山と道

HLC Ambasador’s Signature #1
廻谷朋行『源流釣行』

日本各地のローカルで活動されているアンバサダーのみなさんと共に、「ハイク」と「ライフ」と「コミュニティ」が循環的に繋がる環境づくりを目指した活動を行っている山と道HLC。この『HLC Ambasador’s Signature』は、個性豊かなアンバサダーのみなさんの「シグネチャー」とも呼べるアクティビティやフィールドを語ってもらうリレー連載です。

第1回目となる今回は、HLC北関東でアンバサダーを務める一方、山と道パートナーショップの栃木県黒磯市『LUNETTES』スタッフでもある廻谷朋行さんに、「源流釣行」の世界を昨年のHLC北関東プログラムの様子を交えながら綴ってもらいました。

沢登りとフライフィッシングに焚き火やバックカントリー・クッキングの要素までをも含む「源流釣行」は、まさにアウトドアの本流とも言えるアクティビティ。記事中盤に出てくるおいしそうな源流岩魚料理を見てしまっては、すぐにでも釣竿を買いたくなってしまうかもしれません。

大の男たちが夢中で魚を追いかける2日間のレポートが楽しそうと感じたら、「源流釣行」のプログラムは今年も開催しますのでぜひ!

文/写真 廻谷朋行
動画 Kan Matsuzaki

はじめに

毎年、3月が近くなるとそわそわしはじめる気持ちは、釣りをする人なら分かってもらえるだろうか。HLC北関東の那須・黒磯には全国屈指の清流「那珂川」が流れる。この那珂川流域の解禁日が3月1日である。

解禁されると、待ってましたとばかりに沢は釣り人で賑わう。例年、新緑が美しい5月になってようやく通いはじめるが、今年は雪が少なかったこともあり、早々にスキーブーツからウェーディングシューズに履き替えた。しかし緊急事態宣言が全国に及ぶと、例に漏れず釣りも自粛することにした。

本来ならば今年の6月はHLC北関東でも源流釣行のプログラムが実施されているはずだった。UL装備で沢の奥まで入り野宿をする感覚や、源流釣りの魅力をぜひ味わってもらいたかった。このHLC北関東ならではのプログラムの魅力を少しでも伝えられたらと思い、昨年の源流釣行のプログラムを振り返ろうと思う。

源流釣行とULハイキング

8月下旬、集まったメンバーは地元の那須・黒磯に住む参加者3名と山と道スタッフの中川さん、『LUNETTES』店主の水戸、アンバサダーの廻谷の計6名。全員、フライフィッシングの経験者で釣り歴も長い。

数日間降り続いた雨は少なからず予定している源流域にも影響を与え、毎日水位情報とのにらめっこが続いた。プログラムを予定していた源流域は登山道がほとんど整備されていないため、雨の程度によっては増水と登山道の状態など危険な可能性があるからだ。予定通りプログラムを決行するかギリギリまで悩んだ。

運良く、プログラム数日前にその源流域に行った『LUNETTES』常連の方から現場の状況を詳しく聞くことができ、最終的に別のエリアに変更することにした。変更したエリアは林道が残っており、沢を歩かなくても入渓ポイントまでアプローチできることもあって、ある程度リスクを減らせる。

そしてエリアを変更したことで、新たな試みとして入渓ポイントまで林道を自転車で登ろうということになった。こうしてウルトラライトハイキング(UL)とフライフィッシング、そして自転車という新しい組み合わせを実験することになった。

せっかくなので、私の1泊2日の源流釣行の装備を紹介しようと思う。

シェルターがタープに変更になるくらいで普段のハイキング装備とほとんど変わりはなく、それにフライフィッシングの道具が追加される。

ライフィッシングの道具は、竿、リール、毛針、リーダーとティペットと呼ばれる先に付けるライン、毛針を浮かせるためのスプレー、ナイフ、熊よけ用のスプレーとピストルで計625g程度なのでたいした重量ではない。それに源流行の道具としてノコギリ、サンダル、網が追加される。

源流釣りでは、ハイキングの時には必須となる水を持ち歩く必要がないのでその分軽くなる。また燃料に関しても焚き火が許されるエリアであれば、予備程度の燃料だけで十分となるのでパックウェイトの多くを占める水と燃料(魚が釣れれば食料も)を持たなくて良いことになる。

このことを踏まえても源流釣行はULは相性が良いと思う。ハイキングの普段の道具に加えて釣り道具が増えるが、とくに大荷物になることもない。まあ、道具が軽くなったぶんお酒が増えるので、最終的な重量は重くなるのだが…(笑)。

またフライフィッシングには釣りに行く前から楽しみがある。事前にどの種類の毛針を巻いて持っていこうか、どのマテリアルを使おうか、色々考えるのが楽しく、釣りに行く前からワクワクする。

自転車でのアプローチ

こうして遂にプログラム当日がやってきた。LUNETTESに3時に集合し、それぞれのクルマで登山口の駐車場に向かい、4時頃には駐車場に着いた。源流釣りに行くときはだいたい太陽が昇る前に集合する。そこから各自、自転車(なかには折りたたみ自転車という猛者も)で入渓ポイントまでアプローチすることになった。

まだ薄暗い中、ライトの明かりを頼りに沢の横を通る林道を自転車で進んでいく。時おり目に入る美しい渓相に釣りをはじめる前から心が躍り、自然とみんなのペダルを漕ぐスピードが上がっていった。

普段歩きで1時間半くらいかかるところが、自転車でアプローチしたことで30分ほどで入渓ポイントに到着できた。各々荷物を置き、ザックからビールを取り出し、沢で冷やしはじめる。

ビールが冷えるまでは寝床作りだ。みんなで取り掛かり、タープ3枚を繋ぎ合わせて近くの木に紐で結び、流木を支柱に立てるとあっと言う間に寝床が完成した。先ほど冷やしておいたビールを開け、アプローチで乾いた喉を潤す。

はじめに飲むビールの種類には気を使う。個人的にはIPAよりセゾンやセッションIPAがいい。それか定番のピルスナーも最初の一杯にいい。まあ、どんな種類でもこの綺麗な景色を肴に飲めばうまいのだけど。

ビールを飲みながら、今日は釣れるか、何が釣れるか、尺(約30cm以上)が釣れるかと、期待だけは高まっていく。いつものことなのだけど、釣りはじめる前は釣れる気しかしないのだ。

そんな話をしながら1缶目のビールが空になる頃、ようやく釣りの準備が始まった。この時点でまだ6時。たっぷりと釣りをする時間がある。

この沢は他のエリアよりも人が多く入っているということもあり警戒心が強く、慎重に釣りをしないとすぐに逃げられてしまう。一度逃げられるとその日はほぼほぼ釣れない。

ポイント毎に慎重にフライを落としていく。あれだけ釣りはじめる前は釣れる気しかしなかったのにいまは魚の気配も感じない。だいぶ釣り上がってきたけれど、経験豊富な参加者でもいまだに反応がない。

複数人での釣行ではポイントごとに交代で釣り上がっていく。一箇所のポイントで2投から3投して魚の反応がなかったら、すぐに次のポイントへ移動する。もしくは魚が釣れるか、2~3箇所のポイントを投げて魚が釣れなくても次の人に交代する。

これがよく釣れるときはどのポイントでも魚の反応があり、10時間も釣りをしていて1キロメートルも進んでいないこともあるし、全く釣れないときは釣れそうなポイントだけ投げていくのであっというまに進んでいくこともある。

参加者のひとりがやっと1匹目を釣り上げると、ようやく魚の姿を見れたことで自然とニヤケ顔になっていた。魚が釣れた時の嬉しそうな表情は年齢関係なく一緒だ。そこからポツポツと釣れはじめる。初めて那珂川の源流域を訪れた山と道の中川さんも釣れてホッとした。

まあまあのサイズが釣れると夜に食べるためにネットに入れてキープする。ひとまず人数分キープできると、次は刺身ができるサイズが欲しくなってくる。

人は欲深い生き物だなとつくづく思う。天然岩魚の塩焼きが食べられるだけでも贅沢なのに。

なんとか刺身ができそうな岩魚が釣れ、時計に目をやると15時を回っていた。源流は日が暮れるのが早い。明るいうちにデポしていた魚たちを回収しながらテン場に戻ることにする。

源流での宴会

テン場に着くと、自然と魚をさばく人、焚き木を集める人、焚き火の準備をする人と不思議と役割が分かれる。

手際よく捌かれる魚たちを眺めながら、いつも命を頂くということを考える。生き物を自分でさばき、食料にするという行為を日常で経験することは一般的な私たちではなかなかないことだ。感謝の気持ちを持ってあますところなく頂きたいと思う。

太陽が沈み、沢に夜が訪れると起こした火に薪をくべていく。焚き火の火が大きくなると宴会の始まりだ。

刺身、焼き、素揚げ、骨酒と余すところなく魚をいただく。源流で野営しないと食べられない岩魚の刺身は淡白な味。刻みネギと生姜醤油で食べてもうまい。

塩焼きは遠火でじっくり焼きたい。魚に塩を振り、網に乗せて焦げないように気をつけながら焼く。ふわふわに焼きあがった身も旨いが、一晩じっくりと焼き枯らした身も旨味がぎゅっと詰まっていて骨ごと食べられてこれもまた旨い。どちらも甲乙つけ難い旨さだ。

刺身にした岩魚の骨は素揚げにする。内臓も綺麗に洗ってタレをつけて焼けば、コリコリとした食感と噛むごとに溢れ出る旨味は立派なホルモンだ。この岩魚のホルモンを初めて食べたときの驚きは忘れられない。

魚をつまみに焚き火をしながらのお酒は進む。参加者同士どんな道具を使っていてどんな工夫をしているのか。普段はどこに釣りに行っているのか。年齢も経験も異なる人たちが楽しそうに話をする姿を眺めているのも嫌いじゃない。

そんな話でお酒が進み、夜遅く焚き火が小さくなるまで話はつきなかった。

※このプログラムは環境省が指定する国立公園及び保護区から外れたエリアで行いました。

さらに源流へ

朝、明るくなって目が覚める。小雨がパラパラしていて2日目は天気が微妙そうだ。

先に起きていた参加者にコーヒーを頂く。いつも豆を持参しているそうで、この日も豆から挽いて淹れてくれた。寝起きでまだぼーっとした頭が次第に起きてきた。

濡れたウェーディグシューズに足を入れるヒヤッとした感覚と濡れた感覚が毎度のことながら慣れない。その瞬間を我慢して靴を履き釣りの準備をする。

2日目は昨日釣ったところは素通りし、林道が続くところまで自転車で行き、そこから歩いてさらに奥を詰める。テン場から1時間ほど登ったところから釣りをはじめる。

1日目に試しに入ってみた参加者の話だと反応が良いらしい。重い空とは反面期待は大きくなる。昨日よりもしっとりとした渓相を釣り上がっていくうちに昨晩の宴会で重くなった体も次第に軽くなっていく。

2日目も渋いなか、各自反応があり少ないながらもしっかりと釣り上げられた。さらに奥へと進む。沢が狭くなり水量が少なくなってくるとそろそろ終わりかと思いきや、ひとつ岩を越えるとまた沢が開け水量も十分あったりする。

十分に楽しめたところで時計と地図を眺めながら、帰るタイミングを決める。奥に進んで行くと、水量も乏しくなり藻が張り始めた。地図を見ながら林道に上がれる場所を探し、この辺りで引き返すことにする。

帰り道は完全な雨。入ったことのない源流に来れたこと、さらに奥の源流への期待から、みんな満足した表情だった。

帰り支度が終わり、自転車にまたがる。帰りは下りなので非常にラクだ。来た時よりも短い時間でクルマまで戻ると、もう夕方だった。存分に自然を満喫した2日間だった。

おわりに

緊急事態宣言も解除され、少しずつ沢に足を運ぶようになった。今年は昨年の台風19号の影響で渓相は大きく変わっていた。いつもは深いたまりになっていたところが浅瀬になっていたり、昨年までとは流れが変わっていたりと、魚のいるポイントも変わっていて違う沢に来たような感覚になる。産卵時期に直撃した台風で流されてしまったのではと心配になったが、元気に泳ぐ魚たちが見れてホッとしたと同時に生き物の力強さを実感した。

先日、今年もこのエリアに釣りに出かけたが、台風の影響で道は昨年より崩れているように思える。林道の荒れ具合も昨年よりひどく、今年は自転車で奥まで入るのは難しそうだ。この時はタイミングに恵まれ、よく釣ることができた。同じエリアでも様々な条件で釣れることがあるから楽しい。

街からクルマで1時間でこのような場所があるということは、普段は当たり前すぎて忘れそうになるが、那須エリアは非常に恵まれた環境なのだなと改めて実感する。

人気のある沢は自然と人も多くなる。人が多くなればその分、競争が生まれることもあるし、自然へのダメージも多くなる。釣りを楽しむ者同士、思いやりを持ってみんなで分かち合えたらと思う。

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