山と道の香港行2024

(後編)morimoriでのポップアップレポート

香港のトレイルやハイカーと出会ったmorimoriポップアップツアー報告
構成/文:三田正明 李生美
写真:三田正明 シュウ・フォン 六
2024.09.18
山と道の香港行2024

(後編)morimoriでのポップアップレポート

香港のトレイルやハイカーと出会ったmorimoriポップアップツアー報告
構成/文:三田正明 李生美
写真:三田正明 シュウ・フォン 六
2024.09.18

去る6月、山と道は5年ぶりとなる香港でのポップアップショップとイベントを、ULハイキングギアのセレクトショップmorimoriで行いました。

イベントだけでなく、香港の山もハイキングできた今回の香港行。現地のハイカーとも交流し、非常に有意義だった旅の顛末を、参加メンバーの座談会で振り返ります。

後編となる今回は、いよいよ本題となるmorimoriでのポップアップの模様をレポート。さらにmorimoriオーナーのドナルドへのインタビューで、香港のハイキングシーンの「今」に迫っていきます。

【前編を読む】

香港で5年ぶりのポップアップが幕開け

三田 今回のポップアップではmorimoriの商品を全部山と道製品に入れ替えてくれて行ったんだよね。予約制だったから混乱は起こらなかったけど、常にお客さんが来て熱心に見てくれて。熱気を感じましたね。

開店前に輪になって気合いを入れる山と道とmorimoriのスタッフ一同。

開店と同時にお客様がなだれ込む。

夏目 この日からコーくんも台湾から来てくれたね。

三田 山と道でイラストやデザインをしてくれてるコーくん(KOH BODY)と、JKの奥さんで台湾人のペイペイが通訳として参加してくれました。日本人と台湾人と香港人がチームでやってる感じがまた面白かった。

JK すごく良かったですね。

三田 コーくんなんかもすっかりスタッフのように接客してくれてたもんね。

ジョージ ペイペイも僕の通訳をしてくれてたんですけど、だんだん話を覚えて全部処理してくれて、僕が横に立ってるだけの時もあった(笑)。僕は英語が全く喋れなくて、それが京都店でもストレスだったんですけど、ポップアップを通して喋る勇気みたいなのが出ました。これまで自分から一歩踏み出すことができてなかったんですけど、京都に帰ってきてからも外国人のお客様に積極的に声をかけられるようになりました。

長年山と道のアートワークやグラフィックデザインを手がけてくれている台湾人のKOH BODYさんも通訳として参加。

JKのパートナーで台湾人のペイペイさんも通訳として参加。

三田 接客しててどうだった?

ジョージ やっぱり皆さん熱心で、スタッフの話をすごく聞いてくれるんですけど、じゃあすぐにお買い上げするかというとそういうわけじゃなくて。しっかりと見定める力を持ってるなと感じました。

夏目 みんなちゃんと動いて接客してくれてたから自分はやることがなくて、ポップアップ中はひとりで抜け出してハイキングに行ったりしてた(笑)。Uberで5分くらい行ったところにトレイルヘッドがあって。香港はすぐにハイキングできる場所があるのも本当にいいよね。

キム 僕は香港のお客様たちと山の話をしたときに、日本に来てる方が多いのがすごく印象的でしたね。夏は北アルプスに登ったり、冬は雪山に登ったり、年に3〜4回は日本に来てるって方が多かったです。

三田 みんなこちらの想像以上に日本に来ていて日本の山も登ってるし、日本の文化についても詳しいんだよね。お客さんと話していて印象的だったのが、日本は山も海も街もあって、南北に長いから雪も降って、「なんだってあるじゃないか」って言われたこと。ずっと日本は狭くて小さいと思っていたけど、香港からはそう見えるんだなって。香港は狭いから旅行するとなると海外が多いらしくて、なかでも日本がすごく人気みたいだね。

「手拭いの使い方講座」など、ポップアップ中には突発的なミニイベントも行った。

5-Pocket Shortsを含めてサンダルから髪色までピンクで決めたお洒落なお客様。アメリカのJMTも歩いたことがあるそう。

そしてポップアップ初日の打ち上げ。香港では毎日ドナルドにおいしいごはん屋さんに連れて行ってもらった。

熱気に包まれたトークイベント

キム そしてポップアップの2日目はトークイベントを行いました。

三田 夏目さんの山と道の自己紹介的なプレゼンと、自分の日本のULやガレージメーカーの歴史についてのトーク、他にもキム、JK、ジョージでざっくばらんなトークをしましたね。

トークイベントにもたくさんの人が詰めかけてくれた。

夏目 僕は山と道の道具に対する考え方や、根底に流れているウルトラライトハイキングについて、「山と道ってこういうことだよ」と伝える内容にしました。

三田 手応えはどうでしたか?

夏目 みんな熱心に聞いてくれてる感じがすごくしたね。

JK 熱心でしたよねみんな。

キム オンラインでも200名ぐらいの方が見てくれていました。

まずは夏目が山と道の自己紹介プレゼン。コーさんが同時通訳してくれた。

プレゼンの内容はJOUNALSの記事としても公開。「山と道の道具の考え方、その根底にあるウルトラライトハイキング

夏目 あと嬉しかったのは5年前に香港でやったカザマナオミ君の『Big O』のライブシルクで刷った服を着て駆けつけてくれたお客さんも多かったこと。

三田 そうですね。5年前に会った人たちに今回もいっぱいまた会えて。それもすごい嬉しかったですね。

JK ずっと僕たちの活動を見てくれてたんだっていう嬉しさがありましたね。

三田 5年前よりもULハイキングの文化が広がって、根付いている印象を受けたよね。

夏目 それは僕も感じた。5年前も同じようにプレゼンテーションをした時はちゃんと伝わってるのかなという不安が多かったけど、今回はちゃんと受け止めてもらえてる手応えがありました。

三田 自分もJOURNALSでも出してる、「日本UL&ガレージメーカー史概論」のプレゼンテーション版として日本の初期のULについて話をさせてもらったけど、終わった後にも熱心に質問しに来てくれる人もいたり。自分たちが海外やアメリカからの影響を受けてやってきたことが、同じように香港の人にもインスピレーションや刺激になって、そこから何かを始めるきっかけになっていたら嬉しいですよね。

続いて、JOURNALS編集長三田による日本UL&ガレージメーカー史概論のプレゼンテーション。ペイペイが通訳。

最後はスタッフみんなで香港の山についてなど、ざっくばらんなトークを行った。

日本・香港・台湾のワンチームだからできたこと

三田 ポップアップイベントを終えてみて、どうでしたか?

夏目 日本、香港、台湾でワンチームでやれたのがすごい良かったですよね。

JK 一緒に山を歩いて、それぞれの気心を知れてからポップアップを迎えられたのも良かったです。ワンチームとしてみんなで作れた感じがありましたよね。

トークイベント後の懇親会でも熱気は冷めやらず。

三田 終わった後に懇親会をやったんだけど、ここでもみんなめちゃくちゃ熱心でしたね。すごく質問攻めにあってJOURNALSの記事を翻訳しながら全部読んでくれてる人もいて、こんな隅々までチェックしてる人は日本でも会ったことないかもっていうくらい(笑)。香港の人は割とストレートに愛情や興味を示してくれるから嬉しかったよね。香港で自分でブランドやってる人たちも来てくれてたけど、みんな30代前半くらいで、どこもセンスが良くて。

キム メーカーだけじゃなくて、自分たちでやハイカーのコミュニティを作ってハイキングイベントや清掃活動をしたりしてる人もいましたね。同年代ですごく熱心に活動されてて良い刺激になりました。

5年前の出会い以来、三田の香港の弟的存在のProj.MTというブランドをやっているマイク。

左よりHIKE EXITを運営するインフルエンサーのミルク、中国版『GO OUT』編集長のケネス、ラン/ハイクブランドblackhillのサ、超軽量シェルターを作るOUNCE DESIGNのシンクレア。

特に熱心にトークに聴き入ってくれていたお客様のグループと。

5年前にも交流したTKとジョジョ。ジョジョは5年前にカザマナオミさんがプリントしたTシャツを着てきてくれた。

JK 香港でもこの5年くらいで育ってきているカルチャーがあるんでしょうね。

三田 香港はまた日本や台湾とは違う形でカルチャーが育まれているよね。やっぱり都市と山が近い影響が大きいんだろうね。それからポップアップ後に、山と道はmorimoriと正式に契約しましたね。

夏目 決め手はmorimoriのスタッフの良さだね。ジョージがよく言ってたけど、ウィルソンは教えたことを真面目に吸収して、自分のことのようにバックパックの接客ができるようになっていたって。

ジョージ また香港に行く機会があればウィルソンの成長を見てみたいなと思いましたね。今後どんなふうになるのかすごく楽しみです。

JK morimoriで山と道の取り扱いが始まるってことは、鎌倉に研修に来てもらうこともあるだろうし、こっちが香港に顔を出すこともある。次に繋げていくには、そういうフェイストゥフェイスの付き合いをしていきたいですよね。今回morimoriとの縁が繋がったのは、やっぱりドナルドが何回も山と道に来て縁をずっと繋げてくれたからだと思うので。

三田 正式に取り扱いが始まれば、香港のお客様ともより密に付き合っていけるしね。自分はこの旅でまた香港に行く理由ができた気がして、嬉しかったな。

キム 本当に頑張ってる仲間たちがいて、また行きたいなと思える場所が増えたのがすごく良かったです。

夏目 印象的だったのが、ウィルソンに「どうしてmorimoriに入ったの?」ときいたら、最初はお客さんとして製品についてドナルドにメールしたら、すごく丁寧に説明を書いて返信してくれて、その熱意に感動して入ったんだって。たぶん他の人たちもそんなドナルドの人柄に惹かれて、お客さんとしてずっと向き合ってるんだなと感じました。やっぱり行かないと分からない。いいコミュニティでしたね。

JK そうですね。この先の関わり合いがまた楽しみですね。

三田 とりあえず香港にヤンボイ(乾杯)!

一同 ヤンボーイ!

ドナルド・ヤン(morimori) インタビュー

香港ポップアップツアーの振り返り、いかがだったでしょうか。色んな意味で「熱かった」香港の熱気が伝われば嬉しいです。それでは最後にmorimoriオーナーであり、我々の友人でもあるドナルドに、山と道とのこれまでの関わりや、香港におけるULハイキングの受容やハイキング事情について話を聞いてみましょう。

インタビュアー:三田正明
通訳:ペイペイ

ーードナルドと山と道は5年前に出会って、ずっと関係を続けてきたよね。

最初に出会ったのは5年前の『HIKE / LIFE / COMMUNITY』でした。その時に山と道スタッフの皆さんを囲んだプライベートのキャンプがあって、私とパートナーのルビーが到着したのはもう12時過ぎで、大雨だったんだけど、皆さんとお話しして、盛り上がって、良い関係性を作れましたね。その後、仕事で日本に行くことがあって、夏目さんには家に誘ってもらったり、三田さんにも鎌倉の山をハイキングに連れていってもらったり。それからコロナ禍になって、その間は会えなかったんですけど、コロナ禍が終わって日本で再会した時に、全然久しぶりな感じがなく接してもらいました。それからは日本に行くときは必ず山と道を訪ねていて、皆さんとはずっと友達というか、気持ちが通じ合うような関係を続けさせてくれて感謝しています。

2019年に鎌倉にやってきたドナルドと夏目、JK、三田。

ーーこちらこそ! 香港は山と街が近いすごく独特な環境だと思うのだけれど、香港のハイカーはどんなふうに山を楽しんでいるのかな?

街と山が近いから、ハイキングを生活の一部にしている人が多いです。たとえば週末だけではなく、平日も仕事帰りに山に入って、翌日そのまま出勤して仕事したり。もちろん週末に山を歩く人も多いけど、山が大きくないので、1泊〜2泊がほとんどですね。あと、山の服を普段着として着る人も多いです。

ーーmoromoriは日本の所謂ガレージブランドのプロダクトもいっぱい扱ってるけれど、最初からそういう感じだったの?

2017年のオープン当初は、実はULハイキングの道具を取り扱っていませんでした。でも日本にハイキングに行った時にULの道具をよく見かけて、見た目もクールで、自分たちの好きなテイストだったんです。それから自分たちのスタイルも徐々にULになり、morimoriも少しづつULハイキングに傾倒していきました。さっきも言ったけど、香港では仕事終わりに山に入る人が多いので、持っていくものはなるべく軽くしたいんです。あと香港は家も狭いから、収納スペースも小さい方がいい。だから香港にはULスタイルが合っているんです。

ーーULギアにはアメリカやヨーロッパのものも多いけど、日本の製品を多く取り扱っているのはどんな理由なのかな?

まず香港は日本の文化が好きな人が多くて、日本のものは細部までこだわってデザインしているところがすごく好きだし、アジア人の体型にも合っています。あとアメリカの製品はロングトレイル向けのものが多いけど、香港は短いハイキングが多いので、日本の製品はそこも合ってます。ガレージブランドも、アメリカより日本の方が今は数が多いと思います。

ーー香港からはそんな風に見えるんだね。面白い。

香港ではULハイキングが日本である程度広まってから、日本経由で知ったんです。香港人としての感覚は、ULハイキングは日本から来たものなんですよ。

ーーへ〜! 日本人としては、香港の人が日本を近しく感じてくれている雰囲気をすごく感じて、それは香港に来ないとわからないことだったんだけど、香港の人は日頃からどんなふうに日本の文化と触れあっているのかな? 

漫画やアニメ、小説や映画は小さい頃から日本の作品を見てきたので、そこからも気づかないうちに馴染みがあったと思います。また香港の人は外に出るのが好きで、かつ日本は近いので、日本に対する興味も多いです。私の日本人に対してのイメージは、何をするにしてもすごくこだわりを持っていて、美意識が高いですよね。人のものをコピーする文化もないし、常に新しいものを日本に行くたびに見ることができる。他では見られないものを自分たちの文化で作っていると思います。

ーーそれはドナルドだけでなく香港の人には多い感覚なのかな?

人にもよりますけどね。特に僕は大学でも日本文化について研究していたくらいなので好きな方だと思う(笑)。

ーー今回のポップアップはどうだった?

まず、すごく嬉しかったです。香港の人にも、皆さんが来てくれたことで、山と道が香港を大切に思っていることが伝わったと思います。今回は台湾からペイペイさんやコーさんも通訳で参加してくれて、香港と日本と台湾のチームでやれたことも良かった。山と道とのこの協力も、私はビジネスの感覚ではやっていなくて、今回も自分の好きな人が集まって、ひとつのチームになって、ずっとやりたかったことをやれた感じがすごく大きかったです。

ーーsamplus(台北にある山と道の直営店)のある台湾も含めて、これからももっとひとつのチームになっていけたらいいよね。今回、5年ぶりに香港に来て、昨日の懇親会に参加してくれた人の中でも自分でブランドをやっている人やコミュニティをやっている人、いろんな人がいて、カルチャーやコミュニティの広がりを感じたんだけど、ドナルドはどう感じてる?

環境が違うので、日本みたいにULハイキングを多くの人が知っている状態になるかどうかはわからないけれど、でも間違いないのは、私はmorimoriをより良い場にしていくし、ULの哲学やコミュニティをもっと広げていきます。まだ香港にはULの歴史を知る人はそこまで多くないので、まずそこをちゃんと広げていけば、ガレージブランドなんかももっと出てくるんじゃないかな。私はポジティブに考えています。

ーーそれには山と道も貢献できることがあったら、ぜひやっていきたいです。

ありがとうございます。ハイカー同士、国とか関係なく、もっといろんな国の人と一緒にやっていけたらいいですよね!