HIKERS’ CLASSICS #7
ジェリー鵜飼

2019.02.01

誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。

この『HIKERS’ CLASSICS』は、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載です。

第7回目となる今回の寄稿者は、グラフィックデザイナー/イラストレーターとして多方面で活躍するジェリー鵜飼さん。ULTRA HEAVYやMountain Poor Boys、『SOTOKEN』のメンバーとしての活動もJOURNALS読者にはお馴染みではないでしょうか? 

ジェリーさんは山と道との親交も深く、MINI2やAlpha Anorak、Winter Hike PantsやAlpha Haramakiの製品ページでは素敵なイラストを書き下ろしていただいています。

「山やウルトラライト・ハイキングとの出会いで人生観が変わった」というジェリーさんの、CLASSICSとは?

NOTE

ジェリー鵜飼

山に「登る」というより山に「入る」

美大生時代に学友のU君に誘われて山に登るようになりました。

登山というよりも、精神世界の探求を目的とした山旅で、山に「登る」というより山に「入る」と表現した方が感覚的には近かったと思います。

美術系の学校に入学すると必ずやってくるインドへの好奇心。チベット密教。そしてアシッド体験による意識の拡大。スウェット・ ロッジ。レイブカルチャー。ビートニクス……。風呂なしのボロアパートに暮らす貧乏学生のくせにイマジネーションだけはやたらと壮大で、世界平和を真剣に考えていたあの頃(笑)。いやー、若いって素晴らしい。

とにかく山に行くのは、中沢新一さん、細野晴臣さん、横尾忠則さんらの影響が強く、パワースポットを巡るような感覚に近くて、テレビや新聞が伝える世間一般的な常識とは別の、もっと深い本質を探すような旅でした。

なんというか言葉では表現できない「感覚」とか「無意識」みたいな、そういう世界への憧れが強かったように思います。そうそう、高村薫さんの小説『マークスの山』を読んでいつか北岳に登りたいなーと思っていたのもこの頃でした。懐かしい。

ゴッサマーギアのリックサックを背負って鳳凰三山を歩く。

仕事や夜遊びに明け暮れた30代。毎日が楽しくて山への興味が薄れてきました。友人を誘って富士山や大山に登ったり、レイブで行った長野の山奥で寒さに耐えきれなくなって知らない人のテントに勝手に潜り込んで寝たり(ひどい!)と、そんなこともたまにありましたが、自然との付き合いはその程度でした。しかし、仕事のストレスがたまったのかどうかわかりませんが、再び「山」に興味が湧きます。

この頃(2006年)に制作した『SPECIAL OTHERS (スペシャル・アザース)』の『AIMS』と『Good Morning』のCDジャケットは両方とも「山」です。同時期にヤン富田さんから依頼を受け一生懸命に描いた『DOOPEES (ドゥーピーズ)』の絵も山(というかグランドキャニオン)。

SPECIAL OTHERSの『AIMS』と『Good Morning』のCDジャケット。

2008年に発売された雑誌『Coyote』のモンブラン特集で見たホンマタカシさんの写真に感激し、同年に若菜晃子さんが出版した『東京近郊ミニハイク』は山ブームの夜明けを感じさせてくれました。ミーハーです。時代の流れに乗るのも得意です。誰が仕掛けたのか知りませんが、知らず知らずのうちに山ブームに乗っかったんだと思います。

「軽いって自由」という言葉は人生においてもリアル

2009年、大きな転機が訪れます。

スタイリストの岡部文彦から「雑誌の『GOOUT』で連載を始めるので手伝ってほしい」という連絡が来ました。そうです、『SOTOKEN』(当初のタイトルは『外遊び研究所』)の誕生です。

新連載の打ち合わせで久しぶりに会った岡部が芦沢洋一さんを僕に教えてくれました。話を聞けばとにかく面白そう。「一緒にやろう!」と言ったかどうかは覚えていませんが、お手伝いさせてもらうことにしました。それからはリサーチの日々。連載の開始=アウトドア・ウエアやギアの勉強開始となったのです。

時代はまさにウルトラライト(以下UL)の波がドドーンと押し寄せる真っただ中。僕はすっかりULの虜になりました。

MPBで遡行した奥秩父の笛吹川。

実はこの頃、プライベートでいろいろなことがあり、人生を清算していた時期でもありました。大量にコレクションしていたレコード、洋服、画集、そして数々の思い出がつまったアルバム。その全てを手放し本当に(貯金も)ゼロからの出発。ですが、この境遇をUL思想はプラスに転じてくれたのです。実際問題、そのとき僕は物質だけではなく多くのモノを失ったわけですが、常に心は満ちていました。なぜなら「軽いって自由」という言葉は人生においてもリアルだったからです。

「無い」という状態ほど贅沢なことはない。「無い」からこそ考え、工夫する喜びがある。そして「無い」ことによって得る可能性がある。人生の再出発と同時にはまったULスタイルでのハイク。そして山がつなげてくれた新しい友との出会い。カッコばかりつけていて本質が全く見えてなかった学生時代とは違い、いまは足元を見ながら自分のサイズで物事を思慮するようになりました。ULが教えてくれたのは自分の「軽さ」なのかもしれません。見栄を張らず、おごらず、つつましく生きたいと思うのです。

甲武信ヶ岳山頂付近から詰めてきた笛吹川を見下ろす。

Jerry Ukai’s CLASSICS

  • Adventure Medical Kit / Emergency Blanket

    寝袋の下に敷いたり、足や身体に巻きつけたりと、お守り代わりに常に持ち歩くブランケット。四隅にハトメがなくても小石を包めばタープにもなる(ボーイスカウトスタイル)。劣化が早いので、頻繁に山へ行くハイカーは毎年買い換える必要があるけど、見渡す限りそうしてる人は少ないよね。中には半透明になっているシートを使ってる人もい

    る。

  • Six Moon Designs /  Gatewood Cape

    一人二役。一石二鳥。よくある謳い文句。人気が高いインテグラルデザインのシルポンチョが惨めに見えるほど、ゲートウッドケープのシェルターは優秀だ。あの狭さも横になってみると案外気にならない。今となっては珍しいタンカラーを使ってたけど、知人からどうしても譲って欲しいと懇願され、泣く泣く手放したことを今は後悔してる。

  • Esbit / Solid Fuel Tablets

    先輩ULハイカーに習ってアルコールストーブの魅力にハマったが、容器からアルコールが漏れてしまうことがあった。以降、ボクの旅のお供に昇格したのはコケネンだ。山ではいつも小さなインスタントラーメンを一個作るだけなので、これで必要にして十分。軽く、小さく、取り扱いも楽なコケネンは(3シーズンにおいて)最強燃料だと思う。

  • 山と道 / SLEEPING PADS

    過去にエク○ペド社のマットに穴が開いてしまい朝まで辛い思いをしたことがある。やっぱりマットはクローズドセルが安心だ。壊れることがないし、圧倒的に軽い。山と道のマットが出た当初「傷がつきやすい」という指摘もあったが、マットの傷はそれだけ山を愛してる証拠だよね。ピカピカのアウトドアギアほどカッコ悪い物はないよ。

  • New Balance / MT110

    トレランシューズで登山してもいいんだ。早い段階で紛れもない事実に気づいて本当に良かったと思う。軽くてグリップが効くシューズで歩くと爽快だよね。久しぶりに重いブーツを履いた時に感じる身動きできない感覚。思い出しただけでゾッとする。MT110(通称ワンテン)は一番気持ち良く歩けるシューズ。裸足感覚とはまさにこのこと。

  • Brooks Range / Elephant Foot Sleeping Bag

    装備を軽量化するにあたって一番最初にブチ当たる壁は寝袋じゃないだろうか? アルパインクライミング用に作られたこのハーフバッグは就寝時にダウンジャケットを着用することが前提で設計されているため、上半身部分がない。だから軽い。かれこれ8年近く愛用している僕の必需品。氷点下10度近くまで下がることを想定したOMMでも活躍している。

  • Häagen-Dazs Ice cream spoon

    どこまで荷物を軽くできるだろうか? ULハイカーなら誰もが一度は挑戦してみたくなるULロマン。ハーゲンダッツのスプーンに気がついた時、心の中でガッツポーズをしたよね。袋飯ならこれで十分。何度も使ってるうちに愛情が湧いてきたので、とうとう真鍮作家にお願いして真鍮のスプーンまで作ってしまいました。

  • DuPont / Tyvek

    ULにハマった頃、建築資材のタイベックシートをグランドシートにするという着眼にとてもしびれた。当時のUL界は、良く言えばサブカル、悪く言えばオタク的な匂いがプンプンとしていた。タイベックはMYOGにぴったりの素材だ。ボクは就寝時に枕やマットがあちこちに暴れることが多いので、それを防ぐための簡単な細工をした。真似してもいいよ。

  • Gossamer Gear / RikSak

    残雪期に涸沢カールでテン泊して、翌日に奥穂高岳にアタックする事になった。アタックザックを何にしようか迷ってる時にこいつの存在を思い出したんだ。寝袋のスタッフサックにもなるから一石二鳥じゃないか! 早速ハイカーズデポに出向き店主にその話をするとメガネの奥で目がキラリと光ったのを覚えてる。シンプルだけどとても良いプロダクト。

    • Adventure Medical Kit / Emergency Blanket

      寝袋の下に敷いたり、足や身体に巻きつけたりと、お守り代わりに常に持ち歩くブランケット。四隅にハトメがなくても小石を包めばタープにもなる(ボーイスカウトスタイル)。劣化が早いので、頻繁に山へ行くハイカーは毎年買い換える必要があるけど、見渡す限りそうしてる人は少ないよね。中には半透明になっているシートを使ってる人もい

      る。

    • Six Moon Designs /  Gatewood Cape

      一人二役。一石二鳥。よくある謳い文句。人気が高いインテグラルデザインのシルポンチョが惨めに見えるほど、ゲートウッドケープのシェルターは優秀だ。あの狭さも横になってみると案外気にならない。今となっては珍しいタンカラーを使ってたけど、知人からどうしても譲って欲しいと懇願され、泣く泣く手放したことを今は後悔してる。

    • Esbit / Solid Fuel Tablets

      先輩ULハイカーに習ってアルコールストーブの魅力にハマったが、容器からアルコールが漏れてしまうことがあった。以降、ボクの旅のお供に昇格したのはコケネンだ。山ではいつも小さなインスタントラーメンを一個作るだけなので、これで必要にして十分。軽く、小さく、取り扱いも楽なコケネンは(3シーズンにおいて)最強燃料だと思う。

    • 山と道 / SLEEPING PADS

      過去にエク○ペド社のマットに穴が開いてしまい朝まで辛い思いをしたことがある。やっぱりマットはクローズドセルが安心だ。壊れることがないし、圧倒的に軽い。山と道のマットが出た当初「傷がつきやすい」という指摘もあったが、マットの傷はそれだけ山を愛してる証拠だよね。ピカピカのアウトドアギアほどカッコ悪い物はないよ。

    • New Balance / MT110

      トレランシューズで登山してもいいんだ。早い段階で紛れもない事実に気づいて本当に良かったと思う。軽くてグリップが効くシューズで歩くと爽快だよね。久しぶりに重いブーツを履いた時に感じる身動きできない感覚。思い出しただけでゾッとする。MT110(通称ワンテン)は一番気持ち良く歩けるシューズ。裸足感覚とはまさにこのこと。

    • Brooks Range / Elephant Foot Sleeping Bag

      装備を軽量化するにあたって一番最初にブチ当たる壁は寝袋じゃないだろうか? アルパインクライミング用に作られたこのハーフバッグは就寝時にダウンジャケットを着用することが前提で設計されているため、上半身部分がない。だから軽い。かれこれ8年近く愛用している僕の必需品。氷点下10度近くまで下がることを想定したOMMでも活躍している。

    • Häagen-Dazs Ice cream spoon

      どこまで荷物を軽くできるだろうか? ULハイカーなら誰もが一度は挑戦してみたくなるULロマン。ハーゲンダッツのスプーンに気がついた時、心の中でガッツポーズをしたよね。袋飯ならこれで十分。何度も使ってるうちに愛情が湧いてきたので、とうとう真鍮作家にお願いして真鍮のスプーンまで作ってしまいました。

    • DuPont / Tyvek

      ULにハマった頃、建築資材のタイベックシートをグランドシートにするという着眼にとてもしびれた。当時のUL界は、良く言えばサブカル、悪く言えばオタク的な匂いがプンプンとしていた。タイベックはMYOGにぴったりの素材だ。ボクは就寝時に枕やマットがあちこちに暴れることが多いので、それを防ぐための簡単な細工をした。真似してもいいよ。

    • Gossamer Gear / RikSak

      残雪期に涸沢カールでテン泊して、翌日に奥穂高岳にアタックする事になった。アタックザックを何にしようか迷ってる時にこいつの存在を思い出したんだ。寝袋のスタッフサックにもなるから一石二鳥じゃないか! 早速ハイカーズデポに出向き店主にその話をするとメガネの奥で目がキラリと光ったのを覚えてる。シンプルだけどとても良いプロダクト。

      ジェリー 鵜飼
      ジェリー 鵜飼
      1971年生まれ。静岡県出身。グラフィックデザイナー、イラストレーターとして活動。数々のCDジャケットやファッションブランド、アウトドアブランドの広告、カタログ類を手がける。ウルトラヘビー、MPB、ソトケンのメンバー。近年は執筆活動も行う。
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