山と道ラボ【レインウェア編】
#6 これまでのまとめ

INTRODUCTION

『山と道ラボ』とは

山道具の機能や構造、性能を解析する、山と道の研究部門です。

アイテムごとに研究員が徹底的なリサーチを行い、そこで得られた知見を山と道の製品開発にフィードバックする他、この『山と道JOURNALS』で積極的に情報共有していくことで、ハイカーそれぞれの山道具に対するリテラシーを高めることを目指します。

これまで、レインウェアのマーケット探索から素材の解析までを行ってきた『山と道ラボ』。諸般の事情により最近はなりを潜めていましたが、実は水面下ではリサーチを重ねていたのです!

残されたレインウェア素材の謎を解き明かすべく、専門の機関に検査を依頼。さっそくその結果をお届けしたいところですが、これまでのレポートもそれぞれがヘビー級、かつ更新の期間も少々空いてしまっています。このまま結果を載せてしまうと、長期休載中のマンガが突然読者も忘れているようなエピソードから再開するかのような違和感を皆さんに与えかねません。

そこで、次回から始まるレインウェア編の後半戦に備えて、再始動となる今回は山と道ラボの過去の歩みを総集編的にまとめておきたいと思います。これを読めば、レインウェアの「現在」がわかる…はず!

#1 ハイカーズデポ土屋智哉さんとの対話

これまで山と道ラボは【レインウェア編】として、5回にわたりコンテンツを掲載してきました。

まず第1回目に掲載したのは、「ハイカーズデポ」の土屋智哉さんと山と道・夏目による示唆に富んだ対談。ここでは、ハイカー/販売店/メーカーという立場からレインウェアの本質的な機能や選び方などについての論点を整理しました。

《山と道ラボ【レインウェア編】#1 土屋智哉(ハイカーズデポ)x 夏目彰(山と道)特別対談》

対談のポイントは以下の通りです。

・レインウェア素材の透湿メカニズムには2種類あり、ゴアテックスなどはいったん内側が吸湿・蒸れた上で上記を排出する。eVentやポーラテック・ネオシェルなどはダイレクトに通気し、排出する。前者は透湿スピードが遅く、体感的な快適さに差がある

・3レイヤー素材の肌に近い3層目は、肌触りの改善と共に、吸湿し外気に排出するための控え室として機能している。ただし、それはレイヤリングでカバーできる部分もある

・濡れの原因は大きく3つ。1つは外部からの濡れ(浸水)。素材の防水性能以外にもデザイン(フード、カフ)やシームテープ、ファスナーの問題も大きい。2点目は汗。透湿・通気が追いつかない場合。また、撥水が失われると透湿性がそこなわれ蒸れる。3点目は結露

・レインウェアの本質的な機能とは低体温症を防ぐこと。そのために耐水圧(防水性)、撥水性、保温性、防風性、ムレを排出するための透湿性(または通気性)といった機能が備えられ、その上でそれらを総合した「快適性」が求められている。ただし、日本の気象条件は変化が大きく、「究極の一着」は存在しない。シーズン、山行スタイル、経験などによってレインウェアに求める機能の重心は異なるのでは

1回目の対談をふりかえってみると、既に今現在進めているリサーチの結果を予言しているようなコメントがかいま見えるのはさすがですね。

#2 マーケット分析

そしていよいよリサーチ編。まずはレインウェアの現状を把握しよう! ということで、巷に存在する代表的なレインウェアの分類・整理を行いました。また、議論を進める上で必要なレインウェアの基礎知識を共有するため、素材やテクノロジーの解説も行っています。

《山と道ラボ【レインウェア編】#2レインウェア・マーケット分析》

ここでは、重量100g台(200g未満)の超軽量レインウェアが市場で一定のボリュームを確保しつつあることをふまえ、ウインドシェルに防水性がついたもの、という意味で「防水ウインドシェル」というカテゴリーを切り出しました。このカテゴリーは軽量性を是とするULハイカーにとっても、これからレインウェアをラインナップに加える山と道にとっても、最重要カテゴリーとなります。

また、このリサーチ後も「防水ウインドシェル」に該当する新製品が各社から次々と登場しています。

驚きの軽さを実現したOMMHALO Jacket(105g)ノローナbitihorn ultralight dri3 Jacket(140g)、「1.5レイヤー」というメンブレンむき出しか?と思わせるナゾ素材のホグロフス L.I.M Bield Jacket(165g)、UTMF2018でも着用率の高かったノースフェイスのゴアテックス・シェイクドライ製品HYPERAIR GTX Hoodie(190g)などが注目株といえるでしょうか。

#3 透湿性試験と素材解説

『#2 レインウェア マーケット分析』でもいくつかテクノロジーの整理を行いましたが、#3ではそこでは説明しきれなかった透湿性の検査方法や代表的な素材の詳細について補足的に解説を行いました。

このあたりから内容がマニアックすぎてついて行けなくなったという声がちらほら聞こえだしたのですが、専門的な内容をできるだけ噛み砕いてお伝えしたいと考えていることだけはご理解ください(笑)。

《山と道ラボ【レインウェア編】#3 透湿試験とメンブレンの解説》

検査方法の話はとっつきにくいですが、山リテラシーのためにも理解しておくことが重要だと感じます。カタログを見ていて、なぜ各製品のスペックがこんなに異なるのか、疑問に思ったことはありませんか? とくに透湿性は、10000g/m2/24h(24時間で布1平方メートルあたり10000g≒10リットル透湿する)というものもあれば50000g/m2/24hというとんでもないものもあります。後者の素材は前者の5倍優れているのでしょうか? そんなに優れているのであれば、なぜそのテクノロジーがレインウェア界を席巻しないのでしょうか? そこには検査方法ごとの特徴(有利・不利)があったのです。

素材ごとの詳細について、再度おさらいしておきます。

現在進めているリサーチの中で、レインウェアのスペックを評価するのに「親水性」「疎水性」という軸が非常に重要であることがわかってきました。ここでさらにかみ砕いて解説したいと思います。

現状レインウェアの素材は、大きくテフロン系(正式にはePTFE、ゴアテックスやeVentなど)、ポリウレタン(PU)系があり、さらにPUは水を吸う親水性無孔質PU(パーテックスなど)、水を吸わない疎水性多孔質PU(ネオシェルなど)に分かれています。

親水性無孔は水を吸うタオルのようなもの、疎水性多孔は水を吸わないが穴が開いたしなやかな金網のようなものとイメージして下さい。

生地内側が湿気でビショビショという場合、それぞれのテクノロジーはどのように透湿するのでしょうか? 親水性はタオルが湿気を吸いとるメカニズムに似ています。湿気を吸ったタオルは、一定の時間がかかりますが自然に乾きますね。親水性はこのように、吸湿した後に蒸散というかたちで外部に湿気を放出します。一方、疎水性はただの網ですので、そのまま内側の湿気が蒸発します。eVentがセールストークとしている「ダイレクト・ベンティング」とはそんなイメージです。

テフロンはフライパンの焦げ付き防止加工に使われるほどで、水をコロコロはじく疎水性の性質をもちます。このテフロンで「水蒸気より大きいが水滴よりも小さい」程度の穴があいた金網を作り、防水透湿の役割をもたせているのがテフロン系の特徴です。この金網は目詰まりすると透湿性がそこなわれるので、ゴアテックスは内側に親水性のコーティングをしています。金網にタオルを貼っているような感じをイメージいただければいいでしょうか。つまり、ゴアテックスは疎水性と親水性の複合構造といえます。テフロン系のもうひとつの代表格、eVentはもともとの金網の通気性を損なわないよう、目詰まり防止の加工を直接網にほどこしています。

一方のPUですが、親水性のタオル的なPUと疎水性の金網的なPUが存在します。前者に該当する素材は非常に多く、各社の独自素材のほとんどが親水性PUとなります。汎用的な素材ブランドではパーテックスシールドが代表格です。後者の疎水性ではパーテックスシールド・プロやポーラテック・ネオシェルが代表格となります(ネオシェルについては単純な疎水性PUともいいきれないスペックを持っているようです)。

#4 オリジナル検査

さて、対談から#3までの流れは、いわばデスクリサーチの域を出ませんでした。そこで、#4では各素材の特徴(透湿性)についてオリジナルの検査を試みました。

《山と道ラボ【レインウェア編】#4 独自検査法による透湿性能試験》

実際の着用状態に近い状況を想定しての実験結果とファインディングスは以下のようなものでした。

・ePTFE(テフロン系)とPUの比較ではePTFEが透湿性に優れる。

・疎水性と親水性の比較では、疎水性が透湿性に優れる。

・シェイクドライやネオシェルなど疎水性(多孔質)の素材は、高温多湿下でも透湿した。通気によって透湿した可能性が高い。

・疎水性(多孔質)の素材は透湿性にすぐれる一方、寒冷化・強風下では冷えのリスクが懸念される。その反面、ゴアテックスは相対的に蒸れやすいものの保温性は高い。

個人的に印象に残ったのは、高温多湿下でも透湿するパーテックスDV(=eVent)、シェイクドライ、ネオシェルの優秀さです。とくにネオシェルは本当にPUなのか? という疑問が湧いてきました。

#5 電子顕微鏡による解析

シェイクドライやネオシェル、OMMのカムレイカといったナゾの素材についてせまるべく、#5ではミクロの眼で分析を試みました。

《山と道ラボ【レインウェア編】#5 電子顕微鏡による組成解析》

ファインディングスは以下の通りでした。

・ゴアテックスはやはり裏地に親水性コーティングが施されていた。

・シェイクドライは特殊な構造のePTFEで、裏地にコーティングはない。

・パーテックスシールド・プロは疎水性多孔PU。

・カムレイカは無孔質親水性PU。外観からは「37.5テクノロジー」に該当するような特殊な機能を判別できず。

・ポーラテック・ネオシェルはePTFEを思わせる特殊な構造でコーティングもない。PUかePTFEも外観からは不明。

依然としてネオシェルについては不明です。

なお、モンベル社のカタログによって、おそらく世界で初めてゴアテックス・シェイクドライのスペック値が明らかにされました。その数値は耐水圧50,000mm以上、透湿性はB-1法で98,000g/m2/24hという聞いたこともないようなスペック。
表地を廃したことによる超撥水性だけではなく、防水性、裏地のコーティングがないことによる透湿性も図抜けているようです。

さて、ここまで『山と道ラボ』の過去の歩みを振り返ってきましたが、いかがでしたでしょうか? わかりにくさが改善されていないとしたら筆者の力不足ですが、そもそも難しいテーマを扱っていることをふまえ、ご容赦いただければ幸いです。

(文責:渡部 隆宏)

いよいよ次回からはレインウェア編の後編がスタートします。検査機関からの実験結果をふまえて、素材ごとの評価編にいったん区切りをつけたいと思います。お楽しみに!

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  • 渡部 隆宏

    渡部 隆宏

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    デザイン会社などを経て、マーケティング会社の設立に参画。 現在もコンサルティングをはじめ、各種リサーチ、統計解析などいろいろと手がける。 2012年より旅行情報サイトの運営(tabinote.jp)を開始、ガイド記事の執筆や一般誌への寄稿、ベストセラー書籍「死ぬまでに行きたい!世界の絶景」公式サイト(zekkei-project.com)のライターなど、旅に関する仕事も行っている。 旅行以外には空手とクラフトビールに絶賛ハマリ中。 山は日帰りロングハイク中心で、たまにトレランも。

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