講義4:UL的なスリーピングシステムを考える(2限目)
写真/編集:三田正明
写真(道具)/柿崎豪
講義4:UL的なスリーピングシステムを考える(2限目)
写真/編集:三田正明
写真(道具)/柿崎豪
ハイカーズデポ土屋智哉さんをお招きし、山と道スタッフを生徒に開校している『ULハイキング大学 in 山と道』。寝袋・スリーピングパッドからなるスリーピングシステム編の、今回はスリーピングパッドについて。
代表的な3種類のスリーピングパッドの特徴から、バックパックやハイキングスタイルの変化と共に変わってきたスリーピングパッド選びのポイント、R値(暖かさの指標)と温度帯の関係など、今回もULハイカーが知っておくべき知識を教えてもらいました。
ではチャイムが鳴ったら、2限目の始まりです!
スリーピングパッドの種類と特徴
2限目はスリーピングパッドについて話していきます。スリーピングパッドはバリエーションが多いので、お店でもどれを勧めるかがいちばん難しい道具です。価格も4,000円程度のものから、4万円を超えるものまであるので、その点も選ぶのが難しい理由のひとつです。
スリーピングパッドは大きく3つのタイプに分けられます。ひとつはクローズドセルパッド。発泡断熱素材(Closed cell foam)製で、山と道でもUL Pad 15やMinimalist Padがありますが、大きな特徴は軽さです。気泡膜が中に閉じ込められていて外部と接しないので暖かくなりやすく、水濡れにも強いので濡れてもサッと拭くだけで大丈夫です。パンクのリスクもなく、収納も丸めたり折り畳むだけなので簡単ですが、嵩張るのが弱点です。平均的なR値(スリーピングパッドの暖かさの指標となる数値)は他の2タイプと比べると低く、比較的安価です。

クローズドセルタイプの山と道UL Pad 15+
ふたつめは自立膨張式のインフレータブルパッド。圧縮された発泡性のウレタン素材が中に入っていて、バブルを開けると自動的に空気が入ります。スポンジのようにギュッと握ると空気が抜けて小さくなって、パッと手を離すと膨らむ構造ですね。ある程度は勝手に膨らむので、仕上げにバルブから空気を入れて締めると完成します。クッション性に優れ、クローズドセルに比べてコンパクトに収納できますが、重量は他の2タイプに比べて重めです。発泡素材を内蔵しているためパンクしてもクッション性と保温性が若干確保されます。

インフレータブルパッドの代表的モデル、サーマレストのプロライト(写真はかなり古いモデル)。
3つめはエアマットです。緩衝材として空気を入れて使うタイプで、クッション性と収納性に非常に優れますが、ハイカーズデポが創業した2008年当時は、山ではエアマットは使えないと言われていました。
寝袋と同様に、体温で暖まったエアマットの中の空気の層が動いて循環すると、熱がどんどん外に放出されてしまいます。寝袋は空気の動きを阻害するために羽毛や化繊綿を入れていますが、昔のエアマットには、空気の動きを阻害するものが入っていなかったので、暖かくないから使えないものとして、登山業界では見向きもされていませんでした。
つまり昔は、クローズドセルとインフレータブルしか選ぶ対象がなかった。クローズドセルは軽いけど嵩張る、インフレータブルは重いけど寝心地がよくてコンパクトになるというのが、選ぶ際の判断ポイントとして挙げられていました。
ですが、インフレータブルパッドの特許も持っているスリーピングパッド業界の巨人・サーマレストが、2009年にネオエアーシリーズを出したことでスリーピングパッドの主流が大きく変わりました。ネオエアーシリーズのいちばんのポイントは、中にアルミフィルムの断熱材を複数枚入れることで、空気の循環を阻害したことです。そうすることでアルミの輻射熱によって暖かさが保持され、エアマットの防寒性がグンと上がったことで、アウトドアでも使えるようになりました。

ネオエアーシリーズの最軽量タイプのサーマレスト・ネオエアーウーバーライト
昔はインフレータブルパッドもエアマットだと言われていた時代がありましたが、インフレータブルにはウレタンが入っているけど、エアマットにはフィルムしか入っていないので、当然エアマットの方が軽いです。さらに空気を抜いた時には劇的にコンパクトになります。クローズドセルパッドも、エアマットが出てきた時点で軽さのメリットは失われました。もちろん、山と道のUL Pad 15やMinimalist Padのように依然として軽さの優位性を保っているものもあるけれど、クローズドセル全般でみると、軽さの優位性は薄れてしまっています。クローズドセルの現時点でのいちばんの優位性は「壊れない」ことです。

さらに厚みに関しても、クローズドセルは平均して1.3cm、インフレータブルが平均2.5cmですが、エアマットは5cmを超えるものもあります。どのメーカーのエアマットも強度がそこそこあるので、石の上に置いて寝ても地面の凸凹を吸収してくれるし、クッション性も高い。空気の量も調整できて寝心地もいいので、今のスリーピングパッド界はエアマットの天下になっています。ただインフレータブルパッドもそうですが、エアマットもパンクする可能性があります。
素材を貼り合わせている部分が剥がれて空気が漏れたり、バルブ周辺も構造が複雑なぶん、パンクの可能性はゼロではないです。でも普段ロードバイクに乗っている人も、パンクに怯えながら乗っていないと思います。みんな多かれ少なかれパンクの経験をしているけど、修理すればいいと思っている。
ロードバイクだと尖った石でパンクしたり、縁石のサイドを擦ってパンクしたりすることが多いけど、エアマットがパンクする可能性が高いのはテント場です。みんなでご飯を食べようと、テントの中からエアマットを出して、地面に置いて気にせずに座った時にパンクすることがほとんどです。なので、パンクの危険性があると認識した上で、使い方に気をつければ、あんまり神経質にならなくてもいいと思います。

エアマットはバルブ周辺や生地の張り合わせ部分からもパンクのリスクがある。
今でもハードな登山をする人、山に入域する時間が長い人、山岳部の人はあまりエアマットは使いません。クローズドセルパッドであれば、疲れてヘロヘロになった状態でも、膨らます必要がなくてパッと広げるだけで使えるのがいいよね。
現状のマーケットでは、インフレータブルパッドが宙に浮いている状態ですが、今でもこれを選ぶ人は、仮にパンクしたとしても、中にウレタンが入っていることにメリットを見出しています。あと強みを挙げるとすると、エアマットに比べて厚みが薄いことです。ツェルトやタープを低く張ったり、ストックを使ってシェルターを立てたりすると、頭上のクリアランスが狭くなりますよね。その中で厚いエアマットに座ると、頭がつかえるんですよ。

インフレータブルパッド(上)とエアマット(下)の厚みの比較。狭いテント内ではこの違いでも居住性が変わってくる。
ドームテントであれば回避できる問題ですが、ULハイカーが好んで使うようなシェルター類で考えた時に、パッドの厚みが薄いとテント内での居住スペースを確保する上でメリットになるので、インフレータブルについても見直されています。以上がスリーピングパッドの現状です。

ULハイカーが選んできたスリーピングパッドの変遷
そんな中でULハイカーがどういうスリーピングパッドを使ってきたのか。これはULハイカーがどういうバックパックを選んできたかにも密接にリンクしていきます。初期の頃、ULハイカーはクローズドセルのロールマットを使っていました。1990年代はインフレータブルとクローズドセルしか選択肢がなくて、そのふたつだと軽さの点でクローズドセルを選ぶのが当たり前でした。113gの山と道のUL Pad 15+が登場した時はその軽さが衝撃的だったけど、当時は200g台でも十分に軽かった。
だけどロールマットは嵩張るので、それを解消するTIPSとしてパッドもフレームもないULバックパックの中にロールマットを筒状に入れて、パッド兼フレームとして代用しながら荷物をパッキングしていました。

UL初期においてはペラペラのバックパックにロールマットを筒状に入れ、フレーム代わりにするのが定番のパッキング方法だった。
当時のいわゆる典型的なULバックパックを使う時に、ロールマットは非常に相性がよくて、ULハイカーにとっても使いやすいスリーピングパッドでした。ただ、ULの典型的なスリーピングパッドやバックパックを使いこなすには、どうしても知識や工夫が必要になります。
ULバックパック自体がパシフィッククレストトレイルなどのアメリカの長距離トレイルの踏破成功率を上げるために編み出された道具ですが、スルーハイカーが増えていく中で、フレームやサポートのあるバックパックが求められるようになっていきました。例えば山と道のONEは、フレームもヒップベルトもある従来のULバックパックとは違うアプローチの長距離用のバックパックという形で生まれましたし、同じような時代に、オスプレイからもフレーム入りの軽いバックパックが出てきました。
そんなフレーム入り、サポート入りのバックパックを使う長距離ハイカーたちが、どういうスリーピングパッドを使ったのかというと、エアマットです。要はフレーム入りの軽いバックパックは、ロールマットをフレームやパッド代わりにする必要がなくなったので、いかに装備をコンパクトにするかにフォーカスを当てた場合に、エアマットを使うハイカーがぐんと増えます。
同時にサーマレストのZライトやニーモのスイッチバックを筆頭に、蛇腹式のクローズドセルパッドもスルーハイカーには好まれていました。蛇腹式のスリーピングパッドをバックパックの上に置いてギュッと締めてるハイカーは、アメリカでもよく見かけますよね。このように長距離ハイカーが使うバックパックが変わると、使われるスリーピングパッドも変わっていきました。

フレームなどの入ったサポート性の高いULバックパックが増えてくると、ロール式より蛇腹式のクローズドセルパッドが主流になっていった。
その後、速く、長く歩き続けられるものを作るという理念が込められたパランテのバックパックの登場以降、長距離ハイキングやULハイキングの文脈の中でも、FKT(Fastest Known Time = トレイルの最速踏破時間を競う挑戦)志向のような、よりアクティブなスタイルを目指す人たちが出てきます。すると容量が小さいバックパックが求められるようになりました。
初期のULバックパックは大きくても軽ければいいので、そこそこ容量がありました。けれど背中に密着する小さいバックパックであれば、重心位置も上げやすいし、狭い場所も通り抜けしやすいので、よりアクティブに動くためにバックパックの容量が小さくなっていきました。
そうすると、クローズドセルパッドを筒状に入れるスペースがなくなります。従来のバックパックのMサイズの背面長の基準が48〜50cmなのに対して、スリーシーズン用のスリーピングパッドは50cm幅が基本です。背面長を想定した幅だから、バックパックに入れても成立していましたが、バックパックが30L台、20L台まで小さくなってくると、当然背面長も変わってくる。するとパッドを筒状に入れるとはみ出てしまいます。
そこで容量の小さいバックパックを使う人たちが選んだのが薄い折りたたみ式のスリーピングパッドです。アメリカのコロラド・トレイルやアリゾナ・トレイルあたりの1,000km前後のトレイルを1ヶ月前後で歩ききるようなUL志向のスルーハイカーたちにとっては薄いスリーピングパッドで十分だし、それでどうにかしようという方向性になっていきます。なので、FKTスタイルの場合は5mm厚程度の薄い折りたたみ式クローズドセルパッドや、フルレングスではなくハーフサイズなどの軽量系エアマットに変わっていきました。

薄手の折りたたみ式の代表格、エバニューFPマット100。厚さ5mmだが硬めの素材で地面の凹凸の影響を受けにくい。
昔はULバックパックを使ったULハイカーのスリーピングパッドといえば、クローズドセルという印象がありましたが、実際には2000年代後半から2020年代の十数年の間でも、ULハイカーや長距離ハイカーが好むスリーピングパッドはこのように変遷しています。
スリーピングパッド選びはバックパックとの相性にも関わってくるので、スリーピングシステムのひとつとして単体で考えるのではなく、バックパックにどう収納するのかも、選ぶ上で大きなポイントになります。だから余計に選ぶのが難しい。
でも、「迷ったらとりあえずロールマットを買っとけ」と僕は伝えています。もしくはZライトやニーモのスイッチバックのような蛇腹式マットを勧めます。なぜなら、安くて潰しが利くからです。いきなりスリーピングパッドに数万円は、さすがに手を出しにくいよね。
自分も最初は、いわゆる「銀マット」からスタートしました。とりあえずそれを買っとけば寝れるからです。スリーピングパッド選びは、どういうバックパックを使うのか、どういう寝心地を求めるのか、何を重視していくのかで大きく変わってきます。
さらに寝袋と同じように温度帯も関係してくるので、構成するマトリックスが非常に複雑というか、多岐にわたるのが実情です。
スリーピングパッドのR値に相関する温度帯の枠組み
続いて、スリーピングパッドのR値について話していきます。寝袋は世界的にEN(ヨーロピアン・ノーム)という統一規格を元に温度表記を出しているので、メーカーが違っても寝袋の質を比較できますが、スリーピングパッドも数年前にR値が暖かさの基準としてメーカー間で統一されたことで、比較ができるようになりました。
寝袋は背中側の中綿が潰れて保温性が下がってしまうので、スリーピングパッドが重要だと聞いたことがあると思います。ただ、R値だけを見ても対応できる温度がよく分からないので、温度と相関する枠組みをある程度知っておくと、自分が必要とするR値のスリーピングパッドを選ぶ時の参考になると思います。ただ、この枠組みは、メーカーが提示しているR値と対応温度を見比べたり、実際に使用した際の僕の体感を元に出した目安なので、あくまで検討する上での参考程度に考えてください。ただこれを基準に考えることで「暖かいスリーピングパッド=良いスリーピングパッド」という画一的な図式からは離れられますし、過剰なR値インフレ的な考え方からも脱却できるはずです。
1限目のスリーシーズンの寝袋選びの話では外気温0℃を基準に設定しましたが、0℃ぐらいまでならスリーピングパッドのR値は2.0もあれば十分です。実際に多くのクローズドセルパッドのR値が2.0ぐらいの設定だと考えると、納得しやすいと思います。R値2.0はスリーシーズン用として0℃前後でもしっかりと眠るために問題なく使えることの基準になるのです。

次に-10℃前後まで対応できるR値が4.0〜5.0で、スリーシーズン用でも「寒いところでも大丈夫ですよ」と謳ってるスリーピングパッドです。昔だとサーマレストのネオエアー・ウィメンズレギュラーや、今だとニーモのテンサーオールシーズンのようなものです。冬用でも十分に対応可能なので、1年中ひとつのスリーピングパッドで対応させたいと考えるハイカーにとっては万能型のR値です。

ニーモのテンサーエクストリームコンディションズは、本文中で言及されているオールシーズン(R値5.5)よりもさらに暖かいR値8.5を実現しながらも、472gとスリーシーズン用並の重量を実現。
-20℃前後になると、R値6.0〜7.0くらいが目安です。羽毛入りのエアマットや化繊綿が貼り付けられているモデルが冬用として長らく使われてきました。エアマットでも、アルミフィルムを4枚入れることで、保温力を圧倒的に高めてるモデルが多いです。
とはいえ冬山をガッツリやる人は、パンクするのを避けるために、R値の高いエアマットではなくて、R値2.0のクローズドセルパッドを持っていくことは少なくありません。体の慣れもあるだろうし、意外といけるんですね。最終的には個人の耐寒能力にも関わってくる話になります。だけどR値を見ていく時に、温度帯との相関関係を大枠で捉えておくと、自分に適したスリーピングパッドを選ぶ際のひとつの基準にはなります。
スリーピングパッドの暖かさは幅も重要
R値から話を広げると、冬用のスリーピングパッドを検討する時にR値だけに注目するのは、まだ視点が足りません。みんなも共感しやすいと思いますが、寝ている時に寒さを感じるのは腕なんですよ。少し体がパッドからずれると寒くなりますよね。なので実は、冬用パッドの検討に際しては幅も忘れてはならないポイントです。
スリーピングパッドの種類もいろいろ増えていますが、ここ4〜5年はワイドタイプというものが、各社バリエーションとして人気がありますよね。スリーピングパッドの基準の幅は50cmですが、R値4.0〜5.0以上の冬用のスリーピングパッドの中には、幅広のスクエア型や、腕の部分の幅をスリーシーズンモデルよりも広くしたマミー型があります。
スリーピングパッドの幅が広い方が腕が冷えないので、暖かく感じることが十分にあります。なので、特に寒がりの人が冬用のスリーピングパッドを探す時は、R値だけではなくて、幅にも注目するといいと思います。
当然、幅が広くなると重くなります。ただでさえも重たい冬用のスリーピングパッドをさらに重たいものにするのは軽量化の観点でも、UL的な発想でも無条件にお勧めするものではありません。ですが、近年の傾向としてフィールドでの睡眠に際して寒さに耐性が少ない人が増えているので、比較的どのメーカーもワイド幅のスリーピングパッドを出しているし、それをセレクトする人が増えている実感はあります。
寝袋にスリーピングパッドを入れると暖かくなる⁉︎
最後に、一時期ULハイカーの間で一世を風靡した、寝袋の中に入れて使うスリーピングパッドの話をします。これはクライミットの製品ですが、穴が空いてるので、寝袋の背中側の中綿が潰れずに、暖かいまま寝れるというアイディア商品です。出てきた時は、ULのスリーピングパッドとしても、かなりのトピックでした。

クライミット・イナーシャ Xライト。半身用で173gと登場時はその独創的なアイデアと軽量性で大きな話題となった。

寝袋の中に入れて使用することで、背面の中綿が潰れずに保温性をキープする。
でも同時に誤解も生じていて、「寝袋の中に入れると暖かくなる」と、人によってはどんなスリーピングパッドも中に入れるようになってしまった。だけど背中の穴がないとスリーピングパッドを中に入れても意味がないし、さらにクライミットは幅が一般的なスリーピングパッドの幅である50cmよりも狭く作られています。そうすることで、寝袋の中に入れてもスリーピングパッドが体からはみ出ることなく、肩周りに寝袋がしっかりと密着してくれるんですよね。
でも、例えば50cm幅で厚手のスリーピングパッドを寝袋の中に入れると、隙間ができてしまって密着しないんですよ。かつ、ほとんどのメーカーは寝袋の中にスリーピングパッドを入れる状況を想定していないので、モデルによっては内側からスリーピングバッグのロフトを潰してしまいます。風変わりだけれど便利そうに見えることは、万能ではありません。万能なら大手メーカーがとっくに作っています。表面的に模倣するのではなく、なぜそうなっているのかを立ち止まって考えてみてください。

だから、もし自作のギアでULを頑張る人がクライミットを参考にする場合は、クローズドセルパッドであれば、幅を切って、寝袋の背中側のダウンが潰れないようにくり抜く。さらになるべく厚みも出さないように、1cm厚くらいのスリーピングパッドでやるといいと思います。実際に某ガレージメーカーの代表は創業前にそうしたスリーピングパッドを作成していました。あれは衝撃的でした。
これに通ずる話で、キルトは背中側がないので背中側にスリーピングパッドを固定するというTIPSがありますよね。実はこれもキルトなら何でもかんでもやればいいわけではありません。注意が必要です。50cm幅のパッドをキルトに固定すると、やっぱり肩周りや胴周りにキルトが密着しづらいので隙間ができやすくなります。首元も締めづらくなります。これは保温という観点からはマイナスです。そして運用上、見逃せない問題は狭いテントだとすごく入りづらくなることです。
キルトをペロンとめくって入った後に固定できる仕組みにしていれば問題ないんだけど、スリーピングパッドがキルトに固定されていたら、足元から少しずつ入っていかないといけない。テント内が広ければ可能ですが、狭い空間でやる時は結構面倒なことになります。特にキルトの密着度でいうと、スリーピングパッドを固定するよりも、背面のタブを利用して体に密着させて寝た方がいいし、緊急時にもすぐに出られます。パッドを固定するのは寝返りの際の冷気の入り込み対策としては確かに有効ですし、合体ものみたいでワクワクするんですけど、実はデメリットもあるということを忘れないでください。
特にキルトはここ数年で一般化してきたし、ULの寝具としてのオリジナリティもこれからの可能性もあるけど、シンプルに使った方が運用がシンプルでよい場合もあります。ちなみに僕自身は20年間キルトを使い続けていますが、キルトの背面側をコードで固定することも、スリーピングパッドを固定することも行っていません。スリーピングシステムとして、寝袋とスリーピングパッドの組み合わせを考える時に、「こう使うものだ」と思い込んでいる道具でも、実は違う側面があることを伝えて、今回の講義を締めたいと思います。
最後に、何か質問はありますか?
質問 寝る姿勢とスリーピングパッドの関係について、TIPSがあれば教えて欲しいです。マミー型の寝袋で寝る時に、仰向けに寝ると背中側の設置面積が増える分、潰れるロフトの面積も大きいですが、サイドスリープだと設置面積が減るので、暖かさを感じやすいと聞いたことがあります。
サイドスリーパーだと胎児みたいに体を丸めることもできるので、手を広げているよりも握っている方が暖かいのと一緒で、体を縮めてた方が暖かくなります。それはひとつのTIPSだと思います。
僕は寒い時に、寝袋を体に密着させるために手繰りよせることはありますね。あとは履いていたタイツを首元に巻いて、いかに暖気が逃げるのを抑えるかを意識してやるようにしています。細かなTIPSだけど、バラクラバやネックゲイターなどで口元を覆って、なるべくそこに呼気を吸わせて、呼気で首元が濡れないようにもしています。
質問 スリーピングシステムの最適解を見つけようと、スリーピングパッドを厚くしたり、寝袋を少し軽くしたり、いろいろ試しているんですが、組み合わせを土屋さんはどう選んでいますか?
スリーピングパッドに関して、僕はエアマットを使わないです。なぜならば、ふかふかな寝心地が嫌いだから。これは理屈じゃなくて完全に感情論です。基本的に薄いスリーピングパッドが好きですね。パッドを暖かくした方がいいというセオリーがあるけど、気温が0℃までであれば、自分はエバニューのFPマット100や山と道のMinimalist Padで大丈夫だという体感があります。0℃以下の気温になるとスリーピングパッドの厚さを1cmくらいまであげるという基準を自分の中で設けています。
寝袋はなるべく暖かいものを選んでいます。それまでは背中を完全にくり抜いた超軽量のキルトとダウンジャケットの組み合わせが多かったけど、最近はダウンジャケットを持たないで、アクティブインサレーションと暖かい寝袋という組み合わせを試すのが楽しいです。
結局、試行錯誤することが大切だと思います。寝袋も羽毛の場合は軽さだけじゃなくて、入った瞬間に暖かくなる速度が早かったり、汗をかいて湿気で冷えることを考えた時に、羽毛は吸湿性が高いから優れています。でも、夏用の寝袋だと羽毛の量が少ないから、羽毛の偏りでコールドスポットができやすい。だったら、夏場は冷えや湿気をそんなに気にしなくてもいいから、シート状で成形されていてコールドスポットができにくい化繊の寝袋でもいいよねという考え方もあります。
今回はスリーピングシステムを考える上で、寝袋とスリーピングパッドの概論から選び方までお話しました。自分の最適解を求めていくのは、自分にしかできないので、今回お話した枠組みを基準にした上で、どんどん試していってもらえればと思います。ご静聴ありがとうございました。