汗による不快感と臭いを抑える化繊ベースレイヤー『Chemical B』が新登場
帝人フロンティアと共同開発したベースレイヤーシリーズ「Chemical B」により、これまでの化繊ベースレイヤーの弱点だった「汗冷え」と「臭い」の問題を解消。
汗を素早く吸い上げ乾かす、肌と点接触の生地構造により汗冷えを抑え、さらに菌が発生しにくい弱酸性の糸で不快な臭いを防ぐ。まさに化繊とメリノウールの長所を併せ持ったベースレイヤーとして完成した。
これまで化繊を敬遠してきた人にこそ使ってほしい、山をアクティブに旅する人のためのベースレイヤー。
Chemical B シリーズの特徴
- 汗処理に優れ、長時間負荷の高い行動をしても快適
- 化学繊維でありながら防臭・消臭性に優れ、効果が持続
- メリノウールよりも軽量
- 薄いメッシュ生地ながら、毛玉ができにくい耐久性
制作ノート
なぜ化繊のベースレイヤーを作ったのか?
これまでメリノウールにこだわってきた自分が、なぜこの化繊のベースレイヤーシリーズ「Chemical B」を作ったのか?
始まりは、2019年から2020年にかけて、1年以上にわたり取り組んだ連載企画『山と道ラボ ベースレイヤー編』だった。
この企画の目的は、ベースレイヤーの機能について調査し、考察を深めることだったが、裏テーマとして、「メリノウールの素晴らしさを徹底的に検証し、その魅力を伝えたい」という思いもあった。
さまざまなベースレイヤー素材の比較試験も多数行い、消臭性の高さや調温調湿機能といったメリノウールの良さを証明する一方で、通気性や速乾性に優れる化繊素材の機能性にも改めて魅力を感じることになった。
「ウールのように臭わず、さらに耐久性や軽さでウールの弱点を補える化繊のベースレイヤーが作れないか⁉︎」
そんな思いがこのプロジェクトの出発点となった。
調査の初期段階で、ハイキングにおいては消臭性と保温性、トレイルランニングにおいては汗を素早く吸い取り、拡散・乾燥させる「汗処理」の機能性が特に重要であることが見えてきた。
そして、優れた汗処理には、メッシュやグリッド構造の薄手の生地で通気性を高め、1秒でも早く汗を蒸発させることに注力した「通気型」と、汗を肌から素早く遠ざけ、生地表面で拡散・放出して肌面をドライに保つ「拡散型」というふたつのアプローチがあることがわかった。
つまり、優れたベースレイヤーとは、消臭性があり、保温性(必ずしも暖かいを意味しない)、汗処理に優れた製品である。特に汗処理の機能性はハイキングでもトレイルランニングでも共通の重要なファクターだと理解した。
開発はリサーチから始まった。素材と製品の両面で現状を把握しながら進めたが、最初の2年はゆっくりとしたペースだった。というのも、メリノウール好きの自分にとって、積極的に着たいと思える化繊のベースレイヤー素材がなかなか見つからず、テストが進まなかったからだ。
プロジェクトが本格化したのは、帝人フロンティアとの取り組みが始まってから。臭いの原因菌の増殖を抑制する糸加工「エコピュアー®️」を使った試作生地の消臭性能に可能性を感じ、開発を加速させた。
エコピュアー®️によって消臭性を実現し、汗処理は、肌をドライに保つ「拡散型」を採用し、生地の張り付きの少なさにより汗冷えを防ぐことにした。「通気型」の汗処理は、暑い季節のトレイルランニングには適しているが、速乾が追いつかないほど大量の汗をかくシチュエーションや、高温多湿な日本の環境においてはその効果が限定的であると考えたし、長時間のハイキングや保温性の観点もふまえると肌を常にドライに保つ「拡散型」のほうが快適だと判断したからだ。
試作品は何度も作った。最初の壁は消臭性だった。次に汗処理、さらに耐久性と、ひとつの課題をクリアするたびに次の壁が現れた。でも、そのたびに製品が良くなっていき、自分でも着たいと思えるものへと進化していった。
メリノウールの魅力を伝え続けてきた山と道が、中途半端な化繊のベースレイヤーを出すわけにはいかない。メリノと比較しても、積極的に山で選びたくなる化繊ベースレイヤーを作る。その強い思いで、開発を続けてきた。
すべての課題を乗り越え、あとは成果の検証だった。着心地や使い方、運動量や汗のかき方は人それぞれだし、体臭や汗の成分も千差万別だからだ。今回はこれまで以上に多くの人にテストを依頼し、延べ人数はスタッフや関係者を含め、14人に及んだ。
こうして『山と道ラボ ベースレイヤー編』で調査・考察を重ねた内容が、5年の歳月を経て、Chemical Bとして結実したのだった。
その結果、多くの人にChemical Bに満足してもらえたが、同時に、消臭性の感じ方は人によって異なることもわかった。Chemical Bに優れた消臭機能を感じる人も多かったが、その感じ方の強度には差があった。
どんな人にとって消臭効果が高く、あるいは弱く感じられるのか? その理由を探るために、汗のアルカリ性と酸性のバランスに着目し、リトマス試験紙で汗の成分を100件以上測定したが、明確な答えにはたどり着けなかった。
Chemical Bは、運動直後に強く出るアンモニア臭の抑制には効果を発揮するが、酪酸やイソ吉草酸といった酸性の臭気成分──いわゆる「体臭」の一因とされる成分──への効果は限定的だった。人それぞれの汗の成分や体質の違いが、消臭性能の感じ方に差として現れている可能性がある。この謎は、今後も引き続き掘り下げていきたい。

2023年12月武田の杜 最初で最後のトレイルランニングレースにて(写真:平野僚)
ともあれ、どれほど数値やテスト結果を積み重ねても、最終的に製品の良し悪しは、実際に着て歩いたときにどう感じられるかがすべてだと思っている。
何よりも僕自身が満足している。僕がChemical Bを気に入っている理由は、消臭性以上にその「汗処理の快適さ」にある。汗を吸った後でも肌に張りつかず、不快感がない。これはメリノウールを超えていると感じる部分であり、暑く長い日のハイキングでは、Chemical Bを選びたいと素直に思っている。
レビュー
開発段階では試作品をスタッフや関係者などのべ14人がテストし、レビューをもらった。その中から、ロングトレイルや山岳耐久レースなど長期間に渡る山行での使用感を紹介。

アクティブ寄りの山行なら全部これにしたい
山と道では初のレーシーなスタイルの製品ではないかと思う。軽さ、速乾、コンパクトさ、どれを取ってもランやトレラン推奨で販売している他社製品と比べても問題ないし、むしろこっちを選びたい。山と道の100% Light Merinoをランでも使用しているが、ランや山でもアクティブ寄りの山行なら全部Chemical Bにしたいレベル。
TJAR(トランスジャパンアルプスレース)2024でもChemical B Sleevelessを長距離で使用したが、これ1枚で完結。レース後もキズ、ほつれ、目立った毛羽立ちなし。伸びはあまりない方なので、個人的にはワンサイズ大き目が動きやすい。

TJAR2024選手
通称ポップコーンことダスティン。アニメ、マンガ、ゲームを愛する動けるインドア派。基本的に家から出たくないが山を歩くことでギリギリひきこもりを回避している。仕事で海外を転々とした挙句に体重増加。ダイエットとおいしいビールのため走り始め、気付いたら日本縦断を5回していた。走るのは嫌い。リバウンドは友達。

化繊でも着替え不要という選択肢をくれた
アイスランドを縦断する約600kmのロングトレイルに、Chemical B Sleeveless を着ていった。そして、22日間そのまま脱がなかった。20日分の食料とテント泊装備を背負う旅だったが、歩くときも、寝るときも、ベースレイヤーはずっとこれ1枚だった。
日本に帰ってからも、せっかくだからそのまま着続けてみようと、最終的には30日間、着替えを一度もしなかった。さすがに最後は少し臭ったけど、それでも鼻をつくようなあの化繊臭はなく、むしろ「ん? 臭わないかも」と驚く日が続いた。あくまでも個人的な体感ではあるが、ここまで長期間にわたって使用してみても、このChemical Bの防臭・消臭性が高いことは間違いないと思った。
行動中に汗をかいても冷えにくく、汗だくになってもベタつかず、メリノウールのように摩耗に気を遣う必要がないのもありがたい。
ベースレイヤーはこれまでメリノウール一択だった自分に、Chemical Bは、新しい選択肢をくれた1枚だ。

山と道 鎌倉スタッフ
美術系出版社で書籍企画・編集者として従事したのちに独立。現在は山と道 鎌倉スタッフ、自身の会社の代表、編集、農業、狩猟ほか多くの顔を持つ。ライフスタイルにULハイキングスタイルを組み込み山と自然を楽しんでいる。

いつ臭くなるのか不安になるほど
ヨーロッパアルプス 14日間のロングトレイルで使用。
メリノほどではないが、今まで着用していた化繊と比べ物にならないくらい臭くならず、汗かきな体質でも、大量の汗をかいて保水して生地が重くなったり絞れるくらいにならなかった。サラッとしてベタつかないし重くならない。なぜか汗冷えしない。生地が化繊ぽいツルツルした感じがないのも良かった。
スイスアルプス14日間のハイキングで1回も着替えず、夜も着続けていた。気温は昼17~25°C、夜5~10°C。毎日かなり汗をかいたが、6日目まで臭いがなく、本当に化繊なのか、いつ臭くなるのか不安になるほどだった。7日目に背面下部(バックパックと密着し最も蒸れる部位)に臭いを感じた。前面や脇はなし。8日目は前面に塩吹きあり、白くなっているが臭いなし。9日目〜11日目は背面のみの臭いで着るのは抵抗ないレベル。12日目は歩いている途中でふんわり臭う気がした。13日目に、背面がそのまま着たくないレベルで臭ったので洗濯。最後まで前面は臭くならなかった。
ロングトレイルでもこれ1枚で十分なのは素晴らしい。着替え、洗濯などの行為がいらず毎日がとてもシンプルで快適だった。こんなに匂わず、肌離れが良く、乾きも早い、汗冷えしない製品ができたらこればかり選んでしまいそうです。

山と道 京都スタッフ
学生時代からしていたバックパッカーの旅の中で山登りにはまる。アメリカのジョン・ミューア・トレイルやチリのパタゴニアトレッキングをはじめ、カナダ・南米を中心に山を求めて旅をし、帰国後山と道スタッフに。走ることも好きでトレイルランニングも楽しんでいる。

化繊なのにすごい!
昨年の夏、海抜0mの日本海から北アルプスなどの山をつないで、富士山の山頂をゴールに歩いたときにChemical Bを使いました。
臭いについては1週間着続けても気にならず、「化繊なのにすごい!」とシンプルに思いました。あれほど乾きが早かったら、長旅のときにさっと洗って干しておけば乾くこともメリットです。メリノウールは汗冷えしない、冷えないと言われますが、やはり、濡れると肌にくっつき、体温が落ちる感覚があります。その点、Chemical Bは濡れても肌離れが良く、すぐに乾くという安心感がありました。
実は富士山でゴールした後、そのままみちのく潮風トレイルを歩きに行きました。みちのく潮風トレイルは山と町をつなぐ旅で、人里に下りるタイミングも多いのですが、消臭性がとても高いので、山から下りる時も自信を持って町に入れました。

山と道 京都スタッフ
海外のアウトドア文化に傾倒。2022年に北米のロングトレイル、パシフィック・クレスト・トレイル(PCT)、2023年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)、スペインのカミーノ巡礼を旅する。旅で出会ったULやハイキングカルチャーを多くの人と共感したいと考え、山と道へ入社。「自分らしい旅」を求めてこれからも様々なスタイルの旅を模索していこうと目論んでいる。
素材
帝人フロンティアが開発した、弱酸性を保つ抗菌素材「Ecopure®(エコピュアー®)」と同社の高機能ニット生地「DELTA®(デルタ)」を組み合わせた、通気性と汗離れに優れた点接触メッシュ構造の山と道オリジナル生地。
Chemical Bは、肌に点接触する生地構造で汗を素早く取り込み、スポンジのようにそれを生地表面へ吸い上げ、通気性の高いメッシュ層から効率的に拡散・蒸発させる。さらに高い通気性と速乾性を兼ね備えているため、汗をかいてもベトつかず蒸れにくく、肌を常にドライに保って快適な着心地が続く。
吸汗が早く汗戻りが少ないので、化繊ベースレイヤーに特有の汗冷え感が少なく、停滞時や悪天候下でも安心して着用できる。

295kPa:Off White
※上記データは自社検査値(測定値であり保証値ではありません)
※各カラー平均値(同カラー内で個体差有り)
帝人フロンティア Ecopure®
非金属製のpHコントロール技術により、汗をかいても生地表面が臭いの原因となるアルカリ性になりにくく、弱酸性に保つ素材特性を持つ。また繊維表面が親水化するので汚れが落ちやすく、皮脂汚れが残らないため衣服の清潔さを保つ。100回の洗濯後*も効果が持続する。
*山と道自社検査結果より
帝人フロンティア DELTA®
微細なクリンプ(縮れ)を持つ糸を高密度に編み、極めて平滑な表面構造を実現したニット素材。ソフトでストレッチ性に富んだ生地はピリングやひきつれに強く、優れた吸水性と速乾性を高いレベルで両立。さらに軽量ながら透けにくく、UVカット機能も持つ。

DELTA® 断面(画像提供:帝人フロンティア)