山と道

【特別編 全天候型行動着の誕生】

【山と道ラボ特別編】
防水ウインドシェル=全天候型行動着の誕生
#3 特別鼎談・土屋智哉 × 桑原慶 × 山と道ラボ

通気する防水透湿素材ナノファイバーメンブレンと「全天候型行動着」UL All Weatherシリーズの登場を踏まえた山と道ラボ特別編。

#3となる今回は、それぞれ東京を代表するULハイキングとトレイルランニングショップの名店であり、山と道ラボでもお馴染みのハイカーズデポの土屋智哉さんとRun boys! Run girls!の桑原慶さんをお招きし、実際にUL All Weatherシリーズをテストしていただいてのインプレッションと着用時の注意点、おすすめのレイヤリング例などについてお話しを伺いました。

知識も経験も豊富なおふたりらしく、例によって鼎談は充実した内容となり、現在のレインウェアシーンを理解する上でも絶好のサブテキストになりました。「超軽量かつ超高通気」という新たな次元に到達したレインウェアの現在に、引き続きどうぞ刮目ください!

#1 通気する防水透湿素材ナノファイバーメンブレン
#2 実際に着用しての比較試験

取材:夏目彰 渡部隆宏 三田正明(山と道ラボ)
構成:三田正明
脚注:渡部隆宏
写真:大竹ヒカル 三田正明

レインウェアの歴史=透湿性・通気性発展の歴史

夏目 まず、これまでレインウェアは一貫して透湿性と通気性が求められてきた歴史があると思うんですが、改めてレインウェアに「ヌケ=透湿性・通気性」が、どう求められてきたのか振り返るところから始めていけたらと思ってます。おふたりともお店に立たれてこれまで様々なレインウェアの進化を目の当たりにされてきたと思うんですが、ユーザーが何を求めてきたのか、ハイカーとランナーというそれぞれの立場からお話いただけるでしょうか。
 
土屋 レインウェアって、防水性に関しては最初の油紙なんかの時代から問題なくて、その後ゴム引きの時代になっても、雨が入ってくることより蒸れるから着てられないことが問題だった。そこにゴアテックス(*1)が出てきて「透湿」というファクターが加わって「なんて快適なんだ!」となり、そういったことが劇的に変わった。だからそれ以降って、もう防水は当たり前でそこからどれだけ蒸れないようにするのかっていう時代だよね。それがまた次のフェーズに移ってきたと思ったのは、やっぱり2011年に通気する防水透湿素材としてネオシェル(*2)が登場して以降。通気するから透湿よりもっとヌケるってなったときに、はじめて「あれ、これ寒くない?」となった。最初は「通気するから風が抜けてるのでは?」って言われたけどそうじゃなくて、湿気がウェア内にたまらなくて蒸れないから(気化熱で)どんどん熱が逃げて寒さを感じるんだよね。そこからがまた新しいフェーズだと俺の中では捉えてる。

*1 ゴアテックス WLゴア&アソシエイツ社が1970年代に開発した防水透湿性素材の先駆け的素材。無数の微細な孔が開いたePTFE(テフロン、水を弾く疎水性の性質をもつ)メンブレンに表地と裏地を貼り合わせた構造で、孔から湿度を外部に排出する(透湿する)ものの通気性はない。メンブレンには皮脂などの汚染防止のために親水性のコーティングが施されている。

*2 ネオシェル ポーラテック社が開発した防水透湿素材。微細な繊維を無数の間隙からなるヘチマ状の構造に形成したナノファイバーメンブレンを用いた防水透湿素材。透湿するだけでなく実際に通気性を持つ。

桑原 僕の場合は走るので、同時に軽い方がいいんですけど、ランニングで僕らが感じる蒸れって、公表されているレインウェアのスペックと一致しないぞっていうのは、割と早い段階で気付きましたよね。まあどれも蒸れるよねって(笑)。
 
土屋 そうだよね(笑)。
 
桑原 それで、OMMがeVent(*3)押しで日本にガーンと入って来たときに、「あ、eVentはヌケがあるぞ」と。でも、やっぱり走るとどうしても蒸れることには諦めもあったんですけど、僕も通気系のネオシェルが出てきたあたりから、使い方や状況によってはヌケるなと思うこともあるようになってきた。そして、通気の文脈とはちょっと異なるんだけど、ゴアテックス・シェイクドライ(*4)の登場はやっぱり衝撃的でした。レインウェアって防水性や透湿性と同じように撥水性もすごく重要な中で、撥水性が落ちないものが出てきた。そこにノースフェイスから新たな通気系のフューチャーライト(*5)も出てきて、最近は選択肢が増えてきた感じがしています。なのでいまは楽しいですね。ようやくいろんなものをテーブルに並べられるようになった。

*3 eVent ゼネラルエレクトロニクス社が1999年に開発した防水透湿素材。ゴアテックスと同様の疎水性多孔質ePTFEメンブレンだが親水性のコーティングが施されておらず、ゴアテックスより透湿性への評価が高い。OMMは日本上陸時にeVentを使用したイーサージャケットのイメージが強かった。

*4 ゴアテックス・シェイクドライ WLゴア&アソシエイツ社が2006年に開発した防水透湿素材。ePTFEメンブレンを直接表地として用いることで永続的な撥水性を実現したが、表地がなくメンブレンが露出しているため耐久性は一般的な防水透湿生地に劣るとされている。

*5 フューチャーライト ザ・ノースフェイス社が2019年に開発した防水透湿素材。ナノファイバー技術を用いており通気性をもつ。

土屋 いまはレインウェア全体の流れの話だったけど、翻って自分個人でいうと、何度か変遷はしています。2000年代頭のまだ自分が店を始める前、ウルトラライトハイキングの黎明期の頃って、いかにシルナイロンのポンチョ(*6)だけでなんとかするかばっかり考えていた。でも、店を始めて以降は「意地になってましたがやっぱりこれって限界があるよね」ってなり(笑)。 それ以降、とくに標高が高い場所が多くて残雪もあるコロラドトレイル(*7)を1ヶ月歩いたときに、久々にレインシェルを使うわけですよ。でも、そのときもやっぱ軽さ重視だったから、OR(アウトドアリサーチ)のヘリウムジャケット(*8)を使ったんだけど、あれは親水性無孔膜のパーテックスシールド(*9)だったよね。そのあとモンテインのスペクタースモッグ(*10)が出てきてeVentが注目され、ティートンブロスがネオシェルのツルギジャケット(*11)を出してきたあたりで「もうこれは知っておかないとやばい」となり、俺の中では透湿の方に舵を切りました。だから、ポンチョ→軽さ→透湿っていう順で自分の中でのセレクト基準は変遷してます。でも、改めて通気っていうものを理解しちゃった後は逆に悩みが出てきた。選択肢が増えたぶん、ここで新たに自分の中の指針を決めたいなって思ってます。

*6 シルナイロンのポンチョ シルナイロンとは薄手のナイロン生地両面にシリコンをコーティングし高い撥水性をそなえた防水生地。そのポンチョは軽量かつ換気性が高いため、現在のような超軽量レインウェアがなかった2010年前後のULハイカーに人気を博した。

*7 コロラドトレイル コロラド州にある全長486マイル(約782km)のトレイルで、最高地点は標高4000m以上。土屋さんは2011年と2012年に訪れている。

*8 ヘリウムジャケット アウトドアリサーチ社のレインジャケット。2010年に発売され、200g未満という当時としては画期的な軽量性で瞬く間に当時のULハイカーの定番アイテムとなった。

*9 親水性無孔膜のパーテックスシールド ヘリウムジャケットに使われていた防水透湿素材は2.5レイヤー(表地とメンブレンの2層に加え、内側に肌への貼り付き防止のための印刷をほどこした生地)のパーテックスシールド。水をひきつける性質(親水性)の穴のない(無孔質)ポリウレタンのメンブレンで、軽量性に優れるものの透湿性は疎水性多孔膜やナノファイバーに劣る。

*10 スペクタースモック モンテイン社が2012年に発売したレインジャケット。3レイヤーのeVent(注3参照)を使用し、210g(Mサイズ)という当時としてはずば抜けた軽さを誇り、ジッパーを配したアノラック型のデザインも非常に先鋭的だった。

*11 ツルギジャケット ティートンブロスが2013年に発売したレインジャケット。当時新素材で通気性の高いポーラテック社のネオシェル(注2参照)が採用されたことで注目を集めた。

UL All-Weatherのインプレッション

夏目 今回、おふたりには事前にUL All-Weatherの試作品をお試していただいたんですが、どんなインプレッションをお持ちでしょうか?
 
桑原 僕は今回、フューチャーライトとシェイクドライという素材特性的に競合したメンブレンを使った製品、あといちおう普通のウインドシェルとも比較をしてみました。どれも2週間ほどかけて気温15度前後、湿度が50%ー60%ぐらいの状況で1−2時間ぐらい走ってテストしたんですが、どれも蒸れても脱ぎたくなるまで嫌な感じにはならなくて、差があるとしたら、シェイクドライは若干暑く感じたかな。ウインドシェルがさも快適かと思ったら、たしかに通気はするけど素材が柔らかくて肌にはり付くので、すごくアドバンテージがあるわけでもないと感じました。日が出てるときはウインドシェルの方が多少快適ですが、All-weatherは通気性が高いので、坂を登ったり降ったりしても、ある程度快適に走れたんですね。そこは結構驚きでした。とくにAll-weatherは生地にハリがあるぶん肌にはり付くようなことが起こりにくくて、ウインドシェルと比べても、ある程度選ぶ理由があるとも感じました。でも、家に帰る1キロぐらい手前でクールダウンしようとランをやめて歩くと、帰るまでの間に一気に寒くなるんです。それほどヌケるから、そんなふうに停滞したり運動終わった後にこれ1枚だったらその後どう自分の体温を維持するか計算は必要だと思いますね。でも、こういった通気系ウェアって、止まったり、風が抜けたときに中がサラっとするじゃないですか。あれはやっぱりすごく良いですね。
 
夏目 その風が入ってきてサラッとするのって、例えば通気系じゃないシェイクドライでもありますか?

桑原 シェイクドライだからヌケが悪いとは感じなくて、それって要は、レイヤー構造にあるのかなと。僕にとってのシェイクドライのポジティブな点って表地がない(*12)ので、メンブレンから出た透湿がそのまま表地に引っかからずにヌケるところ。

*12 シェイクドライのポジティブな点って表地がない 注4参照。

土屋 俺はそれってもう透湿スピードの問題だと思うんだよね。シェイクドライもそうだけど、ゴア系のものって、いわゆる親水性無孔膜と透湿のメカニズムや速度は近いはず(*13)じゃない。でも、基本的にいわゆるナノファイバー系のやつってメンブレン自体がスッカスカでヌケるのがシェイクドライよりも早いはずだから、内側のライナーに残ってる湿気がもともと少なくなっているんじゃないかな。だから風が入ったりした時にもともと衣服中にある湿気が少ないから、一気に乾いた感じがするのかなって想像してる。

*13 親水性無孔幕と透湿のメカニズムや速度は近いはず 注1、注9参照。ゴアテックスは親水性のコーティングが施されており、衣類内の湿度をいったん吸収し外部に放出するという親水性無孔メンブレンに似た透湿メカニズムと推測される。

夏目 土屋さんは使っていただいてどうでした?
 
土屋  いちばん最初に結論をいうと、昔の夢が叶ったなと。夏目さんがウチの店によく来ていた2010年くらいの頃って、「ウィンドジャケットが雨具の代わりになれば完璧だじゃね?」ってよく話してたよね。ヌケがいいウインドシェルが登場してきて、表面の撥水性が良ければポンチョなんかと同じように使えるんじゃないかって。だけど、結局撥水だけじゃ耐水圧が低いから無理だったんだよね。だから、All-Weatherがヌケが良くて、軽くて防水で、重さだってウインドシェルと変わらないってなったときに「あ、これ10年前の夢が叶った」って思った。フラットな場所で歩くぐらいの速度ならほぼほぼ不快感ないんですよ。

渡部  既存のレインだと歩くとき不快感ありました?

土屋  あるある。とくに親水性無孔膜とかはやっぱ絶対ペタつくし。 ただ時期的な問題もあって、これテストしてるときって肌寒い時期だったから、過ごしやすいのよ。だから、もっと暖かくなった時期にどう感じるかはわからない。山にも何度か持っていったんだけど、気温がある程度低い10°C前後ぐらいだと日が出て無風の状態で着ててもヌケがめちゃくちゃいいから背中はもちろん汗かくけど全然着られる。そこは、これまでのものとは明らかに違うなっていうのは感じた。運動強度がもっと上がったり、もっと気温が上がったときにどうなるかはわからないけど、日本の夏山で想定されるであろう10°C前後の肌寒いから何か着たいって瞬間に関して言ったらば、ウインドシェルと兼用できるぐらいのヌケ感は持ってるなって思いました。ウインドシェルって、例えばパタゴニアのフーディニジャケット(*15)とかブラックダイアモンドのディスタンスウインドシェル(*16)も、最近のものって比較的機能を防風の方に振ってるんだよね。ウインドシェルが出てきたときのヌケ重視から、わかりやすい防風や保温っていうに方向に振るようになってきている(*17)ので、そことは対等に戦えるっていうのは感じました。ただ、慶ちゃんも言ったように、止まったときに一気に冷えるよね。それはやっぱりショックはあった。今、ウチでお手伝いしているトレイルバムで山と道さんのUL Rain Hoody PU Sosuiと同じパーテックスシールドプロ(*18)のレインウェア(ウォーカーシェルジャケット)をやってるんだけど、俺、あれでも抜けると思ってたし、実際抜けるんだけど、それでもやっぱり止まってるときの肌寒さが全然違った。なんで、レイヤリングは考えないとまずいよね。でも、行動着としては完璧とまでは言わなくても、新しい提案にはなってるってすごく感じました。

*15 フーディニジャケット パタゴニア社が2004年に発売したウインドシェル。100g程度という軽さとパッカブルになるコンパクトさから素材を変更しつつ現在も販売されるロングセラー商品となっている。

*16 ディスタンスウインドシェル ブラック・ダイヤモンド社が2019年に発売したウインドシェル。高い撥水性が特長。

*17 ヌケ重視から、わかりやすい防風や保温っていうに方向に振るようになってきている かつてのフーディニジャケットは現在のものよりも通気性・透湿性が高かったという説がある。

*18 パーテックスシールドプロ パーテックスシールド(注9参照)とは異なり疎水性多孔質のポリウレタン製メンブレン。

夏目   ありがとうございます。僕自身もこれを開発していて、まさに行動着として積極的に使えることの感動と同時に、やっぱり停滞したときに一気に冷える、ヌケてしまうということに驚いて、面白いけどこれは注意しないといけないことをすごく感じました。だからこそ今回はレインウェアって名前は使わずに「これは行動着だ」ということを日々使ってもらうことによって善し悪しをわかってもらいたいと思ったんです。それでAll-weatherって名前を使いました。
 
土屋    「これは雨具ではない」と想定したらば、とにかく保温の対策を絶対に何かしらするべき。とくに山の場合、仮に森林限界より上、かついわゆる盛夏ではない時期の梅雨明け前とか9月中旬以降みたいな時期に使う場合、これそのものは全く保温着にはならないことは、ひたすらに注意をしないと体が動かなくなる。売る側も「基本的にこれは体を保温するっていう部分に関してはウインドシェルとかシャツと同じレベルで考えてくださいね」っていうのを、口酸っぱく言わないと誤解を招くよね。
 
三田   山でレインウェアを保温着として着るシチュエーションって、樹林帯はTシャツ1枚でOKだったけど稜線に上がった瞬間に風がビュービューで、何か1枚着ようってことが多いと思うんですけど、そういうときも寒そうですか?
 
土屋 それは使えると思う。そこで停滞したら寒いけど、行動を継続するんだったら大丈夫。
 
夏目 防風性は完全だから。

土屋 このAll-weatherで注意するべきことって、1枚着たからといって体温が上がりもしないし下がりもしないってことだと思うんだよね。すごく風が強くて気温も低いからウィンドジャケットじゃ間に合わなくてレイン着ちゃえってシチュエーションあるじゃないですか。そういうレベルで言ったときに、これはウインドシェル相当って理解をしておくといいねっていうだけ。でも基本的には着れば風は防げるし、そこそこ安心感もあるんけど、そこから暖かくなるわけでも熱がこもるわけでもない。下手するとそのまま着て動かなければ、逆に気化熱で体温がどんどん下がっていく可能性もあるよ、っていうことの注意喚起だけはしておかないといけないってことだと思うんです。だから、稜線で着れないとかじゃないんだよね。保温力に関しては位置づけ的にシャツです、ウインドシェルですっていうだけ。
 
三田  おそらくこの通気性と軽さをこの次元で両立させようとなると、たぶん、もうどうにもならないですよね。生地の薄さとか考えると、この重さで保温性とヌケが両方あるみたいな状態は…
 
土屋   無理だね。

夏目 求めていたものはこれだったと僕は思うんですね。行動着として使えるレインウェア。でも、改めてこうやって形になってみると、行動着として使えるってことは保温性も低いってことなんだけど、いざ形になってみると、従来のレインウェアも少し蒸れるぶん保温性もあったのがよかったことが見えてきた。
 
桑原 どっちを重んじるかですよね。同じレインウェアを使ってても、これヌケが悪いなと思ってたレインウェアが、あるシーンでは保温性があってよかったと思うわけだし。運動強度と気温の均衡が取れてるときは全然いいと思うんですよ。でも、僕がさっき言ったような運動強度がぐっと落ちたときに一気に寒さへの対処は必要ですね。

UL All-weatherのレイヤリング

夏目 まさにそこが僕たちがユーザーの皆さんにもお伝えしたいところで。そこで今回、おふたりにはAll-weatherにはいったいどんなレイヤリングが有効なのか考えていただいたんですよね。

桑原 はい。では僕の方から紹介させてもらうと、まずドライレイヤーとかファーストレイヤーみたいな疎水性のインナー(*19)は、とくにトレイルランニングだと絶対着てた方が良いと思います。通気性はいいから走り続けてもこもらないんで、脱ぎたくなるまでの不快感には至らないんだけど、やっぱり汗はかくんですよ。走っているとあまり気づかないだけで、速乾性のベースレイヤーを着ていてもかなりウェアに汗がたまります。ランはストップ&ゴーで運動強度の落差が大きくて、止まったときにその汗で体温が下がってしまうことが結構あるので、ファースト/ドライレイヤーを着ていた方がまずいい。それと、停滞した場合のために、中から外に出ていく空気の流れをシャットアウトしたいなと思ったんですよ。中にウインドシェルを1枚かまそうかとかも考えたけど、それってこれがウインドシェルの代わりになるのに無駄だよな、とか考えて(笑)。それで、今日はウインドシェルに中綿を薄く張り合わせたトレラン用の軽量の保温着を持ってきました。そういう軽量なもの1枚持っておいて、運動後にさっと羽織って中の熱が逃げないようにする工夫。そのふたつはやっぱ必要だなと思いましたね。

*19 疎水性のインナー 肌着(ベースレイヤー)の下に着用するウェア。ポリプロピレンなど水を弾く疎水性の生地や、かさ高のメッシュ構造生地を用い、肌の水分をすばやく吸い上げ遠ざける機能をもち、汗冷えが起こりにくいとされている。

桑原慶さん(Run Boys! Run girls!)のレイヤリング

土屋  俺の場合は慶ちゃんと違って、レイヤリングするならこの上にかなって考えた。体温が気化熱で奪われてしまうのを何で防ぐかって考えたときに、ハイカーって意外と不精でさ。雨が降っても「レインウェア着るの面倒だな」って俺は思いがちで。てなったときに、レインを脱いで他に何か着るよりは上から着た方がいいなって。それこそ山と道さんのものだったらば、パーテックスシールドのプロの方(UL Rain Hoody PU Sosui)を上から着るとか。あと自分がいちばん使えるかなと思ったのが、もう保温だけを考えたら、化繊のインサレーションを上から羽織っちゃえばいいんじゃないかなって。化繊インサレーションだと基本的に縫い潰しがないからコールドスポットもない(*20)し、当然風も避けてくれるしってなったときに、ハイキングでもいわゆるビレイジャケット(*21)的なインサレーションの使い方を念頭に置いてみると、いけるかなって思ったんだ。テストするタイミングがなかったので、ここはもう完全に妄想なんだけど。

*20 縫い潰しがないからコールドスポットもない 天然の羽毛(ダウン)はウェア内での偏り防ぐために表地と裏地を縫い合わせる(縫い潰し)必要があり、暖気が逃げていく(コールドスポット)。多くの化繊綿(化繊インサレーション)はシート状に成形されているためその必要がない。

*21 ビレイジャケット ロープなどでクライマーの安全確保(ビレイ)を行う際の使用を想定したジャケット。ビレイは待機時間が長く、動きも少なく、寒冷状況や天候の急変といった事態にも備えなければならない。そのためビレイジャケットにはダウンと異なり濡れても保温力が維持される化繊インサレーションが多く使われている。

土屋智哉さん(Hiker's Depot)のレイヤリング

夏目   あと、フロアレスシェルターやタープ泊のグラウンドシートとしてもよく使われるSOLのエマージェンシーブランケット(*22)あるじゃないですか。それをバックパックの取り出しやすいとこに入れておいて、寒かったらさっと羽織るとか、そのポンチョ状のもの(*23)を上に羽織るとか。あと、アルファ(*24)やオクタ(*25)みたいなインナー的なアクティブインサレーションとの組み合わせもすごくいいですね。

*22 エマージェンシーブランケット アルミを蒸着したシート(エマージェンシーシート)やブランケット(エマージェンシーブランケット)は身体から放射される熱を閉じ込める効果があり、宿営時の敷物(グラウンドシート)としても使われている。

*23 そのポンチョ状のもの SOLブランドよりヒートリフレクティブポンチョ、サバイバルポンチョなどの名称で販売されている。

*24 アルファ ポーラテック社が開発したアクティブインサレーション素材。通気性、速乾性、重量に対する保温性に優れる。通常の中綿素材ポーラテック・アルファと単体でも使用できるポーラテック・アルファ・ダイレクトがある。アルファ・ダイレクトは山と道のAlpha AnorakやLight Alpha Vest/jacketなどにも使用されている。

*25 オクタ 帝人フロンティア社による中空ポリエステル繊維。断面が8本の突起からなるたこ足状になっており、保温性、通気性、速乾性、軽量性などに優れる。保温行動着(アクティブインサレーション)の素材として使用されている。

夏目彰(山と道)のレイヤリング

渡部隆宏(山と道ラボ)のレイヤリング

土屋  確かにこの中にオクタやアルファみたいなアクティブインサレーションと組み合わせるのはやりたかったな。
 
桑原  アクティブインサレーションって通気性がウリなので、止まったときは抜けがあるぶん壁にはならなくて、熱が出て行っちゃわないですか?
 
夏目 いくらAll-weatherが通気性が良いと言っても、普通の服に比べたらちょっと通気しているだけでほぼ通気しないのと一緒で、風に関しても99%はカットされるんですね。運動量によりますが、アクティブインサレーションであれば行動中はヌケが良く、停滞時の保温はある程度担保できるんじゃないかなと思います。
 
土屋 慶ちゃんはいま、これも通気、インサレーションも通気だから、全部抜け出ちゃうんじゃないかってことを言われたとおもうんだけど、夏目さんは、通常の綿もののジャケットも、アルファでもオクタでも、その上側にいわゆる通気性の高いナイロン地を貼っていて、それである程度防風性を担保できるじゃん。それよりは、通気しないからって、そういうことだよね? 
 
夏目 そういうことです。
 
土屋  あと、これ夏目さんからむかし聞いたと思うんだけど、TJAR(*26)の選手でレインウェアを2枚重ねて着ている人がいるって話あったじゃない? 「なるほど!」って思ったし、俺の中ではかなり衝撃的な話だったんだけど、ここまで軽くなったらそれも普通に考えられるよね。じゃあ上に着るものをそんなふうに雨具にするのか、それとも保温性がありつつコンパクトなものにするのかとか、道具を考えることがさらに楽しくなるし、逆に言うと、すごく語弊があるかもしれないけど自分で考えられない人は買わないでっていう。

*26 TJAR =トランスジャパンアルプスレース(Trans Japan Alps Race)。富山湾から北アルプス・中央アルプス・南アルプスを縦断して駿河湾までの約415kmを8日間以内に走破する「日本一過酷」とも言われる山岳耐久レース。
 
夏目 ちょっと危険性ありますね。
 
桑原 それで思ったのが、山と道はこういう場を設けたりとか、なぜ自分たちはこれを作ったのかとか、作ったけどこれ危ないからもうちょっと考えようぜとか、そのストーリーを同時にやっているじゃないすか。僕は結構それ大事だと思っていて。例えば、最近よくレインウェアについて調べてたせいでそういう広告が僕のPCで上がってくるんですけど(笑)、当たり前だけどどれも広告的切り口なんですよね。メリット、デメリットとか素材の特徴よりも、「これ1枚あれば安全」みたいな切り口でしか伝えられてなくて。ユーザーでこのコンテクストを消化しきれてる人って、どんだけいるんだろう。もちろん個人で掘り下げられる人もいるけども、でもメーカーからのこういったメリット/デメリットも含めた発信って僕は実はすごく大事だと思っていて、それも含めてすごくこの製品は価値があると思いました。

夏目 ありがとうございます。
 
土屋   この話って山と道ラボのレインウェア編の座談会でもやったし、その後も雑誌のPEAKSさんでやったパーテックスさんのトークイベントでも話したじゃない。あのときも雨具は今後、通気性重視の行動着として進化するのか、それとも保温着として体温保持の方で進化していくのかで大きくわかれていきそうだみたいな話をしていて。それからこうして行動着として積極的に使える雨具がついに出たのもトピックスだし、プラスやっぱりそれを実際に使ってみたら、結構クセ強いよね、みたいな(笑)。山と道の雨具はUL Rain Hoodyもそうだったけど、かなり実験的だと思うんですよ。フロントのファスナーをなくすとかもそうだし、それに伴ってフードの形状がちょっと変わっていたり、あれはやっぱ新しかったし、All-weatherに関してはもう素材そのものだし。山と道は一見おしゃれに見えるけど、UL原理主義だからね。
 
一同
 
土屋  俺、よく店でも言うからね。「山と道は羊の皮をかぶった狼」だって。
 
三田 レインウェアに足りなかった最後のピースがこれで埋まったとも言えるじゃないですか。でも、ここまでずっと通気性が良くて軽いものを目指してきたけど、いざできてみると、思っていたよりもクセが強かったっていうのは面白いですね。
 
土屋  最後のピースなのか、新たな謎を投げつけているのはわからないけど(笑)。
 
夏目  新たな入口だと思います。

行動着として使えるレインウェアが与えるインパクト

夏目 ようやくできた行動着として使えるレインウェアが、ハイカーやランナーに与えるインパクトってどんなことがあると思いますか。
 
土屋 インパクトはある。この10年以内で山を始めた子たちにとってはどうなのかはわからないけど、たださっき言ってたみたいにウィンドジャケットと雨具が一緒になったらすごく最高だよねって議論を知っている人たちだったりだとか、あとはソロでガシガシ歩くような人。友達とのんびり話しながら歩くんじゃなくて、とにかくひたすら歩くようなアクティブなハイカーにとったら、これでウィンドジャケットいらないからウェア1枚減るかもだし、これが正解かはともかく、自分の装備を見直す良いきっかけになる。ただ、いわゆるハイキングを普通に楽しんでいる多くのハイカーにとっては、クセがつよいぶん、そこまでこれがいいのかっていうと、そうとも言いきれない。むしろトレイルランナーとかの方が恩恵が大きいんじゃないかな。だから、すごく良い意味での問題作。

桑原 走ってるときとか最初に着たときのヌケ感はインパクトを与えるかなと思います。あと、とくにUL All-weather Pantsはトレイルランナーにとってはすごくありがたい軽さと動きやすさで、いま出てる軽量なレインパンツだと、ノースフェイスが出しているストライクトレイルパンツ(*26)と、あとはOMMのヘイローパンツ(*27)くらいだし、通気系のレインパンツという意味でも誰もやってなかったところに入ってくると思います。

*26 ストライクトレイルパンツ 同社には3レイヤーの極薄防水透湿素材を用いたストライクトレイルフーディというジャケットがあり、110g程度という軽量さからトレイルランナーに支持されている。同じ素材を用いたパンツも130g(Lサイズ)と軽量。

*27 ヘイローパンツ 2レイヤーの防水透湿素材を用い重量はわずか69.5g(Sサイズ)。
 
夏目 個人的にUL All-weather Pantsはかなりおすすめで、生地にハリがあるからはり付きも少ないし、行動着としてここまで使えるというのは想定していなかった。
 
土屋 ウチだとティートンブロスのブリーズパンツ(*28)を雨の日は最初から下着の上に履いてもいいですよって話をしてたんだね。あれって重たいけど強度はあるから、ヤブ漕ぎとかありそうなシチュエーションでも使える。でもUL All-weather Pantsもここまで軽くてヌケル上に普通のパンツみたいに使えるならいいね。まだ自分では試せていないからなんとも言えないけど。

*28 ブリーズパンツ ティートンブロスが販売するレインパンツ。かつてはポーラテック・ネオシェル製だったが、現在は東レと共同開発した独自防水透湿素材のアクアブレスが使用されている。

三田 ほんと寝間着で着てもいいぐらいな着心地ですよ。
 
土屋 確かにここまで抜けると寝袋に皮脂をつけないためにはいて寝るのとかもありうるなって思う。
 
夏目 今までのレインウェアだと着たまま寝袋に入っても、どうしても身体の熱が寝袋に伝わりにくいから寒かったじゃないですか。でもこれだと熱が寝袋に通るので。
 
土屋 やってみた?
 
夏目 UL All-weather Pantsに関してはまだ試していないけど、UL All-weather Jacketでは試していて、伝わりますね。それでまたさらに装備が変わるなって思って。

渡部 お店に来たお客さんがたとえばAll-weatherと同じナノファイバー系のネオシェルやフューチャーライトで迷っていたら、どんな基準でアドバイスされますか?
 
桑原 All-weatherは超軽量でフューチャーライトはストレッチ性があるので、より軽量なものか動きに追随するものかというところでウチはお勧めするかなと思います。

土屋 うちはフューチャーライトは取り扱っていないのでネオシェルとの差で話すると、既存の日本のマーケット上にあるネオシェルのものでこんな薄いのない。だから軽さではまずおすすめできる。でも、現時点の感覚ではこれを冬に使うのは俺はやっぱり怖いので、そうなると気温の差でどちらを勧めるって話になるかな。無雪期/積雪期とまでは言わないまでも、対象とする気温が0度前後まで落ちるなら、ネオシェルの方が現状ありかもしれない。でも、そうじゃない温度帯、プラス5度ぐらいまでのところだったらば、十分これで対応ができるよっていうような話はするかな。

夏目 ありがとうございます。薄い生地ですけど、レイヤリングを工夫すれば寒い時期も使えるかなと僕は考えています。

桑原 これが出たことで、それを補うべく、また何か開発のアイデアは広がりそうですね。
 
夏目 そうなんです。
 
土屋 俺、超作ってもらいたいものがあるんだけど! これができたことで、自分でこういうのを作りたい、こういうのがあったらいけるのではとか、もうあるのよ。それが楽しい。
 
三田 土屋さんはもうパッキングは完成しきっていたわけじゃないですか。そこにこいつが波紋を投げかけるというか。
 
土屋 着方にしてもサイジングにしても、自分のやり方だったらどういうパターンがいいのかなっていうのを考えたくさせてくれるよね。久々にこれはやられたな。作っているのは前から知ってたけど、「ついに来たわ!」って感じ。

【了】

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