこれが実現してしまうのである。チープハイクの神様、ありがとう。

カスタムして自分の道具にする

ただ、ひとつ問題があった。マグカップのハンドルが下の方にまで伸びているため火にかけると熱くなり、お湯が沸く頃には素手で持てなくなる。

丹沢の河原で焚き火をしながら、友人のJindaiji Mountain Worksの尾崎”Jackie”光輝氏にそんなことを話すと、「ならいっそのことハンドル取っちゃったらいいんじゃない? で、シリコンのバンドとか巻けばいいじゃん」と言われた。なるほどその手があったか!

よくよく見ると100円クオリティーだけあり、マグ本体とハンドルの接着はそれほど強固ではなさそうだった。ステンレスも柔らかいのでペンチで切断してヤスリで仕上げても良いかもと思いながら、試しにハンドルをグリグリやってみると、ポキンと外れた。

だが、この状態だと当然火にかけると熱くて持てなくなるので別途持ち手を用意するか周囲をシリコンのような耐熱性素材で覆う必要がある。そういえばムーンライトギアがハンドルのないクッカーにカーボンフェルトを付けて売っていたな…。カーボンフェルトならうちにあったので、適当なサイズに切り出し、ホッチキスで止めた。

できた。僕にとっての完璧にチープ・ハイクなクッキング・システムが、ついに完成した!

満タン状態の110ガス缶-192g/BRS-3000Tストーブ-28g(スタッフサック込)/フォールディング先割れスプーン-26gで、計346g。冒頭で紹介した空き缶ストーブ+チタン製五徳+チタン製風防+燃料用アルコール150cc+エバニューULチタンポッド500のキットが計342gだったので軽さの面でも優秀だし、お湯を沸かせる回数はこちらの方が格段に多い。

ただ、110のガス缶とBRS-3000Tとフォールディングスプーンは例えばエバニューのULチタンマグポット500にも収めることができて、そちらは蓋付きな上にこのマグよりも27g軽い(実測73g)。だが、両者の値段の差は4,100円。この値段と重さの違いが重いか軽いか、安いか高いかは、各自の判断に任せたい。

ただ僕自身としては、この100円マグ+110缶+BRS-3000Tのスタッフサックがいらないほどのスタッキング性は大きな魅力だ。チタンマグポッドなら別途スタッフサックが必要になることを考えると、僕にはチープ・ハイクの括りでなくともこのシステムを選ぶ理由がある。

それに何よりも、道具を自分なりに工夫したり、手を入れて使うことは僕はとても『チープ・シック』的な行為だと思う。ひとつひとつはガラクタみたいなものをかき集め、自分なりの解釈と文脈をそこに与え、スタイルを作るのだ。それは同時に、とてもULハイキング的な行為でもある。

これ以上なく決まった結論にいい気分になりつつ、チープ・ハイクはまだまだ続きます。

【今回までのチープ・ハイク装備の総額】

Backpack:¥2,793
無印良品サイドファスナーポケット付ポリエステルリュックサック
Footwear:¥3,980
アキレスDXスライダー
Shelter:¥2280
自作農ポリタープ(農ポリ¥180+ガイライン&アジャスター¥1,994+ペグセット¥300)
Trekking Poles:¥2,980
中華製ポール(Tera Hiker)
Cooking Kit:2058円
100円ショップマグカップ(108円)+BRS-30000T(1800円)+先割れフォールディングスプーン(150円)

計:¥14,285

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  • 三田 正明

    三田 正明

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    フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。

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