山と道

山と道ラボ
【ベースレイヤー編#6】
市場の概観と注目製品の実着レビュー

これまでの『ベースレイヤー編』では、化学繊維と天然繊維(ウール)を対比しながら素材特性を包括的に評価し、ベースレイヤーにシチュエーションごとに求められる機能と特性を考察してきましたが、前回までに一定の結論に到ることができました。

そこで今回からは個別製品やテクノロジーにも視野を広げ、2020年現在のベースレイヤー・マーケットをマクロとミクロの視点から掘り下げていきます。

まずマクロの視点では、機能性や主たる素材が共通する製品グループ(カテゴリー)を特定してマーケットのマッピングを行い、次にミクロの視点では、2020年現在の注目すべき13製品をピックアップし、自身もトレイルランナーである山と道ラボ渡部が同一条件でのインプレッションを行いました。

結果、今回も膨大なテキスト量になってしまいましたが、手前味噌ながら日々進化し続ける現代のベースレイヤー・マーケットを俯瞰する第1級の資料になりました。

ぜひ、読者の皆さまの適切なベースレイヤー選びにお役立ていただければ幸いです!

過去のベースレイヤー編一覧

山と道ラボとは
山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

文/写真:渡部隆宏
イラスト/図表:KOH BODY
製品写真:三田正明

マーケットのマッピングとカテゴライズ

今回のベースレイヤー編は、2020年現在のアウトドア・マーケットに存在する様々なベースレイヤー製品を網羅的に整理する枠組みを考えることとした。

具体的には、個々の製品がそれぞれ特長としてアピールしている便益や提供価値を区分する軸を特定し、軸の上での位置関係が近いものをグループ化し、ベースレイヤーのマーケットは全体としてどのような軸で構成され、どのようなグループが存在しているのかという地図(マップ)を作成したいと考えた。

整理する軸の候補はいくつか考えられるが、ベースレイヤー編#2で定義した通り、筆者はベースレイヤーの最も本質的な役割を「汗処理」であると捉えている。

したがって、まずは「速乾性<-->吸湿性」を整理の軸として定めた。かいた汗に対して素材が素早く乾くことで対処するのか、素材に吸湿させることで肌をドライに保ったり一定の保温性を維持したりするのか、ベースレイヤーの汗処理の方向性は大きくふたつに別れるからである。

もうひとつの軸としては「冷却性<-->保温性」を採用した。ベースレイヤーに暖かさを求めるか、それとも逆にヒートアップの防止や涼しさを求めるかは、利用場面やアクティビティ、製品の仕様に直接関連すると考えられるためである。

この2軸を縦横に組み合わせ、現在のマーケットにあるベースレイヤーを素材やテクノロジーごとに配置すると以下のようなマップとなった。

横軸は汗の処理を表し、左側が速乾性による汗処理を、右側は吸湿性による汗処理を意味する。左はポリエステルやポリプロピレンといった本質的に水分を含まない化学繊維が得意な分野であり、右はウールや植物系の素材(綿や麻に加え、レーヨンやトリアセテートなどパルプ由来の繊維類も含む)の得意分野である。

縦軸は保温性を表し、上は気温が高かったり活動量が多かったりして、身体を冷やしたいという状況を意味する。下は外部環境が寒く(あるいは停滞時や強風下など寒く感じられ)、保温性を求める場面である。縦軸の中心に近い範囲は、特段の冷却も保温も必要とせず、体温を維持したい状況を意味する。

この2つの軸を組み合わせることで大きく4つのエリアが現れ、それぞれの領域に(あるいは領域を跨いで)ベースレイヤーの製品カテゴリーをプロットすることができる(*)。

*カテゴリーの定義や位置・範囲については筆者の判断によるものであり仮説含みであること、一部に厳密さを欠く可能性がある点はご容赦いただきたい。

マップ上に典型的なアクティビティを例示すると以下のようになる。

続いては個々の領域について解説していきたい。

体温の冷却と速乾性を重視したベースレイヤー

まず、マップの左上領域は大量に発汗し、かつ冷却を重視したい状況である。温暖な時期において活動量が多く身体がヒートアップしやすい活動、具体的にはトレイルランランやファストパッキングなどが該当する。

この領域では速乾性が重視される。温暖な環境下でいち早く身体を冷やすには汗の蒸発/気化熱によるクーリング作用が最も有効なためである。

ここではさらに、その汗処理方法の違いによって、大きく「通気型速乾」と「拡散型速乾(*)」という2つのカテゴリーを定義した。

「通気型速乾」とは、メッシュ構造/グリッド構造などに仕立てた薄い生地によって通気性を高め、1秒でも早く汗を蒸発させることに注力した製品群である。

一方で「拡散型速乾」とは、汗を素早く肌から遠ざけ生地の表面で拡散・放出するもので、通気性や生地全般の速乾速度よりも、まず肌面をドライにするという点に注力した製品群である。

*「拡散型速乾」というカテゴライズについてはベースレイヤー#1のRun boys!Run girls!桑原慶氏との鼎談を参考とさせていただいた。現実には、拡散型の特性を持ちつつ生地をグリッド構造に仕立てた折衷型の製品も少なくない。

この領域には「メッシュ肌着」と呼ばれるカテゴリーも存在している。これは肌とベースレイヤーとの間に嵩高なメッシュ層をはさむことで物理的に汗を肌から遠ざけ、メッシュの上に着用したベースレイヤーに汗を吸着させるというメカニズムによって汗冷えを防ぐものである。ある意味「拡散型速乾」はこのメッシュ肌着とベースレイヤーのレイヤリング効果を、1枚の生地で実現しようとしたテクノロジーと考えられる。

メッシュ肌着はどちらかというと保温を重視した製品であり、「冷却性<-->保温性」の縦軸の下側を占めるように位置づけた(筆者の周りでも、夏にメッシュ肌着を使う例は高所登山や沢登りなどに限られる印象である)。しかしながら薄手の生地で暖かい時期に配慮した製品も存在するため、縦軸上側(冷却)にも一部跨るかたちとしている。

全般的に、この左上の速乾性を重視したエリアは吸水速乾性の高い新素材の開発が積極的に進められている分野であると言える。

体温の冷却と吸湿性を重視したベースレイヤー

マップ右上の領域は身体がヒートアップしているが、吸湿によって汗を処理したいという状況である。この場合は汗の速乾による気化熱という強力な冷却効果が得られないため、実際にはヒートアップの度合いが左上に比べて低いアクティビティが該当する。

比較的温暖な時期において適宜休憩を挟むような活動が該当し、具体的には一般的なハイキングなど、比較的温暖な時期において適宜休憩を挟むようなアクティビティが想定されるが、トレイルランニングやファストパッキングであっても、ペースが比較的ゆるやかであったり活動時間(行動日数)が長かったりする場合にはこの領域に含まれてくる。

いずれも位置づけとしては「冷却性<-->保温性」の縦軸の中央付近にあり、冷却というよりも体温の維持が目的となる。この領域では活動時間が長くなることも多く、日常着の延長としての着心地や防臭性(*)も重要となる。

*一般的に吸湿素材は湿気と共に臭気物質を吸収すると考えられ、非吸湿素材よりも防臭性が高い

ここで中心となるカテゴリーは「ウール系吸湿」「パルプ系吸湿」である。いずれも天然素材(獣毛または植物由来原料)をもとにしたもので、特に「ウール系吸湿」は素肌に直接着用できるメリノウール製ベースレイヤーの登場以降、その吸湿性の高さや汗冷えのしにくさといった機能性に加え、やわらかな肌触りや消臭性といった快適性能にもすぐれることから、ひろく使われるようになってきている。「パルプ系吸湿」には綿や麻のほか、レーヨンや半合成繊維(パルプ繊維を溶解し再合成した繊維)、吸湿性だけでなく速乾性にもすぐれたラミー(苧麻*)やトリアセテートといった素材がある。

*麻の繊維の一種

ウール系であってもパルプ系であってもこの領域で速乾機能がまったく不要というわけではなく、ポリエステルなど他の化学繊維と混紡することで速乾性(および耐久性)を補っている製品が多い。

※左上・右上を跨いで点在するテクノロジーとして、生地に触れた瞬間に冷たさを感じるいわゆる「接触冷感」を用いたものがあり、「涼感系」と名づけた。この技術は高温多湿な日本の夏に対応するものとして技術開発が進んでおり、スポーツ/アウトドア用途に加え一般的なアパレル製品での応用も盛んである。主に右上にあたる植物系の吸湿素材と組み合わせられることが多く、大量に汗をかき続けるような状況ではそれほど有効ではないと思われるが、左上領域にあたる速乾素材でもこうしたクーリング効果を付加した製品が存在している。

※上側中央には軽ハイキングやキャンプなど「一般アウトドア」というカテゴリーもあり、主にコットンを用いた製品群を想定している。大量に発汗するような場面にはあまり向いておらず汗冷えのリスクもあることからそれほどシビアではない状況で利用され、機能性よりも日常着の延長的な着心地やデザイン性などを重視した製品群があてはまる。そのため縦横軸の中心付近にプロットしているが、これは特段に機能的なエッジを追求していないカテゴリーであることを意味する(機能性や対応場面の範囲は狭いが、マーケットとしては大きいカテゴリーである)。

保温性を重視したベースレイヤー

続いてマップ下半分の解説に移る。左下の領域は身体がヒートアップし、活動負荷および発汗量が多いものの、外気温が低く保温性も重視したい寒冷地でのトレイルランやファストパッキング、冬期の厳しいハイキングなどが該当する。高所や強風下など、一時的に寒冷環境が想定される場合の装備も含まれる。右下の領域はそれほど活動負荷が高くなく、外気が寒い場合である。テント泊など停滞時の保温に配慮しなければならない場面が該当する。

この下半分を占める保温重視の領域に関しては、上半分に位置する製品の生地を厚くしたりショートスリーブをロングスリーブ化したりしたいわば派生版もあり、左下を速乾性重視の「化繊系保温」としてまとめている。また右下は「ウール系吸湿」がそのまま当てはまる。

「ウール系吸湿」は実際の利用場面として左下領域でも使われていると考えられ、この下側は上側ほど速乾・吸湿という横軸の区別が明確ではない。その理由は、左下のように保温性とクーリング効果という相反する機能を両立させることが現実的に難しいためであると考えられる。この領域で速乾機能を高めてしまうと冷えのリスクが大きく、保温性とのバランスを取らざるをえないため、断熱性や吸湿発熱といった性能をもつウールが混紡されることもめずらしくない。そもそも外気が寒い場合には左上の領域ほど発汗量が多くならないので、吸湿のメカニズムで対応できる場合も多いと思われる。

また寒冷下においては保温をベースレイヤー単体でまかなうのではなく、ミドルレイヤー(インサレーションウェア)を重ねて対応する場合も多い。左下の領域であれば、いわゆるアクティブ・インサレーションと呼ばれるような通気性に優れたインサレーションウェアを重ねることによって、ヒートアップを防ぎつつ保温性を付加することが可能となっている。そのため場合によっては半袖速乾シャツがベースレイヤーでも問題ないこともあり、特段にこの領域に特化して製品開発をする合理性が低いのかもしれない。

また新たな動きとして肌に直接着用できるベースレイヤーとミドルレイヤーの折衷的な製品も登場してきており、図中の「MLハイブリッド(*1)」とはまさにそのような製品群である。帝人のOctaやプリマロフトのNEXTといった素材は高い通気性と保温性に加えて吸水性も併せ持っており、ベースレイヤーの上に重ねるだけではなく直接肌に着用することも可能とされている(*2)。

*1:”Middle Layer”と”Base Layer”のハイブリッドという意味で名づけた筆者の造語
*2:プリマロフトのWEBサイトにも
“In addition to pairing with shell and liner fabrics,next-to-skin and stand-alone applications are also possible

という記載があり、直接着用できることが示されている。Octaについては筆者が直接着用し、体感している。

筆者の体感では、こうした「MLハイブリッド」素材は通気性が高すぎて単体での着用ではやや寒さを感じるほどであるが、上にシェルを重ねて空気の流れを遮れば確かな保温性を感じる。その意味では使い方やシチュエーションによって縦軸の上下「冷却性<-->保温性」を跨ぐような機能をもつ。また「MLハイブリッド」の上にさらにベースレイヤーを重ね着すると、肌から水分を吸い上げベースレイヤーが吸収発散の役割を果たすことから、メッシュ肌着の発展系と捉えることも可能である。このように「MLハイブリッド」はまだ登場したばかりでありマップ上の位置づけは今後変化する可能性はあるものの、注目度の高いカテゴリーであると考えている。

※下半分の領域に特徴的なテクノロジーとして「遠赤系」と呼ばれるものがある。これは身体から出る赤外線を蓄積し身体に再放出する輻射熱の効果によって保温性を補うものであり、繊維にセラミックなどの微粒子を混ぜ込んだりプリントしたりしたものがある。ベースレイヤーではあまり用いられていないが、生地にアルミなどの金属を蒸着した製品も同じ効果を狙ったものである。主に化繊素材と組み合わせられていることが多い。

注目製品の実着レビュー

マップの軸やカテゴリーを定義する上で手がかりとなったような製品や、新規性がある興味深いテクノロジーを用いた製品については、実物を取り寄せて使用感をテストすることとした。

テスト対象として選定した製品は以下リストの13品目である。結果的には新規性の高い素材が多く使われている、マップの左上(速乾×冷却/維持重視)に該当する製品が多くなった。実着レビューをふまえた、各製品のマップにおける位置関係もあわせて示す。

条件をできるだけ統一するため、温度を一定に保つことのできる屋内施設(個室)で、同等の身体的負荷がかかるようにして評価をおこなった。具体的には、テスト品を着用した状態でトレッドミル(ランニングマシン)に乗り十分に発汗するまで運動し、一定の心拍数(=身体的負荷)で運動を継続した上で、保温性や汗の処理性能などについてインプレッションを得た。新品に特有のノリづけや仕上げ剤などの影響を除くため、テスト品はすべて購入後に普通の家庭用洗剤で1回以上洗濯している。また製品のサイズは筆者の身長(175cm)に合わせたため、海外ブランドではSサイズ、国内ブランドではMサイズが多くなっている。

《評価手法の詳細》
A) テスト品を着用
B) 屋内の気温20―22度・湿度40―70%、酸素濃度14ー15%の密閉された個室(*1)において、傾斜15度・時速6〜7km/hに調整したトレッドミルに乗りランニング
C) 心拍数が160/分に達し発汗した時点(*2)から5分間ランニングを継続
D) 5分経過後にトレッドミルのファンを作動させ、身体に風をあてて1分間ランニングを継続
E) ランニングを終了し、発汗・ヒートアップ時(最初5分)、発汗+有風時(続く1分)のインプレッションを記録
F) 身体を拭き、水分補給→Aに戻る

*1:エアコンで温度設定をしていたものの、同一室内での運動時間が長引くにしたがって室温が徐々に上がった。湿度もテスト開始時から終了時にかけて上昇した。また効率良く身体負荷を高めるために、高地を再現した低酸素ルームで実験を行った(酸素濃度は標高0mが20.9%、同3000mが14.5%とされている。今回の環境は標高3000m相当)
*2:筆者の推定最大心拍数のおおよそ85%。LT値と呼ばれ、おおよそ60分程度運動を継続できる心拍数(身体負荷)とされる。経験的にこの心拍数以上で運動すれば持続的に発汗すると判断し基準とした。

以上により、各製品につき無風5分+有風1分で計6分間のテストを行い、評価基準は以下の通りとした。

1. 暖かさ/涼しさ
2. 汗の処理
3. 動きやすさ
4. 総評(全般的な快適さ)

テストは10月の中旬から下旬にかけての複数日に分けて行い、ひとつの製品について日をあらためて2回着用した。できるだけ条件を統一し着用順などのバイアスを除くよう心がけたが、評価者は筆者1名であり、実験時点での筆者の体調もその都度異なるため、評価は大いに独断を含むことをご容赦いただきたい。

マップの中で上下左右の端に近いほど、その製品は機能のエッジが立っているということを意味する。また製品のカバー領域は対応できるシーンの広さにつながる。

ではそれぞれの製品について詳細に見ていきたい。

① Teton Bros.: Elv 1000 Tee
【通気型速乾】

② Teton Bros.: Vapor Tee
【拡散型速乾】

③ Teton Bros.: Axio Lite Tee
【ウール系吸湿】

④ Westcomb: Oden Crew
【通気型速乾】

⑤ Westcomb: Grid Crew
【通気型速乾/拡散型速乾】

⑥ Arc'teryx: Motus Comp Shirt
【拡散型速乾】

⑦ Static: All Elevation Shirt Short Sleeve
【ウール系吸湿】

⑧ Norrona: Bitihorn Wool T-Shirt
【通気型速乾/ウール系吸湿】

⑨ The North Face: L/S Flash Dry 3D Crew
【化繊系保温】

⑩ The North Face: L/S Warm Crew
【化繊系保温+遠赤系】

⑪ Houdini: Activist Crew
【ウール系/パルプ系吸湿】

⑫ Teton Bros.: MOB Wool L/S
【ウール系吸湿/メッシュ肌着】

⑬ Static: Adrift Crew
【MLハイブリッド】

まとめ:マッピングと実着レビューから得た所見

実着用レビューをふまえ、あらためてマップと各製品の位置関係を示す。

レビューの総括をふまえたマップの解釈

製品をそのコンセプトや素材特徴からマップ上のカテゴリーにあてはめ、プロットすることはそれほど難しくない。ただし、個々の製品の実際の着心地や完成度はカテゴリーのみによって決まるわけではない。各カテゴリーにおいて優秀なアイテムもあれば自分なら手に取らないというアイテムまで、実際に試してみるとグラデーションがあった。同じ通気型であっても、発汗時にも快適なものもあれば冷え感が気になったものもあり、同じメーカーの製品でもキャラクターやコンセプトによって着心地がまったく異なっていた。筆者が好むウール素材のウェアであっても、保温性や吸湿性といったウールの長所がうまく発揮されていないように感じた製品もあった。

またどんなに速乾性や吸水性が高くとも、生地が薄くハリがなければ、少しの汗で飽和し肌に貼り付くことが避けられないことも実感できた。Westcombの「Grid Crew」やHoudiniの「Activist Crew」が貼り付き感のあまりない快適な着心地であったのは、生地そのものの嵩高さやハリ、軽さ・厚さといった、素材に由来する水分コントロール力以外の物理的な特性が寄与していたものと思われる。加えて風をはらむシルエットやサイジングなどデザインの影響も大きく、素材は確かに重要であるものの、それに加えて利用シーンを明確に想定したモノ全体としてのつくりこみが製品の優劣にとって重要であると感じた次第である。

レビューというミクロの作業を踏まえ、あらためてマクロ的視点であるマップとカテゴリーについて触れておきたい。まずはマップのヨコ軸左上にある速乾系の中で、通気型と拡散型の違いについてあらためて認識することとなった。

筆者がマップ化作業に取り組んだのは2020年春のことで、徐々に気温が高くなる時期であった。並行していくつかのウェアを着用し、走ったり山に行ったりしてテストするうちに、通気型のウェアは大量に発汗した際にあまり快適ではないという印象を得ていた。その理由は、夏が近づくにしたがって気温も湿度も高まり、大量の発汗によって生地の乾燥が追いつかず、通気型のセールスポイントである速乾性がなかなか実感できなかったためである。むしろ汗の冷たさと、ピタピタと生地が肌に貼り付く感じが気になる印象であった。

一方で拡散型は、濡れても肌への貼り付き感が少なく、汗の冷たさを比較的感じにくいという印象があったが、今回のような比較的涼しい条件で着用してみるとまた違った実感を持った。拡散型は乾燥が遅く、寒い環境では生地全体が冷やされて寒さを感じる危険性もあるのではないかと感じた。

しかし拡散型も通気型も、マップ上に実際の製品を位置づけてみると、多くの製品が左上の比較的狭い範囲のみを占めている。人間は高負荷の活動をそれほど長く継続できるわけではなく、速乾という機能は大量発汗が続くごく短い時間/限られた場面にしかフィットしないのではないかと考える。

一方で吸湿系を代表するウール製品は(③⑦⑧⑪⑫)、マップの様々な場所に存在し、比較的広い範囲を占めている。アウトドアの多くのシチュエーションや、山という変わりやすい環境をふまえ、ウールがさまざまな場面に適応できる安全性の高い素材ということがあらためて示されたと考えている。

実際の製品レベルでは、濡れた際にはそれなりに冷え感もあるなど、ウール製品ながら保温性があまり感じられないものも存在した。筆者はこの濡れたウールの感触があまり気にならず、多くの人が同じ印象を持っているためマーケットにウール製品が溢れているのだと思うが、「ウールは濡れるといつまでも乾かず冷たい」という声を聞いたりすることもあり、人によっては好みがわかれるのかもしれない。ただしウール生地が水を積極的に吸い上げる親水加工でない場合には汗が肌を流れ落ちることになり、これは誰にとっても不快な感触だろうと感じる。トレイルランニングなどヒートアップしやすいエンディランススポーツでウールを敬遠するユーザーがいるのは第一にその保温性の高さ(それゆえの暑さ)が理由と思われるが、こうした吸水性についての悪印象が影響している可能性もある。

吸湿系については現段階でウールが主流でありパルプ系の影は薄い。パルプ系でテクニカルな機能を持った製品というのはなかなか少ないのが現状であるが、涼感性能に優れたトリアセテートや強靱かつ速乾性をそなえた苧麻などユニークな素材もあり、今後製品への応用が進むことに期待したい。

マップのタテ軸について、特に下側の保温カテゴリーに該当する製品は生地も厚く乾きにくいため、全般に速乾型よりも吸湿系の方に分があるように思われた。ただしMLハイブリッドのようなカテゴリーは速乾性も高く、技術の進展にともないこのマップのような捉え方では整理できないカテゴリーも増えてくるものと思われる。

筆者がシチュエーションごとに選ぶとしたら

私筆者であれば今回レビューした製品をどのように使い分けをするか、あらためて考えてみた(*)。

*私の山行スタイルは、1〜2日間と比較的短い間に長い距離を歩くファストパッキング、または半日〜1日程度のトレイルランが中心である。宿泊は小屋がメインで、泊まらずオーバーナイトで動くこともある。その意味では比較的高負荷の活動に寄った評価となっている。

まずは温暖な時期で湿度が高く、行動時間が比較的短い(12時間未満)場合。このような場合には大量の汗を適切に処理してパフォーマンスを落とさないことが重要と考え、おそらく拡散型速乾を選ぶと思われる。

温暖でも湿度が低い場合には速乾性に期待して、デザインなどの好みを優先して通気型を選ぶことがあるかもしれない。また自転車や高所であれば風が期待できるため、通気型の出番が多いかもしれない。しかしいずれもかなり限定的な状況と考えられる。そもそも筆者のように夏場高温多湿な関東地方に住んでいると、温暖で湿度が低い状況自体が想定しにくい。

もう少し涼しい時期であれば、外気による自然な冷却効果が期待できるため、パフォーマンスよりも着心地や安全性を重視してウール系吸湿を選ぶと思われる。この場合、拡散型は生地全体が冷やされるリスクがあるため選択しないと思われる。寒暖差が非常に大きい場合にはMLハイブリッドを組み合わせるかもしれない。

そもそもの行動時間が長い場合(12時間以上)には、たとえ夏であっても休憩や夜間行動など冷えのリスクがあり、ウール系吸湿(それもウール混紡率ができるだけ高いもの)を選択する。それだけの長い時間にわたって高負荷の活動を続けることは(私には)難しく、ウールの吸湿作用によって十分に快適なパフォーマンスを発揮できると考える。長期行動に伴い生じる不快な臭いが生じにくいことも重要である。着替えたり装備を変えたりする機会があれば、夏なら昼間は拡散型を選び、夜はウールに着替えるだろう。

今回のように様々な化学繊維の速乾系ウェアを試した後でも、私の場合はごく限られた場面を除きウールを選ぶケースがやはり多い。それはアウトドアという環境が変わりやすい状況において、よりリスクの少ない選択を心がけたいためである。

おわりに

マップ上で広い場面を占める製品は多くの状況に対応するものとして、マップの端に位置する製品は独自の尖った機能性が支持され、それぞれマーケットで受け入れられているものである。素材の特性に加え、それを活かすモノとしてのつくりこみとコンセプトがうまくかみ合った製品は、カテゴリーを生み出し代表する製品となっていく。そうした製品が登場し支持を集める度に、このマップも都度修正されていくであろう。

吸水速乾素材や高通気かつ保温性の高いアクティブ・インサレーション素材、ウールと化学繊維の混紡技術など、素材開発の進展にはめざましいものがある。今後も画期的かつユニークな製品の登場によって、アウトドア・アクティビティがより快適に、安全になっていくことを期待したい。

  • ENGLISH
  • JAPANESE

MORE