みちのく潮風トレイル(略称:MCT)を歩くハイカーのために、山と道京都スタッフの伊東大輔がまとめたハイカーによる、ハイカーのためのハンドブックです。
#2はいよいよガイド編として、旅のシーズンやプランニング、ナビゲーションや必要な道具について、ハイカー目線で解説していきます。
#2ではみちのく潮風トレイルを実際に歩くために必要な情報をまとめています。
しかし、あくまで一個人の体験をベースにした情報ですし、トレイルを取り巻く状況は日々変化します。この記事を参考にしつつも、歩き始める前には最新情報をリサーチしたり、歩いている最中は目の前の状況に臨機応変に対応する必要があります。とはいえ、私が考える必要な情報はこちらに網羅しましたので、旅をイメージするのに役立ててもらえるかと思います。
スルーハイクとセクションハイク
ロングトレイル(長距離自然歩道)の歩き方は多種多様で、人それぞれの楽しみ方ができるのも特徴です。
スルーハイク
トレイルの全線を一度に歩き切る方法。1,000kmを超えるみちのく潮風トレイルの場合、キャンプや民宿など宿泊を伴うことになる。長い距離を歩き続けることで感じられる景色の移り変わりや、地元の方々との出会い、そして「歩く、食べる、寝る」というシンプルな毎日は、自らの感性や思考に変化を与える。
セクションハイク
トレイルの一部をピックアップして、その区間を歩くこと。日帰りのセクションハイクもあれば、1週間のセクションハイクもある。興味のあるエリアを絞ってハイキングができるのが魅力で、個人のペースに合わせてトレイルを楽しむことができる。
セクションスルーハイク
セクションハイクを繰り返して、トレイルの全てを繋ぎ歩くこと。「ロングトレイルを歩き切ってみたいが、長い休暇が取れない」という方にも挑戦しやすい。実際にみちのく潮風トレイルをはじめとする長距離自然歩道をこの方法で歩き切る人も少なくない。
以下はスルーハイクを前提とした歩き方を記述しています。

スルーハイカーは数ヶ月をかけてトレイルを歩くので髭が生えっぱなしで、どこか汚らしい雰囲気に(笑)。実はみちのく潮風トレイルを訪れるのは3回目で、2020年は石巻〜名取の約100km、2021年は蕪島〜田野畑の約200kmをセクションハイクした。写真はみちのく潮風トレイルの北の起点(ターミナス)。
スルーハイクに要する期間
一般的に1〜2ヶ月ほどの期間を要します。これは個人の体力や歩き方によって大きく左右されます。
全長1,059kmなので、例えば1ヶ月で歩き終える場合、1日平均で34km。2ヶ月ならば平均で17km歩くと、トレイルを歩き終えます。みちのく潮風トレイルは街中を通過したり、フラットな遊歩道を歩くことも多いので、北アルプスのような山岳地帯より一日の移動距離は伸びるはずです。しかし、アップダウンの多いエリアや峠越えが重なるエリアもあるので、地形を考慮した計画が必要です。そして、先述した一日の距離は休みの日を取らずに歩き続けた場合なので、実際はもう少し余裕を見る必要があります。私は33日をかけて歩き終えました。(内、休暇日1日)
ただし、みちのく潮風トレイルをはじめとする長距離自然歩道は競争ではありません。どこに価値を見出すかは人それぞれですが、「歩き終えた」「早く歩き切った」からすごいって話ではないと個人的に考えます。歩くのに時間がかかっても、途中で止めても、自分が満足できることが最も重要なのではないでしょうか。時間や距離にとらわれて、歩くことがただのタスクになるのはもったいないです。
そして、せっかく東北の地へ赴くならば、じっくりとその土地を感じてほしいし、時間に追われず身を任せられることは、歩き旅の本質的な魅力だと思います。実際、私の友人はスルーハイク中、周辺の興味がある場所へ、トレイルを外れて幾度となく訪れ、全線を歩く頃には3ヶ月を要していたそうです。
また、別の長距離自然歩道の話にはなりますが、九州自然歩道の起点にある石碑には、アメリカのアパラチアン・トレイルの計画を立ち上げたベントン・マッケイの言葉が刻まれています。
「自然歩道の効用は、体力をつくること、もうひとつは自然に親しむことである。将来自然歩道で体力増強のための競技が行われることがあれば、大変不幸なことだが、そのときはちゅうちょなく自分は、一番遅かった人に賞を与える。」
HIKE YOUR OWN HIKE!

トレイルに放置されていたソファー。外に放り出された廃れたソファーがアメリカの映画っぽくてつい写真を撮ってしまった。

自由気ままにのんびりいこうぜ!
北向き or 南向き
みちのく潮風トレイルは北端の青森県八戸市蕪島、南端の福島県相馬市松川浦を繋ぐ長距離自然歩道ですが、どちらがスタート or ゴールかは決まっていません。北向きに歩くハイカーはNOBO(Northbounder)、南向きに歩くハイカーはSOBO(Southbounder)と呼ばれます。
北向き(NOBO)
春のシーズンは北向きに歩くハイカーが多い。春に南端から北に向かって歩き始める場合、季節が進むに連れて気温が上がるので、北部の冷え込みを避けられる。
南向き(SOBO)
秋のシーズンは南向きに歩くハイカーが多い。秋に北端から南に向かって歩き始める場合、初秋の暑さと晩秋の寒さをしのぐことができる。
一般的に北へ向かうほど気温は低く、南の方が温暖な気候なので、季節によって歩く方向を決めるのも良いでしょう。ただし、この方法は気候的にベターなだけでどちらが正解ということはありません。また、地形や風景を考慮して歩く方向を決めることもできます。みちのく潮風トレイルは、街中を歩くことが多い南部から、北上するに連れて自然の密度が濃くなっていきます。そのどちらを先に歩きたいか、どちらを後に残しておきたいかも決め方のひとつ。体力に自信がなかったり、歩き旅に慣れていないハイカーは街中を多く通過し、エスケープも容易な南部から歩き始めて、体と感覚を慣らせていくのも良いかもしれません。

北部は自然豊かな場所が多く、アップダウンが繰り返されるセクションも多々ある。

アップダウンが繰り返される場所にはこんな看板が立てられていることも。

南部は平野部を歩くので街やフラットなトレイルが多い。写真は運河沿いのサイクリングロード。

田舎の風景を見下ろしながら歩くのは心が落ち着く。
ハイキングシーズン
春と秋が気温的にハイキング適期と言えます。ただし、春と秋でなければ歩けないということはなく、シーズンを通して楽しめるのもみちのく潮風トレイルの特徴です。
春・秋
気温が高すぎず低すぎない、バランスの良い季節。秋のシーズンは台風が増えるので、歩く際には注意が必要。
夏
気温が高く、屋外で1日を過ごすので熱中症に注意が必要。舗装路歩きの際の、道路からの照り返しも避けられない。大量に汗をかくので必然的に飲む水の量が増える(=運搬する水量が増える)ことや、虫やヤマビルも活発なシーズンなので、それを考慮する必要がある。
一方、太平洋沿岸部に沿うみちのく潮風トレイルには、海水浴場が点在するので、休憩も兼ねて海でクールダウンするなど、夏ならではの楽しみ方もある。自動販売機やコンビニを見つけたら、必ずコーラに手が伸びるので、お腹を壊さないように要注意!
冬
「東北の冬」と聞くと、とんでもなく寒く、雪深くて歩くどころではないイメージがあるが、太平洋沿岸部はそこまで厳しい状況ではなく、注意をすれば歩くことは可能だそう。冬の冷え込みに関して、防寒、山間部の積雪や路面凍結など対策が増える一方、空気の澄んだ景色やハイキング終わりの温泉は格別な経験になるはず。
実際、冬のシーズンに歩いた、みちのく潮風トレイル名取トレイルセンターのセンター長である板谷氏が冬〜早春のハイキングについて記事を書いているので、こちらを参考にすると良いでしょう。

夏場だったら躊躇なく飛び込んでいたであろう。

みちのく潮風トレイルの最高標高地点は、北端から約30kmの場所にある青森県八戸市・階上岳で標高約740m。冬には積雪があるそうだ。
プランニング
みちのく潮風トレイルのスルーハイクには1ヶ月を超える行程になるため、日ごとの詳細な計画を全て立てるのは困難です。最低限、「食料補給」「水場」「宿泊場所」に考慮して1〜3日ごとに計画を立てていくのが現実的です。みちのくトレイルクラブが発行しているData Bookには、ランドマーク間の距離や標高差、近隣の駅や宿泊施設、トイレ、商店、水場など、歩くために必要な情報が網羅されているため、みちのく潮風トレイルを歩く際には計画の参考になるはずです。
食料補給
- スーパー
- コンビニ
- 地元の個人商店
歩くペースによりますが、通常1〜3日ごとに補給可能で、食料運搬の負担は大きくありません。無補給で歩かなければならない最長のセクションは、岩手県中部の重茂半島で距離は50kmほどです。
スーパーやコンビニでの食料補給はイメージがつきやすいでしょう。個人商店は地元の方が営む小さな商店で、営業日や時間、品揃えなど不確定な要素があるのも事実です。事前に営業しているかリサーチしたり、必ず補給ができる大きなスーパーで余裕を持って補給をしておくのが良いかもしれません。しかし、個人商店での買い物は地元の方と交流が持てる接点になりますし、個人的に、せっかくならトレイルを支えてくれている地域にお金を落としたいと思っていたので、なるべく地域のお店でも食料補給を行っていました。
私の食料補給戦略を簡単に紹介すると、ある程度の規模のスーパー(場所によってはコンビニ)で、ラーメンや米などの主食を調達。行動食は最小限の購入にして、個人商店での買い物や地元の名産品を楽しむ余白を残していました。

主食は大きなスーパーやコンビニで調達。右は貝ひものバター炒めを道の駅で購入した。

昭和を感じさせる地元の商店。地元の特産物をいかに旅に持ち込むかを考えるのも楽しい時間だった。
宿泊
- キャンプ場
- 民宿やビジネスホテルなどの宿泊施設
- 地元の方や土地の所有者に許可を得た場所
みちのく潮風トレイルに指定宿泊地はないので、どこに泊まるかは自ら計画をする必要があります。そして、おそらく多くの方が「トレイルを歩く旅」と聞くと野営を想像されるのではないでしょうか。みちのくトレイルクラブはGoogle Maps上にキャンプが可能な場所を、ルートと併せてまとめているので参考にすると良いでしょう。
しかし、実際にはトレイル上のキャンプ場だけでは全線踏破が困難なため、民宿などの宿泊施設を併用して計画を立てる必要があります。私も何度かトレイル沿いの民宿にお世話になりましたが、「みちのく潮風トレイルを歩いている」と伝えると温かく迎えてくれて、地元の新鮮な海鮮と快適な寝床を堪能でき、大満足な滞在になりました。そんな宿泊体験も日本の長距離自然歩道を歩く魅力のひとつなので、みちのく潮風トレイルを歩くハイカーには一度は経験してもらいたいです。#1で記述したみちのく潮風トレイルサポーターズの中には宿泊場所を提供してくれている場所もあるのでチェックしてみてください。

キャンプ場と言っても派手な場所は少なく、ハイキングの疲れをゆっくり癒すことができる。

海の側のキャンプ場で、沈みゆく夕日を眺めながら夕食タイム。

お世話になった唐桑の「民宿なぎさ」。

宿泊した民宿では豊かな海の幸を堪能させてもらった。
水場
- 沢水や湧水
- 水道
- 自動販売機
山の中を数日間歩くようなトレイルの場合、主に山中に流れる沢から給水することになります。みちのく潮風トレイルは里と里とを繋ぐトレイルで、且つ、その間隔も長距離ではないため、沢からの水の補給はあまり多くなかった印象です。トレイル上の施設には水を補給させてくれる場所があるので、Data Bookやみちのく潮風トレイルサポーターズの情報を確認した上で計画を立てるのが良いでしょう。また、街外れの田舎道にも自動販売機が点在するのは、日本ならではであり、トレイルライフの支えになってくれます。ただし、北上していくに連れて設置数が減少するので、過度に自動販売機に頼らない補水計画が必要です。
そして、状況によっては計画通りに水が手に入らないことも考えられるので、特にスルーハイカーなど、計画が立てにくい歩き方をする場合、携帯浄水器の携行をオススメします。上述した通り、みちのく潮風トレイルを歩いた際、沢から給水する機会は少なかったですが、もちろんゼロではありません。携帯浄水器を持っていれば、いざという時の緊急用としても機能しますし、単純に「沢でも水をとれる準備」をしておくと、有効な水場が増え、運搬する水の量とリスクが軽減します。長旅の必需品であると私は考えています。
私は比較的気温の高い9〜10月にトレイルを歩きましたが、上述の方法で、飲み水に困ることはありませんでした。歩くペースや必要な水分量は人によって異なるので参考程度にしかなりませんが、私の場合、最大運搬は2Lほど。自分がどれくらいの気温で、どれだけの量の水が必要なのか把握しておくことが大切です。

ひんやりと流れる沢水はほてった体を冷やしてくれる。自然を歩く旅では浄水器は必需品だ。

舗装路で時折出会う自動販売機。田舎道でも数多く設置されており、これは日本を歩くハイカーの特権だ。
トレイルについて
トレイルコンディション
みちのく潮風トレイルは非常に舗装路比率が高いトレイルで、全体の約7割が舗装路です。道が崩れることは少ないので、基本的には歩きやすい道が多いです。
「舗装路歩き」と聞くと、特にピークハントに力を入れているハイカーにはネガティブに聞こえるでしょう。しかし、ひたすら人工物が続くような道路を歩き続ける訳ではなく、周りの景色はあくまで自然に囲まれているので、足取りも軽く、むしろ気持ちよく歩くことができました。#1でも記述したような、里と里とを繋ぐ「道」の歴史の奥行きを想像したり、地元の生活に根付く個性豊かな集落を側で感じられるのは歩き旅の魅力で、そこには「舗装路か未舗装路」など関係ありません。
そして、3割の未舗装路も非常に歩きやすく整備されており、トレースもしっかりしている印象です。通行できない、もしくは危険を感じるようなトレイルの崩れはありませんでした。そして、夏の草木が生い茂る時期にも関わらず、道を見失わずに歩けたのは、管理団体ならびに地元のボランティアの方々のお力添えの賜物でしょう。一部、荒れている区間もありましたが、後に話を聞くと直近でルート変更があった場所で、整備前だったそうです。「長距離自然歩道」だけに、なるべく自然路を通すようルート変更が現在進行形で行われているようです。
トレイル状況は良好ではありますが、自然を歩く行為は、小さな注意不足が大きな事故に繋がるため油断は禁物です。また、毎週トレイルを視察している訳ではないでしょうし、台風をはじめとする自然災害は予測がつきません。歩くタイミングによって状況の違いはあるので、事前の確認が必要です。みちのくトレイルクラブは通行止めや迂回などの注意喚起をHPで行っているので、歩く前、歩いている最中はそちらを確認しましょう。

舗装路と言っても多種多様で、自然の中に通された道は歩いていて気持ちがいい。

人目にあまりつかない半島の先端で、こっそりと佇む舗装林道上のトンネル。

倒木が目立つ場所も中にはあるが、通行に問題はなかった。

危険箇所には鎖やロープを設置してくれている場所もあった。
エスケープ
みちのく潮風トレイルが通る太平洋沿岸部はJRや私鉄が運行しており、多くの場所で公共交通機関を使ってのエスケープが可能です。北から、JR八戸線(八戸駅〜久慈駅)、三陸鉄道(久慈駅〜盛駅)、JR大船渡線(盛駅〜気仙沼駅)、JR仙石東北ライン(BRT 石巻駅〜仙台駅)、JR常磐線(仙台〜相馬)と、トレイル全線を沿っている訳ではありませんが、大枠で見ると北端から南端まで交通機関が張り巡らされています。また、ローカルバスも運行しているので、比較的トレイルへの出入りは容易です。
注意する場所としては半島を歩く場合。特に、宮城県北部〜岩手県中部のセクションでは重茂半島、船越半島、箱崎半島、雄勝半島などの比較的距離の長い半島を歩くので、歩き始める前には食料などの準備をしっかり行うのが良いです。

久慈〜宮古間で運行している三陸鉄道はレトロな車内で旅の雰囲気を盛り上げてくれる。
危険箇所
先述した通り、台風や大雨などの自然災害の影響を受けた場所以外は、概ね安全なトレイルといえるでしょう。しかし、下記には注意が必要です。
渡渉
岩手県北部、洋野町と久慈市の境にある高家川は渡渉が必要なポイントです。川幅が広く、飛び石で渡ることも難しいので、川に足を踏み入れて向こう岸に渡ります。流れの早さや水深はタイミングによって変化しますし、人それぞれ体の大きさや経験が異なるので、「渡渉できるかどうか?」は判断が難しいです。無理そうなら少し遠回りしますが、迂回路を歩きましょう。特に、春の雪解け時期や雨が降り続いた後は川が増水し、非常に危険なので、無理せずに迂回することをオススメします。高家川の渡渉についてみちのくトレイルクラブが記事を出しているので、詳しくはこちらをご参照ください。

高家川。水深が深く、流れも早かったので渡渉を断念。

渡渉を試みてシューズがずぶ濡れに。新聞紙ソールを作ってみたが、これが意外にも大正解で翌日には靴がしっかり乾いていた。
道路
車通りの多い国道や歩道がない道路があるので注意して通行しましょう。特に夜間の通行は危険が増すのでなるべく避けた方がベターです。

歩道のない道路を歩く際は要注意。車側もハイカー(歩行者)がいるとは思ってないでしょう。
潮位
潮位にも注意が必要。岩手県北部では波打ち際を歩くセクションも点在し、潮位によっては通行が不可能になるケースもあります。ちなみに気象庁のHPで各地の潮位表を調べることができます。私も実際に潮位が高く迂回したり、波の高さを感じた区間があります。街でお風呂に入り、身も心もスッキリして波打ち際を歩いていた時、波を頭からかぶったのも今となってはいい思い出です。

潮を浴びているトレイル。タイミングによっては危険をはらむので注意が必要。
動物
ツキノワグマ
みちのく潮風トレイルの山間部周辺のほぼ全域に生息しているそうです。実際にトレイル付近で目撃情報も出ているので、自分の存在をアピールする行為(ラジオ、鈴など)を行ったり、早朝や夜間の行動をなるべく控えた方が良いでしょう。ハイキング中、ツキノワグマに出会うことはありませんでしたが、新鮮な糞は何度か目撃しました。そして三陸海岸に生息する個体は冬眠をしないと言われており、冬のシーズンにハイキングを計画している方も油断は禁物です。
あくまで人間が彼らのテリトリーにお邪魔させてもらっている訳ですし、クマをはじめとする野生動物との遭遇は避けられないと思っています。万が一、人間とクマとの間に事故が生じれば、その個体は駆除の対象となります。そうならないためにもまずは「出会わない工夫」が必要です。みちのくトレイルクラブのHPでツキノワグマについての記事があるので、詳しくはこちらをご参照ください。
スズメバチ
攻撃性が高く、スズメバチの刺傷による死亡例はクマよりも多いそうです。活動時期は5〜10月と、ハイキングシーズンと重なります。私がトレイルを歩いていた際も、スズメバチの頻出によるトレイル閉鎖があったので注意が必要です。スズメバチの生態や対処は、みちのくトレイルクラブのHPで記事にされているので、詳しくはこちらをご参照ください。
ヤマビル
山遊びをする方には馴染みがあるでしょうが、みちのく潮風トレイルにはヤマビルが多く生息する場所があります。宮城県石巻市の牡鹿半島、そして隣の島である金華山は特に注意が必要です。主に吸血被害なので、上述した2つと違い生命に関わる被害は稀ですが、長時間の出血や傷口の痒みや腫れを伴います。
私がそのエリアを歩いた際、ヤマビルの活動が活発になる雨天で、ヒル避けスプレーを念入りに塗布したにも関わらず、足がヤマビルだらけになりました。遭遇を覚悟しており、小走りでトレイルを走り抜けたのが要因か、血だらけになることは免れました。ただ、走っても走っても、足を目視する度によじ登るヤマビルの集団は精神的なダメージを被りました。

熊の出没注意の看板が設置されている場所もあった。

トレイル上で見かけた新鮮な糞。

雨上がりの湿度の高い場所ではヤマビルが活発になる。

危険動物ではないが、トレイル上でカモシカに多く遭遇した。彼らは人を恐れていないのか全く逃げる気配を見せず、じっとこちらを見つめている。
ナビゲーション
トレイル上には道標が設置されていますが、それだけで歩き切るのは困難でしょう。場所によっては数が非常に少なく、トレイルをたどることができないので、下記を持参してください。
Hiking Map Book
みちのくトレイルクラブが発行している公式の地図。全線を約100kmごとの10のセクションに分け、ルート、高低差、ハイカーに必要な情報(水場、トイレ、補給施設、レストランなど)、地点間の距離など、ハイキングに必要な情報が掲載されている。ハイキング中のルートと周辺施設の確認に活用できる。
Data Book
Hiking Map Bookに掲載しきれない細かい情報をB5サイズの冊子にまとめている。地点間の距離が把握しやすく、細かいハイキングのプランニングに向いている。歩いている際のルート確認はHiking Map Book、スタートからゴールまでの距離の計算や、水や食料の補給計画、宿泊場所の確認など、より詳細な情報収集にはData Bookを使用した。
オンラインマップ、GPXデータ
Google Map上のルートデータ、その他の地図アプリにインポートできるGPXデータが公開されている。公式マップであるHiking Map Bookの補助として使用するのがおすすめ。Google Mapのオフラインマップはルートの他、ランドマークやキャンプ可能場所の情報も掲載されている。

Hiking Map Bookは全10冊。

ルートの他に周辺施設の掲載、そして舗装or未舗装など路面状況も把握できるようになっており、日毎の計画に役立った。

Data Bookはより詳細な情報が掲載されている。こちらは1冊で全てのトレイル情報が詰まっている。

トレイル上の施設情報が距離や標高差と共に掲載。エスケープの確認やセクションハイクのプランニングにも便利。
道具
みちのく潮風トレイルは比較的標高の低い場所を歩くので、山岳地帯ほど雨風に怯える必要はありません。しかし、長期間歩く=様々なことが起こりうるので、緊急時を考慮した道具選びが必要です。秋冬の寒いシーズンに歩く場合には寒さ対策も重要です。里の近くを歩くとは言え、隔離された場所を歩くこともあるので、事前にしっかり準備をするのが望ましいでしょう。また、トレイル沿いで道具の買い足しや買い替えもあまり現実的ではないです。
下記、実際に使用したギアリストを添付します。しかし、道具選びは歩く時期の気温や天候、個人の耐性によって変える必要があるので、参考に留めるのをおすすめします。
みちのく潮風トレイルでのギアリスト






役立った道具
長旅ではガスバーナーを選ぶことがほとんどですが、今回はアルコールストーブを選びました。理由は、燃料の入手しやすさです。トレイル沿いの街は小規模なことが多く、OD缶などの燃料は手に入りにくいです。その点、アルコール燃料ならドラッグストアで手に入りますし、500mlをボトルで持っておけば、朝のコーヒーと夜の食事で燃料を使用しても、2週間以上補給をしなくて済みます。
アルコールストーブ=軽量というイメージがあるかと思いますが、このストーブは約90gと重量メリットはありません。しかし、火力調整が可能なタイプなので、炊飯などの簡単な料理も可能です。そして真鍮製のため「長旅で使用して経年変化を楽しみたい」という願望もありました。軽量化に振りすぎず、ハイキングを豊かにする道具を選ぶのも重要です。

こちらの写真では使用していないが、火加減を調整できる蓋がついているので調理に向いている。
800mlのアルミ製のポットに蓋兼用の簡易フライパンがついたクッカーセットです。里を多く通過するトレイルなので、地元に根付く食文化を楽しみたいと思い、このクッカーセットを選びました。普段は軽量なチタンクッカーで袋麺を食べることが多いのですが、今回は米と地場の食材を併せて食料計画をしました。
道の駅で買った食材を焼いたり、ワカメを買って炊き込みご飯を作ったり。「食文化」も地方のトレイルの魅力の一つなので、ナイスチョイスだったと思っています。

トレイルで使用したクッキングシステム。アルミのポットは湯沸かしだけでなく調理がしやすいので歩き旅にはよく持ち出す。

道の駅で調達したスモーク牛タン。
「手拭い以上、タオル未満」と謳われており、タオルとしての役割をしっかり果たしつつも、重量と速乾性も及第点である、そのバランス感の良さが気に入っています。50gほどで手拭いより若干重いですが、片面がガーゼ、もう片面がパイル生地になっており吸水性に優れます。通気性も高いので、比較的乾きも早いです。トレイルの近隣には入浴施設も多く、入浴する機会も多かったので、「歩き旅」には最適なタオルでした。

国内外問わず長い旅では愛用している。
多用途に使用できるミドルレイヤーで、保温着、行動着、着替えとして、ロングハイキングの際には必ず使用しています。私の場合、10℃前後の気温であればダウンジャケットも不要で、保温着はこれ一枚です。濡れにも強く、繊維がほとんど保水しないので、ずぶ濡れになってしまった時の着替えにも安心して着用できます。特に雨が多く「濡れること」を避けられない日本の環境には非常に適していると感じています。道具の数を減らすのは軽量化のTIPSのひとつですし、何より道具の数が減ると、同時に考えなければならないことが減り、長い旅では想像以上にストレスが軽減されます。

みちのく潮風トレイルでは、保温着、就寝着、着替えと多用途に使いまわした。
【山と道】Chemical B Pocket T-shirt
これまでのロングハイキングではメリノウールのベースレイヤーを着用してきましたが、今回はポリエステル100%のChemical B Pocket T-shirtを選びました。9月の蒸し暑い時期に歩いたにも関わらず、汗を瞬時に吸い上げる吸水性と汗の肌戻りの少なさ、肌面への点接触、そして速乾性でハイキング中の「濡れ」による不快感を軽減してくれました。また、このベースレイヤーの大きな特徴として防臭性に優れることが挙げられます。体感的にメリノウールほどではありませんが、3〜4日間の連続着用では全く臭いが気にならず、洗濯が頻繁にできない長旅で重宝しました。みちのく潮風トレイルでは、人目を気にする街中を多く通過しますが、臭いを気にせず胸を張って街に降りることができました。

あたりが真っ白になるほどの湿度でも、濡れていることを感じさせなかった。
【#3に続く】















