HIKERS’ CLASSICS #9
廻谷朋行 (山と道HLC北関東アンバサダー)

2019.06.27

誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。

この『HIKERS’ CLASSICS』は、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載ですが、数回に渡って『山と道HLC』のアンバサダーを勤めていただいている方々のCLASSICSを紹介していきます。

山と道HLCアンバサダー第2弾となる今回の寄稿者は、某カメラメーカーを退職後、『LUNETTES』のスタッフとして働きながら、今年から山と道HLCアンバサダーとしてもご尽力いただいている廻谷朋行さんです。

ハイキングの他にフライフィッシングとテレマークスキーにも没頭中という、廻谷さんのCLASSICSとは?

NOTE

廻谷朋行

始まりは手縫いのザック

山登りをはじめたきっかけは、大学生だったかれこれ10年ほど前、ふと友人たちと那須岳に登ろうと思い立ったことだった。

小さい頃からいつも眺めていた那須岳には、家族でロープウェイで中腹まで行った記憶があり、はじめて見た雲海にワクワクしたことを覚えていたのだ。

ジャージにポロシャツとスニーカーというような格好で、はじめて自分の脚で登った那須岳。その時、山頂からから見えた南会津に連なる山々。その美しさに心を惹かれて、山登りに夢中になった。

ともあれ、ULとはほど遠かった私とこの世界との出会いは、山と道のスリーピングマットとサコッシュであったことは間違いない。現在、スタッフを務める那須の山道具店、LUNETTESではじめて見た山と道の道具たちは、それまで目にしたことのないシンプルさと軽量さだったが、道具として充分に役割を果たしていことに衝撃を受けた。

そこから始まり、例えばタイベックや「農ポリ」のように専用の道具でなくとも使えるものは使うというULの考え方に、それまでの固定観念を覆された。LUNETTESに通いながらいろいろと教えてもらい軽量化して、北八ヶ岳に1泊2日のハイキングに向かった。

装備は新しくツェルトを手に入れたくらいで、他は以前から持っていたものがほとんどだった。ザックにはモンベルのギアコンテナという、トートバッグにショルダーストラップが着いた形状のバッグを使った。これに紐を縫い付け、マットとトレッキングポールを取り付けられるようにしたのだ。

この経験から、軽量な道具を新たに導入しなくとも、持ち合わせの道具を選択し、工夫することで十分に軽量化を計れることに気づくことができた。

モンベルのギアコンテナ改造に始まる道具の自作、いわゆる”MYOG=Make Your Own Gear”は、私がULに傾倒した大きな要因だった気がする。

「道具はそのまま使うもの」と勝手に決め付けていた自分にとって、ギアコンテナの改造は、「道具は改造してもいいんだ」と気づけかせてくれる出来事だった。この時の感覚は今でも鮮明に覚えている。山道具に対するパースペクティブが変わった瞬間だった。

何の抵抗もなく山道具の自作を始められたのは、こどもの頃からの経験が大きかった。家を自分で建てたように大抵のものを作ってしまう父の影響で、小さい頃に遊び道具を一緒に作ったことにはじまり、私が大きくなるにつれ机や本棚などの家具から部屋に至るまで、いろいろなことを教えてもらいながら父と一緒に作るようになった。

家具を手間がかからないように極力シンプルな設計にしてみたり、持ち運びのことを考えて、分解、組み立てが可能な設計にするなど、こだわりを持つようになった。どんなものでも、まずは自分で作れないかと考えるようになり、他にあるものと組み合わせて代替できないかなど、生活の中でも創意工夫の視点を向けれるようになっていた。

それから道具の自作は今でも続けている。そう大きくなく、作りも簡素な自作のザックで山に行くためには必然的に道具を軽くしたり、工夫することも必要だった。道具自体を軽いものに変えることもあったが、やはり根底にあるのは持っている道具を工夫することだ。山に行くたびに、実験のように新しい道具や組み合わせを試した。

自分の意思と手が届く範囲で生きていく

道具の自作に限らず、重要なのは知恵を絞り、創造することだと私は思う。

背負える物だけを背負い、行ける場所に行く。自分の意思、手が届く範囲でハイクをする。さらに範囲を広げたいなら、もっと勉強したり、経験を積めばいい。これは普段の生活も同じだと思う。自分の意思、手が届く範囲で生きていく。

道具を自作することが自然なことであった自身のバックグラウンドを改めて思い返すと、ULと私との出会いは、「刺激的」というより、「収まるべき場所にフっと収まった」ようなものだったようにも思う。

最近は妻を誘ってハイキングに出掛けている。ふたりで道具をシェアすることでトータルの重さも軽くなり、体力のない妻もハイキングを楽しんでいるようだ。

はじめて那須岳に登ったときの感動、これまでのハイキングで私が感じたことや得られたもの。それを妻にも知ってもらいたいし、そういう時間をこれからもっと共有していきたい。ハイクがあることで日常が豊かになり、最小のコミュニティでもある夫婦や家族がさらに豊かになればと思っている。

最後に、今回『Hiker’s Classics』を書くにあたって、ULに出会った当時のメモを見返してみた。次のような文章が残っていたので、この寄稿の結びに披露させていただきたい。

* * * * * *

「歩く」という行為は「生きる」ということ。

かつてアフリカ大陸で誕生した人類は、その後世界各地に広がっていった。イギリス人考古学者 ブライアン・M・フェイガンは、この人類が生きるために歩いた人類最大の旅を「グレートジャーニー」と名付けた。

また、第266代ローマ法王のフランシシスコ1世も就任式で「歩きなさい。人生とは旅である」と語っている。

「Walk」という言葉を辞書で引くと「歩く」という意味の他に「暮らしぶり」という意味があった。暮らしぶりとは、日々の生活や、日常の様子のことである。

歩くという行為は、生活することに大きく影響しているのではないだろうか。

Tomoyuki Meguriya’s CLASSICS

  • Mont-Bell / Gear Container S

    初めてULスタイルでハイキングした際に使用したザック。それまで使っていた30Lのカリマーのザックは重く大きかったため、持っていたこのギアコンテナにマットとストックを取り付けられるように紐を縫い付けた。1泊のハイキングには十分な大きさだ。これがULの入り口だったこともあり、道具を揃えていくよりも先にいま持っている道具を工夫し、トータルで軽量化するように考えるようになったきっかけのひとつ。

  • Shelt / Stork Fisherman

    フライフィッシングの際に使用している。フライやラインなどの道具やカメラ等を入れて使用。釣りでの使用を目的に作っているため容量が大きい。ショルダーベルトの幅も広く、道具を入れても肩にくい込まないようになっていて使いやすい。日帰りの釣行であればこれひとつで十分。

  • Teton Bros. / Hybrid Running Vest M’s

    微妙な気温のとき、身体の体幹部を冷やさずにある程度保温しながら、かつ抜けがよく動きやすい、ウェアとしてベストが自分のなかで最適解ではないかと考えていた時に手に入れた道具。夏場以外のハイキングでほぼ着用している。またフライフィッシングは夏場でも渓流では風が冷たく涼しかったり、水が跳ねて濡れたりするのでハイキング以外でも使用率が高い。なによりウールのベースレイヤーの上に着るだけでも様になるので重宝している。

  • Cocoon / Travel Sheets Silk

    夏用のシュラフを春先や秋の季節にも使用するために購入したのが、コクーンのトラベルシーツ。低山でのテント泊やキャンプでは単体でも使用でき、冬季にはお守り代わりに持っていく。シュラフのシャカシャカした感触が苦手で、一枚このシーツを挟むことで肌触りも良くなる。初秋の北アルプスのハイキングではレインパンツ以外のロングパンツを持って行かずに、肌寒い時に巻きスカートとしても使用した。

  • MYOG Backpack

    私のULのもうひとつの入り口でもあったMYOG。ULとMYOGというカルチャーがあることを同時に知った。現在、MYOGの素材と言えばX-Pacが主流だけれど、ずっとシルナイロンに魅力を感じていて、自作するザックにもシルナイロンばかり使っている。ザックをMYOGすることでマスプロの製品やそれこそ山と道MINIのモノづくりの素晴らしさに気が付いた。MINIのファスナーが壊れた時に自分で直すことができたのもMYOGをしていたおかげだ。

  • Sigma / DP1x

    ハイキングや旅で出会った風景を残すためにカメラは必ず持っていくが、装備の軽量化とともにカメラも一眼レフからコンパクトカメラに変わっていった。今では主にリコーのGR、もしくはシグマのDP1xを使用している。GRの取り出してサッと撮れる感覚は刻一刻と変化する山の風景を切り取るには最適だ。それに引き換えDP1xときたら。実際に使用したことのある人なら分かると思うが、これほど使い勝手の悪いカメラはなかなかない(笑)。フォーカスは遅いし、液晶は構図の確認ができるくらい。何よりバッテリーの持ちが悪い。数十枚撮ったら切れるので、24枚か36枚撮りのフィルムカメラと変わらないが、センサーサイズとボディのサイズ感が気に入っているので割り切って使っている。

  • 無印良品 / 折りたたみサングラス

    ふらりと立ち寄った際に見つけた折りたたみサングラス。コンパクトにたためるということでハイキングでも使用できそうだと思い購入。何年か使って壊れたが、つるに孔を開けバンジーコードを通してまた使えるように。特別使いやすい訳でもなく、レンズには傷がついているけれど、まだまだ使えるので当分買い換えそうにない。たぶんまた壊れても使えるように改造して使うと思う。

  • Brutus / 2008.11月号「山特集:ワンダーフォーゲル主義」

    登山の道具やテクニックが載ってはいないが、ここに書かれている歴史や思想、コラムは、山登りを始めたばかりの自分にとってはとても刺激的だったことを覚えている。まだ存命だった加藤芳則さんやハイカーズデポを開店したばかりの土屋さんが出ていたりと今でも開くたびに新しい発見がある雑誌である。

    • Mont-Bell / Gear Container S

      初めてULスタイルでハイキングした際に使用したザック。それまで使っていた30Lのカリマーのザックは重く大きかったため、持っていたこのギアコンテナにマットとストックを取り付けられるように紐を縫い付けた。1泊のハイキングには十分な大きさだ。これがULの入り口だったこともあり、道具を揃えていくよりも先にいま持っている道具を工夫し、トータルで軽量化するように考えるようになったきっかけのひとつ。

    • Shelt / Stork Fisherman

      フライフィッシングの際に使用している。フライやラインなどの道具やカメラ等を入れて使用。釣りでの使用を目的に作っているため容量が大きい。ショルダーベルトの幅も広く、道具を入れても肩にくい込まないようになっていて使いやすい。日帰りの釣行であればこれひとつで十分。

    • Teton Bros. / Hybrid Running Vest M’s

      微妙な気温のとき、身体の体幹部を冷やさずにある程度保温しながら、かつ抜けがよく動きやすい、ウェアとしてベストが自分のなかで最適解ではないかと考えていた時に手に入れた道具。夏場以外のハイキングでほぼ着用している。またフライフィッシングは夏場でも渓流では風が冷たく涼しかったり、水が跳ねて濡れたりするのでハイキング以外でも使用率が高い。なによりウールのベースレイヤーの上に着るだけでも様になるので重宝している。

    • Cocoon / Travel Sheets Silk

      夏用のシュラフを春先や秋の季節にも使用するために購入したのが、コクーンのトラベルシーツ。低山でのテント泊やキャンプでは単体でも使用でき、冬季にはお守り代わりに持っていく。シュラフのシャカシャカした感触が苦手で、一枚このシーツを挟むことで肌触りも良くなる。初秋の北アルプスのハイキングではレインパンツ以外のロングパンツを持って行かずに、肌寒い時に巻きスカートとしても使用した。

    • MYOG Backpack

      私のULのもうひとつの入り口でもあったMYOG。ULとMYOGというカルチャーがあることを同時に知った。現在、MYOGの素材と言えばX-Pacが主流だけれど、ずっとシルナイロンに魅力を感じていて、自作するザックにもシルナイロンばかり使っている。ザックをMYOGすることでマスプロの製品やそれこそ山と道MINIのモノづくりの素晴らしさに気が付いた。MINIのファスナーが壊れた時に自分で直すことができたのもMYOGをしていたおかげだ。

    • Sigma / DP1x

      ハイキングや旅で出会った風景を残すためにカメラは必ず持っていくが、装備の軽量化とともにカメラも一眼レフからコンパクトカメラに変わっていった。今では主にリコーのGR、もしくはシグマのDP1xを使用している。GRの取り出してサッと撮れる感覚は刻一刻と変化する山の風景を切り取るには最適だ。それに引き換えDP1xときたら。実際に使用したことのある人なら分かると思うが、これほど使い勝手の悪いカメラはなかなかない(笑)。フォーカスは遅いし、液晶は構図の確認ができるくらい。何よりバッテリーの持ちが悪い。数十枚撮ったら切れるので、24枚か36枚撮りのフィルムカメラと変わらないが、センサーサイズとボディのサイズ感が気に入っているので割り切って使っている。

    • 無印良品 / 折りたたみサングラス

      ふらりと立ち寄った際に見つけた折りたたみサングラス。コンパクトにたためるということでハイキングでも使用できそうだと思い購入。何年か使って壊れたが、つるに孔を開けバンジーコードを通してまた使えるように。特別使いやすい訳でもなく、レンズには傷がついているけれど、まだまだ使えるので当分買い換えそうにない。たぶんまた壊れても使えるように改造して使うと思う。

    • Brutus / 2008.11月号「山特集:ワンダーフォーゲル主義」

      登山の道具やテクニックが載ってはいないが、ここに書かれている歴史や思想、コラムは、山登りを始めたばかりの自分にとってはとても刺激的だったことを覚えている。まだ存命だった加藤芳則さんやハイカーズデポを開店したばかりの土屋さんが出ていたりと今でも開くたびに新しい発見がある雑誌である。

      廻谷朋行
      廻谷朋行
      山と道HLCアンバサダー/『LUNNETES』スタッフ。 20歳の頃に友人と登った那須岳での言葉にできない感覚に魅了され山に登り始める。 那須のLUNETTESに通うなか、山と道のサコッシュを手にしたことでULカルチャーと出会う。 同時に山道具も自作できることに気づき、自作のザックで山に行くことに楽しみを覚える。 カメラメーカーを退職後『LUNETTES』のスタッフに。ハイクの他にフライフィッシングとテレマークスキーにも夢中。
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