0123456789 ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ abcdefghijklmnopqrstuvwxyz あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲン
0123456789 ABCDEFGHIJKLMNOPQRSTUVWXYZ abcdefghijklmnopqrstuvwxyz あいうえおかきくけこさしすせそたちつてとなにぬねのはひふへほまみむめもやゆよらりるれろわをん アイウエオカキクケコサシスセソタチツテトナニヌネノハヒフヘホマミムメモヤユヨラリルレロワヲン
土屋智哉のULハイキング大学 in 山と道

講義5:ハイカーの視点から見るストーブの変遷(1限目)

アウトドアストーブの起源とウルトラライト文脈における軌跡
構成/文:李生美
写真/編集:三田正明
写真/柿崎豪、大竹ヒカル
2026.05.08
土屋智哉のULハイキング大学 in 山と道

講義5:ハイカーの視点から見るストーブの変遷(1限目)

アウトドアストーブの起源とウルトラライト文脈における軌跡
構成/文:李生美
写真/編集:三田正明
写真/柿崎豪、大竹ヒカル
2026.05.08

ハイカーズデポ土屋智哉さんをお招きし、山と道スタッフを生徒に開校している「ULハイキング大学 in 山と道」。

これまでバックパック編、シューズ編、テント編、スリーピングシステム編とウルトラライトハイキングの代表的装備それぞれの成り立ちと移り変わりを解説してきましたが、今回はその最後のひとつ、ハイカーの食を支えるアウトドアストーブ編です。

1限目では、アウトドアストーブの原点である灯油やガソリンストーブの歴史から始まり、運搬の安全性を高めたガスカートリッジ式のストーブ、圧倒的な燃費効率で衝撃を与えたジェットボイル、さらにウルトラライトハイキングを語る上で欠かせないアルコールストーブまで、アウトドアストーブがウルトラライトの文脈において、どのような変遷を辿っていったのかを解説してもらいます。

ではチャイムが鳴ったら、今回も講義の始まりです!

はじめに

これまで講義1のバックパックからスタートして、講義2ではシューズ、講義3ではテント、講義4ではスリーピングシステムについて話してきました。講義5となる今回はクッキング系のストーブの話をしていきます。そうするとオーバーナイトでハイキングに行く道具の基本的なものは押さえられると思います。

今回はバックパックの講義と同じように、ウルトラライトハイキングの文脈でよく語られてきたアルコールや固形燃料のストーブ、さらに近年なぜそれがガスカートリッジ式のストーブに回帰しているのかをメインに話していきますが、はじめにストーブそのものの簡単な概略についても説明していきます。

ここ10年ぐらい、特にウルトラライトハイキングから山を始めた人たちは、そもそもガスカートリッジ式のストーブやアルコールストーブから使い始めた人が多いと思います。それ以前に広く使われていたガソリンストーブや灯油ストーブを使ったことがなくて、原理が分からない方もいると思うので、知識として触れていきます。

土屋智哉:東京都三鷹市のULハイキングの専門店Hiker’s Depot店主。日本にULハイキングの文化や方法論を紹介した先駆者的存在で、メディア出演も多数。著書に『ウルトラライトハイキング(山と渓谷社)』。

アウトドア用ストーブの元祖、灯油ストーブ

フィールドで使う燃焼器具や調理に使うパーソナルな燃焼器具というと、一番原始的なのは焚き火だと思います。携帯できるストーブというと、日本では七輪などがありますね。

そういった炭素の塊を燃やすこと以外に、登山や探検の文脈の中で、いわゆる運搬できるストーブとして登場した最初のものが、「プリムス・ストーブ」と言われるものです。現状ブランドとしてあるプリムスではなく、灯油ストーブのことです。

BA Hjorth & Co, Public domain, via Wikimedia Commons

プリムス・ストーブは、灯油を燃料タンクの中に入れて、ポンピングで加圧して内部の空気圧を高めます。灯油そのものに火をつけてもメラメラと燃えますが、それでは十分な火力が出ないので、一度気化させてガスとして出す必要があるんです。

プリムス・ストーブの構造。ウィキペディアのパブリックドメイン画像を一部修正。John Fogerty, Public domain, via Wikimedia Commons

そのために、燃料タンクの上で「プレヒート」と呼ばれる予熱を行います。固形燃料やジェル状のアルコール燃料をタンクとバーナー部の中間にあるアルコール皿に置いて、火をつけて熱を加えてあげます。それからポンプで加圧すると、空気圧に押された燃料が出てきて、送油管から上昇管を通って予熱されたバーナーヘッドまで押し上げられ、燃料が加熱されて気化します。その後、気化したガスは下降管を通って蒸気ノズルから噴出され、空気と混合することで燃える仕組みです。

これがプリムス・ストーブと言われるもので、最初からある程度完成した形で出てきました。マミー型の寝袋やピラミッド型のシェルターの基本形がそうであるように、ストーブも基本的な構造や形は変わらず今に至ります。

小型化したガソリンストーブ

それから1942年、灯油よりも揮発性が高く引火しやすいガソリンを燃料に使った、コールマンの『G.I. ポケットストーブ』が登場します。第二次世界大戦時、米軍に納品するために作られたもので、従来のストーブよりもコンパクトになりました。

プリムス・ストーブと構造的には同じですが、後年には燃料を細かく噴霧するジェネレーターという管が付くようになり、このようにガソリンストーブでは、プレヒートを行わなくても気化する機構のものが出てくるようになりました。

その後、こういう一体型のものから、皆さんもよくご存知のMSR(マウンテンセーフティーリサーチ)が1973年に『モデル9』というストーブを出します。これは現行の多くのガソリンストーブの構造にも引き継がれている、いわゆる分離型と呼ばれるタイプの元祖です。

分離型のガソリンストーブ。画像は火力調整機構を搭載したMSRドラゴンフライ。

それ以前のバーナーヘッドの燃焼部分と燃料タンクが一体になっているタイプは、加圧や加熱によってタンクに負担がかかって、場合によっては破裂して故障することがあります。

さらに燃料タンク内の空気圧が高いままだと危険なので、運搬する際には空気を抜かないといけません。でもガソリンは揮発性や引火性が高く、燃焼部分がまだ熱い状態で下手に空気圧を抜いてしまうと、引火する危険性もあります。そんな一体型ストーブの弱点を解消しようと生まれたのが、『モデル9』を始めとする分離型ストーブでした。

灯油ストーブとガソリンストーブは非常に出力が高く、一番のメリットは低温下でも高標高でも使えることです。だけど初期の頃のモデルは、ほとんど火力調整ができませんでした。

実際にガソリンストーブで微妙な火力調整ができるようになったのは、1983年発売のMSRの『ファイヤーフライ』以降なんですね。いまだったら火力調整ができるのは当たり前ですが、ストーブで火力調整ができるようになったのは、ここ40年くらいの歴史だと覚えておいてください。

なぜ火力調整が後年になったのかというと、燃焼器具の構造上の制約もありますが、当時のストーブで一番重視されたのは「壊れない」ことだったからです。確実に着火をすること。フィールドで修理やメンテナンスができること。これって実は僕たちがウルトラライトの製品に求めている「軽さ」以外のところにも、通じる部分があると思います。

こんなふうにストーブの歴史は、焚き火のあとに灯油ストーブが出てきて、ガソリンストーブが普及し、ガソリンストーブの中でも分離式が登場したという流れを辿ってきました。

安全性を高めたガスカートリッジ式のストーブ

そんな流れのなかで、引火性や可燃性の高い燃料をより安全に持ち運ぶために出てきたのが、ガスカートリッジ式のストーブです。

MSR ポケットロケット2

ガスカートリッジ式、いわゆるガス缶の燃料は、振るとシャカシャカと音がしますが、中に入っているのは気体じゃなくて、石油系の液化ガスです。缶自体に圧力がかかって液体の状態が保たれているので、バルブをひねって外に出た瞬間に、気圧の変化によって気化します。気化したガスが空気と混合して燃焼効率が良い状態になるので、火花を飛ばして引火させると燃えるようになります。

なので灯油やガソリン系のストーブと、ガスカートリッジ式のストーブは、構造上は非常に似通っていて、原理的には同じということです。

ガスカートリッジには、いわゆるOD缶とカセットコンロでも使用されるCB缶があります。燃料の種類によっては、ガスカートリッジ式のストーブの場合は、高標高や低温下では燃焼しにくいものもあります。

OD缶(110サイズ)とCB缶

ガスカートリッジ式のストーブの中で次に登場したのが、キャンピングガスというメーカーが1990年代に発売した触媒系ストーブです。これまでのストーブのように炎を出すのではなく、触媒を発熱させて、その熱でお湯を沸かす仕組みです。基本的にはアウトドアヒーターで使われていた技術で、調理系のストーブには発展しませんでしたが、2007年にMSRがヒートエクスチェンジャーを備えた専用クッカーの底部がストーブを覆い、完全に閉じられた空間で燃焼する『リアクター』という製品を発売することで現代にも繋がっていきました。

MSR ウィンドバーナー(リアクターの後継モデル)

MSR ウィンドバーナーの燃焼時。炎を出さずに金網を加熱して、赤外線によって熱を発する。

ガスカートリッジ式では小型化が進んでいき、EPIガスやプリムスが先導していたなかで、1998年発売のスノーピークの『ギガパワーストーブ地』が、初めて100gを切りました。さらにSOTOがマイクロレギュレーターという機構を開発し、2009年に低温下でも確実に気化が促進されて燃焼効率が下がらないストーブが登場しました。

SOTO マイクロレギュレーターストーブウインドマスター

また、近年では中国のメーカーから、非常に小型のストーブが出てますよね。でも日本でそのサイズのストーブが出ないのには理由があります。燃焼部分とガス缶の距離が短くなると、ガス缶自体が加熱されるリスクがあるからです。安全性を確保するためのクリアランスを取るためには、小型化することに限界があります。

BRS 3000Tはわずか25g。燃焼部分とガス缶の距離を縮めることで小型化している。

だから小さいストーブは軒並み火力が低いんですよ。でもそれをアルコールストーブと同じだと割り切って使う人にとっては、ひとつの選択肢になります。

ガスカートリッジ式の小型化にも限界が来た現在、マイクロレギュレーター以降にどう進化していくのか気になるところです。例えば、カートリッジを充填式にして、小型で肉厚な耐久性のある構造にしたものを売れるようになれば、ストーブをもっと小さくすることができるかもしれません。あとはピンポイントの用途に特化したニッチな方向にいかざるを得ない気もしますよね。

近年は新製品もゴトクの形状を変えたものがほとんどですが、僕はガス缶の方を変えてほしいですね。やっぱりガス缶の高さが不安定な時があるじゃないですか。でも分離型にすると重たくなるので今の半分の高さにするとか、そういうのが出てくれたらウルトラライト志向の人間としては面白いかなと思います。

燃料の削減に貢献したジェットボイルの衝撃

ストーブにおいて、ウルトラライトハイキングの文脈がどこから始まるのかというと、個人的にはジェットボイルの登場だと思います。日本に限定した話かもしれませんが、ウルトラライトハイキングといえばアルコールストーブや固形燃料をイメージする人も多いですよね。だけど日本でウルトラライトハイキングを追いかけてきた人たちが、最初に衝撃を受けたのはジェットボイルの出現でした。

ジェットボイルの面白い点は、ストーブを進化させるのではなく、クッカーを工夫することで燃焼効率を高めたところです。

ジェットボイル フラッシュ

ストーブは当初、高地や極地といった低温下でも安定的に高い火力を得られたり、壊れないことを主眼に置いていました。それを小型化するためにガソリン燃料を使ったり、安全性を高めるためにカートリッジ式にしてみたりといった歴史をここまで見てきましたね。

次の課題として、いかに効率良くお湯を沸かすのかという流れに入ります。ストーブの火力を上げるのもひとつの方法ですが、そうすると燃費が悪くなります。じゃあ小さい火力でも、その熱をどれだけクッカーに効率良く反映させるのかを考えた時に、ジェットボイルのような底にフィンが付いたクッカーが登場します。これによって熱を効率良く受け取ることができて、少ない燃料でも素早くお湯を沸かせるようになりました。

クッカーの底面に吸熱フィンが取り付けられているのが特長。熱を受ける表面積を拡大し、熱損失を最小限に抑えることによって、燃費効率が非常に高まる。

しかし現状、一酸化炭素が発生しやすいという大きな問題があるので、フィン付きクッカー単体の販売を行っているメーカーは極端に少ないです。製造国や販売国の法律によってOKな国もあればNGな国もあり、日本の場合、ガス燃焼器具の販売に関しては、かなり細かな検査や規制が設けられているので、日本では一般流通していなかったり、流通していても用途を説明しないで販売していることが多いです。

ジェットボイルはストーブとクッカーをセットで販売することで、国内の基準もクリアしています。だからアメリカで発売されてから日本に流通するまで、時間がかかりました。日本基準に合わせて若干仕様を変えたという話もあります。

MSRのウィンドバーナーも同じくセットとして販売されている。

ジェットボイル系のストーブは、湯沸かしに特化しているのが大きなトピックでした。なぜこれがウルトラライトハイキングのシーンで語られるのかというと、講義1でも話したベースウエイト*の話に繋がります。

*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量

ハイカーはいかにベースウエイトを軽くするか試行錯誤してきましたが、結局はベースに含まれない水・食料・燃料が重たいんですよね。灯油ストーブやガソリンストーブの時代には、液体の燃料を担いでいたんです。そりゃ重たいですよね。

燃焼効率が良いガスカートリッジ式になっても「ガスカートリッジは何本持っていく?」と相談していました。山岳部やワンゲルだと、これまでメモした使用量を参考に、綿密にメニューを決めて必要分を持っていくんだけど、そうじゃなければなんとなくガス缶を多く入れちゃうと思います。

なんだかんだ燃料はかさばるし、使えばなくなるけど重たいです。ベースウエイトの軽量化とは別に、ベースウエイトに含まれない消費材をどれだけ軽量化できるかを考えた時に、『ジェットボイル』が果たした役割はすごく大きいものでした。

例えば夕飯でお湯を500cc沸かすだけだと、ひとりであれば110缶で10日から2週間は持つんですよね。僕はそういう感じで使ってきました。

2018年に300kmのシエラハイルートというオフトレイルルートを、パートナーと3週間ほど歩きました。ふたりで『ウィンドバーナー』をひとつだけ持っていって、夜にお湯で戻す食事をふたり分沸かして、食後のコーヒーを1杯ずつ沸かす。それで燃料は110缶で10日分くらい持ったんですね。

さらに近年、自分は国内を旅する時にジェットボイルを使うことがあります。ひとりで東海自然歩道を39日間歩いた時は3分の2が野宿だったんですが、結局110缶を1個半しか使いませんでした。

土屋さんの東海自然歩道でのセット。コジーを外し、ストーブをMSR ポケットロケットにして軽量化(メーカー推奨の使用方法ではないので、参考にされる場合は自己責任でお願いします)。

このように燃料の軽量化という部分で、かなり大きな役割を果たしたのがジェットボイルや、それ以降の高効率型ストーブでした。

これまでの大きな流れを踏まえた上で、ウルトラライトハイキングの世界に惹かれた人間にとって、そのきっかけとなったのは、やっぱりアルコールストーブと固形燃料だと思います。ここからはアルコールストーブがどういうタイミングで登場してきたのか、その背景に話を移していきます。

圧倒的軽さのアルコールストーブ

これまで紹介した灯油ストーブ、ガソリンストーブ、ガスカートリッジ式ストーブは、どれも液体燃料を加圧して燃焼させるものでした。それに対してアルコールストーブは、メタノールやエタノールといった液体燃料を加圧しないで燃焼させます。そこがここまで見てきたいわゆる加圧式ストーブと違う点です。

ただ、非加圧式のストーブは、どうしても火力が上がらないんですよね。なのでアルコールストーブは、アウトドアストーブとしては、メインストリームに踊り出なかった歴史があります。ただ、燃焼音が静かだったり、燃料の運搬に伴う危険性が非常に低かったりする部分に、メリットを感じる人たちはいました。

そんなアルコールストーブの歴史は19世紀まで遡れますが、現在まで至るアルコールストーブを完成させたのは、スウェーデンのトランギアと言われています。

トランギア アルコールバーナー

トランギアの『アルコールバーナー』はオープンジェットと言われる形のアルコールストーブですが、現代のアルコールストーブも、基本構造はここから大きく進化していません。内壁と外壁の二重構造になっていて、中にアルコールを注ぐと、内壁と外壁の間にある副室にもアルコールが溜まります。

アルコールを引火させると、本体全体が加熱されて、その熱が副室にも伝わります。そうするとアルコール燃料の温度が上がって、副室の空気も熱で膨張して圧力が高まります。

その結果、気化したアルコールがストーブ上部の小さな穴(ジェット孔)からガスとして噴き出し、そこに炎が引火して安定した炎が生まれるのが、基本的な仕組みです。

密閉された状態で圧力をかける加圧式と、オープンジェットと言われる開放された構造の中で一部だけ圧力が高まる非加圧式とでは、仕組みが根本的に違うと理解してください。

ただ、アルコールストーブは加圧式のストーブと比べると、どうしても火力が上がりません。なのでジェットボイルがクッカーの効率を上げることでお湯を素早く沸かせるようにしたように、トランギアの『ストームクッカー』も鍋と全体のシステムとして燃焼効率を上げています。

トランギア ストームクッカーS ウルトラライト(画像提供:イワタニ・プリムス株式会社)

『ストームクッカー』はストーブ本体と台座、風防兼ゴトク、専用のクッカーとフライパンのセットで、台座にある穴から空気が入るようになっていて、それが風防兼ゴトクの中を上がっていきます。暖炉と同じ仕組みで、空気が下から上へと流れることで、酸素がどんどん供給されて、よく燃えるんです。その時に炎が鍋底に当たるだけでなく、熱が鍋の側面に沿って上に排気されていくことで、空気の循環が生まれます。これによってさらに酸素が供給されて、ガンガン燃焼するんです。

この時、風防が大きな役割を果たします。風防は英語でもウインドスクリーンというので、風よけのイメージがどうしても強いですが、風を防ぐよりも中で生まれた炎の熱を逃さないことが大切な役割になっています。

こうして『ストームクッカー』と組み合わせて一体化したことで、トランギアのアルコールストーブ自体は、非常に実用性の高い道具になりました。ウルトラライトハイキングで使うアルコールストーブは1人用というイメージがありますが、実際に『ストームクッカー』は2〜3人や3〜4人のパーティーで使えるモデルも出ています。つまり、効率の良いシステムさえ組めば、火力が低いアルコールストーブでも、ちゃんと実践で使えるんです。

それこそスウェーデンといった北欧だと、大自然のどこでもテントが張れるので、アウトドアをやる人たちからすると夢のような場所です。そんな自然の中で実践的に使えるひとつの完成形として、トランギアの『アルコールバーナー』や『ストームクッカー』は出来上がりました。

文献を見ていくと、新田次郎の小説『孤高の人』のモデルになった昭和初期の伝説的な登山家の加藤文太郎も、行動食の甘納豆を冬には雪の中でアルコールストーブで温めて食べていたという日記の記述があります。日本でもこういった形かどうかは分からないけど、昔からアルコールストーブが使われていたんですね。

ULのアイコン的存在、アルミ缶のアルコールストーブ

そしてウルトラライトハイキングの文脈の中で、アルコールストーブにフォーカスが当たったのは、やっぱり「ペプシ缶ストーブ」と呼ばれるようになった、アルミ缶を使ったアルコールストーブだと思います。

アルミ缶のアルコールストーブ。日本のアルコールストーブのパイオニアのひとり、塚越利尚氏によるT’s ストーブが販売していたもの。

オープンジェット型なので、本燃焼後にジェット孔から炎が出る。

アルコールストーブは、液体燃料を運搬する際の危険性が、灯油やガソリンと比べると非常に低いですが、それ以外の大きなメリットとしては、構造自体が非常にシンプルでほぼ壊れないことです。そして構造が簡単ということは、自分で作れるということなんですね。

さすがにガソリンストーブやガスカートリッジ式のストーブを自作するとなると、相当な専門知識と工作能力が必要だけど、アルコールストーブは100円ショップで売っている材料でも作れます。実際に空き缶からアルコールストーブを作るワークショップも開かれていますし、ウルトラライトハイキングのシーンの中でアルコールストーブが様々な発展を遂げていったのは、多くの人が自作をする余地があったからです。

僕のような2000年代にウルトラライトハイキングというものに興味を持ったハイカーが最初に目にしたのは、ペラペラのバックパックを背負って、ローカットのジョギングシューズを履いて、タープで寝て、空き缶のストーブでご飯を食べているアメリカのハイカーでした。「これで大丈夫なの?」というインパクトが絶大で、中でもペラペラザックと並ぶぐらいインパクトがあったのがアルコールストーブだったんです。

だからハイカーにとって、インパクトもあって自作もできるアルコールストーブは、バックパックと並んでウルトラライトハイキングのアイコン的な存在になっていきました。

アメリカのシーンでアルコールストーブが注目された理由は、他にもありました。超長距離トレイルを歩く中で、今でこそハイカーをサポートしてくれるトレイルエンジェルがいたり、食料や飲み物を提供してくれるトレイルマジックがあったり、トレイル沿いの街も多くのハイカーが来ることが分かっているから、ガスカートリッジを置いたりしています。なので、燃料の入手には困らなくなっています。

だけど初期の頃はそうではなかった。ただ道の設定だけがあって、歩く人も年間100人にも満たない時代は、補給で降りた街で燃料を購入することが非常に困難でした。そんな当時、一番手に入りやすかったのはガソリンだったんです。

実際に80〜90年代の頃は、世界を旅するならガソリンストーブ一択という時代が長く続きました。クルマが走ってる場所であれば絶対にガソリンか灯油はあるから、旅にはガソリンも灯油も両方使える構造を持つガソリンストーブを絶対に持っていけと言われていたぐらいです。

ガスカートリッジ式のガス缶は限られた場所でしか買えない中で、ガソリンストーブは重たいし、無雪期のトレイルならそこまでのスペックを求めない時に、ウルトラライトハイカーが使ったのがアルコールストーブでした。

燃料用のアルコールは日本だったら薬局やドラッグストアで買えますが、アメリカだったらガソリンスタンドに、アルコールストーブで使えるメタノールを主にした燃料が確実に売っています。そこからアルコールストーブがアメリカのシーンの中で注目されるようになっていきます。さらにアルコールストーブ自体の構造が非常に簡単なので、みんなが自作するようになっていきました。

ただ現在では、アルコールストーブは西海岸の長距離ハイカーたちにとって、メインストリームではなくなりました。特にカリフォルニア州では、アルコールストーブは焚き火と同じオープンファイヤーとして扱われます。レギュレーションとしては、燃料の供給をコントロールできる遮断バルブが付いているものがストーブで、それが付いてないアルコールストーブや固形燃料は焚き火と同じ扱いになるんです。山火事の被害が日本とは比べものにならないほど甚大な西海岸では、オープンファイヤーはかなり厳しく規制されています。

1990年代当時から30年でだいぶ現状が変わりましたが、アルコールストーブが当時のウルトラライトハイカーに与えたインパクトや役割を覚えておいてほしいですね。

実際に今でも空き缶で作ったアルコールストーブは圧倒的に軽いし、さらにウルトラライトハイキングでは、自分たちでモノを作るMYOG(Make Your Own Gear)の精神もあります。そのなかで、例えば山と道が自分たちのための道具を作るところからメーカーを興したように、アルコールストーブも自分のハイキングを自分で支える道具を生み出す、その精神性も含めてウルトラライトハイキングが好きな人間としては、忘れてはいけない道具だと思います。

ここまで、灯油ストーブから始まりアルコールストーブがウルトラライトハイキングのシーンで注目されるまでの歴史を話してきました。2限目ではそんなアルコールストーブがどういった進化を遂げていったかについて話を進めていきます。

【2限目に続く】

連載「土屋智哉のULハイキング大学 in 山と道」

『土屋智哉のULハイキング大学 in 山と道』は、ULハイキングを日本に広めた先駆者であり、アウトドアカルチャーにも深い理解を持つハイカーズデポ店主・土屋智哉さんを講師に迎えた連続講座です。 本講座では、バックパック・シューズ・テントなどULハイキングの基本装備をテーマに、それぞれの来歴や背景、最新の動向までを解説。道具の進化を通じてULハイキングの考え方と歴史が学べる内容になっています。