山と道スタッフの推し道具2023
山と道材木座編①

2023.09.01

みんな大好き山道具!

なんだかんだ言って道具についてグダグダと話すのが大好きな人種は、ことハイカー界隈には多いもの。そこで今回は、山と道の鎌倉と京都にある直営店(山と道 材木座/山と道 京都)の個性豊かなスタッフに、「推し」の山道具を教えてもらいました。

ともあれ、ULギアのエンスージアスト、ロングトレイルのスルーハイカー、メタボ体型の山初心者、一年中山を愛する金髪女子など、それぞれ経験もバックグラウンドも様々な彼ら。そんな彼らに山と道JOURNALSの三田正明が根掘り葉掘りと「推し」を聞いていくのですが、楽しい時間は速く過ぎるもの。うっかり話が長くなったので、材木座編、京都編と、それぞれ前後編にわけての全4回でお届けします。

第1回となる今回は、山と道材木座から店長の前原秀則、スタッフの上杉あゆみ、スティーブン・モスの3名のそれぞれの「推し」を語ってもらいます。今回もテン場でのギアトークのようなのんびりした気分で、どうぞ最後までお付き合いください!

取材/写真/文:三田正明
協力:李生美

【後編はこちら】

山と道材木座の面々

神奈川県鎌倉市にある山と道材木座スタッフ。左より前原秀則、横井雄飛、苑田大士、上杉あゆみ、角田裕子、枠内スティーブン・モス。

前原秀則の推し道具

前原秀則  山と道材木座店長。北海道の田舎出身。理学療法士として整形外科クリニックで5年勤務後、北アルプスで小屋番を経験。2019年、自然を満喫したいと思い、妻と二人でニュージーランドを縦断するロングトレイル 『Te Araroa』を歩く。自然と街を行ったり来たりしながら、「歩く・食べる・寝る」3つのシンプルな生活を4ヶ月繰り返すことで、とにかく歩いて自然と繋がっていたいという自分のハイキングスタイルに気づき、ULハイキングに没頭する。高齢になっても現役ハイカーでいられるよう、自然にも身体にも負荷の少ないULハイキングカルチャーを勉強中。

夫婦でニュージーランドを縦断

ーーまずは自己紹介お願いします!

山と道材木座で店長をやってます、前原秀則です。あと他にも山と道本体の方でも色々やってたり、HLC鎌倉の運営なんかもやっています。

ーーかなり色々やってるよね。前原君は入社してどのくらいだっけ?

もうちょっとで2年です。

ーーあ、まだそれだけなんだ。もっとずっと前からいるような気がするけど。

実はまだそれだけなんですよ(笑)。

ーーだから2年弱とは思えないほど濃厚な日々を過ごしているって感じだよね。

ほんと、楽しいことも大変なことも、いろいろ経験させてもらってますね(笑)。

ーー山にはいつ頃登り始めたの?

大学1年の時に兄と高尾山を登ってからなんで14年前くらいですね。たしか高尾山がミシュランに入った年で、ちょっと行ってみたら気持ちいいじゃんってなって。でもそれから道具を揃えたりしてガッツリ行くようになったのは社会人になってからですね。

ーーじゃあ世間的にも山ブームと言われてたあたりだね。

そうですそうです。当時から妻と付き合ってたんですけど、彼女は山梨出身で小さい時から山に登ってたんで、ふたりでテント泊で行くようになって。その頃はお互い理学療法士をやってたんですけど同じタイミングで辞めて、一緒に山小屋でワンシーズン働いて、その後にふたりでテアラロアというニュージーランドを縦断するロングトレイルを歩きに行って、その後山と道にジョインしました。

ーーやっぱりテアラロアの体験は大きい?

そうですね。ロングトレイルの魅力って、やっぱり歩くこと含め全部が生活になることだと思うんですよ。家がバックパックで、仕事が歩くことみたいな(笑)。仕事といったら語弊があるけど、頭の中がごちゃごちゃしていた当時の自分にとっては、やることが明確でシンプルになることっていうのはすごい良い時間でしたね。また、ニュージーランドの剥き出しの自然と、ゆったりした人の流れが地元の北海道と似ていて、幼少時代のびのび育った感覚に戻るような感じでした。別にULスタイルで歩いていたわけじゃないけど、4ヶ月間歩き続ける旅をして、生きていくための道具も考え方もシンプルになっていったことが、今の生活にもハイキングにも活きているので、ロングトレイルっていいなって単純に思いましたね!

ーーほんと、そんな体験できて良かったよね。じゃあ、そんな前原君のお気に入り道具を教えてください!

はい。ひとつ目は最近のお気に入りで、先日の山道祭の帰りに松山のT-mountainさんで買ったマキシチタニウムのチタニウムウォーターボトルです。

①Maxi Tituniun - Titunium Water Bottle

ーーチタンボトルってダブルウォールの保温ボトルが多いけど、これはあえてシングルウォールなんだよね。

なので保温性はないけど、蓋を少し開けておけばこのまま火にかけられるっていうのが特徴です。

ーーこれは容量はどのくらい?

800mlですね。このサイズ感も絶妙で、真夏でなければ水筒はこれ1本でも十分だし、火にもかけられるんで、食事がドライフードだけならこれだけでクッカーも持っていかなかったり。

ーーテン場ついたらそれまで水飲み用に使ってた水筒でそのままお湯沸かせるのは面白いね。でも火にかけたらこれ熱くて持てなくならない?

なんでエバニューのフレームプルーフシルっていうシリコンバンドをつけてます。

ーーでもシリコンバンドって熱くならない?

熱源から低い位置だと熱くなりますけど、これは結構高さがあるんで大丈夫ですね。水筒としてはペットボトルの方が軽いけど、クッカーも兼ねるなら道具を減らせるし、精神的にULっぽいなって思って最近気に入ってます。

ーーでは次は?

はい。リバーサイドランブラーのRSRネイチャーストーブ30です。

② RiverSideRambler - RSR Naturestove30

元々はリバーサイドランブラーのRSRネイチャーストーブを太い薪も焚べられる焚き火台にするためのオプションキットとして出てたんですけど、いまはこのセットでも売られてます。

ーーRSRネイチャーストーブのフレームにこのチタン製の火床を取り付けることで焚き火台に変化するんだね。へ〜。こういう軽量コンパクトな焚き火台としてはなんといってもピコグリル398が圧倒的な代表格だけど、これはこれでまたいいね。持った感じもピコグリルよりがっしりしてて安定してる。

底面にはステーを噛ませてがっしりと火床を支えている。

サイズ感が絶妙なんです。僕はRSRネイチャーストーブも持ってるんですけど太い木が焚べられなかったのと、火床がメッシュで灰が落ちちゃうんでこのオプションキットを買って、それからはこっちを主に使ってます。

ーーピコグリル398よりひと回り小さい感じだね。あっちは4〜5人くらいでも囲めるサイズ感だけど、これでも2〜3人くらいだったら十分暖取れそうなサイズだね。重さはどのくらい?

182gなんで398gのピコグリル398の半分の重さですね。

ーーそんなに軽いんだ。

フレームもチタンなんで軽いのかも。しかも畳むとA5くらいのサイズになるんですよ。

分解すると付属のA5サイズのポーチにぴったりと収まる。

ーーピコグリルはひとりで使うには少し大きすぎる気がするけど、これだったらソロの時でも持って行く気になるかも。

バッグに入れてても邪魔にならないですしね。使うかわからない時も持っていける重さとサイズだけど、太い木もちゃんと燃える。

ーー182gって複数人で使えるような焚き火台としては最軽量クラスじゃない? ソラチタニウムギアのスーパーネイチャーストーブもあるけど、あれはほんと1人用って感じだし、火床もメッシュだしね。これはちょっと欲しくなる。

個人的には通常のRSRネイチャーストーブよりこっちの方がでかいサイズの木を入れられるんでお薦めです。

ーーRSRネイチャーストーブは焚き火台というか調理用の器具だからね。あれはあれでチムニー効果で半端ない火力が出る傑作だと思うけど。

料理にはあっちの方がいいですけど、こっちは焚き火もできるんで。

ーーまあ河野辺さん(リバーサイドランブラー主宰)としても両方買ってねって感じだと思うけどね(笑)。じゃあ次は?

ワンダーラストイクイップメントのグリースポッドコジーキットです。これは単体というより、このスタッキングとして紹介したいです。

③ Wanderust Equipment - Grease Pot Cozy Kit

ーーグリースポッドは元々はアメリカで売られてる安物のアルミ鍋なんだよね。安物だからこそ薄くてものすごく軽くてサイズ感もちょうど良いので昔からULハイカーの定番になっている。

だからもともと山道具じゃないんですよね。でもほんとめちゃくちゃ軽いです。900ccくらい容量があるのに鍋本体で100gくらい。でも蓋の取手が大きくて嵩張るんで、ガレージメーカーとかがそこを小さいものに付け替えて売ったりしているんですよね。これも日本のワンダーラストイクイップメットが取手を付け替えて、アストロフォイル製のコジーも付属させたセットです。サイズも絶妙でインスタント麺なんかを作るにも良いサイズで。

蓋の取手を嵩張らないダイニーマラインに変更してある。

ーー自分は普段は500ccくらいのクッカー使ってるけど、もう少し大きいの買うならグリースポット欲しくなってきた(笑)。

あとアルミ製で熱伝導が良いのもいいんですね。これと組み合わせるのはアルコールストーブが多いんですけど、チタン製鍋だと熱伝導悪くて、無駄に燃料消費しちゃう。そこも使い勝手が良いです。

ーーこのワンダーラストのコジーも良い感じ?

僕はグリースポットよりもこのMSRのディープディッシュボウルと組み合わせて使うことが多いです。これがグリースポットにもコジーにもシンデレラフィットなんですよ。鍋は完全にお湯沸かす用にしてて飯を食べるのには使ってないです。

ーーコジーとかご飯食べる用の器ってULだとちょっと贅沢品な気もするけど、ここまでぴったりだと持っていきたくなるね。

ご覧の通りコジーとグリースポットとMSRのボウルがぴったりと収まる。

で、このT’s ストーブのTiペグ五徳風防もグリースポッド用でサイズもぴったりなんで、すっきりスタッキングできるんですよ。

グリースポットとT’sストーブのTi ペグ五徳風防、MSRのディッシュボウルとワンダーラストイクイップメントのコジーがぴったりとスタッキングできる。

ーー自分がアルコールストーブあまり好きじゃないのって風防とかゴトクとか必要なアクセサリーが多くて取り扱いが面倒だってのがあるんだけど、これは風防とゴトクが一体になってるし安定も良さそう。T’sストーブは日本のアルコールストーブのパイオニアで、アメリカでも販売された元祖ジャパニーズULガレージメーカーだったんだけど、数年前にクローズされたみたい。これがもう手に入らないのは残念だな。

そうですね。今日は忘れてきちゃったんですけど、これにエバニューのアルコールストーブとか取手とか入れてすっきり収まる感じです。

T’sストーブの風防も外周に沿わせる形ですっきり収納。風防とボウルを入れてもコップやストーブ、持ち手なども入れられるスペースが。

ーーこのスタッキング具合がいいね。いままでスタッキングにはそんなに興味なかったけど、自分もやりたくなりました(笑)。

ジャストな感じが気持ちいいです。

ーーで、次が?

これです。ニューハレのエマージェンシーテープ。これも単体というか、これを使ったエマージェンシーキットの提案なんですけど。

④ New HARE Emergency Tape x Original Emergency Kit

これはニューハレの竹谷さんという方が近所の葉山に住んでて教えてもらったんですけど。基本的には応急テープが4枚入ったセットで、添付の袋が少し余裕があるので、そこにゴム手袋とか絆創膏とか痛み止めとか綿棒とか入れて、最小限のエマージェンシーキットが作れるんです。このテープも接着面を合わせると結構強いんで、貼り合わせると靴のソールが剥がれちゃった時なんかもこれで応急処置できたり。添付の説明書にもテーピングの方法が書かれてるし、結構硬い紙なんで、指が折れたりした時はそれを当て木にしてもいいって聞きました(笑)。

前原のエマージェンシーキットの中身。テープ、綿棒、痛み止め、絆創膏、消毒綿、ゴム手袋。

この手袋も寒い時は保温用に使ったり、水を入れることで氷嚢の代わりになったりとか、いろいろ使えるんです。

ーーさらにコンパクトにするならテープの数を少なくしたり、説明書を省いたりしてもいいかもね。

少ない道具だけなんですけどいろいろな場面で使えるんで、最近はこれだけでいいなって思って常備してます。じゃあ、次が最後なんですけど、タープテントのストラトスパイア2っていうテントです。

⑤ Tarptent - Stratospire 2

ーーこれは2人用?

2人用だけど結構幅があるんで2人でも余裕なサイズ感ですね。今はアップデートされていて、僕のはひとつ前のモデルなんですけど。

ーーこれはニュージーランドのテアラロアで使っていたやつ?

そうです。なので匂いが染み付いてる(笑)。

ーーこれはフレームレスでダブルウォールにもできるんだね。

トレッキングポール2本で立てるタイプで、インナーテントも吊り下げ式なんで、ほんとにすぐ立つ。2〜3分で立てられちゃう。全部入れて1.2kgくらいなんですけど、2人用のダブルウォールテントとしては軽いと思います。

ーー(細部見ながら)さすがタープテントって感じだね〜。

美しいっすよ。形といい、ギミックといい。

閉めた状態(※屋内のためあまり上手く張れてません)。

ーーボトムが立ってるところとかも、こだわりを感じるよね。ここは絶対いるんだろうなって。

あとポールの位置が横にずれてて、高い場所が2箇所あるんで居住性も良いです。

ーー人が斜めに入って寝るんだね。面白い。

当時はこういう作りはこれしかなかったと思う。上から見ると6角形なんですけど、そこに人が斜めに入って寝るんですよ。面白いす。

ーーよく考えたよね。タープテントのデザイナーってヘンリー・シャイアーって人なんだけど、ほんとテントが好きで好きでしょうがないんだろうなってことが伝わってくるよね。

新しい形のテントがどんどん出てきますからね。

ーー十分いろんな種類があるのにまだ出すからね。寝ても冷めてもテントのことばっかり考えていそう。

アップデートも頻繁だし、すごいっすよね。

ーー使った感じとしてはどう?

僕はニュージーランドで4ヶ月くらい妻とこれ使ってたんですけど、この空間に一緒に寝泊まりするんで、どうしても近すぎるといくら夫婦とはいえプライベートスペースが欲しくなるんです。でも、このテントなら横幅が結構あるんで一緒に寝ててもぶつからないし、雨が降ってても前室が結構広いんで調理のストレスがないんですよ。

ニュージーランドにて。

ーーしかも入り口が前後2箇所あるから、反対側も前室があるんだよね。

そうですそうです。たとえば夜トイレ行く時とかも両方開くんで相手を跨がないでいい。なんで使っててほんと不快感がなくて。でも強いて欠点をいうと日本の山にはデカ過ぎて合わないすね。

ーーたしかにアルプスのテン場なんかだとデカ過ぎるかもね。

ちょっと使いにくいです。北海道に住んでた時はだだっ広い場所が結構あるんで使ってたんですけど、本州に出てきたら使わなくなりましたね。

ーー4人用テントくらいの床面積がありそうだもんね。

でも去年同僚の下山とOMMに出た時はインナーテントを外してフライだけで使いました。ふたりで広々(笑)。

インナーテントを外すとご覧の居住空間。

ーーインナー取ったらめちゃめちゃ広そうだね。これならちょっとした宴会幕にもなりそう。

4人はいけます。今年もOMMにはスタッフ何人か出るんでここで宴会しようと言っています。北海道でキツネに噛まれたり、穴があいたりしたのをダクトテープで塞いだり、細かいとこはいろいろボロボロですけど。

ーーこれはもう捨てられない思い出のテントって感じだね。

捨てられないですね。あと今年子供が生まれたんで、そのうち家族で山に行く時なんかもちょうどいいかなって思ってます。

ーーライフスタイルが変わったら道具も変わっていくかもね。俺もスタッキングとかエマージェンシーキットとか考えてみよ!

上杉あゆみの推し道具

上杉あゆみ 山と道 材木座スタッフ。神奈川出身。好きなアーティストのツアースタッフになりたいと思いイベント制作専門学校を卒業後、舞台裏方として働く中早々に夢も叶い、この先どうするか考えていた時両親の影響で好きになった山を活かした職業に就きたいと思いアウトドアメーカーへ、その後北アルプスの山小屋、山専門店を経て山と道に。山では、縦走、クライミング、沢、アンパイン、アイスクライミングなど一年を通してゆるーく遊んでいます。今はCubツーリングと山、山と旅、ハイクとスケートボードなど好きな物と好きな物を掛け合わせて、どれだけ自分自身をワクワクさせられるかを研究中。

子供の頃から1年中山通い

ーーまず自己紹介からお願いします!

山と道材木座スタッフの上杉あゆみです。スタッフになってからはちょうど1年くらいです。

ーーそれまでは何を?

それまでも山道具を販売するお店にいました。でもお客さんの層が全然違うので、求められてるものが大分違うんだなと思いました。前職は専門店なんで、結構昔からのオールドスタイルの人が多かったんですけど、山と道はやっぱり新しいものへの感度の高い方が多いなと思います。

ーーまたちょっと別業界というか。

ちょっと雰囲気が違いますね。

ーー山には小さい頃から登っていたんだよね?

小学校3年生ぐらいから登ってましたね。出身は神奈川なんですけど、元々旅行好きの両親に連れられて上高地に行ったときに、河童橋から見える奥穂高に衝撃を受けて、「あそこに行ってみたい!」となったところから、家族での夏休みが山になりました。その中で(北アルプスの)涸沢へ連れてってもらったときに、なんか日本じゃないみたいだなと思って。

ーー「なんだこりゃ!」ってなるよね。

なりました! そこから自分でも山に行くようになって。その後、大手のアウトドアメーカーに入って直営店で働いてたんですけど、そこで出会った先輩たちがいろんな山を教えてくれました。クライミングする人もいれば、横乗り系のバックカントリーの人とか、沢登りする人とかもいたり。それで直営店にずっといた後、山小屋に行って、山小屋から下りてきて専門店に入って、最後に山と道ですね。

ーー今はどんな感じのアクティビティを?

夏の今だったら沢登りかアルパインかクライミングをしてて。あと去年から沢登りとテンカラを始めたんで、釣りができる沢に今年は入ってることが多いですね。あとは、冬だったら縦走か日帰りとか。あとはアルパイン、アイスクライミングとかをやってますね。

ーーゴリゴリだね〜。

いや、全部緩〜くなんですけど(笑)。

ーーじゃあそんな上杉さんのお気に入り山道具を教えてください!

はい。まずは大一アルミニウム製作所のアルミホシマルカップLです! 

① 大一アルミニウム製作所 - アルミホシマルカップL

ーーこれは日本のやつ?

アルミ製のお弁当箱を作っている会社が最近出されたみたいなんですが、これパッと見たときに、冬に1人鍋とかうどんに丁度いいなと思って。重さも86gで結構軽いし、アルミなんでいいなって。

ーーラーメンとかにも良さそう。

そうそう、ちょうどいいかな。アルミなんで焚き火の中にも放り込めるし。なので買ったのは最近なんですけど、結構今年いろいろ使ってます。

ーー例えば何作ったの?

これでこの間、鍋焼きうどん作って。ちょっと具を入れすぎたんで、ちょっと汁が溢れたんですけど。アルファ米とか乾燥物を食べるのがちょっと苦手で、でも食べることは好きなんでうどんとか蕎麦を持っていくことが多くて。これは1人分を作るのにちょうどいいのでお気に入りです。でも蓋が、まだこれにちょうど合うやつを見つけられてないんですよね。蓋がぴったりのものがあったら最高だなって思います。

ーーありそうだけどね。直径16cmって書いてあるから、探してみるといいかも。じゃあ次は?

はい。アトリエ雪月花のトライポッド Ti パワーです。

② Atelier 雪月花 - TriPod Ti Power

ーーこれは固形燃料ストーブ用の五徳だよね。

そうです。これ見たときに形が綺麗で、もともとアルコールストーブが好きなんで、いろんなのを持ってはいたんですけど、これを見つけてから固形燃料を使うようになって。軽いし見た目も綺麗だし、結構重量も削れるんで。

ーー固形燃料のストーブというか台座にはこの空き缶の蓋を?

そうですね。ファイヤードラゴンの固形燃料をよく使ってるんですけど、燃やした後に白いカスがいっぱい着くんですよ。でもこれだったらそのまんま捨てちゃえばいいし。

アルミ製ボトルの蓋を固形燃料の台座として使う。

ーーじゃあこういう缶の飲み物を飲んだときはキープしておくんだ。

めっちゃストックしてますね(笑)。で、3つ目がスタティックのヤクレッグウォーマーです。

③ Static - Yak Leg Warmer

ーーこれは行動中に着ける用?

基本テントの中とか寝る時用です。私、足が冷えてると寝れないタイプなんですけど、これでふくらはぎを暖めると、足から体が暖かくなってくるのがわかるんです。

ーー暖かい靴下もあるけど、それよりもこっちって感じ?

靴下よりもっていうより、靴下も履いてこれも履きます。

ーー靴下も当然温かいのを履くけど、さらにふくらはぎも保温したいんだ。

そうですそうです。ヤクウール製で柔らかくて暖かいです。

ーーさすが寒がりさんの防寒対策って感じで勉強になります! お次は?

はい。これは廃盤の製品になってしまうんですが、ファイントラックのポリゴン2ブランケットです。

④ Fine Track - Polygon 2 Blanquette

ーーこれは全身掛けられるぐらいの長さがあるんですか?

140cm×85cmなんで囲えはしないんですけど、夏の暑い時期だったらシュラフの代わりにしたりもします。重さは250gです。ポリゴンっていう化繊の不織布みたいなのが入ってるんですけど、濡れても大丈夫なとこも使いやすいです。

ーーポリゴンって何かガサガサいうとかって聞くけど、そんなこともない?

そんなに気にならないですね。あとはこれは、ボタンがいっぱい付いてて、ポンチョみたいに巻けたり、スカートみたいにもできます。上はダウンを持ってるけど下はないときとかスカートで巻いたり、使い勝手が広いです。

スナップボタンをフロントでとめるとポンチョ風に。

腰に巻けばダウンスカートに。

ーー化繊だから手荒に扱えるしね。

そうですね。元々中綿のインサレーション系が好きで、こういうのを見ると欲しくなっちゃう。雑に扱えるから好きです。あとは寒がりだから、秋口の10月11月の寝袋のブースト兼、ダウンジャンパーの代わりとしても使います。

ーーなくなっちゃったのが残念だね。

で、次のももう売ってないやつなんですけど、パタゴニアのフーディニパンツです。

⑤ Patagonia - Houdini Pants

ーーおお、これか。

夏の低山って結構蚊とかいるじゃないですか。ああいうときに、普通のパンツは暑くて履けないけど、これだと薄いから履けたり。朝露とかも濡れはするんですけど、薄いからすぐ乾くっていうのと、履いてても薄いからそんなに暑いなって感じないんですよね。結構コンパクトになるし軽いしで、ずっと使ってます。

ポケットにパッカブル収納するとこのサイズ。

ーーパタゴニアのフーディニジャケットは有名だけど、パンツの方は知る人ぞ知る名品だよね。でも結構好きな人は多かった印象だけど。基本ショーツで、ロングパンツ1本持ってくんならこれでいっかみたいな。

それでいいじゃんってなりますね。多少の雨だったら上にレイン着て、下はこれでいいなって思う時もあって。

ーー最近だと山と道のUL All-weather Pantsもそんな感じだよね。

でも私、暑がりで汗っかきだからUL All-weatherだとやっぱり蒸れちゃうんで、防水性はないけどこっちの方が快適ですね。なのでずーっと使ってます。

ーーこういうパンツがもっとあってもいいよね。では次は?

ここまでもう売ってないのとかずっと使ってるものばかりだったので、最後は最近買ったものを紹介します。ダウンキルトで、エンライテンド・イクイップメントのリボルトV2カスタムです。

⑥ Enlightened Equipment - Revolt V2 Custom

ーーこれは生地とかダウン量を選べるカスタムオーダーなんだよね?

そうですね。これは前から持ってる秋冬用のシュラフが結構昔のもので重かったんで、冬でも使えるようダウンも950フィルパワーにして、量もちょっと多めにしてます。ー6℃くらいまでは行けるようになってますね。

ーーダウン量は何グラムくらい入れたの?

378gですね。全部入れた重量も600g切るくらいなんで、結構暖かいし軽いです。それに最近ハンモックも買ったんで、それでも使えるようハンモックでも使えるリボルトV2にしました。

ーーこれは後ろが全部解放されるんで、ハンモックで寝る時にハンモックごと包まれるみたいにできるんだよね。

そうです。で、暑かったら掛け布団みたいにできるし。

解放すると布団のようなスタイルに。

ーーこれで何グラムぐらい?

確か527gです。ちょっと暖かめにしてます。

ーー527gでー6℃対応はすごい。

色も好きに選べるんで、どうせだったらと思ってこのカラーリングにしました。そんなにすごい大きいわけじゃないけど、結構暖かく眠れます。これで寒さに耐えられなかったら、もう厳冬期用かなみたいな。

収納するとこのサイズ。フードやジッパーがないのでダウン量に比べて軽量コンパクト。

ーー厳冬期には夏用ダウンとこれを組み合わせてもいいしね。これはもっと薄っぺらいのも作れるの?

薄っぺらいのも作れます。ダウン量も選べるし、生地の厚さも選べるんで。

ーーこれはかなり薄いのを選んだって感じかな。

裏地が7デニールで、表地が10デニールだった気がします。両方7、7にしようかなと思ったんですけど、ちょっと雑な性格なんで穴あけちゃうかなと思って、表地はちょっと厚めにしました。まだハンモックで試したことがないんで、早く使いたいです。

ーーこれからもガンガン山行って、また感想を聞かせてください!

スティーブン・モスの押し道具

スティーブン・モス 山と道スタッフ。 日本生まれ、日本育ち、神奈川県逗子市出身。青山学院大学文学部卒業。アメリカとのハーフでお父さんは元米軍人。スケートボードに幼い頃から夢中で、プチヒットをした「春の遠足Skateboardで」青春ロードムービのチームの一員。 帰国子女にパシフィック・クレスト・トレイルの存在を教わり、スルーハイクに憧れる。地元のブランドである山と道のバックパックをアメリカのロングトレイルで背負いたく、UL文化に出会う。 山と道では英語のカスタマーサポート、製品ページ翻訳をしながら、日々ULの知識を極めている最中。スケートボードとULハイキングを同時にできる方法がないか模索中。

スケーターからPCTハイカーに

ーーまずは軽く自己紹介からよろしくです!

はい。苗字がモスで、名はスティーブンです。逗子生まれ逗子育ち、たまたま大学の就活中に山と道の求人募集を見つけて、応募したらお仕事させてもらうことになって。

ーー山と道初の新卒入社だもんね。

社長は新卒を入れることを夢にも見てなかったって。

ーーモスはバックグラウンド的にはスケーターだよね。

逗子ではちっちゃい頃からスケボーやってたんですけど、PCT(パシフィッククレストトレイル。踏破に数ヶ月を要するアメリカ3大ロングトレイルのひとつ)を歩く夢が大学時代にできて、すごい登山にハマって。それから山と道を見つけて、日本メーカーのバッグ背負ってPCT歩きたいっていう夢で就職して。それで去年PCTをスルーハイクしました。

ーーちょうど1年ちょいぐらい働いてPCTに行った感じだったよね。

1年働いて、PCTに行かせてもらって。スルーハイカーになって、本物になって帰ってきました(笑)。

ーーリアルハイカー。

に、なりました!

ーーで、帰ってきて、また今は山と道でも働いてもらってて。

材木座のお店に立ったり、あと山と道JOURNALSとか製品ページの翻訳とか、カスタマーサービスの英語担当をやってます。

ーー今はアウトドアっていうとやっぱりハイキングが多いの?

ハイキングというよりはスルーハイクが好きなんで。普段そんな活発には行ってないですけど。1泊2日とか2泊3日で行くよりかは、やっぱ5泊ぐらいからやる気が出る。なんで、山はそういうスタイルで行きたいですね。

ーー半年歩いたらそうなるかもね。じゃあそんなモスにお気に入りの山道具を紹介してもらいますか。今回は主にPCTで使ったものだよね。

ほとんどそうです。じゃあひとつ目は、これは貰い物なんですけど、Zパックスのラージフードバッグです。PCTを半分ぐらい歩いたときに、ずっと一緒に歩いてた友達が新しいフードバックを買って、それで古いのをもらったんです。

① Z-Packs - Large Food Bag

ーー自分も同じの使ってるけど、同じとは思えないくらいめちゃボロボロだね(笑)。

彼はこれでAT(アパラチアントレイル。アメリカ3大ロングトレイルのひとつ)をスルーハイクし終えて、それを僕が受け継いで、これを持ってPCT完走したんで、俺よりも歩いているバッグです。これ持ってCDT(コンチネンタルディバイドトレイル。アメリカ3大ロングトレイルのひとつ)に行けば、俺より先にこいつがトリプルクラウン(3大ロングトレイルを踏破した人)になる。

ーー最近、自分のは知床のハイキングでキツネに噛まれて穴開けられちゃったんだけど、これ見るとまだまだ使わなきゃいけねぇなって気がしてきた(笑)。

いやーまだまだ行けるっすよ! これもまだギリギリ袋っていう機能は果たしてるんで。このボロボロ感がもう大好きになっちゃって、「あいつが待ってるわ」と思うと捨てるに捨てられないし、他を買うにも買えない。1泊2日だとデカすぎるんですけどね。

ーーだから自分はこれ、これには食料と火器と、あとバッテリー関係とか全部入れてる。ザックの中全部ひっくり返すんじゃなくて、この中探せば、欲しいもんが出てくるみたいな状態になっているのが便利。

確かに。それはやるっすね。

ーーそうそう。いちばん下が寝袋のスタッフサックで、真ん中が着替えのスタッフサックで、いちばん上がこれ。でもなかなか他でこのサイズのスタッフサックってない。

小分けするのが好きじゃなくて、俺はスタッフザック系はこれしか持っていなくて。寝袋とか着替えは全部ザックの底に入れて、あとはこれだけです。

ーー自分も買い替えずにまだまだ使います(笑)。では2つ目は?

じゃあPCTでいちばん使ったし長持ちもしてるのがパタゴニアのマイクロパフジャケットです。

② Patagonia - Micro Puff Jacket

これは山と道に入る前から持ってて、俺がいちばん最初に買ったギアです。PCTについて書かれているものとか読んでていちばん有名なジャケットだったんで、適当に買ったんですけど。

ーーマイクロパフって、PCTでは制服的なノリもあるぐらいの感じなのかな。

PCTでは多かったっすね。

ーーロングトレイルだとやっぱダウンより化繊がいいってなりそうだもんね。

たぶん単純にパタゴニアのいちばん高いやつだから有名っていう(笑)。でも俺めちゃくちゃ暑がりなんで、ミッドレイヤーは持ってなくて。結構寒くてもUL Rain Jacketを羽織るぐらいで、あとはずっと半袖で。超暑がりなんで、ほんと5°Cぐらいとかでも半袖で歩くんですよ。だからこれを行動着として着ることがなくて。大体バッグのいちばん上に入れてて、気温5°C〜10°Cとかで停滞するときはすぐにバックの上からシャって出して羽織る。

ーーTシャツの上からこれ羽織るみたいな。

そうです。大体行動はTシャツで、停滞はマイクロで。あと寝るときですね。次に紹介するんですけど、寝袋がだいぶダウン量が少ないやつなんで、寝る時は大体マイクロパフ着て寝てました。ほんと夜になると、バッグの中身が空で。使わないものがないスリーピング仕様でした。

穴が開いてもまだまだ稼働中。

ーー装備に無駄なものがまったくないっていうね。

乾燥機にぶち込んでも、全然へたれていく感じもないんで。PCTで町に着いたら、だいたい洗濯機と乾燥機にぶち込むんですけど、その安心感がロングトレイル向けだったかなって。

ーーまあ名品だよね。

名品です。で、次がPCTで最終的にたどり着いたボトルのスタイルなんですけど、カタダイン・ビーフリーハイドラパックのスカイフラスク500の組み合わせです

③ Katadyn - Be Free + Hydrapack - Sky Flask 500

ーービーフリーの浄水器部分とソフトフラスクの組み合わせね。

そうっす。ビーフリーを最初に買って、それには元から700mlのボトルが付いてたんですけど、破れちゃって。で、急遽ハイドラパックを付けたんですけど。

ーー確かに元のが破れなきゃこんなことしないかも。

破れてテープでとめてたんですけど、町に着く前日に爆発して。ちょうどその町に補給箱を送っていてそこにハイドラパックを入れてたんで、ほんと買ってて良かったってやつで。ハイドロパックは本当に強いらしくて、PCTの半分ぐらいこれで歩いてるんですけど、結構乱暴に扱ってますけど破れない。

ーーこれは元からハンドルが付いてるんだね。

付いてます。で、これ500ml×500mlの2個パックで売ってたんですけど、途中から手に持って歩くスタイルがいいなと思って。やっぱり5日分とか食料を持ってると、水も積むとザックがやばい。飯も軽いフリーズドライとかは高いんで、チープ精神でほんと重いもんばっか持つようになっちゃって。せめて水は手で持ちたいと思ってこの発想になりました。

ーーじゃあこれ2本持ちで。

2本持ちっス。なんか下りとか手に持ってると結構調子良くて。振り子みたいに使えるというか。

ーー手って何も持ってないと手持ち無沙汰っっていうか、なんか手のやり所に困るときない?

あるっすね。トレポとかずっと持ってる生活すると、特に。

ーー手をどうしていいかわかんないんだよね。そんな時何か持ってると落ち着くのかな。

でももう、なんか両手で持つのは飽きて、最近はこれ1本で歩いてるんですけど。これのいちばん良いところは、やっぱ登りとかは水持ちたくなくて、基本0mlで歩いてるんですよ。で、川に着いて、このハイドラパックで一瞬汲んで、中身全部飲んで次の川まで歩くっていうスタイル。本当に水なしで歩ける。汲むときも苦じゃないっていうか。

ーービーフリーなら出るのも速いしね。

速い。バッグを下ろさなくても水汲んで浄水できてっていうのがラクですね。

ビーフリーの飲み口(浄水器部分)とハイドラパックの径はぴったりはまる。

ーー元のボトルがついたビーフリーだと、ずっと手に持ってる気にはならないもんね。700mlあるから微妙にくにゃんってなる。

そう。形がくにゃんってなる。

ーーこれはならないギリギリサイズぐらいだね。

先っちょが硬いプラスチックだし、自立もするんですよ。

ーービーフリーだとこうなんないもんね。

あと注ぎ口が大きいから、一瞬で500ml入る。本当に水汲みが5秒、3秒とかでできるんで。あと水場も全然水がないセクションとか、チョロチョロとしか出ない場所が結構あるんですけど、これは立つからそのまま置いて受けれる。ただタバコとか吸って待ってればいい。

ーーこれは便利って感じだと。

1日50キロとか歩いてると、止まってる暇がなくなってくるんですよ。止まってるのが嫌になってくるんで。なんでこれはめちゃくちゃ気に入ったっすね。多分、今のところ一生これかなって思ってる。

ーーで、次は寝袋?

はい。これは、エンライテンド・イクイップメントのレべレーション・カスタム・スリーピングキルトです。950フィルパワーダウンですね。30°Fだから、マイナス1°C対応。

④ Enlightened Equipment - Revelation Custom Sleeping Quilt

ーーエンライテンドの寝袋は上杉さんも紹介してくれたけど、これもそれと同じとは思えないくらいボロボロだね(笑)。これはカスタムしたの?

一応カスタムです。生地とか色とか選びました。エンライトの最強な部分はクオリティの割には本当に値段が安くて。多分これより全然軽量の寝袋ってあるんすけど、やっぱ一式揃えると結構高額になってくるんで。コストパフォーマンスはいちばんかなって自分の中で思ってます。でも多分普通の人じゃマイナス1°Cは寒い。これ多分限界数値なんで。PCTでいちばん寒くなったのはマイナス5°Cぐらいだったんですけど、鬼寒くて。

ーー高地で? 北の方に行って?

いや、意外と最初の方のシエラで。4月20日に歩き始めたんですけど、もうそのときも3日目とかで砂漠で雪降って、全然マイナス1°Cとかあって。シエラでマイナス5°Cの日があって、そのときすごい谷で冷たい空気が溜まる場所で寝てて、さすがに寒すぎて1回テントから出て。で、ダウンを全部上半身に寄せ集めて。もうお母さんのお腹の中にいたときのようなポーズで丸まって寝たら、結構温かくて。これマイナス5°C位以上でもちょっとギリいけるのかなとか。ダウン量少なくてもそういう工夫すれば、意外といけるやつだなって。

ママのお腹の中スタイル。

ーーこれはオープンになったり、いろいろな使い方できると思うけど、その辺も役立ったりした?

そうっすね。やっぱ半年とか歩くと、幅広い温度を経験するんで、そこがやっぱ良かったですね。寒くなければもう布団スタイルで寝て。

ーーこれは穴開いちゃってるけど、それにはエピソードがあるんだよね?

結構思い出のある寝袋で。表面に大きくL字のパッチがされてるんですけど、これはPCTにタホっていう町があって、そこにPCTハイカーは無料で泊めさせてくれる大きなキャンプ場があるんです。そこで寝てて起きたら、なぜか熊が俺の寝てる上に乗って、寝袋を食ってたんです。

ーーえ、やば! 食料はテントに入れてたの?

食料は全部ベアボックス(就寝中に熊などの動物に食料を荒らされないための箱)に閉まってました。その町に着く1週間前から「あそこはやばいよ」「熊が出るんだよね」っていうのは聞いてたんですけど、それまで熊全然見てなくて、シエラの終わりがタホなんすけど「シエラで熊1匹も見なかったよ、詐欺じゃん」みたいな感じでブツブツ言ってたら、見事に会いました(笑)。もう結構酔っぱらって寝てたら、朝の5時にツンツンされて、起きたらめちゃくちゃ不細工ででかい熊が俺の真上に乗っかってて。

PCTのゴールに到達したモス。

ーーまじやば! テントには入ってたんだよね?

カウボーイキャンプ(天幕なしの野宿)してたんですよ。酔っ払っちゃってたんで、なんかもうテントとかも設置する気がなくて、みんなからちょっと外れたとこで寝てたら。

ーー何かモスからおいしそうな匂いがしたんだろうね(笑)。

何だったんすかね。多分食べたチョコがシャツに付いてたのか。起きたら寝袋がよだれだらけで。

ーーペロペロしてたのか。

もう噛んでたんすよ! 思わず大騒ぎして、女の子みたいな悲鳴を上げちゃいました(笑)。

ーー周りには人は?

めちゃくちゃいたんですけど、カウボーイは俺だけで、みんなテントに入ってた。

ーーなるほど。それもう反省ポイントだね(笑)。

いちばんの反省ポイントはちょっと外れたところで寝たことですね。みんなと寝てたらよかったんですけど。で、次の日とかまたその熊見たんすけど、口にめっちゃダウン付いてて(笑)。

ーー熊ってダウンが好きなのか。ニワトリとか食べて味を覚えたのかな。

そうかもしれないです。襲われた時、ダウンが吹き飛んでって、熊がまだ目の前にいるんですけど、周りに散ったダウンを必死に拾いながら、詰め直しながらパッチをしてて、それででけえL字パッチになったんすけど(笑)。

名誉の負傷のL字パッチ。襲われた際にダウン量もだいぶ減ってしまったとか。

ーーそんないっぱい出たんだ。

結構出て、でもここで寝袋が死ぬのはやばいって思って必死に拾いました。拾ってるときに友達が来て「熊、目の前いんじゃん! やばいじゃん! さっきの悲鳴お前? 女の子かと思った」みたいな感じで(笑)。本当に今だにあんな声出した自分がすごいなと思って。

ーー必死だとまあ出るよね。自分も最近知床でヒグマに会った時、驚くとこんな声が出るんだってちょっとびっくりしたもん(笑)。

10歳ぐらいの女の子の「キャアアア!」でしたね(笑)。でもその熊が僕にチューをしてたっていうことで、めちゃくちゃそれでトレイルで有名になりました。「熊とチューした人」って。

ーートレイルネームになりそうだね。「ベアーキッス」とか(笑)。

最後、ゴールに着くまでその話聞いたっすね。知らないハイカーから。

ーーそりゃこういうことあったらしいよって話題になるよね。あそこのキャンプ場は去年こういうことがあったから気をつけろっていう話になりそうだし。

多分今年のPCTハイカーも聞いてる筈です。「去年ここで熊に舐められたやついるから」って。

ーー「だからここでは絶対カウボーイはやめとけ、テント張れ」ってなるよね(笑)。

なんで、めちゃくちゃ思い出の寝袋っす。

ーーともあれ無事にゴールできて笑い話になって何よりです。あとはこのビビィだね。

最後のこれはPCTの後に買ったんですけど、買って持ってっときゃよかったっていう品です。ボラーギアのキューベンバグビビィ。モンタナのガレージブランドです。

⑤ Borah Gear - Cuben Bug Bivy

ーーサイト見るとビビィとタープしか作ってない。いかにもアメリカンなブランドだね。

俺のは総メッシュのバグビビィなんですけど、底の生地がナイロンとキューベンの2種類から選べたり、ジッパーもカスタムできます。シエラでタープで寝てたんですけど、蚊との戦いが半端なくて。

ーーやっぱシエラとかそうなるんだ。

いや半端ないっす。もう腕に蚊が30匹ぐらいバーって付くセクションとかあって、ずっと蚊を拭いてるみたいな。

ーーやばいね。夜も出る?

夜もやばいっすね。トラウマっす。だから風があえてビュービューの場所で寝るっていう。で、蚊を防止する。毎日レインジャケットのフードをつけて、顔にも手ぬぐいとか置いて寝てました。それが悔しくてこれ買ったんですけど。

ーーなるほどね。日本の山だと、蚊の被害ってそこまでシリアスじゃないけどね。

でも先週北アルプス行ってきて、テン場がいっぱいでカウボーイしようと思ったんですよ。それで寝転がってたら、もうクモとかがすごい引っ付いてて、やっぱバグビビィあってよかったって思いました。

畳むとこのサイズに。

ーーどこのテン場?

常念岳のテン場がちょうど3連休とかで、もう張れないからってって引き返してる人もいたんすけど。そのときに、もういっぱいだけどって言われたけどテン場代払って、もう無理やりテントとテントの間にバグビビィ張って無理やり寝て。でも夜暗くなるまで中には入らなかったんですけど、何かうっすら記憶があるのが、夜中に「え!?」って驚かれるという。

ーーそりゃまあテン場でカウボーイで寝てるデカい外国人みたいなのがいたら驚くよね(笑)。

でも張る範囲とか狭くても全然どこでも寝れちゃうので、めちゃくちゃおすすめです。ほんと面倒臭がりなんで、すぐ出して寝れるのが大好きですね。で、雨が降ったらタープを張らずにビビィの上に布団みたいに直接掛けちゃう。

ーー飛んでいかなきゃいっかみたいなね。

そうそう。一瞬でゲトーな寝床が作れるんすよ(笑)。

ーーさすがPCT帰りらしいセレクトとエピソード、面白かった。ありがとう!

【後編に続く】

三田 正明
三田 正明
フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。
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