【Make Your Own Hike #2】
残雪期 雲ノ平ハイキング

INTRODUCTION

ハイキングは自由だ。どこに行って、何をしたっていいんだ。

『Make Your Own Hike』はお決まりのルートガイドから離れて、ハイカーが独自の視点で”Make”したハイキングの記録を紹介する投稿コーナーです。

今回は山と道の夏目彰が「久々に会心のハイクができた!」という残雪期の北アルプス・雲ノ平を目指し、新穂高温泉から三俣蓮華〜雲ノ平〜北股岳〜飛越トンネルまで、誰もいない雪原の北アルプスを2泊3日で縦断したハイキングの模様を綴ります。

文/写真:夏目彰

OUTLINE

【山行日】 2018年5月20日〜22日

【行程】 
Day1:新穂高温泉~鏡平(5時間)
Day2:鏡平~双六小屋~三俣蓮華岳巻道~黒部源流~祖父岳~雲ノ平(10時間)
Day3:雲ノ平~薬師沢出合~太郎山~北ノ俣岳~飛越トンネル(11時間)

【総距離】  約40㎞

【最高標高】 2814m
【最低標高】 1105m

HIGHLIGHTS

・残雪期の北アルプスの美しさ
・誰もいないトレイルのない北アルプスを歩くことができる
・暴風、クライミング、シリセードとグリセード、渡渉など
・アルプスの妖怪、神様、精霊に囲まれる

NOTE

夏目彰(山と道)

雪の北アルプスを、ずっと奥まで歩いてみたいと思った。三俣蓮華、黒部五郎、雲ノ平……誰もいない雪の世界へ行きたかった。

このハイキングを共にした仲間は豊嶋秀樹さん。僕の友人で、九州のハイカーコミュニティ『HAPPY HEKERS』の発起人でもあり、昨年は『HIKE/ LIFE/ COMMUNITY』で共に全国を縦断した仲だ。豊嶋さんは毎年冬になると北海道のニセコに篭って羊蹄山でテレマークスキー三昧の日々を送っている。そして雪がなくなると、北海道から愛車のジムニーで全国に散らばる友人の元を訪ねたり、方々の山を登ったり滑ったり、仕事や打ち合わせなどを片付けたりしながら、ゆっくりと南下して自宅のある福岡まで帰る。そしてここ数年、そのタイミングでハイキングに行くことが、僕と豊嶋さんとの恒例になっているのだ。

季節はGWも終わり、下界には夏の気配がやってくる時期だけど、北アルプスは残雪期。最深部となれば、まだまだ雪で覆われている。今回は平日ということもあって、山で人に会うこともなければ、人の気配すら感じることもなく、広大な北アルプスをふたり占めすることができた。雪、暴風、シリセードとグリセード、クライミング、渡渉……僕の人生に忘れることのできないハイキングをまたひとつ刻みこむことができた。

【DAY1】松本〜新穂高温泉〜鏡平

松本駅で待ち合わせ、最高の品揃えの大型スーパー『ツルヤ』で食材を買い出して、新穂高温泉へとジムニーで向かった。実はこの時点ではまだ新穂高からどこに向かうかルートは決めていなくて、クルマのなかで相談した結果、雲ノ平に行くことに決めた。

この残雪期に北アルプスでも最秘境と言われる雲ノ平に2泊3日で行くことができるのか? 薬師沢への下りの急斜面、その先は大丈夫だろうか? 不安はたくさんあったけれど、雪の雲ノ平を歩くことを考えると、どうにもワクワクが止まらなかった。

新穂高の駐車場にジムニーを止めて昼食を食べ、午後1時に出発した。歩きはじめは夏山のように感じたトレイルにも次第に雪が見え始め、いつしかトレイルは消えて雪原になった。

歩き始めの数時間は数組の登山者とすれ違ったけれど、3時を回る頃にはひと気がなくなり、僕らふたりだけが広大な雪原にポツンと動く黒いシミを作っていた。それから下山するまで、誰とも会うことはなかった。

山に日が沈む頃に鏡平についた。鏡平からは槍ヶ岳から穂高の稜線が視界一杯に広がり、その絶景を見渡せる場所に僕たちはテントを設営した。そのときはまだ風もなかったので、スコップで簡単な宴会場を作って月灯の鍋を楽しんだ。

お酒も進んだ頃、僕たちはあることに気がついた。槍ヶ岳や穂高の山並みの雪の白と土の黒が作るまだら模様が、人や動物の顔に見えるのだ。気がつくとあそこにも、こっちにも。僕たちはたくさんの北アルプスの妖怪や妖精に囲まれているのだと感じた。

こうした月に兎がいるように見えたり、雲が動物や食べ物の形に見えたりといった心理現象を、『パレイドリア』と呼ぶらしい。太古の人々が星空や月の模様から様々な物語を編み出したように、僕たちも北アルプスの山の模様からさまざまな物語を連想する遊びにハマってしまった。夜が深まると辺りは暴風となり、凄まじく揺れるテントの中で寝た。

【DAY2】鏡平~双六小屋~三俣蓮華~黒部源流~祖父岳~雲ノ平

翌朝も暴風は続いた。鏡平から双六岳に抜けるには急斜面を直登する必要があり、暴風でアイスバーンとなった斜面を登るのは危険だと判断した。日が上がり雪が溶けるまで待ち、7時過ぎに出発した。

急斜面にアックスを刺してクランポンを蹴り込み、気持ちよく登っていく。豊嶋さんはクマの足跡を見つけ、僕は雷鳥に会った。日が昇るにつれ暴風も収まり、広い雪の斜面にポツンと立つ双六小屋がとても美しく映えていた。双六小屋で休憩し、魔法瓶に入れた暖かいジンジャーとレモンの紅茶を飲み、あんぱんを食べた。

双六から三俣蓮華への巻道では広いカールに雪が溶けて作り出した髪のような雪跡がただただとても美しく、その美しいカールを大きな弧を描くようにして僕たちは歩いた。「パレイドリア」遊びはまだ続いていて、三俣蓮華に巨大な目があることを発見して、まるで山そのものが御神体に見えてふたりして興奮した。

途中、大きな猛禽が気持ちよさそうに雪の上を舞っていて、僕たちはイヌワシに出会ったとそのとき思った。優雅なイヌワシの飛翔を見とれながら休んでいると眠たくなってきたので、雪の上にマットを引いて昼寝をすることにした。少し寝ると疲れもとれ、そこからはそれぞれ好きなルートを各々のスタイルで登った。

テレマーカーの豊嶋さんはツヅラ折りに登るルートを、僕は先ほどの雪庇を越えた場所から祖父岳に直登するルートを選んだ。僕はアックスを使って直登するのが性に合っているらしい。祖父岳の頂上からは雲ノ平、薬師岳、その先の立山、剣岳まで、北アルプスの主要な山々をぐるっと見渡すことができた。

祖父岳から雲ノ平までの急斜面を豊嶋さんはシリセードで、僕は足をスキーのようにして滑り降りるグリセードで滑り降りていくことにトライしてみた。距離にして300mくらいだろうか。山に二筋のラインを作って、念願だった雪の雲ノ平に16時頃に到達した。

夏であれば豊かな高山植物に溢れ、木道が美しく伸びる雲ノ平も、いまは全てが白い雪に覆われ、真っ平だった。もちろん誰もいない。僕たちは雲ノ平を歩きながら、雪の北アルプスを遠くまで歩いてきたということを心から感じた。

アラスカ庭園と呼ばれる場所に近づいてくると、所々雪から美しい松が顔を出していて、目の前に広がる黒部五郎がまるでJMTのあるシエラネバダの山のように見えてきた。

黒部五郎が見える場所にテントを張り、今日の疲れをビールの乾杯と共に洗い流した。その日の夕焼けも美しく、静かな素晴らしい夜を迎えることができた。

【DAY3】雲ノ平~薬師沢出合~太郎平~北ノ俣岳~飛越トンネル

雲ノ平から薬師沢に下る北の凍った急斜面が緩むまで待ち、朝の8時頃に出発をした。雲ノ平から急斜面への取り付きはトレースもないので、iPhoneのGPSを頼りに行動した。急斜面は雪も少し緩み、急ではあったけれども、問題なく順調に下ることができた。

大きな問題は、このあとの薬師沢出会いで黒部川を渡るつり橋への取り付きだった。つり橋は見える。でも、どこからつり橋に取り付けば良いのかわからない…。

崖のような斜面をアックスを使って慎重に川の側まで降りて進もうにも、崖から流れ落ちる沢に道を遮られる。では、一度川まで降りてみようと降りてみても、雪解け水に溢れた黒部川は渡れそうにもない。沢沿いにどうにか進んでも、つり橋への入り口は3mほどの大きさの雪の壁に遮られ、しかも雪の壁は斜めに突き出ていて、アックス1本では登れそうもない。

僕たちはあっちにいったりこっちにいったりと試しながら、最終的には降りてきた崖のような斜面を登り返して大きく迂回して沢を渡り、崖を下り、つり橋に取り付くことに成功した。ところが難所はまだ終わりではなかった。薬師沢にかかる橋が冬季は撤去されており、渡渉しなくてはならなかったのだ。しかも3回も!

一箇所目の渡渉は川の上にかかるスノーブリッジで渡ることができたけれど、二箇所目のスノーブリッジは強度が不安で、崩れて雪ごと川に落ちてしまいそうだった。どうしようか話合った結果、スノーブリッジを諦め、渡れそうなポイントを見つけて渡渉することにした。靴のまま渡渉したほうが危険は少ないけれど、ゴアテックスの靴を濡れてしまったらこの時期では絶対に乾かない。どうしても靴を濡らしたくなかったので、僕たちは靴を脱いで裸足になり、スクラムを組んで渡渉することにした。

声をかけ合い、足を一歩踏み出すごとに、冷たさは痛みへと変わった。どうにか向こう岸まで渡りきり、石の上にどっと倒れこむ。雪の薬師沢は手強い。三箇所目の渡渉ではどうにか丈夫そうなスノーブリッジを見つけ、冷たい痛みを回避することができた。

そこから数百メートルほど急登し、振り返ると、ここまで通り過ぎてきた薬師沢や雲ノ平や槍ヶ岳が遠くに見え、本当に遠くから歩いてきたのだと感動した。太朗山から北ノ俣岳へと続く稜線まで登ってくると、空には雲がいくつも広がり、とても美しかった。

休憩して残りのコースタイムを計算すると、下山は午後7時を過ぎることがわかった。黒部川と薬師沢の渡渉に手間取り、雲ノ平から太朗山までに当初予定していた倍以上の時間がかかっていたのだ。山でもう一泊するだけの食料は持っていたので問題はなかったけれど、もし無事下山してもその日のうちに鎌倉の家に帰れないことが決定した。

黙々と北ノ俣岳を登り、ずっと入らなかった携帯の電波が入るポイントでタクシー会社に電話して、ゴールの飛越トンネルにタクシーの手配を頼んだ。北ノ俣岳から最後の北アルプスをじっくりと見渡し、山に感謝して、神岡新道を走って僕たちはゴールの飛越トンネルへと向かった。

このハイキングを振り返ってみると、新穂高から雲ノ平を通り、ゴールの飛越トンネルまで、名だたる山を歩き、眺めてきたけれど、山頂を踏んだのは祖父岳のみであった。北ノ俣岳にいたっては、山頂手前にあるはずの飛越トンネルへの分岐が雪で気がつかず、山頂の手前10mで気がつき、山頂を踏まずに折り返す始末だった。

でも、それでいいのだ。今回の僕たちの目的は北アルプスの有名な山々の頂に立つことではなく、トレイルが雪で消えた北アルプスを、自らの求める道を見出して歩いていくことだった。とても自由で、素晴らしい3日間だった。 

Make Your Own Hike!

HIKING KIT

Backpack 山と道ONE

Shelter Locus Gear Khafra HB(インナーテントなし)

Sleeping Pad 山と道 Minimalist Pad + KLYMIT X-LITE
Sleeping Bag Highland Designs Down Bag
Bivvy SOL Escape Lite Bivvy

Stove Optimus Vega
Cook WearEvernew Titanium Ultra Light 600ml Pot (水作り用。メインは同行者のアルミ大型鍋を共有)
Cup Wildo Fold-a-cup
Bowl Wildo Fold-a-cup Big
Canteen ペットボトル
Water Purifier Sawyer mini
Cutlary Toaks Wildo Spork(折りたたみ箸が見当たらなかった)

Shell 山と道レインフーディ試作品
Mid Layer 山と道 Merino Hoody + 山と道アルファベスト試作品
Base Layer 山と道 Merino Henry T-shirt
Pants 山と道 Winter Hike Pants
Insulation Wear Mont-bell U.L.Down Jacket + Sky High Montain Works Down Pants

Footwear Salomon S-Lab X Alp Carbon GTX Boot
Crampon Petzl Irvis Hybrid
Ice Axes Corsa Nanotech

Head Light Petzl TIKKA RXP
Knife Victornox Traveler
Towel 山と道とBIG-Oの手ぬぐい

*Sleeping Padは本来山と道ULPad15s+を持っていくはずが、深夜パッキングを終えて入れ忘れていることに気がついた。眠たくてパッキングのやり直しが面倒になり、KLYMIT X-LITEで代用したのだけれど、案の定眠るときは寒かった。

MUST KNOW

・雪の季節は北アルプスまでの林道が閉鎖されていることが多く、アクセスポイントは限られる。新穂高温泉〜飛越トンネルは雪の北アルプスを横断できる数少ないルートのひとつ。

・雪の北アルプスは携帯キャリアのアンテナが撤去されており、携帯の電波が入りにくい。北アルプスの深部となれば、頂上付近以外は全て電波が入らないと考えたほうが良い。

北ノ又岳から飛越トンネルまでの神岡新道ではドコモの電波が入ったのは飛越トンネルから1時間くらいの一箇所のみだった。飛越トンネルではドコモの電波は入らなかった。

・雪の北アルプスは10本爪以上のクランポンが必須。チェーンスパイクのみとかは×。雲ノ平から先に行くならヘルメット、ロープワーク、アックスが使えるスキルが必要。

【TIPS FROM THIS HIKING】

Make Your Own Hikeでは投稿をお待ちしています。あなた独自のアイデアや視点の入った旅であれば、大きな旅から小さな旅まで、どんな旅でも構いません。興味のある方はCONTACTページから『Make Your Own Hike投稿希望』という題名で、旅のあらましを書いて応募してください。謝礼もご用意しております。奮ってのご参加お待ちしております!

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  • 夏目 彰

    夏目 彰

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    世界最軽量クラスの山道具を作る小さなアウトドアメーカー「山と道」を夫婦で営む。30代半ばまでアートや出版の世界で活動する傍ら、00年代から山とウルトラライト・ハイキングの世界に深く傾倒、2011年に「山と道」を始める。2016年に京都に「山食音」をPLANT Labと共同でオープン。2017年にHIKE LIFE COMMUNITYを始め、「山と道」ホームページもウェブメディア化。2018年には台北にCOW Records、Raying Studio、山と道の三者と「samplus」をオープン。私生活では待望の第一子を授かりメロメロに。以前のように山に自由に行けなくなったことに多少の危機感を抱きつつも子育て奮闘中!

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