現在、日本各地に台湾を加えた8つの拠点で活動する山と道HLCでは、ULハイキングが繋ぐコミュニティ作りを目指して、日々、様々なプログラムを行っています。このHLC Reportでは、そんな活動の内容をシェアしていきます。
今回のテーマは、ULハイキングのビギナー向けカテゴリー「BASIC」の、フィールドで行う「1泊2日ワークショップ」。『ULハイキング入門講座』で学んだ内容を、実際の山で「やってみる」ための次のステップです。パッキング、歩き方、レイヤリング、シェルター、調理道具、そして行動食。座学だけではわからない「体感で理解するポイント」がぎゅっと詰まった2日間でした。
……ということで、山と道HLC事務局の日野藍が実際に参加してきました。個人的にも、過去にこのワークショップ参加をきっかけにUL化が一気に進んだ経験があるので、「ULを学びたいけど、一歩踏み出すのが不安」という人ほど、ぜひ知ってほしいプログラムです。
1. 軽量化・パックウェイトの確認:軽量化を数字で知り、体で感じる
今回のワークショップは、札幌市街地のすぐそばにある低山をつないで歩くルートで開催。藻岩山、三角山、円山などを縦走し、宿泊はキャンプ場で行います。公共交通機関でアクセスしやすく、季節を問わず歩けるルートや観光スポットが多いのも特徴。
今年からHLC北海道アンバサダーを務める沼田信悟が日常的にトレイルランニングをするホームマウンテンを舞台にオリジナルで組んだルートを案内してくれ、「街の近くでも、一晩泊まれば立派な旅になる」そんなことを感じられる行程でした。
実際の行程
【1日目】9:00 真駒内駅集合・出発ー藻岩山ー旭山記念公園ー16:00 札幌野営場 by 焚火人(宿泊)
【2日目】9:00 札幌野営場 by 焚火人出発ー三角山ー荒井山ー円山ー13:30 円山公園到着・解散

集合場所は、札幌市営地下鉄南北線の終点、真駒内駅。参加者は8名で、道内からが中心。おひとり様での参加が多く、テント泊デビューの方もふたり。緊張とワクワクが混じった空気のなか、まず行うのがバックパック計量です。

真駒内は札幌市営地下鉄南北線の南の終点。

左から、アンバサダー沼田、すでにカリカリ装備で500mlのビール缶を2本持参の、HLC北海道常連の坂本さん(中央)と、ワークショップ初参加の木幡さん(右)。ふたりとも荷物がコンパクトにまとまっていました。
ULの目安はざっくり言うと、ベースウェイト(水・食料・燃料等の消耗品を除いた装備重量)4.5kg以下。皆さん、しっかりそこはクリア。重さが出るたびに「おーっ」と場が盛り上がります。多くの参加者がベースウェイトに水や食料などを足したパックウェイトも8kg以下に収まっていました。
山と道HLCのワークショップは、当日いきなり集まるのではなく、参加者は事前にギアリストを作成し、オンラインでアンバサダーと装備の見直しをした上で参加する仕組みです。
「削ってもよいのでは?」「替えてもよいのでは?」といった視点でプログラム前にアンバサダーが助言をし、当日も実際に何を削り、持ってきたかを共有しながら、その理由まで言語化していました。ここが、一般的な登山イベントとは違うところです。
そして、アンバサダー沼田の装備はさすがの軽さ! ベースウェイト2.6kg、パックウェイト4.7kg。水は500mlでしたが、ルート上の給水ポイントを踏まえてのこと。

飲まなければただの重りになってしまう水分をどれくらい担ぐかも含め、自分にとっての必要十分を考えるのもULの要点だったよね〜と、最初から実感します。

今回の参加者中村さんのギアリスト。Googleのスプレッドシートを使いオンライン上でやりとりをするため、ほかの参加者のギアリストも参考にできる。

アドバイスのやりとりをクローズアップ。バックパックの-約150gをはじめ、事前に軽量化ができたそう。

沼田はさらに「運搬用具」「就寝用具」などジャンル別に色分けした重量のグラフを作り、一目で各参加者それぞれの傾向がわかるようにしてくれた。
2. 行動食のディスカッション:自分に合った組み合わせで臨む
いよいよハイキング開始。HLCのフィールドプログラムは、いわゆる「ガイドツアー」ではありません。参加者自身が地図を見て、分岐や地形を意識しながら行動します。
序盤は経験者が先頭を歩き、皆さんもただ着いて行くのではなく自分の目でフィールドの情報を読み取りながら進みます。自然と、地形やルート判断、ペースへの感度が上がっていくのを感じました。

分岐や歩き始めで、各自地図アプリなどで地図を確認。
最初の山、藻岩山の登山口で行ったのが行動食のディスカッション。見せ合いながら、種類・特性・栄養の考え方を共有します。
UL化の定番のポイントは、外箱などいらないパッケージを捨てること。ナッツやおかきをまとめた人、栄養素や成分を見て選んだ人、トレラン大会でピンチの時に効いた実感をもとに選ぶ人など、個性が出ます。
「シャリバテのとき何が効く?」という話題では、甘酒や羊羹など具体例が出て、経験談がそのまま知識になるのがこの場の良さ。行動食は正解がひとつではなく、自分の体質、嗜好やハイキングの強度に合わせて組むものだとわかります。

さとみさんが持つ水色のパッケージは、原料100%天然バナナ素材の「バナナゴー ポケットバナナ」。「(トレランの)レースでもうダメだって思うくらいバテてたときに、これと温かい麦茶で一気に復活しました」という経験から信頼をおく。

坂本さんの定番行動食は「1本100kcalだからカロリー計算がしやすい」カロリーメイト。

沼田が行動開始後からポリポリつまんでいたのがこちら。「脂質やタンパク質を摂るため、ミックスナッツに、糖質を補うためのチョコ柿ピーを混ぜたもの(涼しい季節は板チョコを砕いて)。大体これ1袋で最初1,000Kcal。自分の基礎代謝が1,500Kcalで、歩いて1,000Kcalぐらい消費。だったらこれだとお腹減らずに歩けるかなと」。シンプル!
そしていよいよ藻岩山のトレイルへ! トレイルランナーもトレーニングでよく入る山で、5つの登山口すべてを往復することを「モイ5(ご)」と呼んでいるらしい。こういうローカルならではのワードに、ぐっときちゃいます。

私たちは「市民スキー場入口」から入り、山を南北に縦断して「旭山記念公園入り口」へ抜ける。
3. 歩き方のレクチャー:疲れにくいフォームを実演
山頂手前の広い場所で、沼田による歩き方のレクチャー。歩幅、足運び、トレッキングポールの持ち方・突き方などを、全員で動きながら確認しました。こういうのって動画でも見られるけど、その場で自分の癖を見てもらう経験は、やっぱり納得感が違います。

トレッキングポールの持ち方レクチャー。持った時に、肘が直角に曲がるくらいに調節。握る場所は状況に応じて変えていきます。

トレッキングポールは体の幅より広く構え、ポールの先は、足の横か少し後方の位置に突く。大きな段差を避けて歩くと、疲労や膝痛の軽減になる。
そして、藻岩山山頂に到着。札幌の街の全体像を見渡しました。めちゃくちゃ大都会! この日は雨予報だったので、雨が降る前に集合写真を撮りました。

手はHLCの「C」で。プログラムには初代HLC北海道アンバサダーの峠ヶ(後列右端)も同行しました。
その後、多くのメンバーは売店でエネルギー補給。ワークショップって言っても、お勉強ばかりじゃない。寄り道や買い食いもあり。その場を楽しむゆるさもある。荷物が軽いから「あそこも寄ってみよう」と動きやすい。行動食が余る予感もありつつ、ULの恩恵を感じたのでした。
4. レイヤリングのディスカッション:濡れ、冷えを想定して
山頂で少し肌寒くなり、ジャケットを羽織るタイミングでレイヤリング(服装の選び方・重ね着の仕方)について話し合いました。沼田は、化繊とウールの特徴、ミドルレイヤーの役割、シェルの考え方を整理しながら説明。さらに、実践的なテクニックとして「機能がかぶるウェアは統合し、どちらかを削る」ことも共有されました。
プログラムに同行していた初代HLC北海道アンバサダーの峠ヶからは、北海道のトムラウシ山遭難事故を例にした悪天候時の備えに関する補足もあり、参加者全員、ぐっと自分ごととして聞き入っていました。ここでの学びは、単に「何を着るか」だけじゃなく、天気予報の読み方や、着るタイミングを想定した取り出しやすい収納などもセットになること。「汗をかきやすい」「寒がり」など自分の体質を軸にアレンジすることも大事です。
あと、山と道のプログラム=山と道のウェア必須! でもないですからね。皆さんの装備はブランドも価格帯もさまざま。だからこそ、比較が学びになりました。

愛さんは今回山と道HLCレンタルサービスを活用して山と道のレインウェアを着用。「レインウェアってどう畳んでザックに入れますか? 内側が濡れちゃわないようにしたくて」沼田「全然ぐしゃぐしゃに入れてます。すぐ出せるほうが大事ですね」

藻岩山下山時には知り合いのトレイルランナーさんにバッタリと会い、街のみんなの山なんだなって実感。
「さあ、レインウェアを試しに行きましょう」小雨が降り出した頃、沼田の一言で行動再開。濡れた状況での蒸れ感や動きやすさなど、着て歩かないとわからないことが見えてきます。
山を下り、いったん住宅街へ。ここで現れたのが北海道発のコンビニ「セイコーマート」、通称「セコマ」。皆さん、当然のように吸い寄せられ、夕食やお酒を調達してワイワイ。これも重要で、売店や補給ポイントを知っておくと、担ぐ量を減らせるのです。街の近さを味方にするのもUL的。

セコマは北海道で誕生し、現在北海道と関東で1,000店舗以上を展開しています。近くにある人が羨ましい〜。

峠ヶの買い物かごには季節や地域限定のお酒。こういう、瞬間瞬間を楽しむ姿勢、素敵。
5. シェルターの比較:テント村は最高の教材
そして、住宅街を抜けて山へ入り、今夜の宿泊地のテント場である札幌野営場 by 焚火人へ。到着したら、まずはシェルターを設営。ワンポール型のテント、フロアレスのタープなど、軽量なシェルターが一気に並び、テント村が完成します。
ここからがこのワークショップの醍醐味のひとつ。1張ずつ、お宅訪問のようにシェルターの中を見せ合い、選んだ理由、メリット・デメリット、工夫、困りごとを共有します。質問が飛び交い、自分に必要なスリーピングシステムの方向性も見えてきます。ネットでレビューを読むだけとは違い、実物を触って、サイズ感を見て、使い方まで聞けるのが何とも心強い。

札幌野営場は、入り口からすぐに森。緑に囲まれた静かなキャンプ場。

木幡さんはローカスギアのクフDCF-B。ポールにヘッドライトを引っ掛けて照明にする小ワザもシェアしてくれた。

沼田はシックスムーンデザインズのルナーソロで、内部はとってもミニマム。「マットはいつもはエアマットを使用しますが、今日は暖かいからMinimalist Pad。寝袋は無しで、SOLのエマージェンシーブランケットで寝てみます」

坂本さんはジンダイジマウンテンワークスのPBタープ5×8。シュラフはハイランドデザインのトップキルト。入り口に傘をさせば雨も安心。心配な蚊は「山と道のOnly Hoodとバグネットで凌ぎます!」
6. ストーブの実演とディスカッション:ガス・アルコール・固形燃料を見比べ
夕食は雨のためタープ下に集合し、調理しながらのワークショップ。ガス、アルコール、固形燃料のクッキングシステムを実際に見比べ、それぞれの特徴や扱い方を各自が紹介します。「なぜそれを選んだか」「何を作るか」を話すことで、道具の選択がそれぞれのハイキングスタイルをかたち作ると改めて実感しました。
沼田はパスタにツナを足してタンパク質を補う工夫、峠ヶは小分けの調味料(塩、黒こしょう、醤油、オリーブオイル)を携帯する工夫を紹介。皆さんからは、山での楽しみとして、コーヒー豆やミル、本、ビール、カメラなどを持ってくる話もありました。ULは軽くしたぶん、お楽しみを持って来られるという側面もあるんですよね。
夜はほどほどに就寝。雨音を聞きながらのテント泊となりましたが、それ自体が立派な経験値となったようです。

食事風景。固形燃料は3人、アルコールストーブは2人、ガスストーブは6人でした。

アルコールストーブのふたり。木幡さん(左)は自作。乳業系の会社にお勤めの彼は「乳製品を山で楽しむ」が裏テーマでカマンベールチーズを丸ごとおつまみに。アンバサダー峠ヶ(右)はアラビアータのパスタを調理。ふたりとも沼田のブランドMUNIEQのゴトク「X-MESH STOVE」を愛用中。
7. パッキングの紹介:歩きやすさはパッキング次第
翌朝は7時にタープ下集合。出発前に沼田がパッキングのデモを行い、負荷が少なく歩きやすい詰め方を共有します。
ポイントは、
- 柔らかくて濡らしたくないもの(シュラフや衣類)をライナーに入れてまとめる
- 形のないものはギチギチに畳まず、ふわっと入れて隙間を埋める
- 取り出し頻度の高いもの、濡れてもよいものの位置も整理する
背負い心地って、同じ道具でも詰め方で本当に変わるんですよね。過去、八ヶ岳でバックパックがブレて歩きがつらくなり、へたり込んでしまった私としても、強く納得しました。

「濡れたグランドシートはサイドポケットにラフに入れる」という工夫も取り入れたいと思った。
2日目は三角山、荒井山、円山をつなぐ行程です。途中、薮漕ぎエリアが現れたり、雨で滑りやすい下りに苦戦したり。さらに、なぜか大量のカタツムリがトレイルに出現し、踏まずに歩くのに気を遣う場面もありました。
悪天候の日はソロだと躊躇するけど、仲間がいて、アンバサダーがいて、協力や相談ができる環境だからこそチャレンジとして成立し、経験値としてそれぞれに蓄積されていきます。

札幌オリンピックの会場にもなった大倉山ジャンプ競技場は三角山の南。このあと霧が晴れ、違う角度からの展望も楽しめました。

三角山の下りでは、元気な子どもたちともすれ違った。

大量のカタツムリのうちの1匹。

最後の円山山頂にて新旧HLC北海道アンバサダーの2ショット。今年は峠ヶから沼田へのバトンタッチの年で、ふたりの並びはどこか胸にきます。
8. まとめ:リアルでワークショップを行う理由
いよいよ、1泊2日のワークショップもおしまい。円山公園で振り返りの時間です。沼田からは「山あり谷あり薮漕ぎあり雨あり(笑)。いろいろな状況に慣れるのにいいフィールドだった」という言葉。参加者も順に感想をシェアしました。

さとみさん:近場でしたが、知ってる山でもこの行程だと歩きごたえがあったし、自分の生活と重なる山をいろんな街から来てくれた皆さんと歩けて、新しい札幌の景色が見えたようないい時間でした。

綾さん(左):子どももいる私も参加しやすい札幌で開催してもらえたのはとてもありがたかったです。身近なのに、テン場とか薮とかも経験できて。天気のいい日にまたチャレンジしたいですね。
愛さん(右):初めてのテン泊だったけど、こんなコンパクトさで、雨でも山にこんなふうに泊まれるんだって感じられる、幸せな体験でした。

木幡さん:軽くして歩くことで、話す余裕も生まれますね。大人になって、これだけ仕事も背景も違う人たちと衣食住を共にするって、なかなか他のアクティビティでもできないですよね。

峠ヶ:初めましての人も久しぶりの人もいて、コミュニティがこういう風にできてくるのって、本当にいいなと改めて思った2日間でした。ひとりだと悪天候の日にはなかなか行かないけど、今回みたいに条件が悪い方が思い出に残りますよね(笑)。HLC北海道は、来年からアンバサダーは沼田さんひとりになりますが、僕も参加者として参加できたらいいなと思います。
そして最後に行ったのが、下山後のパックウェイトの計量。水や食料を消費した分だけ軽くなっていて、「これだけ使ったのか」という実感が、次のパッキングのヒントになります。使わなかったり、余らせたりしたものがあっても、それもまた自分に必要な量を知る材料。

「初めてこんなに大人数で登って、色んな人に助けてもらいながら、少人数ではできない経験ができた」と振り返った桂子さん。
ULハイキングの情報は、今やSNSや動画でいくらでも手に入ります。それでも山と道HLCがリアルな場でプログラムを続けている理由を、今回あらためて感じました。それは、ネットやひとりではできない経験が、ここにあるから。私が感じたポイントはこんな感じです。
- 実物の道具を手に取り、並べて見比べる
- 選んだ道具にまつわる背景やストーリーも共有し合う
- 悪天候や予想外の状況を仲間と安全に経験する
- 1泊2日という濃い時間を歩きながら共有し、次へつながる仲間ができる
- 相談できるアンバサダーがいるから、不安でも一歩踏み出せる
そしてこの「BASIC」カテゴリーのワークショップを経験すると、次のステップとして2泊3日以上のよりチャレンジングなプログラム「PRACTICE」へ進む道も開けます。学びはそこでさらに深まっていくはずです。
山と道HLCに少しでも興味がある方、すでにテント泊装備を持っていて「ULを実践で身につけたい」と思っている方は、ぜひこのBASICプログラムから。まず雰囲気を知りたい方には「ミートアップ」や「ミートアップハイキング」もおすすめです。
ULハイキングの入り口は人それぞれ。でも、もしここまで読んでくれて、少しでも気になっているなら、一度覗いてみませんか? 各エリアのコミュニティの仲間たちがきっとあたたかく迎えてくれるはず。お気軽に、どうぞ〜!






















