チープ・ハイク〜お金をかけないでULハイキングをする法【#1】

INTRODUCTION

ハイキングは、金持ちのための遊びではない。お金がなくとも、高価なアウトドアギアがなくとも、ハイキングはできるのだ!

「それを実証する!」という謎の使命感に突き動かされ、山と道JOURNALSの三田正明が立ち上がりました。結果として山と道製品が売れなくなっても、そんなの関係ねぇ!

最低の費用で、最高のハイキング、登山、アウトドア・アドベンチャーを楽しむための方法論、はじまりはじまり〜。

はじまりは『メイベル男爵のバックパッキング教書』

『メイベル男爵のバックパッキング教書』(晶文社)の素晴らしさを語れば一晩でも足りない。シェリダン・アンダーソンのバックパッキングTIPSを綴ったカートゥーンに、田渕義雄が日本の読者のための長い長い脚注を加えたこの伝説的名著と出会わなければ、僕はアウトドアのライターなんて仕事はしていなかっただろう。

本書の魅力を挙げればきりがないが、僕はそのサブタイトルも好きだ。『メイベル伯爵のバックパッキング教書』というただでさえ長い書名の上に、「最低の費用で、最高のハイキング、登山、アウトドア・アドベンチャーを楽しむために」というさらに長いサブタイトルがつけられているのだ。

その中の、「お金は使わずに頭を使いなさい」と題されたコラムの中で、田渕義雄はこんなことを言っている。

「金を使って、アウトドア・クロージングなるものを買い込むばかりがアウトドア・ライフじゃありませんよ。Do more with lessということが、これからの時代の合言葉。チープにシークに(シックって言うと、エッ病気って言われるよ)やってこそ個性的っていうもんです。お金は使わずにスマートにスマートにやりましょうよ。その分、いろんなフィールドを歩こう」

田渕義雄 『メイベル男爵のバックパッキング教書』より

そう! ハイキング、登山、アウトドア・アドベンチャーは、お金を使えば使うほど楽しい遊びでは絶対にあってはならない。金を持っていないヤツが知恵を凝らし、金持ちも金より知恵を使い、都市や文明からの束の間の自由を謳歌する遊びであることは、ヘンリー・デイビッド・ソローの時代からの揺るぎない戒律であり、山や自然のなかで感じる歓びや苦難や感動は、すべての人に解放されていなければならないのだ。

ただ、『バックパッキング教書』の唯一と言っていい欠点は、その副題に即した内容が先ほど引用した部分以外、ほとんど記されていないことだ。

幸か不幸か、僕には金儲けの才能というものが決定的に欠如している。「貧乏暇なし」とはこういうことだと日々実感しながら生きているので、財布のヒモはカチカチに硬い。山道具に限らず何かを買おうと思えば1円でも安く手に入れる方法を探るし、無駄なものは絶対に買いたくない。そんな、ことハイキングに金をかけないことにおいては長年の経験と知識を持つと自負する僕が、ここにそれを記そうと思う。それがシェリダン・アンダーソンと田渕義雄という偉大なマスターに対する、せめてもの恩返しであるのだ!

なんちゃって!

いや、ぶっちゃけ、どこでも買えるような安い道具だけで驚くほど軽く、ちゃんと機能するハイキング・キット(登山装備)を揃えられたとしたら、痛快じゃないか? それを痛快だと思うような、僕と同じく金儲けの才能に見放された者たちのために、ここにこれを記す。

『チープ・シック』とチープ・ハイク

この企画を始めるにあたって、僕がもうひとつ大きな影響を受けた本がある。カテリーヌ・ミリテアとキャロル・トロイによって1975年に出版された『チープ・シック』(草思社)という本である。本稿の表題とアートワークがまんま『チープ・シック』であることはこの本へのオマージュだし、先ほどの『バックパッキング教書』からのクォートでも「チープにシークに」とあったのは、この本とそこから生まれた「チープ・シック」という言葉への目配せだろう。

『チープ・シック』は決して安価な服を選ぼうという意味ではない。質の良い古着や放出品、スポーツウェアや、高価でも長く着れそうな定番を選ぶことで、目先の流行や社会的なステータスに惑わされず、自分自身をきちんと表現した、心地よく自分らしくいられる服を選ぼう、という提案で、それをたくさんの写真とコラム、有名無名を問わずチープ・シックを実践している人々の紹介で表現したのがこの本だ。この「チープ・ハイク」でも、その哲学は丸ごと継承したい。いくらチープでも、そこにスタイルがなければまったくシックではない。単に安い服を選ぶのはチープシックではないし、安い道具を揃えただけではチープハイクではないのだ。

では、スタイルとは何か? ハイキング・キットに関しては、まずそれがきちんと機能する道具であることが大前提だ。その上で、ウルトラライト・ハイキングに関しては軽量であること。きちんと自分が使いこなせる道具であること。ともあれすべての環境において完璧である道具は存在しないので、TPOを選んだ道具選びができること。つまり己を知り、道具を知り、自然を知っていることが「スタイル」だ。

そんなわけで、これからチープハイク・キットを構築していくに当たって、いくつかの前提条件を設けた。題して「チープ・ハイク5か条」である。

1、前提となる想定山域は温暖期の森林限界下でのオーバーナイトハイキングとする。

2、価格は安ければ安いほど良いが、軽量性や必要十分な機能性など、その道具を積極的に選ぶ理由のある道具を選ぶ。

3、積極的にアウトドア用品以外から道具を探す。

4、原則として中古品やあらかじめ自身が所有していたもの、譲渡されたものなどは選定から除外する。

5、縫製など難易度の高い作業を伴うMYOG(Make Your Own Gear)作品も除外するが、カッターで切ったりテープで貼ったり程度の誰でもできるMYOGはありとする。

ふう、やっと前提の説明が終わった。

【1】チープ・ハイクなバックパックの考察

チープハイク・キットを構築するに当たって、まず何から考えるべきか?

それはもちろんバックパックに決まっている。「荷物を軽量化するならまずバックパックから」って、あのマスター土屋も言っている。まずバックパックのサイズを決めてからそこに入れられる範囲内の道具を選んでいったほうが、軽量化はスムーズなのだ。

ともあれ、バックパックはハイキング装備の中でもテントに並ぶ「大物」だ。テントは例えばタイベックや農ポリシートをタープにすることで大幅に価格と重量を圧縮できるが、バックパックは自作できない。某巨大通販サイトを覗けばびっくりするような値段で「登山用」と銘打ったバックパックを見つけることもできるけど、「安物買いの銭失い」になってしまっては、チープハイクとは言えないし、チープシックでもない。

ULハイキングを想定すると、必要な容量は25L~35Lほど。パックウェイトは6~7kgに抑えたい。となると、バックパック自体に求められる基本性能はそれほど高くなくてもいい。フレームはいらないし、ヒップベルトもいらない。ストラップやバンジーコードが付いていてトレッキングポールやマットが外付けできる拡張性があればよいけれど、なければないでなんとかする。

リーズナブルなULバックパックと聞いて、まずパッと思い浮かぶのはモンベルのバーサライト・パックだろう。30Lで605gのモデルが税抜き9200円という驚異的な値段で販売されていて、以前、山と道JOURNALSの『THE BACKPCK TEST 2018』でもレビューを書いたけど、まず9200円という値段がとても信じられない出来だ。

また軽量で安価なバックパックということならば、アタックザックに用いられるような、パッカブルのバックパックはどうだろう? 一般的なバックパックより安価だし、もちろん軽量。20Lサイズが中心だけど、30Lのものもある。たいていの場合ショルダーストラップが貧弱なのが心配だけど、ストラップやバンジーコードやポケット付きも多くて便利そうだ。

でもな~。

バックパックとは山道具の象徴であり、この『チープハイク』においても「顔」となる存在でなくてはならない。その「顔」がアウトドア用に作られたモノでは、あたり前すぎて面白くないではないか。

チープハイクなバックパックとは!? 沈思黙考の日々が続いた。

デイパックってどうなんだ!?

沈思黙考して数週間、前述の『THE BACKPACK TEST 2018』の企画の中で、ゴッサマーギアのミニマリストというバックパックもテストした。詳しくはその記事を参照してもらいたいが、24リッターのデイパックであるミニマリストに普段の自分のUL装備が全部入ってしまうことに改めて衝撃を受けた。ならば、バックパックはもう普通のデイパックでもよいのではないか?

中学生とか高校生が背負っているアウトドアプロダクツの〈452U〉みたいなクラシカルなデイパックならば作りもシンプルで軽量だし、それなりに頑丈なはずだし、値段も5000円前後で買えるはずだ。ただのデイパックでオーバーナイトハイキングに行けることを実証できたら、ちょっと痛快じゃないか。

そんなわけで、手頃なデイパックを探し始めた。ただ、ものがベーシックなだけに、どれもイマイチ決め手がない。品質を追い求めれば当然値段も上がるし、チープさを追い求めればアマゾン・べ−シックのデイパックなど驚くような価格のものもあるけれど、単に安物買いの銭失いになっては元も子もないし、現物を見ないで買うのもチープハイクの信義上、いただけない。

ならばもうド定番のアウトドアプロダクツを高校以来に買ってしまうか? そんなことを思っていた矢先、こんなサイトを見つけた。

https://lab.muji.com/jp/ideapark/128/

こちらの無印良品のデイパック再開発プロジェクトのページでは、カバンの歴史からユーザーへのアンケート調査、肩に掛かる荷重の測定、試作の過程から生産工場へのインタビューなど、『山と道ラボ〉も真っ青になるくらいの突き詰め方をしていて、ここまでやられると、僕は思わず一票入れたくなってしまう人間だ。 

しかも、ショルダーストラップにかかる荷重の圧力分布測定試験と改良試作を何度も行い、ショルダーストラップの外側を厚く、内側を薄くすることで、7kgの荷物を背負った際に肩に掛かる荷重を改良前よりも40%軽減したという。40%って本当だったらすごいけど、どうなんだろう? ともあれ7kgの荷重を想定しているならばULハイキングにも十分使えるはずだし、重量も約350gと山と道MINI(340g)とほぼ同じ。おまけに値段が税込3,990円!

で、手近な無印良品にいそいそと出かけ現物を確認してみた。

ポリエステル製の生地はコーデュラナイロンと比べると多少チープ感があるのは否めないものの、まあ許容範囲。縦43cm x 横32cm x マチ14cmというサイズも、現物を見ると20L+αはある印象で、容量的には充分に感じた。両サイドにサイドポケットが付いている点もハイキング用としては決定打と言えるほどのチャームポイントだ。

しかもセール中で、お値段なんと2,793円! BOMB! 君に決めた!

で、いそいそと購入して帰り、テストを兼ねてさっそく普段の暮らしの中でもフル活用を始めたのだけど、いや〜、デイパックって、本当にいいものですね。

ファスナーで大きく開く開口部は物の出し入れが抜群にしやすいし、フロントポケットもサイズといい、形といい、場所といい絶妙で、とても使いやすい。やはり定番として時代の風雪に耐えてきたデザインにはそれだけの理由があるのだということを再認識させられた。背負い心地も、数時間荷物をパンパンに詰めて歩いたわけではないのでなんとも言えないが、悪くはない。あとは、これに入る道具を選んでいけばいいだけだ。

ともあれ、こいつは忙しくなるな!

そんなわけで

この『チープ・ハイク』では、今回のようにチープなハイキングギアの考察と選定と試行錯誤を続け、やがてはそれらを携え、実際にハイキングに出かけたいと考えている。

次回は次なる大物、チープ・ハイクなシェルターを考察する予定だ。

【今回までにチープハイクにかかった金額】

:無印良品サイドファスナーポケット付ポリエステルリュックサック:¥2793(セールで30%オフ)
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計:¥2793

【#2に続く】

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  • 三田 正明

    三田 正明

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    フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。

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