山と道ラボ【ベースレイヤー編#3】
天然素材と化学繊維

2019.10.15

山と道ラボ「ベースレイヤー編」も第3回目となりました。今回からは、ベースレイヤーで使用される主な素材の特性について踏み込んでいきます。

これまでの連載でウールと化繊についてはある程度触れてきましたが、かつて登山用肌着に多用されていたコットンや、山と道製品にも使用されているバンブーなど、ウール以外の天然繊維の特性や、「化繊」というあまりにもザックリとした括りの中にどのような種類のものがあり、それぞれどのような特性があるのかなど、リサーチを進める中で、わかっているようでわかっていなかったことが実はとても多かったことに気づきました。

そこで、今回は天然繊維と化学繊維との相違にフォーカスし、吸湿性・吸水性をキーワードとして各素材の特性を浮かび上がらせていきます。今回も内容は一見難しく思われるかもしれませんが、熟読していただければ、必ずやベースレイヤーのより深い理解に繋がるはずです。

また山と道は製品の開発や検証のため、日夜様々な角度からベースレイヤー素材について資料調査や実験を行っていますが、本稿でその結果の一部をお蔵出しします。ある程度明確な見解が得られている点もあれば、定説と実験結果が合わないなど、スッキリしない部分も含まれていますが、その点も含め、普段はあまり外に出ない貴重な資料になっています。本稿がベースレイヤー素材の奥深さを知っていただく機会になれば幸いです。

山と道ラボ【ベースレイヤー編#1】
山と道ラボ【ベースレイヤー編#2】

山と道ラボとは

山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

文:渡部隆宏(山と道研究所)

天然素材と化繊の相違

前回の連載で、ベースレイヤーの本質的や役割を「汗の処理」と定義した。そしてその汗を処理する方法として、ハイカーのように比較的発汗量が少なくレイヤリングが前提となる場合には吸湿性の高いウールに適性があり、トレイルランのように発汗量が多くシャツ一枚で行動する場合には速乾性の高い化学繊維(化繊)に適性がある旨を述べた。

しかし、この記述には多くのことが省略されている。果たしてウールは速乾性が低いのか? 化繊は吸湿性がないと言い切れるのか? そもそもウールと化繊はなぜこのように異なるのか? 化繊とひと口に言っても具体的にはどのような繊維があるのか? 等々、挙げだしたら切りがない。

ここでウールを含む天然素材と化繊の最も大きな相違を明確にしておきたい。

以下はアウトドア衣料に用いられる(またはかつて多く用いられた)代表的な素材について、天然繊維と化繊の一般的な区分をベースに整理した表である。

※参考:繊維ファッション産学協議会。○×△で示した「吸湿」は、それぞれの繊維が通常どの程度の水分を含んでいるかというデータ(後述の公定水分率)にもとづき筆者が補足したもの。表に掲載した以外にも、植物繊維に化学品をプラスして加工した半合成繊維(アセテートなど)と呼ばれるものもある。

大雑把に分類すれば、天然繊維とは文字通り天然の原材料(獣毛などをもとにした動物由来のタンパク質原料と木材パルプなどをもとにした植物由来のセルロース原料に分かれる)を紡績したものであり、化学繊維とは石油製品(プラスチック、樹脂など)を細く射出し繊維状に加工したものである。この他にも、セルロースを粉砕・溶解などして繊維状に再構成したレーヨンやキュプラといった素材があり、再生繊維と呼ばれ化繊に区分されている。

上表を見ると、天然原料の繊維は吸湿し、化学原料の繊維はほぼ吸湿しないということがわかる。一般的には、レーヨンなどの再生繊維はその製造プロセスから化繊に区分されるが、吸湿するという特性はむしろ天然素材に近い。ベースレイヤーというアイテムの性質や使いこなしを考える上では、原料が天然物か化学品かという区分の方が特性に共通性があり実際的である。したがって、本稿を含む以降のベースレイヤー編では、天然繊維を「天然由来の繊維」、化学繊維を「化学品由来の繊維」という意味で扱っていきたい(つまりレーヨンは天然繊維に区分する)。

上表で吸湿性判定の元にしたデータは、以下に示す公定水分率の値(%)である。公定水分率とは、気温20度・湿度65%というごく一般的な環境での「物質に含まれる水の重さ/その水を含んだ物質の重さ」によって求められる値であり、その繊維が大気中に存在する水分(湿度)を吸着している度合いである。

※参考:化繊ハンドブック/日本化学繊維協会(1973)、羽毛はJISの数値を使用

グラフを一見しただけでも、天然繊維(天然原料繊維)は水分率が高く、化学繊維(化学原料繊維)はほとんど水分を含まないことが理解できる。ビニロンやナイロンは化学繊維の中でも珍しく吸湿性をもった素材とされているが、天然繊維で最も水分率の低い綿(コットン)よりもさらに値が低く、あくまで例外的な存在であると言える。

以上の通り、天然繊維と化繊の最も大きな相違は吸湿性の有無である。ベースレイヤー編#1の鼎談#2での考察は、ウールは天然素材であるために吸湿し、化繊は吸湿性がないという事実がベースとなっていた。

吸湿と吸水の違い

化繊は一般的に吸湿しないと述べたが、それでは化繊のベースレイヤーはどのように汗を処理しているのだろうか。読者にも「化繊ベースレイヤーがまったく吸湿しないと言われても、現に汗を吸っているではないか」と思う方もいるはずだ。

それは、「吸湿」と「吸水」の違いとして示すことができる。両者はよく混同されがちだが、実は異なる現象なのである。「吸湿」とは、気体となった水分(蒸気・湿気)が繊維1本1本の内部に取り込まれる化学的・物理的な性質である一方、「吸水」は、液体の水分が繊維と繊維の間に保持される「毛細管現象」とも呼ばれる純粋な物理現象なのだ。

概念図:吸湿と吸水の相違

天然繊維が吸湿する理由は、その構造にある。ウールなどの獣毛やコットン、絹といった繊維を拡大して見てみると、ウロコ状のスケールや中空の組成などを持った複雑な形状をしており、蒸気を内部に吸着する性質があることが伺える。

一方で化繊は均質な構造となっており、蒸気を内部に含むことのできる余地がないか、相対的に小さいことがわかる。繊維を多孔質にしたり水を吸うポリマーなどを配合したりして化繊に吸湿性を持たせるような工夫もされているようが、ウールやコットンといった天然素材が未だに支持を集めている現状を見ると、まだまだ技術的な課題が大きいものと思われる。

各天然繊維、化学繊維の電子顕微鏡による拡大写真

※出典:日本化学繊維協会

吸水のメカニズムである毛細管現象は水が縮まろうとする性質(表面張力)によってもたらされるもので、水の通る通路が小さいほど促進されることが知られている。したがって、糸が細く断面が複雑な形状であればあるほど、繊維のすき間が小さくなってより吸水性が増すことになる。天然繊維は複雑な形状であり、一般には吸湿性に加えて吸水性も高い。

だが、天然繊維は吸湿も吸水も可能であり水分を保持できる割合が大きいことから一見汗の処理に有利なように思えるが、繊維の内部に水分を取り込んでしまうため、速乾性に乏しい(いつまでも汗を保持し続けてしまう)という側面もある。化繊は脱水するだけでほとんど乾いてしまうのに対し、天然繊維は脱水してもなかなか水分が抜けきらない。

ウールは速乾性に優れているとされることもあるが、それはあくまで同じ天然素材であるコットンなどとの比較であり、ポリエステルなどの化繊にはかなわないのである。

汗処理のメカニズム

化繊のベースレイヤーは肌の汗を生地の内側で毛細管現象により吸水し、同じく毛細管現象のはたらきによって生地の外側に水分を移動させる。生地外側の水分は、生地内外の温度差、湿度差や風によって蒸発し、結果として肌の汗が除去される。これが化繊の汗処理メカニズムである。

化繊は外気が乾燥している、風があるなどの条件下では素早く水分が蒸発してくれるため、大量の汗処理に向いている。ただしそういった好条件がそろわない場合には蒸発速度が遅くなり、水分が生地と肌に残りつづけて不快な印象を与えることがある。

一方で天然素材の場合は、この吸水作用に吸湿作用がプラスされる。ただし繊維そのものが水分を保持しやすいため、化繊のようにはなかなか蒸発しない。結果として肌の汗が除去されるが、その水分は繊維内にしばらく残り続ける。これが天然繊維の汗処理メカニズムである。

天然素材はどのような条件下でも吸湿作用によって一定量の汗を取り込んでくれるものの、汗が大量であればすぐに吸湿量の限界に達し、やはり不快感を与える。また乾燥速度が遅いため、衣服が重くなる点という側面もある。

概念図:化繊と天然繊維それぞれの汗処理方法

天然繊維と化繊の汗処理メカニズムを比較してみると、汗の量や外部環境によってそれぞれにメリットとデメリットがあり、片方が一方的に優れているというようなことではないことがわかる。

親水性と疎水性

吸湿・吸水という概念と併せて、親水と疎水の違いについても触れておきたい。これまで山と道ラボのレインウェア編などでもひんぱんに登場した概念であり、ついにはレインウェアの製品名にまで使われた用語であるが、ベースレイヤーにとっても親水・疎水性は重要な概念となる。

親水とは文字通り水を吸い寄せる性質であり、疎水とは水をはじく性質である。天然素材は親水性であるが、ウールのように天然の状態では表面が疎水・内部が親水というハイブリッド構造のものもある。一方で化繊は基本的に疎水の性質をもつ。すなわち、基本的には天然素材は親水、化繊は疎水と考えて差し支えない。

この親水・疎水という性質は繊維への後加工によって変化させることができるため、完全に親水性のウォッシャブル・ウール*や親水性のポリエステルといった素材も存在している。

*アウトドア衣料に使われるウォッシャブル・ウールは防縮加工の過程で繊維表面のウロコ組織が剥がれ落ち、内部の親水層がむき出しになっている。そのため本来は親水性となるはずだが、疎水性の柔軟剤などが使われた結果、水を吸わない生地となっている場合が多い。

化繊の場合は、薬品を使った後加工や素材に水を吸着する化学物質(ポリマー)を加えるなどの工夫によって親水性をもたせることができる。薬品による加工の場合は、洗濯を繰り返すことにより親水性が劣化し、汗を吸わなくなっていく場合もあるようだ。ベースレイヤー編#1の鼎談でRun boys! Run girls!桑原慶さんが言及している「吸水性を回復させる洗剤」とはそのような課題に対応した製品である。

山と道の独自検査①-代表的ベースレイヤー素材の吸湿性・吸水性テスト

ここまでは主に一般的な繊維素材について述べてきたが、それでは実際に販売されている製品に使われている素材はどのような性質を持つのだろうか?

山と道は外部機関と連携し、試作品や市場に存在する代表的な製品を対象に日々検査を重ねている。本章では、やはり天然素材と化繊という対比から、吸湿性・吸水性に関する実際の検査結果をご紹介したい。なお、検査に用いた素材・ウェアのセレクションは開発上の都合や入手可能性といった事情に影響されており、多少の偏りがあることはご容赦いただきたい。

吸湿性テスト結果

まずは代表的なベースレイヤー素材に対する吸湿性のテスト結果である。

※山と道調べ。バンブーポリエステルは実際には天然繊維と化繊の混紡であるが、繊維の性質上天然繊維に分類する。以降も同様

上のグラフが示すのは気温20度・湿度65%での一般的な環境における「物質に含まれる水の重さ/その水を含んだ物質の重さ」を表し、すなわち前出の公定水分率と同じである。天然素材は水分率が高く、化繊は水分率が低いという、定説通りの結果となっている。

吸水性テスト結果

一方、吸水性については意外な結果が得られた。以下は布片を水に浸し、それぞれの素材がどの程度の高さまで水を吸い上げたかという比較結果である。

※山と道調べ;布片に水が吸い込まれていく高さ(mm)の縦横平均;JISL1004 バイレック法

コットン(図の表記では綿100%織物)は一般的に吸水性に優れた素材とされており、この実験でも高い値が期待されたが、ほとんど水を吸い上げなかった。ウールも親水性の加工を施したものは吸水したものの、アウトドア衣料で一般的に用いられている疎水性ウールは水をはじいてしまい、ほとんど吸水しなかった。ナイロン、ポリエステルの吸水もゼロであった。

実際に衣服として着用すれば、時間経過や圧力などの働きでこうした素材(コットン、疎水性ウール、化繊)も汗を吸いこむはずであるが、この実験では吸水性がよりシビアに測定されたようだ。今回コットンが吸水しなかった理由としては、市販されている生地に疎水性の柔軟剤が使われていたか、油分が残っており水を弾いた可能性*などが考えられる。

*こうした実験に用いる素材はすべて数回の水洗いを経て検査機関に送付しているが、実際の使用状態(販売されているままの状態)における性能を測定すべく、あえて厳密に柔軟剤や油脂を除く手続きをとっていなかった。

以下はある論文に掲載されていた繊維の吸水性グラフである。この実験では各素材は厳密に洗浄・脱脂処理されており、コットンは本来吸水に優れていることがわかる。

※出典:「被服材料の熱伝導特性に関する基礎的研究 (第2報) 含水状態における布の有効熱伝導率」/妹尾順子、米田守弘、丹羽雅子(1985);布片に水が吸い込まれていく高さ(mm)の縦横平均;JISL1004 バイレック法

速乾性テスト結果

吸水と関連する性質として速乾性がある。こちらは繊維の種類のみならず、生地そのものの厚みや織り方が影響すると思われるが、検査結果を以下に示す。水分率がもともと低い化繊が速乾性でも有利となっている。親水性のメリノウールは疎水性のウールより脱水後の水分率が低く、速乾性でも優れた結果を示した。

※山と道調べ;完全湿潤させた後、脱水15分後の水分率(値が大きいほど水分率が高い=速乾性が低い)

山と道の独自検査②-吸湿・吸水性から派生する特徴

まずは前章で吸湿性・吸水性に関する実験結果を見たが、ベースレイヤーに求められる機能は他にもある。たとえば、ムレにくさや消臭性といった機能も着用時の快適性に影響するものとして重要であるが、調べていくうちにそれらの機能のうちいくつかのものが吸湿・吸水メカニズムによって説明できることがわかってきた。天然繊維と化繊を区分けする吸湿性という特徴が、着心地を構成する他の要素にも影響を与えているのは興味深く、ここでそのいくつかをご紹介する。

調湿性テスト結果

前章では気温20度・湿度65%での一般的な環境における水分率を見た。以下は気温30度・湿度90%の高温高湿状態における水分率と、一般環境(気温20度・湿度65%)との水分率の差を示したものである。

※山と道調べ

この、高温高湿状態と一般環境との水分率差(グラフのオレンジ部分)は、外部環境に応じて衣類内の湿度を調整する性能を示しているとされ、快適性のひとつの根拠となっている。天然素材が優れた調湿性を発揮していることが伺え、その中でもウールの優秀さが際立っている。

ベトつき感テスト結果

濡れた状態の生地は、肌に貼り付いて不快な感覚を与える。生地が濡れた状態での摩擦力はこうしたベトつき感を測る指標とされており、生地の吸湿・吸水性や表面構造が影響している。

以下は各繊維を濡らした状態で測定した摩擦力の比較である。メリノウールの疎水やメリノと化繊の混紡素材は優秀な結果であった。バンブーポリエステルはポリエステル100%の生地よりも大きな摩擦力を示し、化繊でもナイロンのカンタムエアーやジオライン、ウィックロンが優れた結果を示した。

※山と道調べ

検査前には化繊はベトつくという印象もあったが、一概にそうとは言い切れない結果となった。ただし全般的には天然素材の方が優秀に見える。吸湿性がある天然素材の方がベトつき感の低減に有効と思われるが、繊維への加工内容や生地構造の影響も大きいものと推察される。疎水性ウールはクリンプの作用が、化繊は水を生地表面に排水する機能や肌と点接触する構造などが、ベトつきの低さにつながったと推測される。

また、この比較は摩擦の大きさのみの比較であるが、どの程度の水分でベトつくかという指標もある。ある論文では、コットンとポリエステルとを比較して、ポリエステルの方がより少ない水分で摩擦力の最大値に達する(つまり少しの汗ですぐにベトつく)という実験結果が示されている。個々の製品や加工内容による差異はあるものの、一般論としては吸湿しない繊維の方が肌への貼り付きが発生しやすい(天然繊維の方がベトつきにくい)といえるであろう。

※出典:「湿潤時における布の摩擦特性と布に含まれる水の形態に関する研究」/木下瑞穂(2011)

消臭性について

程度の差こそあれ、多くの天然繊維は化学繊維に比べると臭いにくい。この消臭性能の一部は吸湿性に起因するとされている。

下図は代表的な悪臭物質であるアンモニアの残存率を示したものである。天然繊維の中でもウールの消臭性はずば抜けており、次にシルクが続く。コットンやレーヨンはそれほど高くない。ナイロンは化繊だがやや消臭性があり、ポリエステルに至ってはほとんど消臭性がない。

※出典:「天然素材のアンモニア消臭性と利用方法」/杉浦愛子ほか(2008)

この消臭性の高さはほぼ繊維の公定水分率に比例しており、すなわち吸湿性が高い繊維ほど消臭性が高い傾向が伺える。吸湿性をもつ素材は繊維内に湿度を取り込むと同時に、臭気成分も吸着してくれるものと考えられる。山と道のBamboo Shirtにも使用されているバンブーポリエステルの消臭性も、生地に50%含まれるバンブー素材の吸湿性に起因すると考えられている。化繊の中では例外的にナイロンの消臭性が高いが、これも吸湿性で説明がつく。

ウール、シルクといった動物性天然繊維の消臭性は特に優れているが、これは吸湿性の高さに加え、繊維を構成するタンパク質のアミノ酸がアンモニアと中和することによると推察されている。

吸湿発熱について

最後に、吸湿性がもたらす副次的効果として吸湿発熱現象を挙げておきたい。水分が蒸発する際には物質の熱を奪っていくが、この反対に水蒸気が水分として液体になる際には熱が生まれる。これを凝縮熱といい、ウールやコットンといった素材は吸湿する際に熱を生み出す。ユニクロのヒートテックはこの現象に着目した製品である。

この吸湿発熱については次回予定の「保温」編で改めて触れることとする。

各素材の特徴まとめ

以下に示すチャートは、各素材の特徴を端的に把握すべく、各項目について3点満点で評価を行いチャート化したものである。

*コットンの吸水性については山と道独自調査では否定されたが、論文などから本来優れた性能をもつものと評価した

天然素材はパターンの面積が大きく、特にウール親水はバランスがよい。化繊は速乾性に特化している。

もちろんこのチャートがベースレイヤーとしての繊維性能の総合評価となるわけではない。実際には市場には化繊のベースレイヤー製品があふれているわけで、保温性や経済性(耐久性やコスト)といった重要な観点が上の図からはすっぽりと抜け落ちているためである。また、繊維の加工内容や織り、厚さなどで評価が変わることもありうるため、あくまで手元で集めた判断材料からなる仮説的なチャートとしてみていただければと思う。

同じウールでも疎水と親水仕上げでは吸水性・速乾性の点でキャラクターが異なってくる。親水のウィークポイントは、疎水に比べ水を含みやすいのでベトつき感が大きいことといえる。また、意外にコットンもバランスのとれた素材と言える。

ナイロンは化繊の中では水分率も高くバランスがとれた素材に見えるが、ポリエステルに比べベースレイヤーへの採用例は少ない。ファイントラックのドラウトゼファーや山と道ULシャツのように、積極的にベースレイヤーとしての展開が生まれてくると面白いと思う。

終わりに

今回は常識のように語られていながら実はあまり知られていないと思われた天然素材と化繊との相違を、吸湿性・吸水性を軸として深掘りした。ベースレイヤーの役割が汗処理であるならば、その方法は吸湿か吸水かという2つのアプローチに大別され、それは主に繊維の種類によって決まってくるということが本稿の要旨である。

次号では、汗処理の目的でもあり、ベースレイヤーの役割として無視することのできない「保温性」について取り上げる予定である。

参考文献
繊維ファッション産学協議会資料
「化繊ハンドブック」/日本化学繊維協会(1973)
「吸湿性合成繊維の現状とその可能性」/辻 和一郎(1978)
「被服材料の熱伝導特性に関する基礎的研究 (第2報) 含水状態における布の有効熱伝導率」/妹尾順子、米田守弘、丹羽雅子(1985)
「新吸汗発散ポリエステル素材『ルミエース』」/西村元廣(1994)
「親水性繊維と疎水性繊維」石崎舜三(1989)
「湿潤時における布の摩擦特性と布に含まれる水の形態に関する研究」/木下瑞穂(2011)
「天然素材のアンモニア消臭性と利用方法」/杉浦愛子ほか(2008)

渡部 隆宏
渡部 隆宏
山と道ラボ研究員。メインリサーチャーとして素材やアウトドア市場など各種のリサーチを担当。デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。現在も大手企業を中心としてデータ解析などを手がける。総合旅行業務取扱管理者の資格をもち、情報サイトの運営やガイド記事の執筆など、旅に関する仕事も手がける。 山は0泊2日くらいで長く歩くのが好き。たまにロードレースやトレイルランニングレースにも参加している。
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