山と道

【特別編 全天候型行動着の誕生】

【山と道ラボ特別編】
防水ウインドシェル=全天候型行動着の誕生
#1 通気する防水透湿素材ナノファイバーメンブレン

「山と道ラボ」では過去10回にわたり「レインウェア編」を掲載してきました。

その内容は、レインウェア市場を俯瞰して整理するマクロな視点から、各防水透湿メンブレンの分析や電子顕微鏡による解析、独自試験によるスペックの比較や評価といったミクロな視点まで広範かつ多岐にわたり、レインウェアとそのテクノロジーについては相当な知見を得てきたつもりでした。

ところがその後、山と道としても新たにナノファイバーメンブレンを用いた新素材「パーテックス・シールドエア」を採用した製品(UL All-Weatherシリーズ)を開発することとなり、その過程で得た知見により、これまで推測に留めていた見解や過去の分析をアップデートする必要性を感じました。

そこで全3回のレインウェア特別編として、まず#1となる今回は通気する防水透湿素材ナノファイバーメンブレンをふまえ改めてテクノロジーと市場の整理を行い、次回#2では山と道ラボらしく、実際の着用テストを通じてその特徴を浮き彫りに。そして#3ではハイカーズデポ土屋智哉さん、Run boys! Run girls!の桑原慶さんをお招きしレインウェアシーンの現状について鼎談を行っていきます。

「超軽量かつ超高通気」という新たな次元に到達したレインウェアの現在に、どうぞ刮目ください!

文/写真:渡部隆宏(山と道ラボ)

ナノファイバーメンブレンと
シールドエアの革新性

3つの防水テクノロジー

通気する防水透湿素材ナノファイバーメンブレンとは、ナノレベルの極細繊維(ナノファイバー)を幾層にも重ねることで網目状の構造に成形した不織布状の防水透湿膜のことで、この製法を「エレクトロスピニング法」と呼ぶ。

過去の山と道ラボ『レインウェア編』においては、大きく防水透湿素材を「親水性無孔」「疎水性多孔」のふたつに区分していたが、ナノファイバーメンブレンとは製法的にそのいずれにも属さないもので、第3のテクノロジーと表現することができる。

ここでおさらい的に、ナノファイバーメンブレンを含め3つの防水透湿テクノロジーを整理しておきたい。

1. 親水性無孔

水を引きつける(親水)性質のポリウレタン(PU)を用いた*メンブレン。メンブレンには孔(穴)が開いておらず、生地内部の湿度をタオルが湿気を吸いとるように吸収した後に外部に湿気を放出する。

*素材にポリウレタンではなくポリエステルを用いたものもある。

孔が開いていないため生地を薄く軽くしやすいというメリットがあるものの、透湿のメカニズムはいったん吸湿して乾くという間接的なものであるため、蒸れを感じやすい。

代表的な素材としてはパーテックス・シールドザ・ノースフェイスのハイベントなどが挙げられる。

2. 疎水性多孔

水を弾く(疎水)性質のテフロン(ePTFE)またはポリウレタン(PU)を用いたメンブレン。メンブレンには微細な孔が開いており、この孔を通じて湿気が外部に蒸発する。孔が開いているため強度的に生地を極薄にすることが難しく、親水性無孔に比べると重量の面では不利だが、湿度のヌケ感は良好。

孔が皮脂などで汚れた場合には防水性と透湿性が低下するため、防汚のためのコーティングを施すなどの工夫がなされている。

代表的な素材としては、テフロンを用いたものとしてeVent、ポリウレタンを用いたものとしてパーテックス・シールドプロなどが挙げられる。ゴアテックスは疎水性のテフロンの膜に親水性の防汚コーティングを施しており、素材構造的には疎水性多孔だが透湿メカニズムとしては親水性無孔に近いと考えられる。

3. ナノファイバー

水を弾く(疎水)性質の極細ポリウレタン(PU)糸を網状に編んだ構造体で、孔が開いているという点では疎水性多孔と共通しているが、その製法が大きく異なる。

疎水性多孔における「孔」は大きな塊のチーズに開いた穴のようなもので、断片的かつ膜の上下を貫いていない場合もある。そのため疎水性多孔は透湿こそするものの、空気がメンブレンを通り抜けるという意味での通気性はほとんどない。一方でナノファイバーはヘチマ(たわし)のような無数の間隙をもつ構造体であり、透湿のみではなく実際に通気する。この通気するという性質が透湿性とあいまって、抜群のヌケ感をもたらす。

代表的な素材として挙げられるのは、ザ・ノースフェイスのフューチャーライト、ポーラテック・ネオシェル、そしてパーテックス・シールドエアなど。

メカニズム一覧

*1:ゴアテックスについては様々なバリエーションがあり、裏地のコーティングを廃して透湿性を高めたものも存在している模様
*2:ポーラテック・ネオシェルのメカニズムについては公表されていないが、通気するという特徴と電子顕微鏡写真からナノファイバー・メンブレンと断定した

素材でも変わる防水素材の特性

かつて山と道ラボでは「親水性無孔は水を吸うタオルのようなもの、疎水性多孔は水を吸わないが穴が開いたしなやかな金網のようなもの」と表現したが*、よりすき間の多いナノファイバーというテクノロジーへの理解が深まるにつれ、疎水性多孔を金網にたとえるのは正確ではないことがわかってきた。実際にはそれほどすき間が多いわけではなく、ナノファイバーに比べれば通気も極めて限定的と考えられる。

*山と道ラボレインウェア編#6参照

過去に山と道ラボが実施した検査によると、疎水性多孔でも低い水準ながらわずかに通気するもの(eVentやシェイクドライ*)と全く通気しないもの(パーテックス・シールドプロ)のふたつに分かれ、その理由がわかっていなかったが、現在では、その違いは素材の特性にもとづくのではないかという仮説を得ている。

*高圧をかけるKES法による検査結果。一般的な繊維の通気性検査(フラジール法)ではeVentもシェイクドライも通気性は測定限界以下であった。

疎水性多孔メンブレンは、素材を延伸し薄い膜を作ることで成形するが、ポリウレタン(パーテックス・シールドプロなど)は弾性があるため延伸しても孔が広がりにくい。一方でテフロン(eVentやシェイクドライ)は弾性に乏しいため各所が裂けたような状態となり、ナノファイバーメンブレンのように見えることもある。この素材特性の違いから、テフロン多孔膜の方がすき間が多くなり、わずかに通気するという結果になったと考えられる。

【各素材の測定データ】

*1:山と道ラボが検査機関を通じて測定した独自データ。通気性−「JIS L 1096フラジール法」、透湿性−「JIS L 1099A-1法」、耐水圧−「JIS L 1092 B法(Kpaをmmに換算)」。透湿性と耐水圧は100の位で四捨五入。入手できた生地のバリエーションやクオリティにはバラツキがあり、テストする箇所により結果が異なる可能性があるため、参考値としての取り扱いとなる。
*2:公表値は入手できたデータにもとづく(ゴアテックス、パーテックス、eVent、ネオシェルなど、いずれもバリエーションによって数値に差異あり)
*3:5回洗濯後数値

ナノファイバーの先駆け
ネオシェル

その「通気する」という特徴から、ナノファイバー・メンブレンはトレイルランニングやファストパッキングといった、常時大量に発汗するような負荷の高いアクティビティに適性が高い。

しかしながら、これまでレインウェアの市場ではトレイルランニングやファストパッキングなどの用途を意図した製品の多くは軽さを特徴としており、通気についてはこれまで透湿とそれほど区別されていなかったのではないだろうか。

ナノファイバーの先駆けであるネオシェルは今から10年前、2011年に発表されている。ザ・ノースフェイスが激しいアクティビティを想定し「通気性」を明確にうたったフューチャーライトを発表したのが2019年であることをふまえると、非常に先駆的なテクノロジーであったと考えられる。フューチャーライトの登場であらためてネオシェルにも脚光があたり、「通気」という特徴が市場で再度注目されるようになってきたのではないだろうか。

軽量化が難しいナノファイバー

上記のように、ナノファイバー・メンブレンは特性的には高負荷のアクティビティに向いているものの、現状のネオシェルもフューチャーライトもそれほど軽量な生地ではない。ジャケットの重量は200g台の中盤から300g程度で、100g台前半のレインウェアも珍しくない今日ではやはり重い部類である。

いくら生地の通気性が良いとしても、その重量が運動性を妨げる可能性もあり、またパッキングにもかさばるため、ランニング用の軽量ウェアというよりも結果的に耐候性を備えた比較的重厚なコンセプトの製品となるケースが多いように思われる。また、しっかりとした生地厚がもたらす保温性が高そうな印象も、クールダウンを求める高負荷のアクティビティにマッチしない。

一方で防水性の低さも指摘されており、かつてネオシェルの耐水圧は10000mm程度とされていた*。多くの場面では十分なスペックと考えられるが、他のテクノロジーと比べ相対的に低い水準であることは否めない。間隙の多いナノファイバー・メンブレンを強度をそこなわない範囲で薄く軽くし、かつ高い耐水性をあわせ持たせるのは、技術的に高いハードルであることは想像に難くない。

*上表のデータのように、実際には生地のバリエーションによってもう少し高い耐水圧のものもある模様

なぜシールドエアは軽いのか?

パーテックス・シールドエアは、シールド、シールドプロに続く、ナノファイバー・テクノロジーを採用したパーテックス第3の防水透湿素材である。

軽さを特徴とするパーテックス・ブランドを冠するだけあり、生地重量は50g/㎡から60g/㎡程度と、従来のナノファイバー素材に比べて圧倒的に軽量である(ジャケットにすると100g台前半~中盤に相当する)。運動性を損なわない軽さと通気するというヌケの良さを両立し、かつ高い耐水性を備えるなど、従来のナノファイバー・テクノロジーにない特徴をそなえた画期的な素材と言える。

なぜ、シールドエアがここまでの軽量化を果たすことができたのかメーカーに確認したところ、パーテックス・ブランドの強みである超軽量な表地との組み合わせが大きな理由であるという。

もともとナノファイバーメンブレンは間隙が多く、膜は厚いものの軽い構造である(通常0.02mmほどの厚みだが、0.007mm−0.01mm程度の親水性無孔メンブレンに匹敵する軽さ)。しかし軽量な表地との組み合わせは簡単ではなく、とくにナノファイバーの特長である通気性を損わず、かつ強度も犠牲にしないようメンブレンと生地を接着することには相当のノウハウが必要とされるという。この点については、長年にわたって超軽量生地を手がけ、表地とメンブレンを一体的に開発できるパーテックスの強みが活かされたと言える。

軽さよりも画期的なこと

ナノファイバーとして大幅な軽量化に成功したパーテックス・シールドエアだが、むしろ技術的には、軽量化よりもメンブレンを従来より均質に保つことに成功したことが画期的であるという。

ナノファイバーは製法および構造的に厚みや密度のバラつきが発生しやすく、薄い部分は耐水圧が低くなるという課題があった。そのため各社は耐水圧を保守的な低い水準で見積もるか、公表値そのものを設定しないという状況であったようだ。シールドエアはこの課題に対応するため、メンブレンの均質化に焦点をあててチューニングしたところ、防水透湿素材の基本である耐水圧を保証値として公表できる水準に保証し、かつ透湿性、通気性をも高次元でバランスさせることに成功したという。

こうして誕生したシールドエアは、これまで空白だった「軽量なナノファイバー」という条件を満たし、過酷な環境下におけるファストパッキングやランニングといった負荷の高いアクティビティにおいても大きなメリットをもたらすと期待される。

【概念図:テクノロジーとアクティビティの適性】

防水ウインドシェル=全天候型行動着の誕生

以下に示すのは、過去のレインウェア編#2で図示した、行動する環境(タテ軸)と行動負荷(ヨコ軸)の組み合わせに製品カテゴリーを配した市場のマッピングである(最新の製品トレンドやその後のスタディを踏まえ改変)。図中には各カテゴリーにおける主な素材を記している。

【シールドエア以前のカテゴリーマップ】

かつて想定したマップでは、最も右側に位置する負荷の高いアクティビティに適した150g未満の超軽量ジャケットを「防水ウインドシェル」とカテゴライズしていた。

ただし今になって振り返ると、この区分は主に重量のみで判断したもので、実際にウインドシェルのヌケのよさと軽さを兼ね備えた製品が存在していたわけではない。素材としてはポーラテック・ネオシェルやフューチャーライトのような通気する防水透湿素材が最も当てはまるが、これまでにミニマムな仕様の軽量製品は存在していなかった。

しかしながら軽量なパーテックス・シールドエアの登場により、このマップを修正せざるを得なくなった。これまでは真の意味での「防水ウインドシェル」は存在しておらず、単なる軽いレインジャケットに過ぎなかったのではないか。

パーテックス・シールドエアの登場により、ウインドシェルのようなヌケの良さとレインウェアの耐候性を備え、極めて負荷の高いアクティビティにおいても常時着用できる、超軽量な製品が可能となった。すなわち文字通りの「防水ウインドシェル」がようやく実現したと言えるのではないか。これはあらゆる局面で着用したまま行動ができる、「全天候型行動着」とも表現できる。

山と道がこの度(2021年6月)発売するパーテックス・シールドエアを用いた「UL All-Weather」シリーズの製品名も、この「全天候型」というコンセプトにちなんでいる。

【シールドエア登場以降のカテゴリーマップ】

次回#2では山と道ラボらしく、親水性無孔、疎水性多孔、ナノファイバーという3つの代表的防水透湿テクノロジーをそれぞれ採用したパーテックスシールド/シールドプロ/シールドエアを同一条件で実際に着用して行った試験の模様をお届けする。

『#2 実際に着用しての比較試験』に続く。

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