講義5:ハイカーの視点から見るストーブの変遷(2限目)
写真/編集:三田正明
写真/柿崎豪、大竹ヒカル
講義5:ハイカーの視点から見るストーブの変遷(2限目)
写真/編集:三田正明
写真/柿崎豪、大竹ヒカル
ハイカーズデポ土屋智哉さんをお招きし、山と道スタッフを生徒に開校している『ULハイキング大学 in 山と道』。アウトドアストーブ編後半の2限目は、ウルトラライトハイキングのアイコンとも言えるアルコールと固形燃料のストーブに迫っていきます。
ゼロ年代、日本のビルダーたちが「狂気」と言えるほどの情熱を持ってリードしたアルコールストーブの進化の過程から、ウルトラライトハイキングの「足るを知る」を体現する固形燃料ストーブ、さらに燃焼効率を上げるための風防とゴトクの関係まで、ハイカーに必要な精神も踏まえつつ、今回も深く深く解説してもらいました。
ではチャイムが鳴ったら、2限目の始まりです!
日本の空き缶ストーブのパイオニア「JSB」さん
2限目は、空き缶から作ったアルコールストーブがどのように進化、もしくは奇形化の道を進んでいったのかを見ていきます。
「ZenStoves(Zen and the Art of the Alcohol Stove)」という、アルコールストーブの総合サイトがあります。昔ながらのホームページのままですが、アルコールストーブについて様々なことを学べるマニアックなアーカイブになっています。
日本には、ZenStovesでも言及されている「JSB」さんという方がいます。2000年代の日本で活動していた多くのアルコールストーブ・ビルダーの中でも、最も偉大なビルダーのひとりでした。
技術者でもあるJSBさんは、いかにアルコールストーブを燃焼させるか、どうすればより面白くなるのかというアイディアを元にどんどん形にしていくので、それが実際にフィールドで使えるかどうかは二の次でした。それが2000年代後半当時のウルトラライトハイキングのシーンでもあった「軽ければいい。使えるかどうかはお前次第」という価値観に近かったので、半ば狂気をはらんだ進化に行き着き、日本のウルトラライトハイキングのシーン、特にアルコールストーブにおいてのパイオニア的な存在となります。ちなみにJSBという名前はアマチュア無線のコールサインに由来しているらしいです。
では、彼の作品も含めて、どういう形で空き缶で作られるアルコールストーブが進化していったのか。
火力を極限まで高めた加圧式ストーブ
ひとつは加圧式のアルコールストーブが登場します。液体燃料を加圧すれば火力が上がるのであれば、アルコールストーブも加圧してしまおうと、完全に密閉したものが出てきました。例えば、中にアルコールを入れて蓋をして、蓋のくぼみにアルコールを垂らしてプレヒートするタイプのものがあります。

T’s ストーブ【鎧】ツインジェット。中央のスクリューを開いてアルコールを注入し、缶底の窪みにアルコールを垂らしてプレヒートを行う。
ただ、加圧式のアルコールストーブは火力調整ができないので、熱暴走することがあるんです。アルミ缶なので、状況によっては溶けることもありました。それでも、こんなふうにどれだけアルコールストーブの火力を上げられるか試してた時期があります。
そんな加圧式ストーブの中で、製品として完成度が高いものが、フリーライトの『ブラストバーナー』です。

フリーライト ブラストバーナー(画像提供:フリーライト)
フリーライト代表の高橋淳一さんが、基礎的な工学の知識もお持ちなので実現した製品で、構造的には灯油ストーブとほとんど同じです。ただ、取り扱いに注意が必要なので、フリーライトでも遵守事項を明示した上で販売されていますが、加圧式アルコールストーブの燃焼形態でいうと、ひとつの完成形だと思います。
アルコールストーブは燃焼音が静かなのが特長ですが、ブラストバーナーは燃焼音がボーッと鳴って普通のガソリンストーブや灯油ストーブと同じような燃え方をします。

ブラストバーナーの燃焼(画像提供:フリーライト)
火力調整を試みた吸排気系ストーブ
もうひとつが吸排気系アルコールストーブです。


T’s ストーブの試作品の吸排気系アルコールストーブ。吸気口がスライド式で開閉ができるよう工夫されている。
1限目で、トランギアの『ストームクッカー』も、吸気して排気をすることで空気を循環させて燃焼効率を上げていると話しましたが、ものが燃える時に酸素が必要なことは、焚き火をしていても分かると思います。
なので吸排気系ストーブは、アルコールを燃焼させる時に酸素を多く取り込むために、本体に穴を開けて吸気しやすくしたものです。吸排気ができる構造にして、なおかつ吸気口を開閉できるようにして火力調整をしようと試みました。どこまで実現性があるかは分からないけど、2010年前後はこういうものもプロトタイプとして作られていました。
「アルスト界のジェットボイル」と呼ばれたカルデラコーン
でも、吸気口を開けること自体は、非常に効率的です。例えば『ストームクッカー』の他には、トレイルデザインの『カルデラコーン』というものがあります。これは、チタン製の風防兼ゴトクで、エバニューやトークスの定番クッカーに完全にはまるよう、様々なサイズが販売されています。

トレイルデザイン カルデラコーン。エバニュー チタンULポット600+サイドワインダーTi-Tri。カルデラコーンは、ウルトラライトハイキングのシーンで、2000年代前半からハイカーの支持を集めた道具。独特な円錐型のゴトク兼風防と専用のアルコールストーブを組み合わせたクッキングシステムは、非常に高い安定感と燃焼効率を実現。アルコールストーブ界のジェットボイルとも呼ばれる。
風防の下には吸気のための穴が開いていて、そこから吸気した空気を上の穴から排気して熱を循環させる構造をしています。鍋の側面までしっかり覆う設計のため、熱が鍋肌に沿って効率良く伝わるので、熱効率が非常に高いです。
ただ、カルデラコーンを使う場合、通常のアルコールストーブでは酸素が足りません。吸排気口は開いているけど、通常のアルコールストーブにとっては密閉空間に近いんですよね。
通常だと、アルコールストーブに風防を付けてクッカーを載せる際に、酸欠状態になるのを防ぐためにクッカーと風防の間に隙間を空けるんです。だけどカルデラコーンは隙間なくクッカーを覆っているので、専用の吸排気口が付いてるストーブを使う必要があります。

カルデラコーン専用の吸排気口がついたアルコールストーブ。
トレイルデザインのラス・ザンドバーゲンは工学系の博士号を持っていて、シンプルな構造ながら燃焼の仕組みまで計算して、突き詰めていったんです。科学的な知識がベースにある人たちが、マッドサイエンティスト的なことをやっていくんですよね。

ただカルデラコーンはハイカーズデポでも一時期取り扱っていましたが、直販以外しなくなったので、日本では流通しなくなりました。
構造上の最大のデメリットは、ひとつのカルデラコーンに対して使えるクッカーが決まっていて、他への汎用が効かないこと。クッカーと直径が合えば大丈夫だと考えがちだけど、クッカーの高さが変わると、炎の当たる位置が変わりますよね。アルコールストーブの炎と鍋底の距離によって燃焼効率も変わってくるので、直径が合うだけじゃダメなんです。結局はひとつのクッカーに最適化した形になってしまいます。
扱いやすさを高めたカーボンフェルト式
オープンジェット式、加圧式、吸排気式と来て、次にアルコールストーブの中でトピックスになったのがカーボンフェルト式ストーブです。カーボンフェルトも、実はJSBさんがアルコールの燃焼に使えるんじゃないのかと試したのが最初です。
カーボンフェルトは耐炎繊維を炭化させた不織布のシートで、耐熱性や断熱性に優れているので、高温炉の断熱材や溶接火花カバーに使われたり、地面保護のために焚き火台の下に敷かれたりしていますね。カーボンフェルトの出現以降、多くの人がカーボンフェルト式ストーブを自作したり、アルコールを染み込ませて固形燃料の台に置いて燃やしたりしていました。この背景には、カーボンフェルトに最初に目をつけたJSBさんの存在があったんです。
カーボンフェルト式ストーブの一番の特長は、燃焼時の扱いやすさです。火力そのものは通常のオープンジェット式よりもさらに低いんですが、理科の実験で使うアルコールランプや灯油ランプは炎がずっと一定のように、カーボンフェルトの燃焼も一定なんです。
アルコールストーブビルダーが狂気を持って作っていた時代の加圧式アルコールストーブは、熱暴走が起きることがありました。オープンジェット式は熱暴走は起きないけど、着火から右肩上がりで火力が上がって、その後どんどん緩やかになっていきます。
カーボンフェルト式は、常に火力が一定です。アルコールランプも灯油ランプも、芯をたくさん出して、燃焼面を増やせば火力は上がりますが、芯を引っ込めれば火力も小さくなります。芯を一定の長さにすれば同じ火力のままなので、燃焼面が変わらなければ、火力は基本的に同じということです。サンポズファンライトギアには、アルコールランプの芯のように、カーボンフェルト部分を突き出すことで火力を調整できる『サンポCFストーブ』という製品がありました。

サンポズファンライトギア サンポCFストーブ。蓋が簡易的な消火装置になっており、さらにスクリューキャップの内蓋を閉めればアルコールが入った状態でも持ち運びできる。


カーボンフェルトを突き出す面積によって火力を調整できる。
だから、火力の強さよりも、燃焼時の扱いやすさに、カーボンフェルトストーブの一番のポイントがあります。アルコールストーブは消火機能がありません。トランギアはデフォルトで消火蓋が付いてるので消火できますけど、それ以外のアルコールストーブは消火するのが難しいんですよね。特にゴトク一体式のものだと、クッカーとかを被せれば消えるけれど、地面との間に隙間があると消えなかったりする。そうなると、燃焼が常に安定しているカーボンフェルトのストーブは比較的扱いやすいんです。だからカーボンフェルトをアルコールストーブに転用したのは、すごくエポックメイキングなことだと思っています。
ちなみに吸気系ストーブとカーボンフェルトストーブを掛け合わせたモデルも、一時期出てました。もう活動休止したシャラプロジェクトの『リボルブストーブ』というものですが、燃焼はカーボンフェルト式で下から吸気もするハイブリッド型です。

シャラプロジェクト リボルブストーブ
プレヒート時間の短縮を実現したキャピラリーフープストーブ
アルコールストーブの次の進化で来たのが、プレヒート時間の短縮です。オープンジェットのアルコールストーブだと、燃料に火をつけてからジェット孔から炎が出てくるまで、それなりに時間がかかりますが、これはプレヒートでストーブ本体が熱せられるのを待つ必要があるためで、その間にアルコールを余計に消費してますよね。
そこで、プレヒート時間を一気に短縮化できないか。つまり火をつけたらすぐに本燃焼に入れないかと試みたのも、JSBさんでした。

JSBさんの試作品。アルミ缶のアルコールストーブで、いわゆる「キャピラリーフープストーブ」と呼ばれる構造のもの。
どうしたかというと、副室を極端に薄くしました。内壁と外壁がほとんど密着している状態なので、毛細管現象でアルコールがすっと上に上がって、火をつけるとすぐに加熱と気化が進んで、すぐに本燃焼が始まります。
さらにJSBさんは、基本的に外側に向かって炎が出る構造だったものを、内側に炎が出るように工夫しました。


炎がサイクロンのように渦を巻いて内側から立ち上がっている。
多くのハイカーは調理もお湯を1杯沸かせれば十分なので、マグカップで済ませちゃおうとしたことは、誰しも一度はあると思います。小さいクッカーだと底面も小さくて、炎が外に逃げちゃうと熱の当たりが悪くなるので、内側に炎が出た方が燃焼効率は良いですよね。
そこで炎が渦を巻くように内側から立ち上がる「サイクロン燃焼」という形になるように、ジェット孔を開けています。間隔や角度を調整することで効率良く加熱できるように、JSBさんは追求していました。
このタイプのストーブは2000年代後半当時、特にJSBさんとフリーライトの高橋さんが実験的なプロトタイプを作ってお互いに発表しあっていました。それが後年にトークスから『チタニウムアルコールストーブ』として発売されました*が、その原型はアルミ缶ストーブから始まったんです。正直、アルコールストーブの技術革新は、この辺りで止まっているかなと思います。
*編注:取材後、JSBさんよりトークスの製品は構造が異なるため、「キャピラリーフープストーブ」とは別物であるとの指摘をいただきました。
以降は、オープンジェットのアルミ缶ストーブにゴトクを組み合わせたものが出たり、軽量なチタン製でスタンダードになったエバニューの『Ti アルコールストーブ』が登場したりしました。どのメーカーも既存の形をブラッシュアップして、細かな点を扱いやすくするところに、主眼が置かれるようになっていきます。

エバニュー Ti アルコールストーブ
近年では小さなガレージメーカーが、既存のアルコールストーブを組み合わせたり、機能を掛け合わせて独自性を出しています。アルコールストーブに愛着を持つ新しい世代が、昔のものをオマージュしてリバイバルのような形で作る流れになってきています。
300ccの湯沸しに特化したブルーノートストーブ
あとは既存のアルコールストーブを最適化する方向もあって、その代表格がエバニューの『ブルーノートストーブ』だと言えるでしょう。

エバニュー ブルーノートストーブ

燃焼時。花びらのように広がる炎が特長的。ゴトクなしでストーブにクッカーを直接置いて使うことができる。
300ccのお湯を沸かすためだけのストーブで、いかに燃費を上げるかという非常にニッチなところにフォーカスしています。300ccもあればラーメンを食べれるし、コーヒーも飲めますよね。燃費も良いし、なおかつゴトクもいりません。技術的な目新しさはありませんが、必要な機能にフォーカスすることで、面白いことを実現しています。
今は専門知識を持ってる方も増えているので、アルコールストーブに関して新しい技術革新が起きることを期待しています。
僕はウルトラライトハイキングを信じていて、もっと広がってほしいと思っています。けれども、一方でウルトラライトハイキングは登山の本流に対するカウンターアクションであり、カウンターカルチャーであること、ニッチな要素があるからこその面白さがあるとも思っています。
僕はその象徴のひとつがアルコールストーブだと思います。まだまだ新しい技術革新が見たいし、ブルーノートストーブのように技術は新しくなくても、例えば炊飯に特化したアルコールストーブが出たりと、別の方向も進化もあり得るんじゃないかと思っています。
「足るを知る」を教えてくれた固形燃料ストーブ

ここからは固形燃料ストーブについて話を移していきます。僕はどちらかというと、アルコールストーブよりも固形燃料派でした。固形燃料のストーブといえば、パカンと開くのが特長のエスビットの『ポケットストーブ・スタンダード』がありますよね。

エスビット ポケットストーブ・スタンダード。中にエスビットの固形燃料をパッケージごと収納できる。
それで米も炊いてたし、ラーメンも作ってました。学生時代からお世話になったので、固形燃料は30数年前から使っています。
けれど、やっぱり衝撃的だったのは、「バックパッキング・ライト(BPL)」*のサイトに、昆虫のような3本足のストーブが出てきた時です。ファイヤーライトの『チタンウイングストーブ』というものだったんですが、「なんじゃこりゃ」と衝撃を受けました。
*ウルトラライトハイキングを牽引してきたライアン・ジョーダンが2000年代初めに立ち上げたウェブサイト。ギアのレビューやハイキングレポートが掲載され、フォーラム(掲示板)では熱い議論が展開された。オリジナルプロダクトも制作。

ファイヤーライト チタンウイングストーブ。僅か13g。
現在ではエスビットから同じ工場で作られたまったく同じ形のものが販売されていますが、今でも自分の中ではウルトラライトハイキングを象徴する固形燃料ストーブだと思っています。
ツッコミどころはあるんですよ。かしめたところが緩んで外れたらどうするのとか、小さな径のクッカーを載せると倒れやすいから、慎重に載せる必要があるとか。でも、自分はこれとスノーピークの『チタンシングルマグ450』でJMT(ジョン・ミューア・トレイル)を歩いて、「なんだ、これでいけんじゃん」と思ったんですよね。
自分にとっての「足るを知る」でした。それまでガソリンストーブとかいろんなものを使ってきましたが、「これで足りるじゃん」と思わせてくれたものだったので、固形燃料にはすごく思い入れがあります。

土屋さんのJMTでの組み合わせ。まだ小型軽量のクッカーが多くなかった時代、スノーピークの450ccのチタン製マグカップもULの象徴的なアイテムだった。土屋さんは軽量化のためハンドルを外し、別売りの蓋をつけてカスタム。
固形燃料はストーブに関して言うと、固形燃料を台座に載せて燃やすだけなので、何でもいいと言えばいいんですよね。何なら、広めの缶の蓋をひっくり返して載せて燃やすのでもいいくらいです。

固形燃料の台座とゴトクがセットになってるモデル。左からハイランドデザイン クアトロストーブ、T’s ストーブ Ti固形燃料ストーブ。

左 ただの缶のふた/中央 カルデラコーンのセットの一部のグラムクラッカーと呼ばれるチタン箔を組み合わせた超軽量固形燃料台座/右 カルデラコーン付属の固形燃料台座に厚手のアルミホイルを組み合わせたもの
代表的な固形燃料の種類と特徴
僕らの時代だと、固形燃料は米軍の放出品やスイスメタ、エスビットがメインでしたが、近年出てきたのがファイヤードラゴンです。同じ固形燃料でもそれぞれ材料が違っていて、スイスメタがメタアルデヒド、エスビットがヘキサメチレンテトラミン、ファイヤードラゴンがアルコールを固形化しています。

主な固形燃料。左から米軍の放出品、ファイヤードラゴン、エスビット。
アルコールストーブが煤が出ないように、ファイヤードラゴンも煤が出ません。でもファイヤードラゴンは密閉容器の中じゃないと、どんどん揮発して減ってしまいます。だから扱いが面倒な部分もあります。パッケージから出して持ち運ぶ場合は密閉容器に入れる必要があるし。残った燃料をどうするかという問題も出てきます。じゃあ個包装のまま持っていくとなると、ゴミが溜まっていきます。

その点、エスビットはパッケージを外しても管理しやすいのが特長で、火力もグラムあたりで考えるとファイヤードラゴンより高いです。だけど最終的にはボロボロと煤が出るというデメリットがあります。
日帰りや1泊程度のハイキングで固形燃料ストーブを使うならば、何を選んでも良いかと思います。僕の場合は、3泊以上のハイキングであれば、重量あたりの火力の高さや燃料が軽く小さくなるという扱いやすさからエスビットを選んでいます。そして沢登りや海岸線歩きのように無人地帯での長い移動で焚き火を調理や体温保持のために行う場合は、ファイヤードラゴンを選んでいます。これは強風下でも一発着火してくれるからです。
ここまではビルダーたちの狂気に支えられたアルコールストーブの進化と固形燃料について話してきましたが、最後のトピックとして、ゴトクの高さと風防の高さの関係について話していきたいと思います。
燃焼効率を上げるゴトクと風防の関係
近年精力的に活動しているサンポズファンライトギアというメーカーには、ワイヤーゴトクとチタン風防を組み合わせた『3W ウインドスクリーン』という製品があります。

サンポズファンライトギア 3Wウインドスクリーン。全高7cmと5cmのふたつのサイズがある。
高さが7cmと5cmの2種類出ているんですが、アルコールストーブを組み合わせる場合は、低い方だとうまく使えません。アルコールストーブもそれぞれに違いはありますが、市販のものや自作したアルコールストーブは、ジェット孔がある燃焼面の高さが似通ってるんですよね。

5cmの方を一般的なアルコールストーブと組み合わせてしまうと、燃焼面と風防の高さの差があまり生まれず、燃焼効率が悪くなる。
それに対して、固形燃料ストーブの台座の位置は低いです。アルコールストーブと燃焼面の高さが違うので、炎の最も熱い位置の高さも変わってきます。よく炎で一番熱いのは先端だと言われていますよね。ろうそくだと、燃えてる芯の根元を指でキュッと消せるくらいの熱さですが、先端にいくほど高温になります。

つまり、アルコールストーブに対して低いゴトクを使うと、鍋底の位置は炎の下の方になります。すると燃焼効率が悪くなって、お湯がなかなか沸かなくなります。だからストーブとゴトクには適切な高低差が必要なんです。
反対に固形燃料の場合は、あまりに高いゴトクを使うと、炎が底面に届かないから燃焼効率が落ちます。燃焼面の高さを見てもらうと、燃料の違いだけではなく、ストーブとゴトクの高低差も重要だということが分かると思います。
また、ゴトク以外に風防も高低差があります。これは自分がよく使う組み合わせですが、風防としてはパーフェクトではありません。


土屋さんがよく使用する組み合わせ。缶の蓋の固形燃料ストーブ+3W ウインドスクリーン(小)+スノーピーク チタンシングルマグ 450
風防は、やっぱりカルデラコーンのようにクッカーとストーブが全部覆われた状態が理想的です。炎を消さないためでなく、熱をいかにロスなく伝えるかが重要だからです。
だから火力が強力なMSRのガソリンストーブにも風防は付いていますが、これは火が消えないためではなく、熱効率を上げるためです。それこそ補給が利かないような極地や高標高の際に、燃料を無駄にしないために風防を使うという側面が非常に強いです。


燃焼効率を考えると左のカルデラコーンのような形状に軍配があがります。とはいえ、右の組み合わせには軽さやスタッキングのしやすさといった利点もありますし、必ずしもダメというわけではありません。ただ風防が鍋を覆わない構造なので、使える場所が限られるということです。

風防が鍋を覆う範囲が広いほど、燃焼効率は上がる。
風防を自作する場合は、鍋をどこまで覆うかが重要になってきますが、上記ふたつの風防の高さだと、左の風防の高さがベターです。右の風防の高さだと覆えるのは鍋の下3分の1ぐらいなので、この状態で燃焼効率を上げるには、なるべく風防をクッカーの直径に合わせて狭くして、熱が逃げないようにする必要があります。でも、ピッタリすぎると不完全燃焼を起こしちゃうから、吸排気できる状態くらいは少し開けると理想的な状態になりますが、これより低い風防だと難しいですね。
だから風防にしても、高さの種類がある中で、どれを選ぶかによってハイカーのスタイルが出てきます。
じゃあカルデラコーンがいいんじゃないの?という話になりそうですが、ひとつのクッカーに最適化した形なので汎用性がありません。それに低い風防であれば、クッカーの中にきれいに収まります。そうなると何を選ぶかに、選択の面白さがたくさんあります。だからこそ、まだビルダーとして活動する人もいるのだと思います。
サンポズファンライトギアも、『3W ウインドスクリーン』だけでなく、一般的な風防も作っています。シチュエーションによって割り切れば『3W ウインドスクリーン』も使えるけど、きちんとした高さのある風防も絶対に必要だということです。

ある意味メーカーは、「自分たちが信じる一番良いものを作る、自分たちが使いたいものを作る」ことにフォーカスしています。それに対して僕のように店頭に立つ人がすべきことは、お客様一人ひとりの最適解を一緒に探していくことだと思うんです。
もちろん、自分たちが信じるものをちゃんと提案していくことも大事なんだけど、風防やゴトクの高さの話もそうであるように、ただひとつの正解はないということです。
クッカー選びは「何をどれくらい食べるか」
今回はストーブがメインでしたが、クッカーについても少しだけ触れていきます。先ほども話したように、自分はマグカップひとつでJMTに行きました。
なぜなら、自分はお湯だけ沸かせればいいからです。ラーメンの調理は全部ジップロックで済ませていました。そのジップロックも2週間ずっと使っていたので、マグカップひとつで済んだんです。
でもラーメンを作りたいなら、平型の600ccサイズは必要かもしれません。2000年代に、グラナイトギアがサポートしていた「トラウマ」ことジャスティン・リヒターという有名なトリプルクラウンのハイカーがいました。彼は冬のトリプルクラウンも制覇した人で、平型の600ccサイズを愛用してました。

エバニュー チタンULポット600
彼曰く、ミニマルで一番使えるらしいです。以前ハイカーズデポの番頭だった二宮は、PCT(パシフィック・クレスト・トレイル)を歩いた時にラーメンを2個食いたいからと、600ccサイズでは足りずに900ccサイズを持っていってました。
同じクッカー選びでも、何をどれぐらい食べるのかによって、選択は変わります。ハイカーによっても違うし、例えばハイカーズデポのスタッフ3人で知床に行く時は、ガスカートリッジ式のストーブを1台と大きめのフライパンを1個だけ持っていきます。それで米も炊くし、パンも作るし、パンケーキも焼きます。炒め物もするし、フライパン1個あればなんでも作れます。あとはクッカー代わりにジップロックのコンテナーを持っていくだけで、そういうふうに軽量化しています。
つまり、クッカー選びにも答えはありません。特にアルコールや固形燃料は自作のストーブが溢れる世界です。ミニマルな世界だからこそ、「自分は何がしたいのか、どこまでできればいいのか」が明確になるほど、選択肢の幅は広がっていきます。店頭ではそこに寄り添っていきたいと思うし、そのなかで自分が一番信じてるもの、自分が一番愛して使ってるものを提案できるといいですね。
では、最後に質問はありますか?
———ストーブとクッカーにはいろんな種類があるので、初心者にとっては組み合わせに迷う部分もあると思います。土屋さんがお客様に対して、どんなヒアリングと提案をしているのか知りたいです。
ある程度の経験者であれば、経歴を聞いた上でその人の要望のニッチなところに攻め込んでいくことはできます。だけど、これから始めたいという人に自分が一番勧めているのは、基本的にスタンダードなアルコールストーブ、スタンダードなゴトク、スタンダードな風防です。はじめにスタンダードなものを使っておくと、例えばアルコールストーブをもっと小さくできないかとか、ゴトクをなくすとどうなるんだろうとか、次の段階を考えるきっかけになります。
たとえば、最初からゴトクが必要ないサイドバーナー式のアルコールストーブを使うと、小さなクッカーだと底の径に対して炎の範囲が広すぎて、効率が悪くなることがあるんですね。かといって、底が広いクッカーを使うと不安定になる。だからスタンダードなゴトクとアルコールストーブを使っていると、そういうことを考えるプロセスを踏めるんですよ。
風防も狭めて使うと変な匂いがするとか、逆に大きく広げすぎると熱が逃げて意味がないとか、底面が覆われていると早く沸くんだとか、そういうことに気づくきっかけになります。定番の製品から派生していった道具はニッチなので、ピンポイントのニーズに合ってる人には最高ですが、そうじゃない人には使いづらいんですよね。

また、いきなり風防兼ゴトクのものでスタートしちゃうと、「風防が効かない」となるんだけど、最初に定番を経験していれば、この風防だと限界だよねとすぐに気づくんです。
だからウルトラライトハイキングに興味を持つ人間の基礎教養と考えると、特に燃焼器具に関しては、定番の製品を勧めます。そこからどんどんニッチなところに向かってアイディアも湧くだろうし、使いこなしていけると思うので、まずは定番からですね。
ですがアメリカにおいては山火事の問題もあり、アルコールストーブはハイカーのトレンドからはかなり外れてしまったと思います。日本の場合も、いまのインディペンデントなガレージメーカーは、バックパックやポーチなど布物の方に目線が行っていると思うんですよね。世界的にも新しいものを作るよりも、既存のものをどうブラッシュアップしていくのか、テキスタイルや柄のバリエーションでどう見せていくのかに向かっているので、結果として、アルコールストーブや固形燃料のストーブを開発するビルダーは少なくなっています。
あと、アルコールストーブはガスに比べて不安定だし、面倒くさい作業も多いので、愛せないと使わないんです。だからしょうがないと思いますね。だけど、面倒くささを許容できれば非常に軽量化できるので、アルコールストーブの強みは消えないと思っています。
それに「これだけでも何とかなる」という経験はハイカーにとって決して無駄になりません。なので、一度は試していただきたいと強く思っています。
今回はストーブの歴史を紐解きながら、ウルトラライトハイキングのシーンの象徴的存在であるアルコールストーブについて重点的にお話しました。いろんなビルダーの人たちが試行錯誤しながら進化させていった道具なので、歴史を知りながら組み合わせや自作を楽しんでいただけたら嬉しいです。ご清聴ありがとうございました。





















