山と道HLC2019を振り返る

2020.06.08

2018年に実験的に始まり、2019年から本格始動した山と道HLC。東北、北関東、関西、四国の4拠点でそれぞれのローカルで活動する山と道HLCアンバサダーとともに、各エリアの特徴を活かしたプログラムを展開しました。

コロナ禍の影響で延期や中止となっていた2020年のプログラム実施の可能性もようやく見えてきたところで、山と道HLCのディレクターを務める豊嶋秀樹が各エリアのアンバサダーとともに2019年度(2019年4月~2020年3月)のHLCで印象的だったプログラムを振り返っていきます。

取材/文:豊嶋秀樹

① HLC東北

アンバサダー:上野裕樹

ポートレート撮影:豊嶋秀樹(以下同)

HLC東北は、アンバサダーを務める上野裕樹さんのアウトドアショップ『knotty』のある岩手県紫波町を拠点に、岩手山や八幡平、そして、ローカルマウンテンである東根山を中心にメリハリのある季節感の中で活動しています。

上野さんは、『knotty』のカウンターでゴキゲンなブラックミュージックをセレクトしながら、ハイキングだけでなく、夏はトレランやクライミング、冬はバックカントリースキーを中心に雪板やスノースケートなどの新しいカルチャーまで幅広くカバーしてくれます。

Ambassador's Signature スクランブリング
(北上山地エリア - 2019年7月17日)

豊嶋 スクランブリング(ハイキングやトレイルランニングにクライミング要素を掛け合わしたアクティビティ)とバックカントリースキーのプログラムの話が聞きたいな。

上野 了解です。では、まず7月のスクランブリングから。参加者は5人でしたね。

豊嶋 全員クライミングや沢登りの経験がある人?

上野 経験者に限定して募集しました。

豊嶋 ルートは破線ルートやバリエーションルートと呼ばれるようなルートでさえないよね?

上野 そうですね、地図には載ってないところです(笑)。

写真提供:上野裕樹(以下HLC東北の項目同)

豊嶋 具体的にどういうコース?

上野 近郊の北上山地エリアなんですが、まずトレランシューズで上がれるような小さい沢から詰めていきます。ロープを出すようなところはないですが、石が不安定なのでヘルメットかぶって、しっかり目視しながら歩いていく。

豊嶋 なんか緊張するね(笑)。日帰りだけど、朝何時くらいにスタート?

上野 7時に入渓して、10時くらいには源頭(沢の最上流)、そこから岩のセクションになって、途中で岩の間でお昼食べて、14時ごろに稜線に出ると、そのまま山頂まで抜けて、下りは一般道を降りてきました。

豊嶋 トレイルを歩くわけじゃないから大変そう。

上野 結構、クタクタになりますね。ハイキングの間にクライミングが挟まるんで、全身的な疲労も大きいんですよ。沢も下の方からなので結構な距離ありますし、岩登りが始まるところから稜線に出るまでも標高差1000m近くあります。何より、ずっと繰り返しスリルと戦ってるので、メンタルも疲れますしね(笑)。でも、終わったときの満足度は大きいです。

豊嶋 聞いてるだけで手汗が出る(笑)。

上野  一歩一歩、一手一手が不安定ですね。落石の危険性があるので人の後ろにはいかないようにします。ルートは色々と取れるので、縦の列にならないで、それぞれに自分の行けそうなルートを同時に進む感じです。ザレ場を四つん這いになって進んだり、ボルダーセクションがあったり、「ここ、おもしろそうだな」って思うルートと自分の技量とを比べながらトライしていく。

豊嶋 なるほど、イージーに抜けようと思えば抜けられるルートはあるってこと?

上野 そうですね。いくらでも簡単に抜けられるルートはあるんですが、部分的に自問自答しながら慎重かつ少しチャレンジするくらいのところにトライするんです。

豊嶋 じゃあ、クライミングみたいに登っていくうちにルートを誤って手詰まりになっちゃうってことはないのか。

上野 それはないですね。取り付いた途端、これは無理だろって降りてくることはありましたけどね。でも、参加者のみんな、いいところ攻めてましたね(笑)。

豊嶋 スクランブリングってまだあまり馴染みのないアクティビティーだけど可能性を感じる?

上野 今回参加してくれた人たちは、スクランブリングのおもしろさや遊び方を理解してもらえたと思うので、各々が慣れ親しんだエリアにもスクランブリング向きの場所あるってことが見えてくると思うんですよ。

豊嶋 きっと高い山じゃなくてもいいんだよね?

上野 トレランの途中に挟めるような傾斜地形でいいんです。歩いて、走って、登ってその間に少し自分をプッシュするような要素があるといいですね。でも、人が入っていないエリアというのは、岩が動いたりするので注意も必要です。

豊嶋 なるほど。スクランブリングって、UL装備の恩恵をかなりカッティングエッジなところで享受するアクティビティーだね。

上野 軽くないと本当にキツいし危険でもありますからね。

Ambassador’s Signature
八幡平バックカントリースキー&ULパッキング
(2020年3月15日)

豊嶋 じゃあ、次はバックカントリーの話を。これは東北では、かなり日常感が高いと思うんですけど。

上野 今年は3月にも結構降ったので雪は良かったですね。場所は八幡平で、参加者は6名でした。参加者の皆さんは、毎週バックカントリースキーを楽しんでいるような人たちですが、宿泊をともなうハイキングやスキーということはやっていない方々です。今回は、小屋泊まりのスキーツアーのための練習という目的があったので、宿泊装備を背負ってのスキーという経験となりました。

豊嶋 来年の春のスキーツアーに向けてね。

上野 申し込んでくれた方々が不安だったのか、みんな事前に店に相談に来てくれたんですよ。結果的には、そのタイミングで装備やパッキングについて話すことができたので良かったですね。パックウェイトでだいたいみんな8キロ、9キロくらいになっていました。

豊嶋 9キロ背負って滑るって未体験ゾーンですよね。

上野 意外と滑りよりも登りの方がみんな辛そうでした。

豊嶋  ハイキングとちょっと違うのは、アバランチ系のギアなど、バックカントリースキーならではの外せない重い装備がいくつかあるもんね。

上野 そうですね。ハイキングと比べるとどうしても重くなりますね。目的地の茶臼小屋について、ザックの中身を広げてスリーピング系やクッキング系の装備のシミュレーションしながらみんなでディスカッションしました。

豊嶋 それは実感湧きますよね。

上野 それから、レンタルで山と道のスリーを使ってもらったんです。皆さん、宿泊装備を背負って滑ることなんてなかったから、こういう大きなザックを持つイメージ湧かなかったみたいなんですが評判良かったです。

豊嶋 僕もずっとバックカントリースキーではスリーを使っていますが、荷重も背中にあるので腰回りが動きやすくていいんですよね。板もザックにセットできるし軽い上に、機能的にも問題ないです。

上野 小屋でしばらくいろんな話して、帰りは滑って降りていきます。

豊嶋 それにしても、こんなキレイな小屋だと、厳冬期もツアーにこだわらずに泊まってスキーしたいね。

上野 いいっすね、来シーズンは泊まりで滑りましょう!

豊嶋 では、最後に昨年1年間HLC東北で活動してきた手応えや感想と、ようやく始まる2020シーズンへの抱負を聞かせてください。

上野 はじめた当初は「どのようなお客様が来ていただけるのだろう?」「どのようなフィールドがよいのか?」など模索しながらのスタートでした。プログラムを進めて行くにつれ、お客様のスキルアップを感じられたり、コミニュケーションも柔らかくなって、何よりお客様同士が深くつながれたことがとても嬉しかったですね。東北エリア特有の四季の変化をお客様が楽しんでくれたこともほんと嬉しかったです。2020シーズンはこのような状況からのスタートになりましたが、2019シーズンから段階で進めているバックカントリー・スキープログラムの小屋泊を実行したり、ULハイキングのプログラムもより中身を濃く、楽しさを膨らまして行ければと思っています。皆様のご参加お待ちしております!

② HLC北関東

アンバサダー:廻谷朋行

左:廻谷朋行さん 右:水戸岳志さん

HLC北関東は、山と道のパートナーショップである栃木県黒磯市『LUNETTES』店主である水戸岳志さんの協力のもと、スタッフの廻谷朋行さんがHLCアンバサダーとしてとりしきります。

『LUNETTES』は、カフェ好きならずとも知る人の多い『SHOZO CAFE』の通りにあり、黒磯のコミュニティとも強いつながりを持っています。某有名カメラメーカーで設計を担当していた経歴を持つ廻谷さんは源流釣りやMYOG(=Make Your Own Gear=ギア自作のこと)にも造詣が深く、それがHLC北関東のプログラムの特色にもなっています。

Ambassador’s Signature 源流釣りハイキング
(那珂川源流域 2019年8月27日 - 28日)

豊嶋 北関東では源流釣行が楽しそうでしたね。

廻谷 源流釣行は8月末にやった1泊2日のプログラムです。参加者3名に僕と水戸さん、山と道スタッフの中川爵宏さんの6名でしたね。大雨の影響でそもそも行こうとしていた沢には行けなくて、急遽場所を変えたんですが、そのおかげで、自転車を使ってアプローチするという新しい展開がありました。

写真提供:廻谷朋行(以下HLC北関東の項目同)

豊嶋 入渓ポイントまで自転車で行ったってこと?

廻谷 そうです。廃道になった道路を自転車で上がっていきました。歩いていくと1時間半くらいかかるところを、自転車だと30分かからずに行けちゃうのでかなり時間を短縮できますね。それに、自転車で行く場合も荷物は軽いほうがいいんで、自転車や釣りとULの関係がうまく合っていたと感じました。

豊嶋 ちなみにどんな魚がどれくらい釣れたんですか?

廻谷 ほぼ岩魚でしたね。あの日はかなり渋かったんですが(笑)。 一人一匹づつイワナの塩焼きを食べられるくらいでしたね。

豊嶋 道具は?

廻谷 フライですね。

豊嶋 毛ばりは自分で作るの? タイイングっていうんだよね?

廻谷 そうですね、作りますね。それも大きな楽しみのうちのひとつですね。

水戸 このプログラムはもちろん釣りをしに行くんですが、軽い装備で沢の奥まで入っていって、野宿をするっていう感覚を味わってもらうというところが重要ポイントです。

豊嶋 源流釣りの場合のUL的な工夫ってどういうことがあるの?

廻谷 源流釣りは、普段のハイキングに加えて釣り道具があるんで荷物は増えますが、ULであれば普段のハイキングと変わらずに行けます。しかも沢水があるので浄水器を持っていけば水を一切持ち歩く必要がないし、焚き火が許されるエリアだと燃料もいらないですね。なおかつ釣れれば食料も現地調達できます。

豊嶋 そのぶんお酒が増える(笑)。

廻谷・水戸 そうそう(笑)。
 
廻谷 釣りのときって荷物が重いんですが、お酒なんですよね(笑)。

豊嶋 沢って、谷だから暗くなるのが早くてそのぶん夜が長いからね。

廻谷 今年も同じプログラムを6月に予定していたんですが、延期になっちゃったので、釣りが解禁されているうちに間に合えばぜひまた実施したいですね。

Guest Seminar MYOGワークショップ&トーク
ゲスト:黒澤雄介-RIDGE MOUNTAIN GEAR
(2020年2月15日)

豊嶋 MYOGのワークショップはどうだった?

廻谷 正直に言うと、企画しておきながらMYOGのワークショップがどこまで盛り上がるのか見えてなくて不安だったんですよ。

豊嶋 というと?

廻谷  黙々と作るだけでおもしろいのかな、それってわざわざ集まってやる必要あるのかなと。実際には、元山と道スタッフで現リッジ・マウンテン・ギアの黒澤さんに来ていただいて話してもらったり、参加者にも自分で作ったものを持ち寄ってもらったり、その上で実際に作ったりということがあって、しっかり盛り上がりましたね。とくに自作していると細かいところがわからないってことがよくあるんですが、そういうことの意見交換ができたこともすごく良かったですね。

豊嶋 みんなどんなもの作っているんですか?

水戸 ザックとか作っている人もいましたね。5個くらい(笑)。後はポーチとかアルコールストーブとか。

廻谷 黒澤さんのプロダクトのストーリーや日本のULの歴史の話も興味深かったし、具体的なパーツの仕入先なんかも教えてもらったりして、参加された方もかなり勉強になったと思います。

豊嶋 それは実際的でいいね。

廻谷 印象的だったのは、MYOGといっても、UL黎明期のMYOGと今のMYOGは少し変わってきているという話です。昔はULの道具が売ってなかったから軽くしたいっていうところにMYOGがあったけど、今はマスプロでも十分に軽いので軽さを求めてわざわざ自作する必要がなくなってきている気がします。 だから今のMYOGは自分が欲しいものとか、他の人と被らないものにしたいとか、ULに直接的に関係していないところもあるので、MYOG=ULということではなくなってきていますねという話でした。

豊嶋 なるほど。確かにたいていのものは買えば手に入るから。でも、MYOGに対する関心は高そうだね。

水戸 そうですね。お店に来るお客さんにも「またMYOGのプログラムやらないんですか?」って聞かれますね。

廻谷 定期的にやれても面白いかなって思いますね。

豊嶋 そうなると、どんどんすごいことになっていきそうだけど。次はタープだ、その次はシェルター作るぞって。(笑)僕もかなり興味があるところなので参加したい! では、最後に昨年1年間HLCで活動してきた手応えや感想と、2020シーズンへの抱負を聞かせてください。

廻谷 HLCは自分自身のスキルアップにもなりましたし、何より楽しかった。たぶん私が一番楽しみました(笑)。プログラムを通してローカルの良さを再発見できたし、その良さを知ってもらうこともできたと思います。北関東はもちろん福島や東京、神奈川などからも多く参加していただきましたし、割合的にも『LUNETTES』従来のお客様が半分、HLCを知って参加された方が半分といったところでした。HLC北関東に限ってなのかはわかりませんが、みなさんハイキングにはひとりだったり少人数で行くことが多いので、「ULハイカーが集まる」ということだけでも非常に有意義だったと思います。フロアレスのテント村ができたときは軽く感動しました(笑)。今年は、予定通りにスタートを切れませんでしたが、仕切り直して再スタートします。毎年続けていきたいプログラムもあるので、2020年のHLCもメンバーと一緒にスキルアップしていきましょう!

③ HLC関西

アンバサダー:中川裕司

HLC関西は、大阪市中央区谷町にどっしりと鎮座する御神木の真向かいという立地に『山道具 谷ノ木舎』をオープンさせたばかりの中川裕司さんがアンバサダーを務めています。

トレイルランナーとしても実力派の中川さんは、大阪近郊や関西の山々でのライト&ファストなハイキングをはじめ、最近では子供たちと一緒に山を歩くハイキングクラブの活動にも力を入れています。京都のVEGAN食堂『PLANTLAB.』と山と道が共同運営するスペース『山食音』とも連携したプログラムもHLC関西の魅力のひとつです。

UL Hiking Event 比良山スノーハイキング入門
(2020年2月15日)

豊嶋 比良山でのスノーハイキング入門は、開催が危ぶまれたよね。

中川 2月の初めの開催予定だったんですが、1月中はほとんど雪がない状態だったので悩みましたね。開催予定日の1週間前に琵琶湖の対岸に行くことがあったので湖西方面を見るとまったく雪がなくて緑の山が広がっていた(笑)。これは来週、無理でしょって。でも、ちょうど本番の前日に低気圧が入って、しっかり雪が降ってくれたんですよ。

写真提供:中川裕司(以下HLC関西の項目同)

豊嶋 スノーシューやワカンを使ってのハイキングはどうだった?

中川 参加者6名全員が女性だったんですよ。そのうち、1名を除いて全員が、スノーシューやワカンを持っているけど使用したことがないという方々でした。だから、初めてのことでかなり楽しかったようでした。

豊嶋 普段山歩きはされている方ですか?

中川 山岳会に入っている方も多くいましたよ。

豊嶋 確かに、関西だとツボ足やアイゼンで雪山を歩くことはあっても、ワカンやスノーシューを使おうと思ったらあえて狙っていかないといけないかもしれない。

中川 なかなか機会がないですよね。

豊嶋 でも、僕の中で一番深い雪をラッセルした経験は数年前の同じ比良山系の武奈ヶ岳だけど(笑)。

中川 あの時は、腰を超えるラッセルで敗退しましたね。(笑)

豊嶋 スノーシューあったらいいだろうなと思って、その翌年はスノーシューを持って行ってハイキングしたよね。

中川 今回は、前日に降ったと言っても全体的な雪の量は少なかったので、ルートを変更して山頂にも行かずにスノーシューハイキングを楽しむということになりました。

豊嶋 トレイルを気にせずに自由に歩き回るのは気持ち良いね。

中川 結果的にスノーシューを履いていた時間は1時間未満だったけど、みなさん初めてのことだったのでテンションがかなり高くなっていたのがおもしろかったし嬉しかったですね。ワカンとスノーシューの違いもお互いに色々と話されたりもしていました。

豊嶋 ワカンはもっと見直されてもいい道具だよね。使うかどうかわからないような状況では、担いでいる時間も長いのでスノーシューだと重くて嫌だけど、軽いワカンだと使わなくてもまあいいかって思える。アイゼンとも組み合わせることもできるしね。

中川 そうですね。ワカンもスノーシューももっと使って楽しみたいですね。ともかく、来年はしっかり雪降ってほしいですねぇ。

Guest Seminar ハイカーの食事
ゲスト:東岳志 - 山食音 店主
(2019年8月11日)

豊嶋 山食音の東くんのワークショップはどうだった?

中川  20人以上参加者がいて、みんな熱心でしたね。

豊嶋  食のワークショップは、興味持っている人が多いよね。

中川 パタゴニアの京都店からプロビジョンズを提供してもらったのでそれも使いつつ、夏のワークショップだったこともあって、食材を水で戻すというような、火を使わない調理方法にスポットを当ててやりましたね。

豊嶋 僕も水戻しは行動食を作るのによくやる。夏だと、ジップロックに焼き米やクスクスに水を入れて、ポケットに入れて歩いているとお昼くらいにちょうどいい感じにできてる。

中川 東くんの「ハイカーのためのクッキング講座」では、「必要カロリーは人それぞれ違うので自分に合うものを探す」「材料は共通で飽きないように味付けでバリエーションを作る」「行動食は味と食感の種類を多めに栄養バランスを考えて」などのポイントレクチャーとともに、パタゴニア・プロビジョンズのオーガニック・ブラックビーンスープを水戻しして使ったレシピやポテトチップスを砕いてふりかけみたいにしたり、玄米フレークを使ったり、いろんなレシピを教えてくれました。プロビジョンズは水戻しすると豆の歯ごたえが残ってびっくりするほどおいしくかった。

豊嶋 ちなみにいつも山で何を作るの?

中川 ちょうど先日、ワークショップで東さんに教えてもらったクスクス料理を作りました。これは火を使うんですが、クスクスを湯戻しする前にオリーブオイルと絡めて少し炒めてから水を加えてトマトピューレと一緒に煮るんです。先に炒めているので食感も良くてすごくおいしいんです。

豊嶋 それ、絶対おいしいはず! ちなみに走るときはジェル系とかも使うの?

中川 僕は、ジェルは摂らないですね。おにぎり持っていくことが多いですね。基本が食いしん坊なのでがっつり食べたい(笑)。

豊嶋 泊まりの場合は?

中川 アルファ米を走っている途中で水を入れて戻しておいたりしますね。走るときは、クッカーやストーブも持っていかないこともよくあるので、水戻しできて軽い食材選んでます。

豊嶋 そのぶん酒を持っていけるし(笑)。

中川 そのとおり(笑)!

豊嶋 では、最後に1年間HLCで活動してきた手応えや感想と、ようやく始まる2020シーズンへの抱負を聞かせてください。

中川 初年度は切り口を豊富に、窓口を広げて多くの人に楽しんでもらえるようにできればと思いました。おかけさまで参加希望の方も多く、キャンセル待ちをしていただくこともありました。
同時に、参加していく上でステップアップしていけるような、掘り下げていく部分も大事なのかなと感じました。年々雪の少なくなる関西での雪遊びにヤキモキするよりは、関西ならではの歴史や低山遊びの魅力を引きだせるようなプログラムを増やしていきたいですね。山と道の製品レンタル体制も整ったので、参加者の皆さんにも実験的に使っていただけたら嬉しいです。

④ HLC 四国

アンバサダー:菅野哲

HLC四国は、松山城の真下に伸びる観光街の傍に居を構えるアウトドアショップ『T-mountain』のオーナー菅野哲さんがアンバサダーを務めます。

子供の頃から自然の中での活動に親しんできた菅野さんが愛してやまない四国の自然の美しさと雄大さには目を見張るものがあります。山岳登攀からスタンドアップバドルサーフィンまで、縦横無尽に四国の自然を楽しむ菅野さんは、わざわざ遠くまで行かなくても良いということを私たちに教えてくれます。

Local Study Hiking トレイル整備ハイク
黒森峠〜青滝山区間の古道
(2019年11月24日)

豊嶋 四国のプログラムでトレイル整備をやったのは独特だったね。

菅野 秋に「ローカルスタディハイキング」のプログラムとして開催しました。場所は、いくつかの団体が協力して整備してきた廃道になっていたトレイルなんですよ。背丈超えるような笹で覆われていた尾根道なんですが、今は、歩く人が多くなってちゃんとトレイルとして復活したんです。

豊嶋 それはすごいことだし、うれしいね!

写真提供:菅野哲(以下HLC四国の項目同)

菅野 そのトレイルの整備をHLC四国のプログラムとして呼びかけて集まってもらいました。みんなで草刈機や鎌や熊手を持って行って、倒木の整備や笹刈りや草刈りをしたんです。みんなやりだすとすごく熱心で、没頭してました。

豊嶋 僕はトレイル整備をやったことがないので関わってみたい。整備はうまくいった?

菅野 実は、その日は雨の予報で、午後からはできないかもしれないって話していたんです。なんとかもちこたえていたんですが、夕方くらいにはとうとう降り出してきました。あとちょっとで予定のところまでの作業が完了するというとこだったので、みんなも、「もうちょっと」「あと少しだけ」なんて言いながらやっているうちに最後まで行っちゃったんですよ。気づいたらもう日が暮れて暗くなり始めていました。6キロくらいある道を戻らないといけないんですが、当日の装備に「普段のハイキングの用意」としか伝えていなかったせいで、ヘッドランプを持ってきてない方もいたんですよ。結局は、持っている人に誘導してもらいながら安全に降りてきたんですが、そんなハプニングもあったのでとても印象的なトレイル整備でした。

豊嶋 そのトレイルには名前はあるの?

菅野 名前はないんですが、石鎚山系と東温アルプスをつなぐ黒森峠から青滝山っていう区間のトレイルですね。そのトレイルがなかったら繋げて歩けないんです。

豊嶋 すごいね、ふたつの山域をつなぐトレイルを復活させた。

菅野 「昔はね…」っていう話を先輩方から聞いたので、20代の頃から整備したいなって思っていたんです。数年前に有志で整備しようってことになって始まったんです。トレイルが一度繋がれば、あとはみんなにどんどん歩いてもらう。人が歩くと道はできます。この前、地元のプロガイドさんが、昭文社の登山地図の改定時に話を出してくれたのが嬉しかったですね。そんなトレイルをHLCのプログラムとしてみんなで整備できたのは嬉しいことでした。

豊嶋 それは本当に素晴らしいことだね。ちょっと感動した。(笑)

UL Hiking Event
石鎚山スキルアップスノーハイキング
(2019年2月9日)

豊嶋 厳冬期の石鎚山の話を。

菅野 今年は暖冬でなかなか雪がつかなかったんですが、HLCで山に行くときはなぜか雪降るんですよね。(笑)ホントについてました!

豊嶋 HLC関西のプログラムもそうだった!

菅野 石鎚山も今期一番の寒波で真っ白になってすごくキレイでした。今回はスキルアップということで、アイゼンやピッケルの使い方やその意味などを説明し、冬の山を歩くテクニックを体得してもらいながらのハイキングでした。登山道じゃないところもラッセルして歩きましたね。

豊嶋 参加者はどういう方々だった?

菅野 四国の方に加えて、岡山や福岡からも参加してくれた方もいたんですよ! すごく嬉しかったし、参加者同士も繋がって、お互いの地元の山に行こうなんて話も盛り上がっていました。そういう点でそれぞれのローカルを拠点としつつも、他のエリアとの交流も積極的にやっていこうというHLCの意義を強く感じましたね。集合写真もすごくハイテンション(笑)

豊嶋 それにしても、石鎚山すごくいい感じ。まだ登ったことないんだよねぇ。

菅野 でしょ! これ四国ですからね! 北アルプスじゃないですからね!

豊嶋 では、最後に1年間HLCで活動してきた手応えや感想と、ようやく始まる2020シーズンへの抱負を聞かせてください。

菅野 地元のメンバーをどんどん増やして四国のローカルコミュニティーをつくっていきたいと思う反面、ふたを開けると石鎚山でのプログラムが多かったということが影響したのか、四国以外からの参加者が多かったですね。四国のことをもっともっと知って大好きになってもらいたいのでこれは純粋に嬉しいことでしたし、四国のフィールドで楽しい時間をみなさんと共有できたことは、僕自身もとても幸せでした。これからも、HLC四国では、僕の身の丈にあった気取らないカッコよさ(笑)を前面に出して、四国のフィールドにあったローカル感たっぷりのプログラムを増やしていこうと思います。そして、HLC四国の活動を通じて人と人の笑顔をつなぐことができたら、理想のコミュニティにまた一歩近づいていけるのではないかと思っています。

それぞれのローカルエリアに根付いて活動している仲間にアンバサダーになってもらうことから始まった2019シーズン(2019年4月 – 2020年3月)は、「ULハイキングをベースにつながるローカルコミュニティー作り」を目標に山と道HLCが本格活動を始めた記念すべき年となりました。

手探りながらも、ローカルの自然や風土とアンバサダーのキャラクターや得意技を活かしたプログラムを組み立て、参加者のみなさんと具体的な経験を共有しながら交流できたと思います。

『地産地消』という言葉がありますが、これはアウトドアアクティビティーにも当てはまる言葉だなと感じます。それぞれの土地の自然に寄り添った遊びや活動、生き方というのは無理なく健やかであることを山と道HLCの運営を通じて再確認させてもらっています。
また、山と道HLCの全国的な交流の場として岩手山にて開催した『山道祭』での時間は忘れ難いものになりました。まさにミラクルと呼ぶにふさわしい一期一会の祭りでした。

シーズン最後はプログラムを中断せざるを得なかったことは残念でしたが、これから2020年夏に向けて、できることをできるかたちで再開していこうと思っています。興味深いプログラムがたくさんありますし、愉快なアンバサダーにも会いに来てください。

山と道HLCディレクター 豊嶋秀樹

豊嶋秀樹
豊嶋秀樹
作品制作、空間構成、キュレーション、イベント企画などジャンル横断的な表現活動を行いつつ、現在はgm projectsのメンバーとして活動中。 山と道とは共同プロジェクトである『ハイクローグ』を制作し、九州の仲間と活動する『ハッピーハイカーズ』の発起人でもある。 ハイクのほか、テレマークスキーやクライミングにも夢中になっている。 ベジタリアンゆえ南インド料理にハマり、ミールス皿になるバナナの葉の栽培を趣味にしている。 妻と二人で福岡在住(あまりいませんが)。 『HIKE / LIFE / COMMUNITY』プロジェクトリーダー。
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