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山と道トレイルログ

マブのULハイキング研修 ’25

体力をつけ装備を切り詰めた先に求めた自由〜北アルプスソロ縦走に初挑戦した7日間の旅〜
文/写真:馬渕亮太
2025.11.07
山と道トレイルログ

マブのULハイキング研修 ’25

体力をつけ装備を切り詰めた先に求めた自由〜北アルプスソロ縦走に初挑戦した7日間の旅〜
文/写真:馬渕亮太
2025.11.07

社是としてスタッフには「ハイキングに行くこと」が課される山と道。「願ったり叶ったり!」と、あちらの山こちらの山、足繁く通うスタッフたち。この『山と道トレイルログ』は、そんなスタッフの日々のハイキングの記録です。今回は、山と道京都スタッフの「マブ」こと馬渕亮太が、社内の「ULハイキング研修制度」を利用して、北アルプスを初めて縦走した7日間の記録をお届けします。

装備を軽くするのみならず、体力があってこそ自由にハイキングを楽しめるのではないか? そんな気づきをきっかけに、年明けから体力作りのために立ち上がったマブ。ランニングで培った体力をもとに、店舗スタッフとしての経験値もアップすべく、初めての北アルプス長期山行に挑戦します。

さらに軽量ながらも様々な天候に対応できるように装備とも向き合います。体力をつけて、UL装備を工夫した先に、マブが捉えた自由とは。彼の旅路に、ぜひお付き合いください。

はじめに

道具の軽さばかりを求めても、体力がなければ楽しく、自由に歩くことはできない——その現実に気づいたのが、今回の旅を計画した出発点だった。これまでの山行では、体力不足によってハイキング中に「きつさ」や「苦しさ」を感じ、計画や行動の自由が制限されていたのだ。

その気づきをきっかけに、まずは体力をつけようと2025年の年始から走ることを始めた。最初は3kmでヘトヘトだったが、今では月に100〜200km、1回につき約10kmを走るようになった。少しずつ体力がつくにつれ、「この体力で自由にハイキングを楽しみたい」という思いが強くなっていった。

今回のULハイキング研修の目的は、ランニングで培った体力をハイキングで発揮し、体力がついたことで「山を歩く感覚」がどう変わるのかを確かめることにある。加えて、初の北アルプスソロ縦走を通じて高山での経験を積み、長期山行における山と道の製品の使用感を確かめ、製品理解を深めることも目的のひとつだ。

移動距離約75km、累積標高約7,000mになる北アルプス5泊6日のソロテント泊山行を計画し、体力次第ではさらに距離を延ばすつもりだ。急変する天候に備えた装備の選択や判断も含め、接客に活かせるリアルな経験を得たいと考えている。

この山行を通じて、ULハイキングは道具の軽さだけでなく、自分自身の体力があってこそ「自由」が得られるということを、身体で確かめたい。

今回歩いたルート。上高地から出発し、表銀座〜裏銀座〜立山連峰を縦走して室堂を目指す。

DAY1 上高地〜蝶ヶ岳〜常念岳〜常念小屋
17.5km(↑1,977m/ ↓1,020m)

9月23日、山と道京都の営業を終え、夜行バスで上高地へ向かう。僕の中ではワクワクと不安が渦巻いていた。

「トレーニングの成果を試すいい機会だ!」と意気込む一方で、「思いのほかランニングの効果を得られなかったらどうしよう」という不安もあった。今回の山行は、自分の「現在地」を確かめるものになるだろう。

夜行バスに揺られながら、少し眠ることができた。上高地バスターミナルに到着し、観光客の多さに驚きながら歩みを進める。

当初の予定では上高地で1泊するつもりだったが、徳沢キャンプ場を目指して歩くうちに気分が乗り、そのまま蝶ヶ岳を目指すことにした。徳沢キャンプ場から登りに差し掛かると人で賑やかだったトレイルは静まり、僕はひとりで歩いていた。

スタスタ通り過ぎる河童橋

今回の旅では、より自由を感じるために、シンプルかつ軽量な装備でさまざまな天候に対応できるよう、道具の選択にもこだわった。

バックパックは軽くて強度のあるX-Pac UX10生地を使用したTHREEを選択。45Lと余裕ある容量でシュラフのロフトを潰さずにふんわりとパッキングできるので、眠る時に体を素早く温めてくれる上に、背負い心地も良い。軽量化を図るためにダウンウェアを削ったので、体が冷える前にしっかり体を温められるようにレイヤリングを工夫した。とはいえ、少し不安も感じたので、出発直前にお守りとしてAlpha Haramakiもバックパックへ放り込んだ。枕も持っていかず、ウォーターキャリーと衣類をシェルター用のスタッフサックで包んで代用した。

レイヤリングは、ベースレイヤーにChemical B Pocket T-shirt、ミドルレイヤーにActive Pullover、シェルにUL Big Pocket Shirt、パンツに5-Pocket Wide Pants。そしてレインウェアとしてUL All-weather JacketUL All-weather Pantsを選んだ。

昨年のULハイキング研修では、里山と街をつなぐようなゆったり歩く旅だったため、消臭性と着心地を重視し、メリノ素材のウェアを選択していた。しかし今回はガシガシ動く旅。速乾性と軽さを最優先に、化学繊維のウェアを選んだ。Chemical Bで汗処理をしつつ、Active Pulloverで保温。どちらも汗抜けがいいため、素早く汗を乾かして冷えを防ぐ作戦だ。

大雨で5-Pocket Wide Pantsが濡れてしまっても、就寝着として持っていくLight Alpha TightsとUL All-weather Pantsの組み合わせに切り替えれば、暑くも寒くもなく快適に行動できる。UL Big Pocket Shirtをしっかり使うのは今回の旅が初めて。大きな胸ポケットがふたつ付いているし、他のウェアにもポケットが付いているので、ファニーパックやサコッシュ、ショルダーにつけるボトルホルダーはギアリストから外した。

早速、エネルギー切れを起こさないようにUL Big Pocket Shirtの胸ポケットに入れた大粒ラムネをポリポリ食べながら、登りやすい樹林帯の道を、自分の体力を確かめながら一歩一歩登っていく。とはいえ、調子に乗って歩みを速めるとへばってしまうので、心拍数を意識しながらペースを保つ。無事に蝶ヶ岳へ到着。

心拍数が上がりすぎないようにスマートウォッチで管理

蝶ヶ岳に到着

自分のペースでハイキングができていることに喜びを感じつつ、次の目的地である常念岳へ向かう。しかし喜びも束の間、常念岳に差しかかるとゴロゴロとした岩場が続き、目印を探しながらの難儀な登りとなった。苦労の末、ようやく常念岳の山頂へ辿り着いた頃には、あたりはガスに包まれ視界が白く霞んでいた。

1回下りて登り返した常念岳

岩場に苦戦。癒しのケルン

進んでる気がしなかったが、やっと辿り着いた常念岳。

長居せず山頂を後にする。常念小屋までのガレ場の下りでは、ついブツブツと文句を言いながらも無事に到着。1日目にして左膝の腸脛靭帯を痛めてしまい、明日への不安を抱えつつ初日を終えた。

常念小屋に無事到着。コーラとカップ麺でエネルギー補給

DAY2 常念小屋〜大天井岳〜ヒュッテ西岳
9.3km(↑822m /↓588m )

シェルターの中で膝にテーピングを施し、美しい雲海と朝日を浴びながら歩き始めた。2日目の予定は、常念小屋から大天井岳を経て槍ヶ岳山荘まで。天気は快晴で、気持ちの良い朝だ。多少膝に痛みはあるものの、下りで少し響く程度なので致命的ではない。

最高な朝日&雲海から1日がスタート

何よりも、この日は空の青さと風の心地良さに背中を押され、気持ち良く歩を進めることができた。 体力にも余裕があり、自然のひとつひとつをより深く感じ取れるようになっている自分に気づく。「ランニングを続けてきて本当に良かった」と、ランニングを始めた年始の自分に感謝した。

常念小屋〜大天井岳

大天井岳までもう少し

大天井岳の大天荘に到着

大天井岳から西岳までは、いくつかのアップダウンが続く。次第に膝の調子が気になりはじめ、東鎌尾根をこのまま越えられるかどうか少し不安がよぎる。晴れているうちに目的地を目指すか、それとも思い切ってヒュッテ西岳で足を休めるか——悩んだ末、後者を選んだ。

大天井岳〜西岳

ヒュッテ西岳のテント場の眺望は素晴らしく、これまで歩んできた道のりをパノラマのように一望できた。穏やかな午後を過ごし、念入りにマッサージをして体を整える。こうして2日目の山行を静かに終えた。

ヒュッテ西岳のテント場。目の前にパノラマが広がる

DAY3 ヒュッテ西岳〜槍ヶ岳山荘
3.5km(↑692m /↓283m )

3日目の予定は、昨日歩く予定だったヒュッテ西岳から槍ヶ岳山荘を経て、双六小屋のテント場まで。 前日の天気予報で少し荒れそうな気配を感じていたが、想像以上に風が強かった。膝も多少回復していたが、慎重に歩を進める。恐怖と不安が入り混じるなか、それでもわずかに色づき始めたトレイルの景色に美しさを感じた。

不穏だけどカッコ良かった朝日

依然として風は強く、さらに雨が加わり体温を容赦なく奪っていく。バックパックを下ろすことなく、Alpha Haramakiを身に付けると、暖かくてホッと安心感に包まれた。お守りのように持ってきて良かったと心から思う。

慎重に梯子を下る

怖がりながら強風の中を進む

紅葉が色づき始めた東鎌尾根

槍ヶ岳山荘付近の最後の鎖場

やがて東鎌尾根を抜け、爆風の合間を縫って鎖場を登り、ようやく槍ヶ岳山荘に到着。止まった途端、体の芯から冷えが押し寄せ、震えが止まらなくなった。山荘で温かい食事をとりながら体を温め、次の行動を考える。

槍ヶ岳山荘で食べた牛丼

このまま双六小屋まで進むか、それともここで1泊するか。今日はまだ3.5kmほどしか歩いていなかったこともあり、せめて双六小屋までは行きたいという気持ちがあった。

試しに双六方面へと足を進めてみるが、まるでマイケル・ジャクソンの『スムース・クリミナル』の有名な振り付けのように前傾姿勢を取らざるを得ないほどの爆風と雨。自身の技術を考慮し、この日は槍ヶ岳山荘のテント場に泊まることを決めた。テント場の強風と雨の中、眠りについた。

DAY4 槍ヶ岳山荘〜双六岳〜三俣蓮華岳〜黒部五郎小舎
12.2km(↑865m/ ↓1,601m)

4日目の予定は、槍ヶ岳山荘から双六岳、三俣蓮華岳を経て黒部五郎小舎を目指すルート。本来は雲ノ平を経由して薬師岳山荘へ向かう予定だったが、強風と雨のため、少し近い黒部五郎経由で薬師岳山荘を目指すことにした。

朝から依然として雨と風が強い。濡れていた5-Pocket Wide Pantsはバックパックにしまい、防風性・保温性・速乾性を意識して下半身はLight Alpha TightsとUL All-weather Pantsを組み合わせる。上半身はActive Pullover、Alpha Haramaki、そしてUL All-weather Jacketという構成でテント場を出発した。

前日に続き爆風の西鎌尾根〜双六

徐々に風が弱くなりガスが晴れ始める

慎重に西鎌尾根を進む。レイヤリングが見事に機能し、強風の中でも冷えを感じることなく快適に行動できた。やがて風が次第に弱まり、胸を撫で下ろす。久しぶりに歩きやすいトレイルと晴れ間が戻り、自然と心が弾む。膝の痛みも悪化せず、むしろ慣れてきたように感じた。

もうすぐ双六小屋

少し硫黄の香りを感じながら歩く

双六小屋が見えた!

天気が回復し、歩いているうちにウェアも乾いていく。双六小屋に着く頃にはすっかり晴天。昨日濡らしたシェルターやウェアを広げて乾かし、荷を整えて再びパッキング。軽くなったバックパックを背負い、意気揚々と黒部五郎小舎を目指した。

岩場ではないため、歩きやすい双六岳へのトレイル

水溜のトレイルを越えて黒部五郎へ

足取りは軽快で、2年前に同じ道を歩いた時よりも、感じ取れる情報量が多いことに気づく。風の感触、土を踏みしめる音、美しい山々。疲れに邪魔されることなく、それらがダイレクトに身体へと届く。この感覚がたまらなく心地良い。

「自分が変われば、世界が変わる」

そんな言葉が頭に浮かぶ。自分という軸を整えることの大切さを、改めて実感した瞬間だった。 気づけばもうすぐ黒部五郎小舎。槍ヶ岳山荘を出発した時はどうなるかと思っていたが、結果的には心地良く歩き切ることができた。自分の身体に感謝しながら、この日の山行を終えた。

黒部五郎テント場

DAY5  黒部五郎小舎〜黒部五郎岳〜太郎平小屋〜薬師岳山荘
14.4km(↑1,320m /↓974m)

朝方、風が吹いてもシェルター内で結露の霜のシャワーが落ちてこないことに気づき、「結露していないのかな?」と手を伸ばしてみると、シェルターの内側がバリバリに凍っていた。 温度計を確認すると、シェルター内で−2℃。外はさらに冷えていることだろう。結露を溶かすと後処理が厄介なので、カロリーの高い行動食を頬張りながら霜を払い、パッキングを済ませた。

5日目の予定は、黒部五郎小舎から太郎平小屋を経て薬師岳山荘まで。久しぶりに朝から快晴。少しずつ色づき始めたカールの紅葉が美しく、季節の移ろいを肌で感じながら黒部五郎岳を目指す。

紅葉色づく黒部五郎のカール

黒部五郎岳

この日は終始歩きやすいトレイルで、自然と心にも体にも余裕が生まれていた。ふと、これまでの行程を振り返る。今回のテーマである「体力」と「UL」の先にある「自由」。今の自分は、その自由を感じているのだろうか。そもそも自由とはなんだろう。そんな問いが頭に浮かび、自問自答しながら歩みを進める。

「マブよ、今回の山行で自由を感じているかい?」

「そうだね。感じている部分と、感じられていない部分の両方があるかな。」

「というと?」

「登りでも下りでも歩きやすいトレイルでは、自分のペースで気持ち良く歩ける。でも岩場になると、途端にペースが落ちてしまうんだ。」

「それはマブの理想ではないと?」

「そうだね。もっとスムーズに進めれば、より自由を感じられると思う。」

「じゃあマブにとって『自由』ってなんだ?」

「うーん……行動の選択肢があることかな。早く歩くことも、ゆっくり歩くこともできる状態。」

そんなことを考えながら歩いているうちに、気づけば太郎平小屋に到着していた。

黒部五郎岳〜太郎平

穏やかな木道歩き

もうすぐ太郎平小屋

小屋でおでんを食べてひと休みし、薬師岳山荘を目指して再び歩き出す。当初の予定では太郎平キャンプ場で泊まるつもりだったが、クマの影響でキャンプ場は閉鎖されており、この日は人生で初めての山荘泊となった。途中で一緒になったハイカーたちと談笑しながら薬師岳山荘に到着。夕食までのひとときをゆったりと過ごす。

薬師岳山荘

この日は雲海が見事で、他の宿泊者たちも歓声を上げていた。そして迎えた初めての山荘の夕食。あまりのおいしさに感動し、「おかわりしていいの⁉︎」と驚いたほど。ご飯もお味噌汁もおかわりして、大満足の夜だった。

美しい雲海とマジックアワー

初めての山荘泊。夕食をたっぷり堪能

夜の談話室では、翌朝五色ヶ原へ向かうというパーティのひとりと出会った。彼らは朝4時に出発するらしい。「五色ヶ原でまた会いましょう」と言葉を交わし、それぞれ静かに床についた。

DAY6  薬師岳山荘〜北薬師岳〜スゴ乗越小屋〜越中沢岳〜五色ヶ原山荘
11.8km(↑1,210m/↓1,412m)

シェルターを撤収する必要もなく、朝ごはんまで用意されている朝。なんとも贅沢なひとときだ。しっかりと朝ごはんをおかわりし、水も買い足して、今日の目的地である五色ヶ原を目指す。昨夜出会ったパーティは予定通り4時に出発したらしい。途中で再会できたらいいなと思いながら、僕は6時にゆっくりと出発した。

この日はなかなかアップダウンが多い1日だった。薬師岳まで登ると、そこからは苦手な岩場が続く。とはいえ、少しずつ岩場にも慣れてきており、常念岳の時のように焦ることもない。確実に成長している自分を感じる。北薬師岳を越える頃には、見事な紅葉が広がり、その美しさに思わず足が止まった。

苦手な岩場に少しずつ慣れてきた頃

岩場のルートファインディングが課題

岩場を抜けご褒美の紅葉

せっかく登ったと思えば700mほど下らされ、また登り返し。薬師岳山荘で1.5Lの水を補給していたが、スゴ乗越小屋付近に着く頃には800mlを切りそうになっていた。これからの登りを考えると少し不安を覚える。しかし、スゴ乗越小屋はすでに小屋終いをしており、水は補給できない。周辺を探してみると、ドラム缶に溜まった水を見つけた。若干虫が湧いていたが、浄水してなんとか水を確保。

薬師岳〜スゴ乗越小屋

前日に完全撤収したスゴ乗越小屋

その後も登っては下るの繰り返し。極めつけは越中沢岳だ。地図ではさほどきつそうに見えなかったが、実際に登るとこれがなかなかの急登。途中、ザレ場で足をかけた岩がズルッと動きヒヤリとしながらも、無事に山頂へと辿り着いた。

鮮やかな景色だが、キツかった越中沢岳

越中沢岳を黙々と登り、ふと振り返った時の景色

あと少しで五色ヶ原

山頂には、ゆっくりと休んでいるパーティがいた。よく見ると、昨夜談話室で話をしたあのパーティだ。再会を喜び、ひとしきり会話が弾む。時間にも余裕があったので、一緒に進むことにした。ひとりで自然を感じたり、考えごとをしたりして歩く時間も好きだが、おしゃべりしながら歩くのもまた楽しい。時間の流れがあっという間に感じる。

そのパーティは、オンラインゲームを通じて出会った仲間で、今回の山行はまるで「山オフ会」のようなものだという。そんな和やかな雰囲気もあって、すぐに打ち解けることができた。

やがて無事に五色ヶ原へ到着。みんなで乾杯し、それぞれのテントを設営する。夜は荒れる予報だったが、槍ヶ岳山荘のテント場での強風の経験もある。しっかりとガイラインを張っていれば問題ないだろう。念の為、朝にすぐに行動を開始できるように槍ヶ岳を出発した時と同じ服装に着替え、穏やかな気持ちで眠りに就いた。

DAY7 五色ヶ原山荘〜獅子岳〜竜王岳〜一ノ越山荘〜室堂
7.2km(↑728m/↓726m)

夜は予想以上に荒れた。深夜1時過ぎ、強風で倒壊したシェルターの音で目を覚ます。風があまりに強く、シェルター全体が激しく暴れている。外れたポールを立て直すのもひと苦労だった。どうにか復旧させて再び眠りに就くも、深夜3時、再び倒壊したシェルターと雨の音で目が覚める。「もう立て直しても無駄か」と思い、雨の侵入もそれほどではなかったので、そのまま寝ることにした。

そして早朝5時。目を覚ますと、なんと自分は川の上で寝ていた。フロアレスのシェルター内が雨で浸水していたのだ。「なんだこの状況は」と一瞬戸惑うも、ここまでくると逆に笑えてくる。濡らしたくないウェアや道具をパックライナーや防水スタッフサックに入れておいたおかげで、大事な装備は無事だった。

気づけば川の上で寝ていた五色ヶ原のテント場

幸い、この日は雨のおかげで気温がそれほど下がらず、凍えることもなかったのが救いだ。嵐の中でも意外と眠れたことも、今となってはいい経験だと思える。シュラフは表面こそびしょ濡れだったが、内側はロフトを保っており、しっかりと機能してくれた。こんな体験、しようと思ってもなかなかできるものではない。まさに「いい勉強」になった。そして最終日で良かった。

朝になり、そそくさとパッキングを済ませてトイレへ避難。こんな状況でも素早く撤収できるのは、荷物の少ないULハイキングの恩恵だと改めて実感する。やがて他の登山者たちも次々とトイレへ逃げ込んできた。最終日の行程は獅子岳、竜王岳を経てゴールの室堂を目指す。風と雨はさらに強まり、この先の行程も同じ方向だったため、みんなで室堂を目指すことにした。

薬師岳山荘で仲良くなったパーティと、荒天のなか室堂を目指す

もうすぐ室堂

この日の風は、槍ヶ岳付近で体験した爆風を上回るほどの強さだった。危険箇所は少ないものの、体が持っていかれそうな強風の中を慎重に進む。そんな嵐の中でも、ひょこひょこと姿を見せる雷鳥の姿があった。自然の厳しさの中に生きる動物たちのたくましさを感じながら、一行は無事に室堂へ辿り着いた。

ガスガスの初室堂

無事に完歩

出発前、山と道鎌倉スタッフのおーじさんに「7日くらいアルプスに入れば、いろいろ経験できるだろう」と言われた言葉が、まさに現実になった。この山行は間違いなく、自分の人生に深く影響を与えてくれた7日間だった。

そして旅の終わり。電車の中でうたた寝をしているうちに、降りるはずの駅を通り過ぎてしまい、終電を逃した。静まり返った街を歩き、都会の漫画喫茶で迎えた「7泊目」。濃い7日間の山旅を思い返しながら、静かに目を閉じた。

自由を求めて歩いた7日間

上高地から始まった7日間の旅は、「自由を求めて歩いた時間」だった。体力をつけて臨んだ今回、蝶ヶ岳や黒部五郎のような歩きやすいトレイルでは、身体的にも精神的にも余裕があった。足取りが軽くなると同時に、これまで見落としていた自然の繊細な表情が目に入ってくる。風の匂い、土の感触、季節の移ろい。そんな小さな変化に気づける余白が生まれたことで、歩くことそのものがより深く、楽しいものになっていった。

一方で、常念岳や槍ヶ岳周辺の岩場、暴風の稜線では、恐怖や不安が前に立ちはだかった。ペースを保つことも難しく、心に余裕がなくなると景色さえ見えなくなる。そんな瞬間は、自分の弱さと向き合うしかなかった。

そこで気づいたのは、自由とは体力だけで得られるものではないということ。どんな状況でも冷静に判断できる「心」と、状況を読み、身体を正しく使う「技術」。この体力・精神力・技術の掛け算によって、初めて本当の自由に近づけるのだと。

旅の途中、「そもそも自由とは何だろう」という問いが生まれた。自問自答を重ねるうちに、自由とは「選択肢の多さ」だという答えに辿り着いた。早く歩くことも、ゆっくり景色を味わうことも、自分で選べる。その選択肢の広さこそが、旅の自由度を決めていくのだと。

体力や技術が備わることで選べる幅が広がり、心に余白があることで、その選択を楽しめる。歩く速さだけでなく、立ち止まることさえも、自分で決められること。それが「自由」なのだと感じた。

「自由とは何か」を問い続けた7日間。その答えは、「心・技・体」を整え、自分の意志で「選びながら」歩くこと。その瞬間にこそ自由はあった、ということ。それはハイキングだけに留まらず人生を歩く上でも大切なこと。

まだまだ学ぶことは多いが、これからもHIKEによってLIFEが変わる感覚を味わっていきたいと思う。自然に試され、支えられ、教えられたこの旅は、僕に「自由に生きる力」を手に入れるためのヒントをくれた。

GEAR LIST

BASE WEIGHT* : 3.29kg

*水・食料・燃料以外の装備を詰めたバックパックの総重量

馬渕亮太

馬渕亮太

山と道 京都スタッフ

山と道 京都スタッフ。 京都出身。15歳の頃ギターを始め、高校卒業後上京、プロミュージシャンの道へ。作曲、編曲、ギタリストとして活動。のちに手術の後遺症で手に痺れが残り、音楽を卒業。新たな道を探し始める。部屋のスタイリング、動画撮影編集、コーチングなど自身の得意を活かし活動を開始。その後拠点を京都に移し、子供の頃よく遊んでいた山での野営が趣味になる。後にULハイキングの存在を知り、その考えが自身の時間、生活、仕事などにも落とし込めると可能性を感じ元々の趣味も相まって2023年1月にULハイキングの世界へ。日常から山までUL思考を最大限に活かすために目下勉強中。

連載「山と道トレイルログ」