HIKERS’ CLASSICS #1
中村モトノブ (EDIT -design & supply-)

2018.02.27

誰にでもある、思い出の道具やどうしても捨てられない道具、ずっと使い続けている道具。

今回から始まるHIKERS’ CLASSICSは、山と道がいつも刺激を受けているハイカーやランナー、アスリートの方々に、それぞれの「クラシック(古典・名作)」と呼べる山道具を語っていただくリレー連載です。

記念すべき第一回の寄稿者は、グラフィックデザイナーの中村モトノブさん。EDIT-design&supply-名義でロゴマークやTシャツ等のデザインを多数手がけている、名古屋のハイキング/ランニング/自転車コミュニティのキーパーソンです。

NOTE

文/写真提供 中村モトノブ

軽いもの、コンパクトなもの、地味なもの

いつから山に行こうと思ったのかは思い出せないのだけれど、僕の地元には鈴鹿山脈があり、おそらく運動不足解消のためとか、当時熱心だったロードバイクやランニングのトレーニングだったりとか、そんな理由だと思う。この山と道JOURNALSにウルトラライト・ハイキングや自分がこれまで使ってきた道具について書くとき、過去の記憶をもう一度思い返してみることは、自分自身のこれまでの歩みを復習する良い機会にもなると思う。

ハイキングを始めた頃、完全に見た目で購入したブラックダイアモンドのRPM。縦長で丸いシルエットが気に入っていて、適当にパッキングして鈴鹿の山を日帰りでウロウロするのが楽しかった。ただ一緒に山に行く友人もいなく、ハイキングの楽しさやTipsに限界を感じていたのも事実。そこで当時参考にしていたのがブログだった。

そこにはどの山岳雑誌にも載っていないようなウルトラライト道具考やTipsがちりばめられていて、リンクをたどって数多くのブログを見てまわった。『山より道具』『できるだけ山』『Beyondx』『blues after hours』…… 枚挙に暇がないのだけれど、なかでも『夜明けのランブラー』のランブラーさん(現在は超軽量のカーボンストックRunblurを制作している千田誠さん)が僕と同じ30リッター程度のRPMで北岳に登ったレポートには衝撃を受けた。「もっともっと軽くできるんだ! 」と、僕のウルトラライト・ハイキングの扉が開いた瞬間だった。それから鈴鹿の山で実践あるのみの日々が続いた。

そうして軽い道具で山を歩くうちに、気づくことがあった。

「あ、山に登るのどうでも良いかも」

僕は頂上を目指すより、森の中を歩いている方が好きなのだ。そして良い場所があれば、ゴロリと寝てしまいたい。ザックに入った必要最低限の道具さえあれば、「これだけで生きていけるんだ」という束の間の森の住人感を味わえる。そんなこんなで、人の少ない鈴鹿の山ならではの楽しさや道具の選び方が身に付いていった。「重いものより軽いもの、大きいものよりコンパクトなもの、派手なものより地味なもの」こんな感じだ。

SNSの爆発的な広がりによってブログの更新頻度が落ちていった代わりに、もっと近場での繋がりもできた。2012年、近くのアウトドアショップで山と道の展示会があるというので勇んで出かけた。そこでSNSやブログをきっかけに声をかけてもらい、山友だちをつくることができたし、近くに同じ趣味をもつ人がいるのがうれしかった。

その後も名古屋の某台湾料理屋でハイカーズミーティング(という名の飲み会)を開いたりして、山友だちの輪はどんどん大きくなっていた。そして現在もOMMやOMM BIKEに参加したりして苦楽を共にしているのである(笑)。

誰かと一緒に行くと他の人の道具を見たり、使い心地を聞いたり、地に足がついた情報を得ることができた。その一方で、SNSを通して膨大な情報が襲いかかってくる。おかげであまり使われもせずお蔵入りになった道具も多くなっていった。「あれ?  道具自体は軽いけれど、モノがいっぱいあるのはウルトラライトじゃなくない? 」と感じるようになり、それから多くの道具を手放した。

厳選した手持ちの道具だけで山に行くことで、気持ちも軽やかになったような気がしたし、妙なこだわりもなくなった。とはいえ、目新しい道具をインターネットで見ると、ソワソワするけど。

ペラペラのザックやアルコールストーブなどのウルトラライト・ハイキングのアイコニックな道具ももちろん大好きだけれど、一周まわってやっと自分にとっての“ちょうどよい道具選び”ができるようになってきたのかもしれない。

そんな愛すべき道具と友人と、また山に行こうと思う。

Motonobu Nakamura's CLASSICS

  • Black Diamond: RPM

    偶然にも僕をULにつなげてくれたザック。見た目に反して収納力は高いしデザインも好み。持ち出す機会はほとんどないのだけれど手放したくはない。たまに街で使うと贅沢なショルダーハーネスと背面パッドに感動する。マスプロメーカーとかガレージメーカーとか関係なく良いものは良い! これに尽きる。っていうか僕にとって思い出と夢が詰まったザック。1代目はすでにリタイアして、これは友人が譲ってくれた2代目!

  • Trangia: Mini Trangia

    煮る、炊く、焼く。何でもござれ。サイズ感もちょうどよくオールマイティ。アルミのクッカーで多少雑な扱いをしてもびくともしない頼もしさを持っている。クッカーを選ぶとき、まずこれをベースに考えることも多い。付属のハンドルが多少頼りないが、クッカー界のクラシックアンセムのひとつだと思う。蓋のフライパンのポッチを潰してあるので開けるときにバコっ!と中身が飛び出さない。

  • Integral Designs: Sil Wing

    名は体を表すの言葉通り、羽を広げたようなシルエットはカテナリーラインを多用し風にも強い。高く張ったり低く張ったり、ポールを立てる位置を変えたり、タープならではの自由度が高い。シルナイロン製で張りやすく、どこかの万博のパビリオンのような美しい姿も好きな理由。340g程で収納もコンパクト。ガイラインが多いため狭い所では張りたくない。最近ではゴロ寝が多くてタープやシェルターの出番が少ないのが寂しい…。

  • 山と道: 5-Pocket Pants

    短パンの季節以外は着用率98%を叩き出す僕の定番パンツ。山に行くときは当たり前として、それ以外の日々も足を通す。生地がストレッチする訳ではないけれど、まったくのストレスフリー。自転車移動がメインなのでお尻の生地が薄くなったり、破れたりしがちだがその前兆が起こる気配もない。ポケットの大きさ深さも絶妙で、他のパンツだとペダルを漕いでいるとポロっと物が落ちる時があるのだけれど、このパンツは今まで一度もない。暑い季節はもちろん山と道 5-Pockets Shortsだ。山と道JOURNALSだから褒めまくっているのではなく、マジで良いからっ!!

  • Sanpo’s Fun Lite Gear: Sanpo CF Stove

    このストーブの作者サンポさんと初めてお会いしたのは、かつて山と道が主催していたイベント『鎌倉ハイカーズミーティング』の2回目だったと思う。その時は緊張もあり言葉多く話をすることができなかったのだけれど、その後、何度かお会いするうちに仲良くしていただき、軽妙な話し方、かわいい笑顔、底なしに豊富な知識ですっかり魅了されてしまった。なんていうか、そんなストーブなのである(笑)。 そんなサンポさんにもイビキがうるさいとか欠点があるように、蓋の締まりが甘くなって中のアルコールが漏れたりしたが(1回分のアルコールでしか運用しないので問題なし!)、見た目の美しさ、簡単な使い方などを考えると、そんな欠点はまったく取るに足らないものだ。

  • MYOG Alcohol Stove

    空き缶で自作したアルコールストーブ。ガス缶バーナーの便利さにはほど遠いが自作ということもあり愛着のある一品。クッカーにも収まりがよく、持ち出す回数はかなり多かった。何より「MYOG」というキーワードも重要で、他にもザックやスタッフサックを自作した。残念ながら僕にはセンスのかけらもなく「買ったほうが良い」という結論に。MYOG特集が掲載されたスペクテイター誌の 『OUTSIDE JOURNAL 2012』号からは多くの刺激をもらった。

  • Montbell: EX Light Down Anorak

    ご存知モンベルのインナーダウン。一時期、軽さを求めてほとんどのアウターがプルオーバーになってしまった時期があって、ちょうどそのときの一品。価格とスペックのバランスが素晴らしく「困ったときのモンベル」を体現している。モンベルのロゴがなぁ~って声も聞くが、僕は結構好きで、ロゴTシャツも欲しいくらいである。

    • Black Diamond: RPM

      偶然にも僕をULにつなげてくれたザック。見た目に反して収納力は高いしデザインも好み。持ち出す機会はほとんどないのだけれど手放したくはない。たまに街で使うと贅沢なショルダーハーネスと背面パッドに感動する。マスプロメーカーとかガレージメーカーとか関係なく良いものは良い! これに尽きる。っていうか僕にとって思い出と夢が詰まったザック。1代目はすでにリタイアして、これは友人が譲ってくれた2代目!

    • Trangia: Mini Trangia

      煮る、炊く、焼く。何でもござれ。サイズ感もちょうどよくオールマイティ。アルミのクッカーで多少雑な扱いをしてもびくともしない頼もしさを持っている。クッカーを選ぶとき、まずこれをベースに考えることも多い。付属のハンドルが多少頼りないが、クッカー界のクラシックアンセムのひとつだと思う。蓋のフライパンのポッチを潰してあるので開けるときにバコっ!と中身が飛び出さない。

    • Integral Designs: Sil Wing

      名は体を表すの言葉通り、羽を広げたようなシルエットはカテナリーラインを多用し風にも強い。高く張ったり低く張ったり、ポールを立てる位置を変えたり、タープならではの自由度が高い。シルナイロン製で張りやすく、どこかの万博のパビリオンのような美しい姿も好きな理由。340g程で収納もコンパクト。ガイラインが多いため狭い所では張りたくない。最近ではゴロ寝が多くてタープやシェルターの出番が少ないのが寂しい…。

    • 山と道: 5-Pocket Pants

      短パンの季節以外は着用率98%を叩き出す僕の定番パンツ。山に行くときは当たり前として、それ以外の日々も足を通す。生地がストレッチする訳ではないけれど、まったくのストレスフリー。自転車移動がメインなのでお尻の生地が薄くなったり、破れたりしがちだがその前兆が起こる気配もない。ポケットの大きさ深さも絶妙で、他のパンツだとペダルを漕いでいるとポロっと物が落ちる時があるのだけれど、このパンツは今まで一度もない。暑い季節はもちろん山と道 5-Pockets Shortsだ。山と道JOURNALSだから褒めまくっているのではなく、マジで良いからっ!!

    • Sanpo’s Fun Lite Gear: Sanpo CF Stove

      このストーブの作者サンポさんと初めてお会いしたのは、かつて山と道が主催していたイベント『鎌倉ハイカーズミーティング』の2回目だったと思う。その時は緊張もあり言葉多く話をすることができなかったのだけれど、その後、何度かお会いするうちに仲良くしていただき、軽妙な話し方、かわいい笑顔、底なしに豊富な知識ですっかり魅了されてしまった。なんていうか、そんなストーブなのである(笑)。 そんなサンポさんにもイビキがうるさいとか欠点があるように、蓋の締まりが甘くなって中のアルコールが漏れたりしたが(1回分のアルコールでしか運用しないので問題なし!)、見た目の美しさ、簡単な使い方などを考えると、そんな欠点はまったく取るに足らないものだ。

    • MYOG Alcohol Stove

      空き缶で自作したアルコールストーブ。ガス缶バーナーの便利さにはほど遠いが自作ということもあり愛着のある一品。クッカーにも収まりがよく、持ち出す回数はかなり多かった。何より「MYOG」というキーワードも重要で、他にもザックやスタッフサックを自作した。残念ながら僕にはセンスのかけらもなく「買ったほうが良い」という結論に。MYOG特集が掲載されたスペクテイター誌の 『OUTSIDE JOURNAL 2012』号からは多くの刺激をもらった。

    • Montbell: EX Light Down Anorak

      ご存知モンベルのインナーダウン。一時期、軽さを求めてほとんどのアウターがプルオーバーになってしまった時期があって、ちょうどそのときの一品。価格とスペックのバランスが素晴らしく「困ったときのモンベル」を体現している。モンベルのロゴがなぁ~って声も聞くが、僕は結構好きで、ロゴTシャツも欲しいくらいである。

      中村モトノブ
      中村モトノブ
      名古屋でグラフィックデザイナーとして働きつつハイキングやランニングに奔走。EDIT -design&supply- 名義でロゴのデザインやTシャツ等を展開中。
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