重い女が軽くなる。
26歳UL入門記#2

2021.07.08

この春(2021年)、新たに60歳のベテランから23歳の新社会人まで、男性、女性、既婚者、未婚者とバラエティに富んだ個性豊かなスタッフが加わり、一段とパワーアップ(?)した山と道。なかでも、面接時に提出したテキストとイラストの魅力を買われて採用されたのが本稿の主役の26歳青髪女子、寒川奏でした。

ともあれ、山と道が標榜するウルトラライト(UL)ハイキングはおろか、アウトドアもまだ素人同然の寒川。ならば、そんな彼女がULハイキングに入門していく様を研修がわりに記事化していけば、新人教育と原稿作成が同時に行えるではないか! と閃いた山と道JOURNALS編集部。「まあ、彼女なら面白いの書いてくれるっしょ」と、子を千尋の谷に突き落とす獅子が如く、とりあえずUL修行の道へ送り出したのです。

#2となる今回は、現在、全国の山と道HLCで開催しているプログラム『山と道のウルトラハイキング入門』のHLC鎌倉での初開催前に、スタッフを集めて行われたリハーサルに寒川が参加した模様を綴ります。お陰様で多くの方に参加していただいている『山と道のウルトラハイキング入門』でどんなことが行われているかのレポートにもなっていますので、そちらにご興味ある方も是非!

イラスト/文:寒川奏
写真:大竹ヒカル

山と道新人スタッフの寒川奏(さんがわかなで)です。皆様よろしくお願いいたします。

私はイラストを描いたり、鎌倉の某ワインバーでワインを注いだり、こうしてときどき文章を書いたり、色々やっている26歳の女です。

知識経験のないベイビーハイカーな私のウルトラライト(UL)入門記。今回は山と道のプロジェクトHLCに参加しました。駄文ではありますが、ぜひ最後まで温かい目と心で読んでやってください。

息をするたびに重いバックパック

山と道でお世話になることが決まり、HLC鎌倉の「山と道のULハイキング入門」のリハーサルに参加させてもらえることになった。

山と道HLCとは日本各地を舞台に「ハイク」と「ライフ」と「コミュニティー」をつなげるプロジェクトのこと。このプロジェクトが開催するプログラムは多岐に渡る。ULハイキング初心者でも安心して参加できるもの、ハイカー同士の交流のためのもの、様々なレベルの「ハイカー」と「ライフ」と「コミュニティー」をつなげてくれるプログラムなのだ。

その様々なプログラムの中から今回はULハイキング初心者の学びの場で勉強だっ(しかし内心はこんな何も知らないペーペーに参加する資格があるんかとドキドキ)。

ということで新人スタッフの私にとってはHLC初参加にして他のスタッフの方との初顔合わせ。

当日の持ち物は「秋の低山や夏のアルプス等、最低気温-5℃、最高気温20℃ほどの山行を想定した装備」を詰めた己のバックパック(食品や消耗品は除く)。前の週に前回綴ったように瑞牆山に行った私は「こりゃあちょうどいい」と帰ってきて荷解きをせずそのままにしていた。

そう、私が「子泣き爺が入っている」と確信したあのバックパックと中身である。

またも子泣き爺が絶好調だ。自宅から鎌倉市材木座にある山と道研究所までは自転車で約10分弱、しかし子泣き爺を背負った私は約20分かかり、漕ぐ度にキーキーと軋む自転車のノイズで耳がキンキンしていた。なんならボロボロに剥けたサドルの皮が私の尻の皮をも剥いてきて痛い。どうやらバックパックも自転車も買い替えが必要なようだ…。すでに疲れているが「山と道のULハイキング入門」、はじまりはじまり〜!

己の重みを知る

山と道の考えるULハイキングの魅力や内容を知り、ULハイキングの実践に繋げていくことを座学形式で学んでゆくプログラム。持参した道具を元にギアリストを作っていかに自分が重いのか、軽いのか、理解し、取捨選択の方法を学んでゆくのだ。子泣き爺、覚悟しろよ〜!

まずは空欄のギアリストや、スタッフのキムさんのギアリスト記入例などが渡される。それらを眺めているとどんどん参加者が集まり始めた。皆ギアや山の話で盛り上がっている。頭の中の私が山話の引き出しを開けるがそこは空っぽ。この空っぽの中を私はどんな情報と経験で埋めていくんだろうと思いながらぼんやりと子泣き爺からの体の解放を楽しんでいた。

まずは山と道スタッフのキムさんとJKさんからウルトラライトハイクとは何か? という説明を紙芝居形式で受ける。おふたりの名掛け合いで楽しくわかりやすい解説だ。ULハイクにおいて「量る、選ぶ、替える」ということの重要性やベースウェイトの目安など、思わず「なるほど」と口からこぼれる。ただキムさんの汗がすごい。代謝がいいのか、緊張されているのか。紙芝居はどんどん捲られてゆくが、私は汗だくのキムさんから目が離せないでいた。

向かいに座っている人同士でペアになって交代でお互いのギアリストを作りあう。

私のペアは同じく新人女性スタッフの大竹さん。大竹さんは私と同年代でありながらも山の経験が豊富でULっぷりもすごい。「この人『ULハイキング入門』来なくていいのでは?」レベル。知識、経験、さらにその白い肌でさえ色黒で無知、無経験の私とは正反対な女性。こんなペーペー色黒とペアになることになってしまって申し訳ない。でも私はあなたに興味津々です。

まずは私のギアリスト作成から始まった。自分のギアをどんどん出して計量する。

ULハイキング入門のギアリストには食料水燃料など消耗品は含まない(スマートフォンではピンチ&ズームで拡大してください)。

35lのバックパックが1,440gだと…⁈ 山と道のバックパックの中でいちばん重量があるONEの容量が55lで823g。ONEの方が全然軽くていっぱい入るじゃん! とまあご覧の通り私のギアは物量こそ多くないがひとつひとつが無駄に重い。ベースウェイトの総重量は7,266g。「元気な双子の赤ちゃんですよ」と言われてもおかしくない重量だ。

量っていると時々JKさんやキムさんがアドバイスをくれ「アルミホイルを蓋として持っていくのはいいね」など褒めてもくれる。

「この間の山はどうだった?」とJKさんに聞かれた。正直に「馬鹿みたいに重くてめちゃめちゃ自分にムカつきました」と答えたらJKさんがニカーッと笑って「いいねえ、ルーキーハイカーはみんなそうやって始まるんだよ」。

そうか、これでいいのか。こんなペーペーでも、いいんだ。

続いて大竹さんのギアリスト作成の番。まずパッキングのスマートさに驚かされた。私のギアリストにもあるSOLエスケープビビィ(シュラフカバー的なもの)をパックライナーとして活用。確かにビビィは防水で、雨から荷物を守ってくれる。さらにパックライナーとして使うことでそのぶん荷物と重量を減らすことができるのだ。

大竹さんと私は同じものを持っているのに全く違う使い方をしている。とりあえずビビィをパックライナーとして使うアイデアは絶対真似しよう。こうやって、情報を共有していくことが次のハイクがもっと楽しくさせてくれる。

大竹さんは山と道MINI2のサイズMを使用していた。MINI2のサイズMは容量が最大35l、重量が387g。容量は私のバックパックと同じだが1キロ以上MINI2の方が軽い。

なんだろう、まだレベル2くらいの手持ちポケモンしかいないのにポケモンバトルに出されてる気分。まだその辺の茂みでピジョンとか倒してレベル上げる段階なのに。その後も大竹さんの繰り出すポケモン(ギア)たちは強豪ぞろいだった。

どれも勉強になる。細かいエマージェンシーキットの中身や、同じ女性という目線から、「サニタリー類はどうしている?」「山と道で下着作って欲しいよね!」などお互いに共感する部分もあった。経験値に差はあっても共感できる部分がある!

そして己と向き合う

ここまで約2時間ほどかけて進んできた。昼休憩をはさんで午後の部スタート。

完成したリストを見ながら、お互い反省改善タイム。リスト上でもう持っていかないと確信するものは赤に、要変更のものは黄色に、次も持っていこうというものは青に塗り替えた。私のギアリストはピカチュウを思い出させるほどに黄色い。

ポケモンマスター大竹さんにはカメラ機器の重さを反省。しかし私も赤ワイン1本持って行ってるし今後もそれはやめない。ワインは消耗品なのでリストに含まれない。が、とても重い。

嗜好品は十人十色、自由でありながらもうまく他の重さとのバランスを取るべきものである。大竹さんはあまり口数が多い方ではないように思う。しかし大竹さんの写真は雄弁に感じる。素敵な表現方法だからたとえ重くても持っていくことをやめないで欲しいなと思った。まああたしゃあんたくらいULにできてたらあと3本ワイン持ってっちゃうけどね!

私のULを考える

その人にとってちょうどいい重量こそがいちばん軽いのではないかと思う。その人が生きて出会ってきた道具たち。ただお店に行っても全ての道具は揃わない。生きて、経験して、得る。その人の生き方のお土産のような、持っている意味と理解ができているもの。数字上の軽さだけがULではなく、「その人にとってちょうど良い」がULなのではないかと私は思った。おそらく。きっと。多分。

それぞれの反省タイムが終わり、またまたキムさんとJKさんの長年の夫婦漫才をも思わせる掛け合いのULハイクの解説紙芝居がスタート。キムさんは相変わらず汗をかいている。

紙芝居と合わせて、JKさんのパッキング方法のお手本とギアを見せてくれた。やはりJKさんのギアたちはひとり何役もつとめているようなスマートなものがある。例えばライターに使う分だけのガムテープ(このガムテープは焚き火の際にとてもいい火付けになるそう)を巻いて、スペースを節約。トレッキングポールはテントのポールとしても活用など。

ULハイクをする人たちにとっては常識的な道具の使い方ひとつひとつが私を驚かせた。私の山話の引き出しにどんどん情報が入っていく。

私も含めて、そこにいる全員がお互いを参考にし合う。HLCは各々のULハイクへの意見や経験、学びをシェアできる場なのだ。

もうすぐ終わりの時間。あっという間だった。

紙芝居の最後は偉人たちの言葉で締められた。その中でも私は老子の「足るを知るものは富む」という言葉が印象に残った。

常に人はもっともっとと求め続ける。それはある面では向上心、ある面では盲目とも言えると私は思う。ULはそんな欲深い人間たちへのリマインダーのよう。

いらないものってたくさんある。たくさんの言い訳と一緒にずっと持ってしまってそれは私の重荷になっている。3年間付き合った元カレにもらった指輪とネックレス、捨てよう。この溜まりに溜まった脂肪もいらない、痩せよう(そんなに簡単ではない)。

さて、予想外に自分の生き方さえ見直すこととなったHLC鎌倉「山と道のULハイキング入門」。次回は前回の反省とHLCで学んだことや情報を活かしていざキャンプだ!

HLC鎌倉「山と道のULハイキング入門」の実際の様子

      【#3に続く】

      寒川奏
      寒川奏
      1994年生まれ。デンマークでデザインを学び、ノルウェーに1年間在住。現在は鎌倉でイラストを描いたり、ワインバーにいたりする。食べることとお酒が大好き。目標は今を精一杯生きること。イラストのお仕事大募集中。インスタグラムアカウント @kanadesangawa_doodle
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