HLC四国の石鎚ロングトレイル2泊3日

2020.12.19

社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課され、山休暇制度のある山と道。願ったり叶ったり! と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんな山と道スタッフの日々のハイキングの記録です。

今回は、『山と道オンライン相談室』でもお馴染みの山と道研究所ショップ店長・中村純貴が、2020年の10月23日ー25日にかけて行われたHLC四国のプログラム『石鎚ロングトレイル2泊3日ULハイキング』に参加した模様を綴ります。

ギアリストの作成、装備の取捨選択、軽量なレンタル製品への交換を経て、参加者の方々に実際にULハイキング装備となって歩いてもらうこのプログラムは、初心者向けから上級者向けまで様々にあるHLCのプログラムのなかでも、最もチャレンジングな部類に入ります。

四国最高峰・石鎚山を目指して60kmを3日間で歩く行程は、中村にとっても軽量化の恩恵を改めて感じる機会になったようです。

文/写真提供:中村純貴
(本文中の写真はプログラム参加者の皆様からもご提供いただきました)

TRAIL LOG

2020年10月23ー25日にHLC四国で開催されたULハイキングプログラムに参加し、東赤石山から笹ヶ峰、伊予富士、瓶ヶ森、石鎚山へと繋ぐ「石鎚ロングトレイル」を60km歩いてきた。

今回、四国に初上陸のぼくはどんな景色が楽しめるのかとても楽しみにしていた。この2泊3日は四国の景色だけではなく一緒に歩く仲間の重要性と、ULパッキングの恩恵を同時に感じるハイキングとなった。

【DAY-1】
一緒に歩く仲間の重要性
筏津登山口ー東赤石山ー銅山峰

ハイキングはソロで歩くのも誰かと歩くのもどちらも全く別の体験が生まれて面白い。

今回はHLC四国アンバサダー菅野哲さんの元に7名の参加者の方々が集い、HLCディレクターの豊嶋秀樹さんとぼくを合わせて合計10名のグループとなった。

10名は思った以上に大所帯で、各々ソーシャルディスタンスを意識しながら足を進めて行った。

山と道HLC四国アンバサダーの菅野哲さん。

筏津登山口から歩いて30分ほど経過したところで渡渉ポイントがあった。沢は水量が多く、流れも早い。菅野さんによると普段なら石を伝って濡れずに渡れるそうだが、今回は昨日までの大雨で水量がかなり増したようだった。

参加者の中で山経験の豊富な多田さんという方が周囲を見渡し少し上まで行き、比較的渡りやすい場所を見つけて対岸にまわり、皆が安全に渡れるようサポートをしてくれた。

山の経験値は人それぞれで、もちろんこういう場面に慣れていない方もいる。グループでハイキングするというのは各々助け合うことができ、普段なら難しく思うことも仲間のおかげで足を進められることもある。初日の序盤に起きた小さなトラブルは、初対面同士のグループが打ち解け合う良いきっかけとなった。

歩みを進めていくと東赤石山の山頂に難なく到着。ガスガスの爆風の中に一瞬の晴れ間が見え、すかさず記念写真を撮影。

それからはトレッキングポールをバックパックに収納し、浮石に注意しながら手を付き慎重に岩場を進む。

道中、菅野さんより「ここは有名な写真スポット!」との声がかかり見上げてみると、大きな岩の上にさらに大きな岩が乗っており、まるで岩を支えているかのような写真が撮れるとのこと(笑)。「お約束」のように列ができ、それぞれ写真を撮ってもらう。

さらに進むとトレイルは歩きやすくフラットになった。17時を過ぎ皆の顔に少し疲れが出はじめた頃、分厚い雲と山の間から夕焼けが顔を出した。

オレンジ色に染まる雲を少し眺めたら元気が出たのか、急ぎ足で本日のキャンプ地を目指す。

キャンプ地に到着したのは18時頃。銅山峰ヒュッテという有人小屋もあったが本日は準備中でビールにはありつけなかった。残念(笑)。

おとなしくキャンプ地に移動。今回の参加者のなかには初めてフロアレステントを使う方が数名いて、菅野さんから張り方や、中での過ごし方を教わる。

そして待ちに待った夕食の時間。

各々のクッカーや食料を出し、ULの工夫が施されたギアの見せ合いが始まる。

ぼくはこの日のためクッカーシステムを再考し、さらなる軽量化を目指していた。アルコールストーブ、五徳、風防、ライターの全てが500mlのステンレスカップに収まる。

      このクッカーシステムの見どころはコンパクト収納だけでなく、500mlのステンレスカップはなんと100円ショップの商品だということ! 気になる方はぜひ山と道JOURNALSで三田編集長の創意工夫が詰まった『チープハイク』を読んでほしい。本来山道具としてつくられてはいないモノから個人の視点や経験によって「山道具」にしていくのもハイキングの楽しみ方のひとつだとその記事を読んで学んだ。

      それぞれ食事を終えると徐々に就寝の準備に入り、1日目が終了した。

      【DAY- 2】
      4名の途中下山とヤブの難関
      銅山峰-笹ヶ峰-伊予富士-瓶ヶ森

      3時30分起床。気温は6℃で風もなく過ごしやすかった。

      朝食を済ませテントを片付けていると、3名の方が下山を申し出られた。2日目の行程は1日目の行動時間と移動距離よりも長くなるため、足の状態や体力の差でグループに心配をさせないことを優先したらしい。

      山と道HLCのプログラムは一般的な登山ガイドによるツアーではなく、各々自立したハイカーがULハイキングについての理解を深める目的で実施している。そのため歩き続けるか下山をするかの判断も各々がすることになる。

      少し寂しい気持ちもありつつ、次回再チャレンジされることを約束して3名と別れ、5時15分キャンプ地を出発した。

      まだ暗がりであったため、ヘッドランプをつけ尾根を目指す。40分ほどして尾根沿いに到着したとき、太陽が昇り始めていることに気づく。その風景を少しだけ眺めまたすぐに歩き始めた。2日目の行動時間は12時間を予定し、移動距離は30kmほどのため、少しの時間でも節約が必須だった。

      9時頃を迎えたとき、最初の難関がやってきた。ヤブ道だ。

      歩き始めのとき菅野さんより「今日はヤブ漕ぎ祭りです!」と言われ、そろそろかなと思いきや、ヤブ道の登りは綺麗に整備されており、とても歩きやすかった。笹ヶ峰のトレイル整備していただいた方に心の中で感謝を告げ、先に進む。

      とてもきつかったのは笹ヶ峰のトラバースコース。トレイルはほぼ埋もれており、ヤブの中を慎重に進むが、滑ったり引っかかったりを何度も繰り返しながら進む。

      再び樹林帯に入ると木々の枝がトレイルを塞ぐ箇所が何度も現れ、小刻みにしゃがんだりよけたりしながら進んだ。その際にULの恩恵をひとつ感じた。コンパクトなバックパックのおかげで枝に引っかかることなく通り抜けることができたことだ。もしバックパックが大きかったら容易には通らせてもらえないセクションだった。

      ガスガスの笹ヶ峰山頂では記念写真撮影のあと、寒さを回避するため早々に出発した。

      笹ヶ峰を抜けたあたりからヤブ道も膝丈くらいに落ち着きはじめ、心地よく歩いているとガスが抜けて太陽が顔を出した。そこからは四国の山の風景が楽しめる尾根道が続き、伊予富士の山頂を目指した。

      正午に近づくにつれて太陽は真上に昇り、伊予富士の登りでは山を見上げるのも辛いほど眩しかった。

      山頂に近づいた頃、参加者のひとりが体調不良を申し出た。顔も青白くなっており辛そうだ。グループの後方に移動しHLCディレクターの豊嶋さんサポートのもと、伊予富士山頂に到着した。

      山頂は快晴で360度晴渡った山の風景を拝めた。

      体調不良の参加者の方は少し落ち着きを取り戻し、一緒に伊予富士を下ったが、今回は石鎚山までのハイキングを諦めることにした。伊予富士を下った登山口はちょうどクルマが多く行き交う場所で、ヒッチハイクで街まで降りるという。ぼくがアメリカ仕込みのヒッチハイクの方法を伝授した途端にワゴン車が捕まり、見送ることができた。そしてグループは6名となった。時間も15時30分をまわり、急ぎ足で瓶ヶ森のキャンプ地を目指した。

      伊予富士の登山口から瓶ヶ森のキャンプ地までは永遠に続くような舗装路ハイクとなり、風も強くなったため太陽が下がりはじめると急激に寒さが増した。山と道のLight Alpha Vest/Jacketを羽織り、その上に同じく山と道のUL All-weather Jacket(テスト品)を着て歩いた。

      瓶ヶ森に到着した時間は17時15分。ちょうど出発してから12時間であった。体力が消耗しきっている最中、太陽が沈む前に到着できたことに安堵した。

      キャンプ地は少々混んでおり強風も吹き始めたため、ヤブに囲まれた場所でテントを張った。テント場には菅野さんの知り合いの方がいて差し入れで念願のビールをいただけた。瓶ヶ森まで無事故で到着できただけでも感謝と思っていた矢先に、まさかの出来事。プシュっと音がしてすぐに「美味い」と全員が心の底から叫んでいた。菅野さんのお知り合いの方、本当にありがとうございました。

      そして各々のテントに帰りストレッチを念入りにして、早々に就寝した。

      【DAY- 3】
      最年長ハイカーとUL
      (瓶ヶ森ー土小屋ー石鎚山)

      4時30分起床。目が覚めてすぐに思ったのは「空気が冷たい」。温度計は2.3℃。外に出てみるとテントには霜が降りている。

      この日の朝は冷えこんでおり、隣のテントにいる菅野さんは「寒い寒い寒い寒い」と連呼し止まる気配がない(笑)。僕はテント内に戻り朝食を済ませて念入りにストレッチをする。少々左膝に違和感を覚える。今朝は全員が「昨夜のビールは美味しかった」と笑いながら感想を言い合い、石槌山を目指す。

      6時30分出発。この日のスタートは舗装路ハイクから。3日目は筋肉疲労もあり少々足取りも重く舗装路の斜度が妙に厳しく感じる。

      いちばん後を歩いていると初日10名でスタートしたこともあり、5名の後ろ姿が少なく思えた(笑)。

      そしてこの6名には今回の参加者で最年長66歳の奥田さんがいた。

      HLCのULハイキング・プログラムの大きな特徴として、参加者の方に事前の当日のギアリストを作成して提出いただき、それを各アンバサダーが確認、道具の取捨選択の提案し、山と道の軽量なバックパックやスリーピングパッド、ご協力を頂いているシックスムーン・デザインの超軽量シェルターなどの無料レンタル製品への交換を経て、実際にULスタイルでのハイキングを経験していただいている。

      当初ご提出頂いた奥田さんのギアリストの装備重量は20kgを超えており、アンバサダーの菅野さんは失礼ながら年齢のこともあり、歩ききることは難しいと考えていたそうだ。菅野さんのアドバイスと軽量な装備への交換を経て、奥田さんはこれまでのパッキングを半分にまで減らし、総重量10kg以下で歩いていた。

      先頭で皆を引っ張るように歩く初日に渡渉ポイントをサポートしてくれた多田さんに、奥田さんは軽くジョグするようについていっている。凄い! 若い方も途中下山をする中、その体力にも驚きだったがULパッキングの恩恵をまざまざと感じた。そのおかげで良きスピードを保ったまま、土小屋まで到着することができた。

      そこから観光で石鎚山に訪れる人たちが徐々に増え、トレイルは軽い密状態になっていた。ノンストップで石鎚山まで登るが、ここで終了とはいかず、少し休憩しゴールとしている成就社まであと3時間ほど歩く。

      今日いちばんの晴天のもと、成就社に到着。早速コカコーラを買い、石鎚ロングトレイル60kmの完歩を祝って皆で乾杯した。

      時間も余裕があり成就社にて昼食を済ませてロープウェイ乗り場まで歩いた。

      バスに乗って西条駅前まで向かう。想像以上にクタクタだったのか気づいたらバスの中で爆睡。西条駅に到着し、参加者の方々と「また山で!」と握手し別れた。

      最後に

      久しぶりに長く歩いた山の時間はとても贅沢に感じ、10月の販売の多忙のなか無理にでも時間を作って行けて良かったと思う。山と道スタッフの仲間にも感謝です。

      これまで周囲から四国の山の話を聞く機会はあまりなく、知らなかったことを勿体なく思うほど石槌ロングトレイルから見れた山の景色は美しさと迫力が詰まっており、最高のハイキングへと仕上げてくれた。

      今回の旅の風景をショートムービーにまとめてみましたのでどうぞご覧ください。

      GEAR LIST

      2020年10月23日ー25日
      石鎚ロングトレイル
      べースウェイト:4,136g

      *ベースウェイトは食事・水・燃料などの消耗品を除く装備の重量です。

      NOTICE

      • Merino 5-Pocket Pantsは日中は行動着に、就寝時はその上にダウンパンツを履くことでメリノのタイツの代わりとなってくれる。
      • 水場が多いのでEVERNEWのウォーターボトルは2Lも必要なかった。900mlで十分。
      • 耳栓を持っていって正解だった。12時間の行程は体も疲れているためすぐに寝ることはできるがより音を遮断することで深い睡眠をとれてより体力回復が図れる。
      • 今回のハイクでは休憩回数が少ないので脱ぎ着が面倒に思った。この打開策はAlpha Haramaki。朝出発時は着けておき、暑くなれば行動しながら取り外すことができ、バックパックのサイドポケットに収納できる。
      • この時期の行動着はフードがある方が温度調節がしやすく行動中のレイヤリングの修正は起きにくい。
      • UL Pad15S+(厚さ13mm)の寝心地は抜群に良かったけども、MINI2で行くなら背面のMinimalist Pad(厚さ5mm)にもう1枚Minimalist Padを重ねれば厚さ10mmとなり、「+」ではないUL Pad15と同じ厚さになるので、それでも十分に寝れると感じた。
      中村純貴
      中村純貴
      山と道スタッフ。 芸術系の大学に進学し広告を学び、卒業後は映像の世界へ。 映像制作会社にて企画から撮影-編集-納品までの制作進行管理を行うプロダクションマネージャーとして5年勤務。 学生の頃にはまった山登りを続ける中で、アメリカのロングトレイルを知る。 2018年、メキシコからカナダまでアメリカを縦断する「パシフィッククレストトレイル」4250kmを踏破。歩いたことで「足るを知る」という考え方に気づき、身軽になる重要性を知る。そして道中にSNSやBookをつくり発信していくことでハイキングのカルチャーを伝えていくことの面白さに気づいた。 ハイキングがいかに楽しく、心身共にヘルシーになれるかを沢山の人に伝えていきたい。
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