ウルトラライト・パッキングのすすめ
前編:軽量化の3つのステップ

2020.10.16

山と道研究所を訪れるお客さまや山と道HLCの参加者の皆さまからよく聞くのが、「もっと装備を軽くしたいけれどどうすればいいのかわからない」という声です。いまは一般的な縦走登山のスタイルだけどもっと装備を軽くしたい、けれど装備を軽くするのはちょっと不安…という人、多いのではないでしょうか。

ですが、装備の軽量化は案外簡単です。現状それほど軽量な道具を持っていない方でも、考え方を整理して道具の取捨選択をきちんと行えばかなりの軽量化が可能です。道具の買い替えも必要なポイントにしぼって行えば、出費もそれほど嵩みません。

そこで山と道JOURNALS編集長である私、三田正明が、これまでの山行や取材経験から学んだ軽量化の方法論を、今回から前後編でお伝えしていこうと思います。

ただ、お断りしておきたいことは、本稿はULパッキングやULハイキングの「正解」を指し示すものではなく、あくまで三田個人の考え方と方法論をまとめたものである、ということです。

ハイキングは自由なんだから、みんな自分のやりたいようにやればいいのだと思います。けれどそれが誰かのお仕着せでなく、自分の頭で考えた、自分のスタイルである方が絶対にクールですよね? 本稿があなたが自分のスタイルを確立するヒントになってくれたら最高に嬉しいです。

これを読めば、あなたの装備はどんどんどんどん軽くなる〜、軽くなる〜!

文/写真/本文イラスト:三田正明
イラスト:KOHBODY

軽量化の3つのステップ

量る → 削る → 替える

ハイキング装備の軽量化には、次の3つのステップを経ることをおすすめします。

①「量る」

装備の軽量化はまず個々の道具の重さを量ることから始まります。だって、その道具の重さを知らなければ道具を変えても重くなったか軽くなったかわからないですよね? なので、まずは重量計を手に入れて現在の装備の重さを事細かに量ってみてください。話はそれからだ! 

装備の軽量化に限らず、この「量る/計る/測る」という行為はハイキングにおいて非常に重要な意味を持っていますが、それはまたおいおい解説していきます。

②「削る」

山と道のイベント等で参加者のみなさんと接すると、個々の道具の重さ以上にそもそも道具を持ちすぎている人が非常に多いです。何もウルトラライトな道具を使わなくとも、必要な道具以外は持たないことで、かなりの軽量化が可能です。

個々の道具の重さを量ったうえで、その道具はその重さ背負うに値する道具かどうかを考え、取捨選択していきましょう。

③「替える」

そして個々の道具の重さを計り、現状の装備の取捨選択をした上で、どうしても軽量化できない道具に関してはもっと軽量な道具への交換を行っていきます。つまり、買い替えはいちばんあと! 

ただ、潤沢な予算があるならともかく、限られた予算のなかでなんとかやりくりしようという方(もちろん自分自身もそうです)には、費用対効果の高い効率的な軽量化について、アドバイスがいくつかあります。

では「量る」「削る」「替える」について、ひとつづつ見ていきましょう。

①量る〜実際のデータを元に考える

量ること=敵と己を知ること

軽量化の道はまず何を置いても「量る」ことに始まります。

実際に測ってみると、思っていたよりも軽いものや重いものが絶対にあります。この「量る」ことの重要性は「先入観や思い込みではなく、実際のデータを元に考える」ことにあります。「彼(敵)を知り己を知れば百戦殆からず」と言いますが、「量る」ことはULパッキングにおいて、まさに敵と己を知ることそのものです。

Mike Clelland 『Ultralight Backpakin’ Tips』より。

たとえば2泊3日のハイキングに日数ぶんの着替えのTシャツを持つ人、結構いるのではないでしょうか。

一般的なコットン製Tシャツは1枚で平均170gほどありますが(ただしサイズや素材によって±50gほどの差があると思われます)、替えのTシャツを2枚持っていたら340g。これは一般的な軽量ダウンジャケットの重さと同じなので、インサレーションを1着余計に持つか持たないかの違いになります。

試しに手近なコットン製のTシャツを測ったら、サイズMとLでそれぞれ190gと205gありました。Tシャツ2枚で真冬でも暖かいダウンより重いのはちょっと考えもの。軽量ダウンに関しても現在は150gを切るような製品もあります。

この着替えのTシャツ2枚=340gを寝袋のダウン量で比較すると、500gの寝袋と840gの寝袋ではスリーシーズン用か雪山用かの違いになる。着替えのTシャツを持つか持たないかだけでも、実は結構大きな違いになるのです。

ただ大事なことは、「だから着替えは持つな」ということではありません。その道具がどれだけの重さかを認識し、その上でその重さを背負うだけの意味がある道具なのかどうかを自分の頭で考えてみることです(山と道でも推しているメリノウールのベースレイヤーであれば2~3日は途中で汗だくになってしまったとしても臭わないので、自分は着替えは持ちませんが)。

みなさんバックパックの中にはたくさんのスタッフサックやポーチが入っていると思うのですが、それもひとつづつ量ってみましょう。塵が積もって高峰になっているかもしれません。ダウンジャケット用、寝袋用、レインウェア用など、それぞれにスタッフサックが本当に必要でしょうか。スタッフサックやポーチの重さがゼロではないとわかれば、付き合い方が変わるかもしれません。

よくバックパックに入っていそうなスタッフサックやポーチを積んでみると300g近くあった。

たとえばテントの重さを量るなら、ペグやスタッフサックやガイラインの重さも量ってみましょう。テントの総重量のうち意外とそれらのパーセンテージが高いことをがわかるはずです。

ならば必ずしも必要でない場合はガイラインは置いていこうかとか、ペグをもっと軽いものに替えてみようかとか、考えはじめると思います。

一例として、ゼログラムのEl Chalten 1.5というドームテントの重量を測ってみました。専用グランドシートも付属(現行モデルでは別売)し、総重量は1.5~2人用で実測1607gでした。こうして個々の重量を量ってみると、「このテントはフライとグランドシートのみでも張れる仕様なので今回はインナーテントはなしにしよう」とか、「純正のグラウンドシートの205gは少し重いのでもっと軽いものしよう」とか、「ペグも9本では重いので最小の6本にしよう」とか、いろいろ考えるようになります。

そして道具の重さを測ったら、ギアリストを作成して記入していくことをおすすめします。重量を一覧として見ることで、これはこんなに重いのかとか、これとこれは実は同じ重さだったのかとか、あらためてわかることや感じることがあるはずです。

以下は山と道HLCのプログラムで参加者の皆さんに作成していただいているギアリストの記入例になりますが、テントならばペグの重量なども細かくわけて量っていることがわかると思います。

ありとあらゆるものをはかる

また道具の重さだけでなく、ハイキング中は気温や行動時間、消費した燃料や食料の量も計りましょう。これはまずデータを取って現実を観察してみることで、それまで先入観や思い込みで判断していたような事柄を、実際のデータをもとに判断してみるということです。

たとえば今夜はえらく冷え込むから0℃くらいのはずだと思っても、計ってみると実際は5℃だったりすることもあります。0℃を5℃に勘違いしていたら、寝袋選びは永遠に間違い続けますよね? 

食料や燃料についても、自分が普段どれだけの食料や燃料を消費するのかをきちんと把握しておけば、無駄な食料を持ち運んだり、逆に少なくて困ることも減ります。

気温計は重量計に継ぐULマストアイテム。

ウルトラライト・ハイキングは思い切った軽量化をするからこそ、行く場所や季節に応じて適切な装備を考えることが非常に重要になります。その判断のために必要なのはまず過去のデータであり、ゆえに、何はなくとも「量る/計る/測る」ことが非常に重要なのです。

この「先入観や思い込みではなく、実際のデータを元に考える」ことは、非常にUL的な思考方法であると自分は考えます。

②削る〜本当に必要な道具だけを選ぶ

それって本当に必要?

次に「削る」。これは「捨てる」と言っても良いかもしれません。ある道具をより軽量な道具に交換するより、そもそもその道具を持っていかない方が圧倒的な軽量化になります。

たとえば、ソロハイクで食料はインスタントラーメンとフリーズドライだけなのに、鍋やカップがいくつも組み合わさったようなクッカーセットは必要でしょうか。カトラリーに箸とスプーンとフォークをそれぞれ持つ理由は? 夜のキャンプ用にサンダルやニットキャップを持っていく人もいますが、トレランシューズなら紐を緩めれば十分キャンプ時のリラックスシューズとして履けますし、寒い時はフードをかぶった方がニットキャップよりも暖かいです。それらは「どうしても必要なもの」でしょうか?

もちろん、何度も言うようにそれがあなたにとって必要なものならば持っていくべきです(自分はどんなに装備を削ってもお酒は絶対に持って行きます)。でも、それがただ「なんとなく」持っているだけのものであるならば、1回立ち止まって考えてみましょう。

トレランシューズなら足紐をゆるめて靴下を履き替えれば、キャンプでもリラックスできる。

先ほど着替えの話が出ましたが、防寒着を持ちすぎる人も多いです。それほど寒くないのにフリースとダウンジャケットを両方持っていたり、ダウンパンツを持っていたり。これも山行時の気温を測ってデータを取るということを怠っているために起こることですね。ただ、闇雲に装備を削って安全性を犠牲にしてしまっては元も子もありません。行く場所の地形や気候を知り、己の行動パターンや限界値を知ることが大事です。

もちろん、適切な回答にたどり着くには知識と経験が不可欠ですが、経験をデータとして残すことで、その経験はより有意義ものになります。てか、逆にデータを取らなければもったいない! ゆえに、先ほどから繰り返しているようにまずあらゆることを「量る/計る/測る」ことが非常に重要なのです。

ひとつの道具にふたつ以上の役割を持たせる

また、ULの基本として、ひとつのものにふたつ以上の機能を持たせることで装備品の数と重量を減らすというテクニックがあります。

たとえばトレッキングポールで立てるシェルターやタープなどは、トレッキングポールにテントポールとしての機能を持たせるという意味で代表例ですね。ペラペラのフレームレスのULザックの中にスリーピングマットを入れることでフレームとするテクニックもULでは定番です。もしくはビビィをパックライナーとして使ったり、レインスカートをグラウンドシートとして使ったり…。

シェルターのポールをトレッキングポールで代用すればポールの重さはゼロになる⁉︎ 写真のシックスムーンデザインのGatewood Capeはシェルターがポンチョにもザックカバーにもなるという、ひとつで何役もこなす超UL的アイテム。

ペラペラのフレームなしザックの中にスリーピングパッドを丸めて入れれば簡易的フレームになる。これでフレームorスリーピングパッドは重さゼロ⁉︎

「ひとつで複数の機能を持つもの」の代表格といえば、なんといってもスマートフォンですよね。カメラにも、GPSにも、地図にも、コンパスにもライトにも、ラジオにもなるのですから、その力を最大限に引き出せば多くの道具をひとつに集約できます。

ハイキング装備の軽量化において、スマートフォンの有効活用はもはや避けられないトピックです。ただし、バッテリーの携行も必要になりますが。

小さなUSBライトを携行すればバッテリーにライトとしての機能を付加できるのでウェイトゼロ……にはならないか。

装備をシンプルにすると
行動もシンプルになる

装備を「削る」メリットには、軽量化のみならずハイキング中の行動がシンプルになる点も挙げられます。

何かが必要になったとき、バックパックやテントの中を漁ってもなかなか見つからないことがありませんか? 出立の際に、たとえば寝袋やスリーピングパッドのスタッフサックが見つからなくてイライラしたことは? 

ものが少なければ少ないほど目当てのものは見つけやすくなりますし、パッキングも容易になります。必要なものにすぐにアクセスできたり片付けの手間がかからないことはハイキング中のストレスが減ることに直結しますので、その点でも「削る」ことを強くおすすめします。

③替える〜買い替えは大物から

軽量化の費用対効果

こうして様々なデータを量り、必要でないものは削り、その上でどうしても軽量化できない道具については道具そのものを交換していくことになります。

このとき、交換はテント、バックパック、マットといった装備品のなかでもとくに重量と容積の嵩む大物から行うことをお勧めします(ただし、もうひとつの大物である寝袋については安全装備の最後の砦となるものなので、ある程度の経験と知識がついて自分に必要なダウン量がわかるまでは、むやみやたらと軽量化しないほうが良いでしょう)。

たとえばレインウェアは一般的なもので300〜400gほど。これを2万円〜4万円ほど払って100g〜200gの軽量なものに変更したとしても、たった100g〜200gの軽量化にしかなりません。一方、1.5kgのドームテントを400gのフロアレスシェルターにすれば、3万円〜5万円ほどで一気に1.1kgも軽量化。2kgのバックパックを600gのバックパックに替えれば、2〜3万円ほどで1.4kgも軽量化できます。そもそも重量と容積の大きいものを交換する方が費用対効果が圧倒的に高いことがわかりますね。

ここまで着替えやスタッフサックの数まで削ってちびちび軽量化してきたのに、レインウェアの100g〜200gの軽量化はたいして意味がないとは矛盾していると言われるかもしれませんが、これは費用対効果の話です。装備を削るのは費用ゼロなのでどんどんやるべきですが、お金をかけて軽量化するならばここは後回しでも良いのでは。

ついでにいうと、山と道のUL Pad 15は全身用で135gしかなく、値段も5,000円です。インフレータブルマットレスの代表格であるサーマレストのプロライトの全身用は690gで15,000円なので、費用対効果が非常〜〜〜〜に高い製品です!(宣伝)。

写真は本文で触れたUL Pad 15にシボ加工を施し若干重量増ながら耐久性と保温性を高めたUL Pad 15+。半身用113g/全身用198gでこちらも十分軽い。

バックパックに関しては、「中身の道具を軽量化してから、最後に軽く小さなものに換えたほうがよい」という意見もありますが、思い切った道具の取捨選択を行うには、まずバックパックを軽量で小さなものにして、「これ以上は持たない」というラインを最初に決めてしまう方が近道です。

これまで50Lのバックパックでテント泊縦走をしていた人が30Lのバックパックに変えたらなら、当然荷物は入りきらないでしょう。けれど、だからこそどうやったらこの30Lのバックパックに数日分のテント泊装備を詰められるのか、考え始めるでしょう。「必要は発明の母」なのです。

30Lクラスの山と道MINI2でも、現代の軽量な道具を使えば数日間のハイキングが十分可能だ。

時には割り切りも必要

そして軽量な道具への交換は、ときにある程度の割り切りが必要な場合があります。たとえばツェルトは圧倒的に軽くコンパクトで軽量化の大きな力になりますが、湿潤な日本の環境下ではある程度の結露は避けられません。だからといってツェルトは「使えない」道具でしょうか。こまめに拭いたり換気する、シュラフカバーや濡れに強い化繊の寝袋を使う等、結露への対策を講じられれば、「超軽量のフロア付きシェルター」という唯一無比の個性を持つ優れたシェルターとはいえないでしょうか。

不便さと利便性を天秤にかけ、ある程度「割り切る」ことで、新たな世界への扉が開かれるときもあります。

ただ、こんなことを言うとULはやせ我慢的に無理な軽量化をしているようなイメージを持たれる方もいるかもしれません。軽量化よりも快適性や安全性が大事だという意見もごもっともです。

ですが自分自身はULスタイルでハイキングをしていても、とくにつらい思いをしたことはありません。「よりラクに、快適にハイキングをしたいと思っていたらどんどんULになってきた」というのが実情です。

当然、バックパックにフレームは入っていませんし、テントはフロアのないワンポールシェルターです。けれどそれらの道具を使っていてもとくに快適性を犠牲にしているという意識はなく、軽さの恩恵をいつも感じています。むしろ、60Lのフレームザックにダブルウォールのドームテントで荷物を15kgも背負うようないわゆる縦走登山の装備に快適性を損なう不安を感じてしまいます。

重い装備は安全性の面でも、体のバランスを崩して転倒したり、足腰を痛める原因になったり、体力を過剰に減らす要因になったりと、一概に軽装備=危険、重装備=安全とは言いきれないと自分は考えます。

人それぞれに我慢できることとできないことがあり、その境界線は人それぞれです。自分のようにフロアレスシェルターでも全然平気という人もいれば、ダブルウォールのドームテントが絶対に必要だという人もいますが、そのどちらかが正しいというわけでもありません。

ただ、その境界線をみんなもそうしているからとか、誰かが言っていたからとかで決めるのでなく、現実のデータや自分自身の経験と向き合った上で、自分の頭で決めようよということが、本稿でしつこいくらいに述べている自分の考えるULハイキングのエッセンスなのです。

だいたい自分はいつもこんな装備です。次回はこの中身を詳しく紹介していきます。

と、ここまでULパッキングの基本的なものの考え方と方法論を説明してきましたが、やはり「論より証拠」ということで、次章では現在の自分の装備を紹介しながら、ULパッキングの実践例を具体的に説明していきたいと思います。

三田 正明
三田 正明
フォトグラファーとしてカルチャー誌や音楽誌で活動する傍、旅に傾倒。 多くの国を放浪するなかで自然の雄大さに惹かれ、自然と触れ合う方法として山に登り始める。 気がつけばアウトドア誌で仕事をするようになり、ライター仕事も増え、現在では本業がわからない状態に。 アウトドア・ライターとしてはULハイキングをライフワークとして追い続けている。 取材活動のなかで出会った山と道・夏目彰氏と何度も山に行ったり、インタビュー取材を行ったり、酒を酌み交わしたりするうちに、いつの間にかこのようなポジションに。 山と道JOURNALSを通じて日本のハイキング・カルチャーの発展に微力ながら貢献したいと考えている。
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